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■第4節 ロード・オブ・ザ・マンチキング4
 ルナルで一番面倒な外交相手は、おそらく爬虫人だろう。

 彼らは目先の兵力は十分蓄えており、力押しが通じにくい連中だ。一方で、黒の月の種族と異なり、まだ妥協の余地はある。なので、いきなり無下には扱えない。「面倒だから殺っちまえ」というわけにはいかないのだ。

 爬虫人部族の外交担当役を担うのは
蛇人である。この蛇人、基本的には魔術師であり、交渉が有利になるような呪文を使ってきても特に不思議はない。習得可能呪文の中には精神操作系呪文がばっちり入ってる。そのため、《魅了》の呪文などで巣にお持ち帰りされ、情報の引き出しにされた挙句、元素神の召喚の生贄に供される可能性もあるわけだ。

 なのでこちらも、単独で交渉など赴いてはいけない。代表交渉役がおかしくなっても、即座にそれを感知し、訂正可能な仲間が傍にいた方が良い。「交渉相手として非常に面倒臭い隣国」という言葉がぴったり当てはまるだろう。



 今回の場合、シーダが代表を務め、生真面目なイシュタルがそれを補佐を担当し、相手が武力行使に出てきた場合はギムリが対処する。後ろの二人は荷物をまとめ、いつでも逃げ出せる準備が整っている。いざとなれば、魅了されて帰還を嫌がるシーダを強引にマウントさせてでも逃げれるシフトだ。
蛇人(外交官)
「はじめましゅて、しゅっ。
 わたしゅの言う事、分かるか?

 わたしゅは、
 異族との交渉役、<繋がる尻尾の導き手>。
 後ろは<燃ゆる鱗の盾>、しゅっ。

 この地に、しゅっ。何か用があるのか?」


シーダ
「私の名前はシーダ。
 右の者はお友達のイシュタル、
 左のドワーフは私の護衛で、ギムリと言います。

 私たちは、「滅びの山」に用があります。
 あなた達の住処を騒がすつもりはありません。
 通過を許可して頂けませんか?」
(……んんっ!?)
 蛇人の外交官<繋がる尻尾の導き手>から、シーダに向かって《忠実》の呪文が飛んで来た!相手は21レベルで呪文を習得しているため、詠唱も動作も一切なかった。

 相手との距離は10メートルなので、距離修正を含めて蛇人の基準値は11。対するシーダの知力抵抗は、意志の強さも含めて基準値18。

―――即決勝負の結果、シーダが
7差で勝ち。呪文の効力下に入らずに済んだ。《魅了》ではなく《忠実》を使ってきたあたり、おそらくシーダをさらってどうこうするつもりはなく、単にこちらの条件を撤回させて、とっとと街に帰還してほしかったようだ。



 続いて反応修正である。今回は「援助要請」の形となる。

 相手は完全な異種族なので、容貌修正は1ランクダウンさせ、+1だけ有効とした。
 また、シーダの要請内容だが、実は爬虫人部族にとってあまり好ましいものではない(修正-1)。だが、わざわざ交渉に来たところを見るに、どうしても戦いを回避したい何らかの事情が爬虫人たちにはあるようだ(修正+1)。そのため、交渉内容による修正は差引0とする。

―――出目は
5とあまり芳しくないが、+9されて達成値14。反応は「良い」となった。「無理のない範囲なら引き受ける。無理な場合は有用な助言を与える」である。
蛇人(外交官)
「しゅっ、とても残念だが、
 今は通行を、控えていただきたい、しゅっ。

 時期が来れば、通行を認めることは可能、しゅっ。
 それまで、街に戻り、しゅっ、お待ちいただきたい。」
シーダ
「私たちは、とても急いでるの。
 通行できない問題があるなら、
 その事情を教えて?

 あなたが
呪文を使ってまで、
 私たちを穏便に退かせたいという
 必死さは伝わってきたわ…。

 だから、私たちも精一杯、あなた達に協力する。
 お願い。」



蛇人(外交官)
「………(汗)。

 …しゅっ、その、「急ぐ理由」とは、何か?
 それが分かれば、しゅっ、
 こちらも、可能な範囲で、協力しよう。しゅっ。」
 シーダは、「1つの指輪」の事情を全て話す事にした。



 無論、目的を話す事は、使命を妨害される危険を伴うわけだが、今回の件の関しては、爬虫人がそれを行う可能性が低いと判断したからである。そう考える理由は以下。

 まず第1に、「1つの指輪」の魔力は、爬虫人に何ら利益をもたらさない事。
 例えば人間であれば、指輪の魔力を使って黒の月の連中を集め、傭兵として雇って営利目的で使うといった有効活用法があるので、指輪を奪い取るという選択肢も出てくるだろう。
 しかし爬虫人は、人間やドワーフが形成するルナルにおける「一般社会」との交流は皆無であり、貨幣経済に何ら価値を見出していない。そのため、魔力に有用な力があるならまだしも、全く役に立たないどころか邪魔なだけの品を破壊する話であれば、特に妨害するメリットはない。今回のアイテムに関してのみいえば、むしろ破壊してくれる方が爬虫人にとってもありがたいだろう。

 第2に、たかが5名の冒険者に、わざわざ《忠実》を21レベルで使用できるような「高価な人材」を導入してきたあたり、相手の部族は相当に深刻な状況で、可能な限り敵を作りたくない事情があると推測できる事。



 シーダが事情を語ってくれた事と、先ほど呪文を使う非礼をした事がモロに露呈して、交渉が破綻しかねない状況なので、何としても挽回したい(戦いを回避したい)事などを諸事情を鑑みた結果、爬虫人側も事情を全て話す事に決めたようだ。
蛇人(外交官)
「かつて、ゴブリン共の村が、しゅっ、あった場所に、
 どこからか、別のゴブリンが、やってきた。しゅっ。

 もちろん、我々は、しゅっ、奴らを倒しに行った。
 オーク共は、しゅっ、あらかた倒した、はずだが、
 どうしても、倒せないものがいた。しゅっ。」

シーダ
「それは何?」

蛇人(外交官)
三角竜バゾラ。しゅっ。」
 三角竜バゾラとは、ムカシオオトカゲ(恐竜)の一つで、我々の世界の草食恐竜トリケラトプスに相当する。温かい地方でしか生息できないが、そうした地域では戦闘動物として飼っているケースがある。灼熱の島ザムーラの人間の恐竜使いの他、銀の月の爬虫人や翼人も使役している例もあるようだ。

 残念ながら、一行の中で<動植物知識>に成功した者はいなかったが、ムカシオオトカゲがどれもこれも怪力である事は、ルナルの世間の常識としては知られている…今もなお<龍>信仰の習慣を持つドワーフたちは、「まがい物の竜」をとても嫌うので、ムカシオオトカゲが竜の一種であることは良く知られているし、シャストア信者が創作する物語の題材としても、比較的使いやすいネタだからだ。



 現在、旧ゴブリン村に駐在中のゴブリンの親玉は、どうやら呪文でそれを操っているらしい。どこでそれを拾ったのかは不明だが、この砂漠はいくつもの爬虫人の活動圏内であるため、おそらく野生化したバゾラをどこかで発見し、動物系呪文で支配していると思われる。
 バゾラの体力の高さは、爬虫人の中では怪力を誇る鰐人ですら全く及ばず、彼女らの現有戦力では討伐は困難のようだ。ちなみに彼女ら<星を降らせる柱>部族は少数部族であり、恐竜を飼うほどの余力はない。
 それに関連して、彼女らの部族が困っているもう一つ理由。
 今回の指輪の件が始まって以降、滅びの山付近が雲で覆われ続け、やがて寒気が到来し、部族の女王が体調を崩したのだ。そして現在、卵を産めなくなっているらしい。これは一時的なものであるが、爬虫人社会は女王が卵を産まないと人口を全く増やせないため、非常に深刻な問題と言える。

 現在、ゴブリン部族と1戦を交えて兵力を減らし、しかも人員が補充できていない。これ以上戦いを継続して兵力を減らせば、今度は北で争っている別の爬虫人部族がこれ幸いとばかり、<星を降らせる柱>部族を殲滅しに来るだろう。
 彼女らとしてはこれ以上、戦うわけにはいかない。だから、シーダたちのような事情を知らない部外者が火山道を通行する事で、バゾラとゴブリン・ソーサラーが再攻勢に出て来るような刺激をしてほしくなかったのだ。
シーダ
「…お互いの話を聞いて思ったんだけど。
 そのゴブリン・ソーサラーは指輪に引き寄せられて、
 廃村に戻ってきたんじゃないかしら。

 だとすると、このまま刺激せずに放置していても、
 当面は立ち去らないでしょう。

 私たちが三角竜と、
 できればゴブリン・ソーサラーも一緒に倒し、
 指輪を葬り去る。
 これで、どうかしら?」


蛇人(外交官)
「しゅっ、わたしゅも同じ、結論に至った。
 こちらから、倒しに行かない限り、しゅっ、
 状況を打開する、方法はないだろう。

 そちらの行動提案も、
 全面的に支持する。しゅっ。

 …しかし、わたしゅたちが倒せなかった、三角竜を、
 あなた達が倒せる、しゅっ、保証はあるか?」


シーダ
「任せておいて!
 こっちには、それ向きの人材がいるから。」
 外交担当の蛇人も、完全にシーダを信じたわけではなかった。

 しかし、討伐困難な敵を自分たちからどうにかしてくれるというのなら、やらせてみても問題ないと判断したようだ。どの道、このまま雲が太陽光を遮断している状態が続くと、女王が回復せず、部族の未来がない。移住しようにも、北には大規模部族が二つも存在しており、新たな拠点を設置できる場所もない。
 そんなわけで、どこからかやってきた想定外の援軍に便乗する事は、それほど悪手でもないだろう。




 一方でシーダ一行の方も、爬虫人部族を助ける事に賛成だった。
 なぜならば、<星を降らせる雨>部族は今のところ、人間に対してさほど敵愾心が高くないからだ。それは、少数部族ゆえに敵を増やしたくないという理由に由来するのだろうが、仮にこの南端領域を他の大規模部族に制圧されてしまうと、ディグ村や海岸沿いのオアシスに点在する人間の村が物資調達のための略奪対象となる可能性が高い。
 それならば、この小さな部族を存続させる方が、人間にとって都合が良い。
 両者合意に達した。
 シーダたちを主力としてゴブリン部族の残党討伐を行う代わりに、滅びの火山火口までの道を安全に通行できるように取り計らってくれる事になった。

 また蛇人から、討伐に際して鰐人と蜥蜴人で編成された1個小隊(約10名)を支援として出す提案がなされ、シーダたちはこれを快く受け入れた。純粋に火力支援を期待してのことだが、ちゃんと恐竜を倒した事を確認してほしいという理由もある。
●4日目
 一行は爬虫人の外交使節団の案内により、山のふもとまでの直行ルートを辿った(ナビゲーション判定は自動成功扱い)。これにより、旅の工程を1日短縮できた。
 また、道中に蛇人や鰐人が狩りポイントを教えてくれたため、各員の食糧調達<生存>判定自動成功となった。大型動物の狩り(射撃技能-4)に関しても狩場を教わり、狩猟可能な3名(フロド、イシュタル、レゴラス)がそれぞれ判定を行う。フロドが判定に成功し、合計7食の節約となった。

 なお、指輪判定だが…
 既に近くにいるので、判定しなくても登場しているものとして扱った。



●5日目
 そして翌日―――
 クイーン・ロイヤルガード(鰐人の女王近衛兵)の1人<燃ゆる鱗の盾>に率いられたレッド・ソルジャー(蜥蜴人の兵士)10名を引き連れ、廃村に突入を開始。

 そこでシーダたちが見たものとは―――?
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