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■第3節 《復活》の呪文に実用性はあるか?
 ファンタジー世界で、常に世界設定者の警戒心を買うのが「死者を蘇生させる呪文」である。一度死んだ者がカムバックしてくるとなると、その世界の住人の世界観や人生観、さらには社会制度までが大きく変わる可能性があるからだ。
 ルナルでも、治癒系最高奥義として《復活》の呪文が存在する。

 ルナルの作者は、この呪文を異様に警戒しているらしく、まず双子の月の信者で習得できるのは、ドワーフ特有信仰のファウン高司祭だけである。しかも「特殊な背景に20CP以上費やさねばならない」とかいう、ちょっとよく分からない制限付きである。



…管理人が「ちょっとよく分からない」のは、作者が《復活》の呪文を正しく理解してるとは思えないからである。残念ながらガープスの《復活》の呪文は、世界観を変えるほど気軽に使える呪文ではないからだ。

 順を追って、それを説明しよう。
■習得難易度と使用条件
 《復活》の前提は《瞬間再生》と《霊媒》である。この時点で、習得者はかなり限られている。《瞬間再生》の前提条件に「魔法の素質3」が入ってるからだ。

 この時点で、双子の月の信者で習得できる者は、かなり限定されてしまう。素質3のファウン高司祭自体が、かなりレアな存在である。通常、素質の高い生まれのものは、ウィザードに引き取られる可能性がある。素質3ともなれば、発見されたら高確率で引き取ってウィザードとして育成したい旨を申し出てくるだろう。
 つまり、素質3のドワーフか人間が生まれくる確率が低い上、ウィザードに発見されずに双子の月の信者として生を歩む確率は、極めて低いのである。しかも高司祭に任命されるほどの逸材でなければならない。

 そして仮に、その素質3のドワーフだか人間だがウィザードに拾われることなく、さらにファウン高司祭まで上手く出世し(人間の場合、ファウンを信仰する事自体がレアである)、《復活》を習得したとしよう。しかし残念ながら、単独で《復活》の呪文を習得しても何の意味もない。単独で消費コスト300点を払えるような存在は、もはや通常の人間、ドワーフではないからだ。



 ここでよく、次の勘違いする者がいるのだが。

「マナが濃密の地域にいけば、使いたい放題だろーが?」



 …残念だがそれは、マナ濃度のルールを完全に誤解している。

 マナが「濃密」の地域では、
「術者が消費したエネルギーは、毎ターン即座に回復します」である。「使っても消費しません」「使う傍から回復します」ではない。ここを勘違いしているユーザがちらほら見られる。

 つまり、マナが濃密な地域であっても、
「使用時に300点をきっちり消費しないと、即座に回復する以前にそもそも《復活》が使えない」事実に変わりはないのである。人間やドワーフでは、体力とパワーストーンを極限まで削っても、せいぜい30点がいいとこだろう(内蔵型パワーストーン10点($4000)を使用した場合)。

 どうがんばってもヒューマノイドである限り、《復活》を単独で使う事はかなわないのだ。



 …まあ、理論的には150カラットの宝石でエネルギー150点の内蔵型パワーストーンを作り出せば、単独で300点払えるようにできなくはないが。ちなみに、パワーストーン150点を作るには、150カラットの$231000に相当する宝石が必要で、《パワーストーン》の魔化の途中で失敗やファンブルして壊さずに150点まで成長させる確率は10%を切るだろう。

 ちなみに「ガープス・マジック」に掲載されている最大サイズのパワーストーンは100点のパワーストーンで、標準小売価格は$2,000,000である。150点ともなれば、それをゲットしただけで国家1つ買い取る事が可能であろう…単独の術者でどうこうできるようなレベルの品ではないということだ。
■実際に《復活》を使う際のコスト
 実際に《復活》の呪文を使う時のコストを考えてみよう。

 まず上記の理由により、《復活》の呪文を使う際は、必然的に「儀式魔法」の形で使う事になる。儀式魔法をごく簡単に説明すると、「準備時間が10倍になる代わりに、複数の術者からエネルギーを引き出す事が可能になる」というものだ。
 ただし、儀式参加者も儀式魔法で使う呪文を15レベル以上で習得しておく必要がある。15レベルに満たない術者でも参加可能ではあるが、最大で3点しかエネルギーを供給できない。なのでここでは、15レベルで習得している術者を揃える方が無難である。そうでないと、パワーストーンを使って追加供給する事すら、ままならないからだ。

 上記のルールでいくと、《復活》のエネルギーコストは300点なので、1人の術者がエネルギー10点(体力10と仮定)と内蔵型のパワーストーン5点($1200…神殿住み込み高司祭なら「財産/快適」くらいの財力はあるだろう)から10点を差し出すとして、
15レベルで《復活》を習得している術者が15人必要となる。

 …この時点で、かなり無理ゲーであると気付くだろう。

 《復活》を15レベルで習得してるほどのファウン高司祭となると、少なくとも100CP、極限まで切り詰めても75CPは必要だろう。信者500人に1人しかいない高司祭の中で、さらに《復活》を習得しているような存在は、レアリティ的に★が15個が付くくらいのレアなはずである。
 そういった逸材を、平常時に一か所に集めておく行為は、社会運営面で見ると明らかに非効率である。それほどの実力者ならば、各地方のファウン神殿に分割配置して、より多くの信者に恩恵を与えるべきだ。
 つまり、いざ《復活》を使おうとすると、各地に分散した高名なファウン高司祭を緊急で呼び出す必要がある。《復活》は死んでから1日立つたびに-1の修正がつくため、連絡はミュルーンの伝令ギルドなど悠長に使っていられない。サリカ神殿に駆け込んで《思考転送》を使って中継してもらうのだろう。
 連絡を受けた各地のファウン高司祭は、慌てて荷作りをして早馬で出発。集合地に全員集まるだけでも数日はかかるだろう。ここまでで、かかる費用は国家予算並の膨大な額になるのは、まぁ誰でも分かると思う。
 そして、実際に《復活》の呪文判定を行う儀式の長は、日数によるペナルティを考慮すると、20レベルくらいは習得していないとキツイだろう。

 …で、そこまでして復活したい人物となると、一国の国王や重鎮クラスの地位の者に限定されるだろう。少なくとも、民間人一人を蘇生するのにこんな膨大な経費の使い込みをしていたら、確実に国家財政は傾いてしまう。
 しかも、呼び出すファウン高司祭が国境をまたいでやって来るのは、色々と不都合である。そのため、一国で《復活》が使えるファウン高司祭15名以上を抱え込んでいる必要がある。

 となると、実際に《復活》の儀式魔法を使える国家は限られてくる。広大な領土を持ち、国内に多数のドワーフを抱えるトルアドネス帝国の皇帝とか、国全体が宗教国家の体裁を取り、超重要人物(巫王)を抱えるルークス聖域王国など、超大国に限られてくるのである。
 つまり何が言いたいのかというと、仮にプレイヤーキャラでドワーフのファウン高司祭を作り、《復活》の呪文を習得させたからといって、結局のところ冒険中に使う機会などほぼないと言っていいってことだ。これは、高度に社会性を要求される呪文である。一介の冒険者が《復活》を習得したからといって、それで冒険中に死んだ仲間を蘇生できるとか、普通の状態では絶対に起こりえない。

 仮に使う機会があるとすれば、シナリオネタとして「重要人物の蘇生の儀式の術者が足りないから加わってくれ」というのが、キャンペーンに1回、あるかないかといったところだろう。お金稼ぎの手段にはなっても、助けたい人の蘇生に使える機会は、よほど幸運な状況でない限りはありえないだろう。

 よって、ルール自体が呪文の使用に強固なリミッターをかけている状態なので、《復活》の呪文を習得するキャラに「特殊な背景に20CP以上うんぬん」などといちいち要求せずとも、(どうせ使えないのだから)習得したいなら勝手に習得させればいいのである。GMが《復活》の呪文を習得したPCをシナリオネタにしない限り、そこに投資されたCPは死蔵状態でしかない。



 以上の理由より、少なくともガープスのルール下では、ルールに沿って遊んでいる限り、《復活》の呪文が社会システムの矛盾を生み出すことはまずない。悩み事といえば、悪の帝国の皇帝がなかなか死なない程度のことであろう(笑)。
■抜け道
 ただし、《復活》を習得した術者を集める作業には、抜け道が存在する。



 一つは、ウィザードが形成する「魔術師団」だ。ウィザードの中でも実力者は、寿命を考慮して研究時間を稼ぐために、《老化停止》くらいまでなら治癒系呪文に手を出しているはずである。《老化停止》はコスト20と割と低いので、個人レベルでも内蔵型パワーストーン5~6点あたりを持ち出せば、普通に使える呪文だからだ。100CPのプレイヤーキャラでも、永遠の若さを保った美貌の魔女とか、実際に作ろうと思えば作れる。

 で、《老化停止》まで習得しているのであれば、《復活》の呪文まで習得してもらうのも、それほど苦労はないだろう。例えば、《復活》の呪文で商売して研究資金を集める魔術師団などというがあっても、別に問題はないだろう。

 ただし、いくらウィザードでも《復活》を習得した術者15人を揃えるのは、並大抵の規模ではない。それが実際に可能そうなのは、トルアドネス帝国で国政に深く関わっている魔術師団<第二の夜明け>とか、ルークス聖域王国から双子の信者武器の製造を一手に引き受けている魔術師団<三つの環>くらいではなかろうか。

 同程度の規模の魔術師団が他の場所にあったとしても、人間社会と深く関わっていないと、そもそも蘇生の依頼を受けて即座に動けるシステムが構築できていないだろうから、やはりデリバリー蘇生サービス(?)が行える魔術師団は限られているだろう。



 もう一つは、エルファたちの<円環>社会である。エルファの中で、《復活》の呪文を習得したレスティリ氏族のエルファは、かなり少ないだろう。だから、1部族で15人の蘇生術者がいるとは、ちょっと考えにくい。

 だが一方で、エルファたちは違う部族との交流も非常に円滑で、その気になればリアド大陸中のエルファ部族と連絡を取り合って、必要な人材を出す事も可能である(種族セットに「義務感/同族」が入ってるおかげ)。
 なので、非常に大規模で、いくつもの部族が存在する森であれば、ギリギリ《復活》の呪文を習得したレスティリ・エルファ15名を集められるかもしれない。規模的には、ゼクスの西にあるサイスの森(ラナークの故郷)や、トリース森林共和国のラジスの森、あとはルークス聖域王国の雪原に広がるタイバの森あたりだろうか。

 もっとも、エルファたちが《復活》の呪文を使う機会というのは、ごく稀であろう。彼らは大自然の掟を重視するため、必要以上に生と死に干渉する事はない。

 もしあるとすれば、まだ弟子を育成してないフェルトレ氏族の長老が事故で心停止してしまい、そのままでは社会的影響が大きすぎるので蘇生させるとか、<悪魔>が関与してるらしい謎の殺人が発生したので、被害者を蘇生する事で真相を突き止める手掛かりにするとか、相応の合理的な理由か、エルファの感情面に訴える案件が必要と思われる。
 また、エルファ社会全体に貢献している勇者(エルファとは限らない)が戦死した場合、回収してワンチャンス与えるといった機会もあるかもしれない。人間社会では金銭事情を持ち出してきて、そういうのは難しいかもしれないが、エルファたちなら金銭的こだわりはないだろうから、それなりに期待してもいいのかもしれない。
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