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■第4節 飛空艇の生産と有効性
 ファンタジー世界特有のロマン兵器といえば「飛行船」であろう。

 実在する飛行船は、大部分が気体を貯めておくバルーンであるが、ファンタジー世界に登場する飛行船は、「海洋船舶が空に浮かんでる」形状が多い。
 ルナルにおいても試験的のようではあるが、トルアドネス帝国製の「空飛ぶ要塞」が二度ほど登場している。ここでは、ルナルにおける飛行兵器を考えてみよう。
■飛行手段
 初期の飛行機械である熱気球は、文明レベル4の段階で登場するので、半分ほどTL4の世界に踏み込んでいるドワーフたちの手にかかれば、初期の熱気球が個人レベルで開発中の可能性はある。小説でも、<天空の龍の島>に到達する手段として、打ち上げ花火式のロケットなど、火薬で空を飛ぼうと言うデルバイ信者がぽつぽつといるようだ。

 さらに文明レベル5になると蒸気機関の発明により、巨大なバルーン型で自発的に進路を決めれる
飛行船が登場し、文明レベル6の段階で、ヘリコプターの原型となるジャイロコプター(オートジャイロ)の登場となる。



 ファンタジー世界での飛行船というと、ゲーム業界では有名なRPGゲーム「ファイナル・ファンタジー」シリーズで登場した
飛空艇が存在する。以下、実在する飛行船や、水上離着陸可能な現代の飛行艇との混同を避けるため飛空艇と呼称することにする。



 飛空艇は、その形状を見る限り、おそらく文明レベル5の飛行船の発展型と思われるが、飛空艇はバルーンの部分と船体(人や物を載せる場所)の部分の大きさがほとんど同じか、船体が若干小さい程度であり、実際にはあのサイズ比で作っても、船体の方が重すぎて物理的に飛べないであろう。

 なので、ある程度は魔法の力を借りていると考えるのが自然である。具体的に言えば、「船体を構成する木材全体に軽量化あるいは浮遊の魔法がかかっている」とか、「●ピュタに登場した
飛行石か何か架空の動力源がある」とか、「バルーン内部の気体が水素やヘリウム以上の浮力を持たせられるほど軽い架空の(魔法の)気体である」とかだ。

 上に付いているバルーンだが、
「飛行石とバルーンの浮力を合計して初めて飛行可能」なのか、「何らかの原因で魔法的飛行能力を喪失した際、安全に軟着陸するための補助浮力に過ぎない」のかは、各世界の設定により異なるだろう。いずれにしても、魔術と科学の混合物というわけである。しかし、だいたいの飛空艇は、複雑怪奇なプロペラが多数付属していることから、浮力はともかく推進力に関しては航空力学に頼っている事が多いようだ。



 ところで、ルナルに登場したのは飛行要塞で、トルアドネス帝国の魔術師団<第二の夜明け>によって作られたであろう「フェニックス」(ルナル・ジェネレーション3)ならびに「フェニックスⅡ」(ルナル・ジェネレーションF)が登場した(これより後のリプレイでも、帝国の飛行要塞がイベントシーン扱いで登場している)。

 だがいずれも、もはや完全に飛空艇のようなある程度は物理的法則を考慮した形状にはなっていない。全面的に魔術を駆使した「UFOみたいなSFチックな乗り物」として登場している。



 小説の描写を元に想像図を作ってみた。以下がそれ。
 もはや完全に航空力学など無視したデザインである。

 記述によると、各円盤の中央に光る魔法石には、浮遊の魔術が魔化されているらしい。それ自体に航行能力はなく、ただ物体を浮かせているだけで、推進力は別途の魔化で補われているという設定のようだ。おそらく魔化コスト軽減のための理由付けだろう。

 中央にある魔法石は攻撃用で、《電光》をさらに強化した電撃投射能力を持つ。着水時に水の一部が蒸発し、巨大な魔獣に手傷を負わせられるのだから、ダメージ10D以上の電撃と想定できる(そうでないと、そもそも電光の有効射程が短すぎる)。



 「ガープス・マジック」だけでこれを再現しようとすると、早々に壁にぶち当たる。
 まず、無生物を浮かび上がらせる事が可能なのは《浮遊》の魔化の(b)項目にある「空飛ぶジュウタン」だけである。他の移動系呪文では、そもそも「空飛ぶ構造物」を再現できず、アイテム所持者本人だけしか浮かせられない魔化アイテムしか創造できない。

 で、その「空飛ぶジュウタン」の魔化だが、1ヘクスにつき必要魔化エネルギーコスト700+材料費$1000ドルとある($18500)。小説の記述には、円盤1つが「直径約20メートル」とあるので、非常に大雑把に計算すると、円盤1つで約330ヘクスほどの広さとなる。お値段にすると$6,000,000ほどだ(パワーストーン100点が3つほど買える価格)。

 ただし「魔法のジュウタン」とやらは、1ヘクスに付き100kgまでの重量しか支えられない上、鉄や木材の構造物が「魔法のジュウタン」の素材概念に含まれるのかどうか、はっきりしない(ジュウタンとある以上、素材は布に限定されるのだろうか?そうではないのか?)。

 また、「魔法のジュウタン」は「最初に乗った者が操縦者となる」というルールがあり、一応、移動力3で飛行する事ができる。移動力3というと、徒歩の者が駆け足する程度の速度(時速10km)だが、飛行中だと障害物がなく、目標地まで真っ直ぐ飛べるため、この機動性でも十分であり、別途の推進力など不要であろう。



 ということはつまり、この要塞に魔化されているのは通常の《浮遊》の呪文とは異なる、おそらく作者の脳内オリジナル設定呪文の魔化だと思われる。《浮遊》の下位互換呪文(ただ浮かせるだけ!)のようなものがあって、それを使えば比較的安いコストで魔化可能とか、そういった設定を想定した方がいいだろう。

 推進力に関しては、「フェニックスⅡ」の場合は別途で飛行している何らかの物体が牽引して引っ張ってることになっているが、それが何なのか具体的な描写はない。船体の材質も不明だが、幅20メートルもの巨大な円盤を引っ張るのに、《浮遊》では不足だと思うのだが…?
『…ネコなのに高い所が怖いんだ?』



『あ…あのねえ!?
 こっ、こっ…高度1000メートルとかっ…

 ネコじゃなくても許容範囲を超えてるよぉぉぉっ!!(涙)』

(邪竜封印の地の女領主と魔法猫の飛空艇での会話)
■ルール的な合法を目指すと
 「フェニックスⅡ」を現行ルール内に合法に解決策する手段として、「ガープス・グリモア」に掲載されている、ずばり《空飛ぶ絨毯》という移動系呪文を使うと良いのかもしれない。これは、即席で乗り物に飛行能力を与える呪文で、絨毯だけでなく箒や釜などといった物体も対象にできるので、おそらくUFOじみた円盤にもかけられる(それだけのサイズに呪文がかけられるだけのコストが払えるならば、だが)。これの魔化を使えば、飛空艇が製造可能だ。

 《空飛ぶ絨毯》の魔化も《浮遊》の魔化と同じく、最初に乗ったヤツが操縦者になるのだが、こちらは魔化レベルがそのまま移動力になるので、基本的な性能の空飛ぶ絨毯でも移動力15くらいはあるわけで、十分な機動性を有している(時速54km)。
 また、1ヘクスあたりで支えられる重量も125kgまで上昇していて、貨物も運べそうである。

 ただし小説で描写されていた、通常の射撃呪文をはるかに超える威力の攻撃呪文は、やはりルール的に再現する事ができない。そこはもう、ウィザードが独自呪文を開発した事にするしかないだろう。

 あくまで、現行の日本語訳ガープスのルール範囲内で兵装を考えるなら、10キロ程度の岩を上から落とすとか(10キロの岩を50メートル以上の上から落とせば「叩き10D」)、必要体力19のクロスボウ(ノーマル矢で「刺し2D+3」、<鋭さL1>の矢を使えば最大ダメージ「刺し3D」)を用意して、「ヤギの足」に《従者》の魔化を施して「クロスボウの弦引き(20ターン)」を自動化させて運用するとか(誰でも撃てる有効射程380mの半自動マスケット銃の完成!)、既存ルール内でも実用に足る飛空艇用の兵装を用意する事はできるだろう。
 なお、ルール的な問題はさておき、巨大要塞を実際にシナリオに登場させるためにデータ化したい場合は、「ガープス・ルナル」ではなく「ガープス・妖魔夜行」または「百鬼夜翔」の妖怪作成ルールで再現するのが手っ取り早い。「飛行」とか「防護点」とか「鉄の体」とか「電撃」などといった妖力・妖術を使えば簡単に再現できるからだ。
 ここで挙げた「フェニックスⅡ」程度であれば、350CPほどで宇宙人の「円盤」の妖怪のデータを目指せば、無理なく再現できるだろう。

 また、帝国の飛空艇だけでなく、<多足のもの>の巨大兵器なども、妖魔夜行における器物妖怪としてデザインすれば、未訳の「ガープス・ハイテック」とか「ウルトラテック」など不要である。
『―――敵襲っ!!
 総員、戦闘配備!

 ルツ!休暇中に申し訳ないけど持ち場に付いて!
 ミャウは倉庫でお留守番っ!』


「は、はひぃぃ~!にゃうぅぅぅぅ……」

「やれやれ……アリサといると退屈しませんね」
■そもそも飛空艇は必要なのか?
 ここまで「飛空艇ありき」で話を進めてきたが、そもそも「飛空艇」なる存在が、ルナルで必要なのか?という、戦略上の問題がある。

 魔術によって人間が直接飛行したり、無敵の装甲を得られたり、果ては戦闘奴隷たるゴーレムに白兵戦を任せられる世界において、そもそも戦闘機やモビルスーツは不要である。近年の地球においても、それらはどんどん小型化・無人化している。

 これらは「装甲を厚くしていったら、最終的には巨大ロボットになっちゃった」とか「背中に背負って飛べる装備品を開発してたら、何やら巨大になりすぎてジャイロコプターになり、速度追求したらジェットエンジンを使うハメになり、ついには戦闘機になっちゃった!てへ★」という風に、テクノロジーの未発達が原因で「仕方なく大型化していた」に過ぎない。



 人間サイズで機動性や戦闘力を高められるなら、その方が理想的である。地上の被造物の大半は人間サイズであるからして、そこを制圧するために出入りする事を考慮すれば、人のサイズの方が何かと都合がいいからだ。

 そして、人間が直接戦わなくていいなら、人的被害を軽減するためにもそうした方がいい。
 なので、飛空艇の役割も考えねばならない。

 飛空艇の最大のメリットは、物資や人員の大量輸送にあるだろう。障害物のない空を、目的地まで直進で移動できるのだから、少々遅くても問題はない。物質の円滑移動が可能であれば、経済的にも軍事的にも様々な恩恵があるわけだ。

 なお、《空飛ぶ絨毯》の魔化アイテムは、操縦者は呪文起動時に1点、運行10分毎に1点疲労するというコストがあるものの、それ以外のエネルギーは必要ないし、排気ガスによる汚染なども考慮しなくて良い。クリーンな移動手段として使える。



 一方、戦闘はなるべく回避した方がいい。なぜならば、これほど高額の建造費を費やした構造物を戦闘であっさり破壊されたら、帳尻が合わなくなるからだ。また、貨物に紛れた潜入工作員によるハイジャックに備えて、船員も基本軍人にした方が良いだろう。

 軍用艦として運用するのであれば、砲艦ではなく、あくまで人員を運ぶ空母として運用した方が良いだろう。出撃するのは、種族的に飛行可能なミュルーン(主に爆撃)や《空中歩行》の呪文が使えるサリカ神官戦士(主に対空射撃)、《飛行》の呪文が使えるウィザード(強襲攻撃用)などだ。いずれも高価なユニットではあるが、船体が直接攻撃されるよりはマシである。
■魔術を極めた果ての世界
 ただし、「ガープス・グリモア」には転送系呪文という、移動系呪文の《瞬間移動》から派生した呪文系統が存在する。その中に《門作成》という呪文が存在し、これを使えば遠隔地同士をつなぐ「魔法の門」を作成でき、誰でもノーコストで現在地と目的地を自由に行き来することが可能になる。そして「門」を魔化してしまえば、恒久的に繋がることになる。

 そういう魔法建造物が一般化すると、飛空艇どころか道路もいらなくなる。

 どこでも気楽に瞬間移動できる世界において、わざわざ道を作り、歩いて目的地に向かう者などいるだろうか?
 物資輸送ならば、荷役用ゴーレムが「門」をくぐって往復するだけで終了するのに、わざわざ高価な飛空艇など運用する者などいるだろうか?
 そういう魔術文明に振り切った世界を、実際に再現した例(?)として、「ソード・ワールド1.0」の古代魔法王国こと「カストゥール」が存在する。

 古代王国の初期においては、都市と都市は物理的には完全孤立しており、力のある魔術師だけが「フライト」の魔法で空を飛んで移動していた。遠くを偵察したい時は使い魔を飛ばしたり、「遠見の水晶球」を使っていた。

 やがて魔術が発展し、各地の主要都市は魔法のゲートで繋がれるようになる。そうなると、未熟な魔術師や魔術の素養を持たぬ奴隷たちですら、そこを通過する事で移動を完結するようになる。
 また、戦時における機動兵力は各種ゴーレムや異世界から召喚したデーモン、果ては航空戦力としてドラゴンを支配魔法で制圧し、生体兵器として運用していた。



 やがて古代王国が滅亡し、かつて奴隷の地位にあった蛮族たちが王として統治する時代となる。魔術文明とは異なり、剣の力で全てを解決せねばならないテクノロジー文明の時代において、自分の肉体で全てを解決せねばならない。そのためにも「道」は必要不可欠だった。

 しかし、古代王国はロクな道の建設などしておらず、各拠点は断絶状態である。人々はまず道を作る事で、地図上で「点」の状態の各拠点をつなぎ、「面」の状態にする必要があったのだ。そうでなければ、複数の町から成る「国」を形成できない。
 そして、自由人パルマ―によって「自由人の街道」が建設されるまで、アレクラスト大陸にはまともな道すらなかったのである。



 つまり、魔術で発展した末、ワープ移動が一般化した世界においては、道や乗り物は発展しにくい。また、巨大モンスターが実在する世界においては、それらを支配魔法で支配し、「生きた戦車や戦闘機」として使えばよいので、動力付きの巨大構造物兵器は必要とされない。

 つまり、飛空艇の是非など論じる意味もなくなるのだ。



 ルナル世界の文明が、遠い未来にどうなるのかは描かれていないが、少なくとも地球と同じにはならないだろう。飛空艇技術が廃れるかどうかも、《門作成》の呪文が見出され、一般化するかどうか次第である。
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