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■第7節 ルナル世界の戦場考察
 中世ファンタジー世界の文明はTL3(中世)に分類されており、優秀な軍馬の保有数が軍事力、ひいては権力まで決定する世界である。

 だが一方で、マナを利用した魔法の力が現実のものとして存在し、目に見える形で力を与えてくれる世界でもある。現実の中世には存在しなかった、翼をもち、自力で飛行する人間と同等の知的生命体も存在する。そのような世界で、果たして現実の中世ヨーロッパと全く同じ戦場が展開されるのだろうか?


 ここでは、魔法が実在する中世ファンタジー世界ルナルにおける戦場を考察してみよう。
■現実の中世におけるユニット相関図
 リアル地球の中世欧州の戦場における主なユニットと相関関係は、簡単に説明すると以下のイラストとなる。
 軍の中核を成すのは、グレイヴやハルバードなどの長柄武器を装備した長槍兵であり、密集して「槍の壁」を築く事で騎兵の突撃を防いだ。陣地の形成は、ここから始まる。

 このままだと互いに防御状態で進展しない。そこで、長槍兵の後ろにいる
弩兵(稀に弓兵)が射撃を行い、あまり鎧が厚いとは言えない長槍兵を攻撃し、陣形を崩していく。
 陣形が崩れ、長槍兵たちの槍衾(やりぶすま)の形成に綻びが生じたのを狙って、騎兵が
突撃を行い、ランス・チャージと軍馬による蹂躙で敵をなぎ倒す。
 こうして決着が着く。


 これは中世ヨーロッパにおける戦場の話であり、場所が変わると戦いの流れもやや異なってくる。以下、代表的な例を載せておく。
■西洋の騎士
 中世ヨーロッパでは「重装騎兵ありき」で戦場が構築されており、欧州は気候が寒く、乾燥している事から、完全密閉型の騎士鎧が発展した。歩兵たちもそれに対抗するため、ハルバードなどの長く重い武器を使うようになっていった。

 代わりに発展しなかったのが軽装騎兵であり、南のイタリア、スペインなどではクロスボウを装備した騎馬弩兵、弓矢を装備した騎馬弓兵などが運用されたものの、文化の中心であるイギリス・フランス方面では「騎士」と言えば重装騎兵を指した。これは、欧州が農耕民であり、遊牧民ほど乗馬に慣れ親しんでいなかったため、馬上で騎射を行うのが困難であったという理由が大きかったのかもしれない。
 ゆえに、財力の低い下級騎士たちも軽装騎兵とはならず、防具をチェイン・メイル等でごまかしつつランスと盾を持ち、突撃したものと推測される。

 当時の欧州の戦争は、だいたいが身内(白人)同士のバトルであったため、敵の騎士は殺さず捕らえて身代金を要求する「戦時協定」のようなものがあり、戦術はどんどん無視されていった(「騎士道」に則って1対1で戦うなどのスポーツ化の促進)。
 また、封建制度では各領主の独立心が強かったため、騎士たちは王や軍師の立案した戦略などを無視し、とにかく敵の騎士に突撃し、人質を取ることに奔走した。
■モンゴルの弓騎兵
 中世ミリタリージャンルでは「最強の弓騎兵!」ともてはやされるモンゴル軍だが、実際に弓騎兵がやっていたことは「弓騎兵を囮にして敵を拠点から出撃させ、追撃させて戦列を伸ばし、奥深くに誘い込んだところで伏兵をもって叩く」「敵の補給部隊を奇襲攻撃して、敵主力部隊の行軍能力を削ぐ」というゲリラ戦術が主体であった。

 弓騎兵の装備は、馬上で扱いやすいショートボウまたはコンポジットボウであり、乗っていた馬も小型のポニー(西洋の馬よりサイズが小さいもの)で、機動性が落ちるのを防ぐため、防具はほとんど身に着けていなかった。そのため、正面戦闘力が西洋の騎士より強かったというわけではない。
 ただし、当時のモンゴル人は例外なく幼い頃から家畜動物の扱いに慣れ親しみ、狩りのための弓矢を必須教練としていたため、弓騎兵としては最高峰を誇るエリート集団であった。相手の追撃から逃げつつ、馬上で後方に射撃を行う背面射撃(パルティアン・ショット)など、高難易度の騎射を平然とこなしたという。

 なお、実際の戦場では射撃だけで決着がつかないことが多々あったため、少数の白兵戦可能な重装弓騎兵が存在した(他国を占領下に置いている場合は、占領地民から重装歩兵を動員して随伴させた)。彼らは、西洋の騎士ほど分厚いプレートアーマーを着用していたわけではないので、あくまで「射撃で弱った敵のとどめを刺しに行く」段階でのみ突撃を行った。
■日本の武士
 日本は高温多湿地域であり、西洋のようなプレートアーマーでは長時間戦闘する事は不可能だったため、レザーとチェインとスケイルが混合した「そこそこ堅牢かつ運動性能、通気性の良い鎧」を着用して戦った(ルール上は「スケイル・アーマー」に該当)。
 また、日本の武士が乗っていた馬は、モンゴル騎兵のポニーと同等の小型馬であり、ランス・チャージを行ってもさほど威力は出ない(少なくともガープスのシステム上で再現した場合は)。さらに、鎌倉時代は武士同士の少数戦闘が主体であり、武士1人で何でもこなせる万能性が求められた。

 そのような要因から、「そこそこ固い甲冑で身を包みながら、馬上でロング・ボウをメイン武器としつつ、あれこれ武器を用いて戦う重装弓騎兵」というマルチロールが可能な騎兵が、軍の中核を成す戦力となった。
 また、武士が誕生して以降、民兵が戦場に動員される機会がめっきり減り、戦いの専門家である武士だけが研ぎ澄まされていった結果、最小の訓練で誰でも扱えるクロスボウが廃れてしまう。こうして、マスケット銃が伝来するまでロング・ボウが使われ続けた結果、他の国では軍団に必須の弩兵が、日本では完全にいなくなってしまった。

 戦国時代以降は歩兵の概念が戻ってきて、槍と弓がメインの集団戦闘主体となったが、上級武士から足軽(下級武士)に至るまで、相変わらずロング・ボウを使い続けた。日本の武士の鎧は、西洋の騎士ほど堅牢なものではなく、運動性能を重視した構造だったため、鎧の薄い部分を狙い撃つ事で、ロング・ボウでも貫通できたようである。
■魔法がもたらす戦場変化
 ルナル世界では、「ガープス・マジック」に書かれた呪文が実在し、目に見える効果を上げる世界である。では、ルナル世界の魔法は、実際にどのような変化を持ち込むだろうか。


■防具魔化
 最も手軽で、かつ目に見えて効果を発揮するのが、「道具に魔化を行って性能を上げる」事である。特に大きな変化をもたらすであろう呪文は、防具魔化系呪文であろう。

 
《強化》(防護点を上げる)、《防御》(受動防御を上げる)、《軽量化》(鎧の重量を軽くする)のいずれも、防具の性能を1ランク引き上げる効果があり、しかもパワーレベル1の段階だと$50~100という破格の安値で賦与が可能である。防具魔化を使えば、上位の高価な防具を買うよりも簡単に防御力を上げることができるのだ。

 そしてこれらは、戦場の形態にも確実に影響を及ぼす。

 もっとも大きい影響は、戦場の花形である「重装騎士」の防御力の大幅向上である。重装騎兵が着用するプレート・アーマー、そして馬が来ているバーディング(馬鎧)の両方が、これらの呪文で大幅強化される。重装騎士の「財産」であれば、《強化》をパワーレベル2($1790)でかける程度の財力はあるはずなので、生きて帰る事を考慮するならば当然かけるだろう。
 長柄武器のハルバードは、リアル地球では15世紀頃、いくつもの武器進化の果てに完成した。当時は騎兵のみならず歩兵もプレート・アーマーを着用していた時代だったので、敵兵を倒すための必須装備だったという事情から、歩兵の主力武器として採用された。
 だが、それ以前は普通のスピア(槍)でも対処できていたのである。敵の重装兵の鎧が、せいぜいチェイン・メイル程度だったからである。

 ところがTL3のルナル世界では、防具魔化系呪文によって簡単に受動防御と防護点を底上げされ、しかも《軽量化》の魔化によって本来戦場に着ていくようなものではないトーナメント・アーマー(馬上槍試合用に特化した固いけど超重い板金鎧。防具表の「ヘビー・プレート」が該当)などを、普通に着用していく事ができる。
 防護点8や9を誇る重装騎兵が、戦列を組んで突撃してくる環境では、15世紀(TL4)を待たずして、メインウェポンは槍からポールウェポンになっているはずである。

 また、クロスボウによる射撃も「ヤギの足」を用いないと弦を張れないレベルの威力を持った高火力なものを用意しないと、騎士の鎧を貫くのは至難の業だろう。ロングボウなど使用者の腕力に頼った弓矢では弱すぎる。つまり射撃に関しては、高出力クロスボウ一択ということになる。


 ただし、弓や矢に魔化を施して貫通力を上げることで、重装騎士に対抗する事も理論上は可能である。その場合、一般の弩兵のような物量による人海戦術ではなく、重装騎兵と同じように財力を集中させ、少数精鋭にする必要がある。防具魔化を施されたヘビー・プレートの代わりに、魔化アイテムによるバックアップで攻撃性能を強化された重装弓騎兵といったものが想定できる。
 以上から、ルナルの戦場は上記の西洋風のユニット相関図で回りつつも、騎士の鎧は無敵の装甲と化し、それを貫くためのクロスボウは巻き上げ時間のかかる高出力仕様、さらに長槍兵の武器はポールアックスやハルバードが当たり前とかいう、かなりのガチ装備になっているはずである。
 一方で、遊牧民のゼクス共和国や日本と気候がよく似たカルシファード侯国では、騎士の鎧の代わりに高価な魔法の弓矢を装備した重装弓騎兵を主力とした騎兵隊が、軍団のメインとなっているのだろう。
■天災魔術師
 ルナルにおいて魔術師はエリートであり、部隊として機能するほどの多人数を集める事は、特定の例外的な種族(魔法親和性の高いエルファやゴブリンなど)を除き、不可能に近い。そのため、冒険者隊のような「特殊任務を行う少数精鋭部隊」として存在するのがせいぜいである。

 しかし四大精霊系呪文の中には、任意に天変地異を引き起こす呪文が存在し、これらを使えば、単独の術者であっても戦場に影響を及ぼす事が可能である。
 別項目で既に例示を挙げているが、例えば風霊系呪文《嵐》を拡大して使用すれば、軍団すらも吹き飛ばせるだけの出力を得られる。
 無論、それを実行するためには、相当な大きさのパワーストーンが必要であり、《嵐》の呪文を習得しているからといって、誰でも実行できるわけではない(少なくとも人を吹き飛ばすレベルの竜巻を起こすのであれば)。しかし、エネルギーの問題さえ解決すれば、気象兵器として利用できる。

 また、地霊系呪文《地震》や《火山》は、砦などに籠った敵を攻略する際に利用できる。城壁や城門を破壊するのに、これらの呪文は有効なはずである(GM判断に頼る部分が大きいが…)。



 一方、水霊系呪文の《間欠泉》は、籠城側で使いやすい防衛呪文である。
 例えば、城壁などを登攀してくる敵集団の足元に間欠泉を作ってやれば、もはやそのポイントは登攀場所として使えなくなる。また、壁に接近してくるタイプの敵の大型攻城兵器(破城槌や攻城塔など)の足元に間欠泉の穴を開け、兵器をぶっ壊すと同時に、その侵入路を使えなくするという使い方が考えられる。
 《間欠泉》の呪文は、狙ったヘクス以外は全くの無傷であり、吹き出す熱湯が城壁などを壊す心配もない。籠城側が大型の敵をピンポイントで攻撃できる点で有用である。
 もっとレベルの低い初級呪文でも、効果を見込める呪文がある。


 例えば風霊系・水霊系呪文の《雨》は、戦場に故意に雨を降らせることで、ぬかるみを作る事ができる。この呪文は消費コストが小さく、習得難易度も低い事から、割と手軽に運用できる呪文である(ただし、地面がぬかるみになるまで雨天を維持しようとすると、相応のパワーストーンが必要になるだろうが)。
 リアル地球の中世ヨーロッパの歴史では、百年戦争中に起きた「クレシーの戦い」や「アジャンクールの戦い」等で、雨天によるぬかるみを利用して勝敗を決したという史実もある。イングランド軍がフランス騎士をぬかるみに誘い込み、長弓の掃射と組み合わせて倍以上の兵力を見事に打ち破った。似たような事は、ルナル世界でも可能だろう。


 また、火霊系の初歩呪文《火炎》を使えば、火災を起こすのは容易い。火は燃えやすい物があれば次々と延焼していくため、持続時間や範囲を拡大する必要すらないかもしれない。
 これにより、敵の家屋や陣地を炎上させたり、逆に敵に攻められている際、自軍の有用な施設を燃やして利用させなくする焦土作戦を遂行する際にも利用できそうである。
 これらを作戦に組み込み、実際に呪文を使うのは、主に宮廷魔術師に属する者たちである。そして、作戦で使用する呪文に関しては熟練レベル(15レベル)以上であるはずである。また、実際の使用では術者1人に頼る部分が極めて大きいため、敵兵のクロスボウなどに集中砲火を受けないためにも、あれこれと自分で保護系の呪文を習得しておく必要があるだろう。


 ルナル世界では、自軍の戦術にバリエーションをもたらしたり、逆に敵がそういう攻撃をしてきた場合の対抗手段を知っておく意味で、こうした天災呪文を習得した戦闘魔術師が存在するはずである。
■飛行能力
 リアル中世になかった兵種だが、ルナルでは空挺部隊が存在する。ミュルーンや翼人、さらには風の元素獣など、飛行能力を持つ知的生命体が存在がおり、しかも一定の数を揃えられ、軍事行動を行えるだけの知恵も有している。
 しかし、ミュルーンの中で傭兵に志願する者は、かなり稀な存在であるはずだ。

 彼らは一か所に留まる事を良しとせず、領土などの不動産にこだわる種族ではない。また、お金儲けが第1の種族であり、いくら給与が良いからと言って、命を懸けてまで稼ごうという個体は、種族全体から見てもさすがに少ないだろう。わざわざ命を賭けずとも、稼ぐ方法なら他にいくらでもあるからだ。
 それでもなお、ルナルにおける空挺部隊というとミュルーンが最有力候補に挙がる。それだけ種族人口が多く、確率の法則で「敢えてリスキーな稼ぎ方をしたがる変な個体」もそこそこいるのだろう。

 ミュルーンは、身体構造的に滞空戦闘があまり得意ではないため、飛行しながら戦える個体は少なく、傭兵として雇う側もそれらの期待はしていないだろう。そのため、ミュルーン傭兵の主な運用法は
「降下猟兵」であると思われる。
 飛行能力はもっぱら移動に使い、上空から敵陣に突入し、地上での戦闘行動を行う。腕力が低いことから、槍による近接戦闘よりも高出力のクロスボウによる射撃が主体で運用されると想定できる。言い換えれば、「馬の代わりに自前の翼で移動し、敵の側面などから射撃を行う軽装騎兵の亜種」のようなユニットである。
 また、本格的な空戦が可能な種族として、銀の月の風の元素神を崇める翼人が存在する。彼らは手足とは別に翼を備えた身体構造であるため、飛行しながら人間と同じ戦闘が行える。空中戦にかけては、ミュルーンよりも遥かに脅威となる存在である。

 ただし、翼人たちは腕力にもタフさにも欠けており、実はあまりガチ戦闘には向いていない。重装甲の騎兵や地上の歩兵は、彼らの手に余るであろう。よって、戦場で狙うべき標的は、同族の翼人か、同じく空を飛び、装甲が薄いミュルーンたちである。ミュルーンたちを「爆撃機」とするならば、翼人たちは
「制空戦闘機」の立ち位置である。
 使用する武器は、仮想敵となる同族やミュルーンの装甲が薄い事、飛行中の装填行動の難しさなどを考慮すると、ロング・ボウやコンポジット・ボウなどの弓矢と、近接戦闘用の槍が主体になると思われる。

 なお、双月歴1095年現在のルナルにおいて、銀の月の眷属全体が少数民族であり、さらに種族文化的に少数精鋭スタイルを取る翼人たちは、傭兵人口がミュルーンよりも更に少ないと思われる。そのため、ミュルーンの降下猟兵ほど数を揃えられず、彼らを動員できる国家は限られるだろう。
 ちなみに、飛行能力を持つ軍事構造物として、ルナル世界には「飛空艇」が存在する。初登場は小説「ルナル・ジェネレーション」で、以降リプレイ「月に至る子」編で登場するが、基本的にリアド大陸中央部を支配する新興国トルアドネス帝国に限定された兵力である。
 リプレイの表記を見る限り、飛空艇はおそらく《ゴーレム》(魔化系呪文)と「ガープス・グリモア」の《空飛ぶ絨毯》(移動系呪文)が魔化された構造物と思われ、飛空艇そのものを一つの「人工生物」として扱っているように見受けられる(「ガープス・妖魔夜行」の器物妖怪のルールに沿って作られている)ようだが、詳細は不明である。

 飛空艇の主な役割は「兵員と攻城兵器の空輸」であると思われる。
 ミュルーン傭兵などを現地まで輸送して出撃させたり、搭載された攻城兵器で支援砲撃を行う「空母」として運用されていると想定できる。
 この時代の攻城兵器は移動に時間がかかるため、それが地形を無視して直線距離で速やかに動くとなると、攻城戦において大きなアドバンテージとなるだろう。
 ただし、これだけ大規模施設の魔化となると、その施工期間や必要経費は莫大なものとなり、破壊されたら帳尻が合わなくなるため、直接戦闘は可能な限り避けた方がいいと思われる。

 なお、小説で登場した魔術師ザドリーや帝国のウォルフィリー・ベイト公(現ペテル=トルア公王)は、これら空中要塞群を「いらん兵器」「ただの火種」と一蹴している。
 確かに飛空艇や空中要塞は、攻撃には使えても防衛用としてはコスト効率の良いものとは言えず、運用費用を稼ぐために積極的に他国への侵略するという自転車操業になる可能性が高い。そしてそれは、「なるべく戦闘は避けるべき」という基本命題と矛盾している。
 なので、管理人個人も「必須か?」と聞かれたら「シナリオを盛り上げるためのロマン兵器」としか答えようがない(苦笑)
■情報伝達
 中世レベルの軍事行動では、詳細な指令を送れる通信機などは存在しなかった。そのため、あらかじめ打ち合わせをしておき、楽器などで合図を送る事で全体の指揮を取るなど、大雑把な指揮しか執れなかった。

 しかし、ルナル世界では指揮に役立つ呪文が存在する。
 情報伝達において最も大きな影響を及ぼすのが、音声系呪文《拡声》である。

 この呪文は、術者の視界内であれば距離無制限で声を聴かせる事ができるため、末端の兵士まできっちり音声を届ける事ができる。これは、中世レベルの軍事行動において破格の強力な指令伝達手段である。
 また、術者となる指揮官は、特定の集団のみを指定して声を飛ばすこともできるため、リアル中世よりも細かく具体的な指示を出す事ができる(あくまで目視範囲内であるが)。

 もっとも、命令を聞いてきちんと遂行するかどうかは、指令を飛ばされた側の理性や忠誠心次第である。特に中世ヨーロッパでは、封建領主と王は契約によって結ばれただけの関係だったので、王の命令を無視して突撃する諸侯や騎士が、後を絶たなかったという。
 ルナル世界でも、現在もなお封建制度を敷いているソイル選王国などは、選王の命令を無視する各諸侯(特に選挙で負けた選王家など)がいても、不思議ではないだろう。また、ゼクス共和国のように赤の月信仰がメインの国家では、兵士たちが戦列を整えて突撃するなど、そもそも不可能であろうケースも考えられる。

 このように、100%確実に命令通りに軍勢が動く保証はないものの、《拡声》が魔化されたアイテム($1790)は比較的安く、使用者は「魔法の素質」がなくとも使え、大声を張り上げずとも的確に指示を伝えられる手段として、非常に有用である。
 よって、よほど原始的な政体の軍隊でない限り、どこの国の軍隊でも各指揮官に配布されるだろう。



 それ以外の伝達手段として、情報伝達系呪文の
《思考転送》《精神感応》などが考えられる。こちらは指揮ではなく、軍事上の極秘情報や命令などを、特定の指揮官や特務部隊などに伝達する際に利用されるだろう。伝書バトなどの不確実で遅延が発生する手法を使わなくていい分、リアル中世より格段に情報精度や伝達速度が向上する。

 これらの情報伝達呪文を駆使すれば、現代戦のようにMAP単位での戦略行動を、リアルタイムで操作することも理論上は可能である。ただし、そのような高性能な指揮系統を確立するには、複数の忠実で有能な魔術師が必要になるので、実現可能な国家は限られるだろう。
■ルナル世界におけるユニット相関図
 以上をまとめると、ルナル世界における戦場は以下のように想定できる。
 基本的には中世の戦争と同じで、重装騎兵がメタゲームの中心となり、それを囲むように長槍兵と弩兵が攻撃と防御を担当する。その横で、飛空艇が空輸で攻城兵器を運んだり、その攻城兵器を瞬時に打ち砕く天災魔法が魔術師によって放たれたりする。

 ミュルーンによる空挺部隊は基本的に「軽装騎兵の亜種」であり、将棋の桂馬のごとく、本来は無理なルートから敵地に突入し、敵陣のかく乱を行う。また、敵の魔術師は《矢よけ》の呪文などで守られているであろうから、これに対しても弩兵による射撃ではなく、空挺部隊が突撃して白兵戦で対処することになるであろう。

 なお、ゼクス共和国やカルシファード侯国は騎馬主体のゲリラ戦術を行い、現実のモンゴル帝国と同じように特殊な戦争形態を取っていると推測できる。これらは、馬を安定して供給できる環境でのみ成立する形態であり、大半の民族は歩兵主体であると思われる。



 以上が、ルナル世界における戦争の形態であると推測できる。
■その他の考察
 以下、戦場において有効かどうか微妙な魔法の考察。
●ゾンビ軍団は強いのか? 対象呪文:《死人使い》(死霊系呪文)
 死霊系呪文《死人使い》を使えば、エネルギーコストを支払えるかぎり、ほぼ無制限に兵隊を調達できる。それにより無敵の軍団が作れる…というのは、ファンタジー世界の悪役を考える上で、誰でも考えつく事だろう。
 だが、その認識はちょっと甘いのではないか?と思われる。


 第1の理由として、死体は無限ではない。
 《死人使い》で作成されるゾンビ、スケルトン(たまにマミー)は、元の死体の状態によって稼働能力が左右される。比較的綺麗な死体であれば、生前の戦闘力を保っていられるかもしれないが、手足を損失していたりすると、そのまま部位損失のペナルティを受けたままであり、戦闘力はガクンと落ちるだろう。
 そして、戦闘によって破壊された(HPがゼロになった)死体は、普通は粉々になっているだろうから、もう一度《死人返し》をかけて再利用はできないと考えるのが自然である。

 つまり、利用できるのは基本的に「1回きり」の戦力なのだ。

 いくつかのファンタジー世界では、同じ死体を何度も再利用するような魔法の使い方がなされているが、少なくともリアル志向のガープスでは、そのような運用はできないと思われる。仮にできたとしても、一度破壊されて動かなくなったズタボロの死体だ。1回目の時よりも確実にスペックは下がっているだろう。回復が認められたとしても、いちいち治癒魔法をかけて回らねばならない。
 そして、職業兵士の死体でなければ戦力としてはあまり使えないので、戦力としての「死体資源」は意外と限られていたりする。数を増やせば増やすほど、復活させる死体に非戦闘員が混じる事になり、軍団の総戦闘力の上昇率は緩やかになっていく。


 第2の理由としては、自己判断能力に欠けること。
 ゾンビたちは基本的に作成者が命令した事しか実行せず、臨機応変にリアクションを取るわけではない。
 例えば「そこの石を積め」と命じられているゾンビは、作業中にやってきた冒険者に斬りつけられても、基本的に対処しないで斬られるがままである。「目の前のヤツを殺せ」と命じられたスケルトンは、目の前の対象を殺害した後、「命令待ち」の待機状態に移行する。次に誰かその場にやってきても、それに対して何か反応する事は決してない。ならば、「ここに来るヤツを、私以外は全て殺せ」という命令であれば、やってくる敵と戦ってくれるだろう。だがその場合、敵が逃げると全く追撃しようとしない―――「ここに来るヤツ」を優先し、持ち場から離れようとしないからだ。

 つまり、術者がいちいち視界内に入れて監視し、逐次命令を出さなければ、本当にただの作業用ロボットに過ぎず、融通性が利かない。そして、そのような「木偶の坊」を大量に集めて指揮しようとすると、常に全体を見て、《拡声》の呪文などを使って部分的に命令を出し…と、膨大な管理作業に追われる事になるだろう。ほっといても敵を倒してくれるなんて願望は、相手集団が完全な戦いの素人でもない限り、かなえられないだろう。

 要するに死霊魔術によるアンデッド軍団というのは、術者の認識範囲による限界が存在し、運用できる数にも限界がある。本気でアンデッドの大軍団を作ろうと思えば、複数の死霊術士を用意し、それぞれがアンデッドの小部隊を率いて連携させる必要があるのだ。
 しかし、死体を再利用して自分に絶対服従する奴隷を得ようなどという輩は、往々にして「高慢」であり、他人に指図されることを嫌うタイプが多いだろう。仮に「高慢」でなくとも、独立性を重んじ、集団行動はやや苦手の部類の人種であろう。
 つまり、群れて行動するのは厳しいのではないか、と思われる。特に死霊系呪文が社会的に忌避されている場合、それを敢えて使おうというのは、よほど精神的にイってしまっている輩であり、社会からも孤立している可能性が高い。


 以上のように、戦力となる死体の数は限られており、その指揮は困難を極める。そのため、軍団規模で運用する事は困難を極め、思ってるほど万能な戦力にはならないのではないかと、管理人は考える。
 無論、「特攻命令」を出せば、文字通り死ぬまで戦ってくれるので、状況によっては使い道はあるだろう。だがその場合、完全に使い捨てであり、新たな兵力の補充にとても時間がかかるだろう。
●生物兵器は有効か? 対象呪文:《疫病》(死霊系)《昆虫制御》(動物系)など
 生物兵器というと、現代でいうところのウイルスや細菌をばら撒く戦術を連想するだろうが、紀元前から似たようなコンセプトの戦術は存在したという。

 河川に毒を流し、攻撃目標の町の住民ごと汚染したり、ワインに疫病患者の血液を混ぜ、行商に扮して売りつけたり、狭いトンネル内で毒ガスを発生させて侵入を防いだり、敵に向かって毒蜂や毒サソリの入った壺を投げつけたり、果ては疫病で死んだ仲間の死体を、カタパルトで籠城中の敵の中に放り込んだり……

 …と、目を覆いたくなるような泥臭い戦術が実際に行われた記録が残っている。
 なお、ここでいう「生物兵器」とは、細菌やウイルス、それらが作り出す毒素などを利用し、人間や動物に対して攻撃する兵器の事である。モンスターを召喚して戦わせるとかは、騎兵が馬を利用するのと原理的には同じなので、含まないものとする。
 これらの戦術は魔法でも再現可能であり、《疫病》(死霊系)の呪文で病気に感染させたり、《昆虫制御》(動物系)でハチや毒サソリを誘導して、敵を追い詰めたりすることが可能だ。毒ガスなどは、《悪臭》(風霊系)の呪文を範囲拡大すれば、簡単に再現できるだろう。


 しかし、ファンタジー世界の生物兵器は、労力に見合った効果があるとは言い難いのかもしれない。


 第1に、実際に効果を発揮するまでに時間がかかり、しかも事後対処されてしまう可能性がある事だ。
 ものにもよるが、疫病タイプの兵器はウイルスの「潜伏期間」が存在し、発症するまで待たねばならない。さらに、敵側に《療治》の呪文の使い手がいれば、発症後に即座に取り除かれてしまう可能性が高い。
 また、有毒生物の投擲は即効性はあるものの、相手側が逆に《昆虫制御》や《魅了》の呪文で「返品」してくる可能性がある。
 水源を汚染する手法も、《水浄化》の呪文で簡単に予防できるし、いっそ水源などには頼らず、魔術師が《水作成》の呪文で毎日きれいな水を直接作ってしまえばいい。
 《悪臭》ガスは、風霊系の初歩呪文《空気浄化》で浄化する他、《空気噴射》をエリアに吹きつけて拡散してしまってもいいだろう。

 「相手は原因がわからず対処できないor対処しようとする頃には手遅れ」というのが、生物兵器の基本コンセプトなわけだが、困ったことに魔法が存在する世界では、事前に生物兵器の使用を阻止できず、原因がわからず効果が発揮されてしまったとしても、とりあえず呪文で事後処理できてしまうのが最大のネックと言える。
 第2に、使用した生物兵器が仮に上手くいったとしても、その土地を汚染し、自軍兵士も入れなくなる可能性がある事。
 特に疫病の場合、敵陣に疫病で死んだ兵士や民間人の死体が残り、それが感染源となる。生きてる間ならまだしも、死体に《療治》の呪文が効くのか?と言われると、かなり微妙である。
 となると、制圧拠点に入る前に火でも付けるしかなく、そうすると拠点そのものが使い物にならなくなるだろう。また、そこで略奪する予定だった物資もあらかた汚染され、略奪物も限られてくるだろう(食料などナマモノは全滅確定)。


 以上のように、ファンタジー世界では、リアルで使われた生物兵器を呪文で即座に再現できるという大きなメリットがあるものの、同じく呪文によって即座に対応されてしまう可能性もあり、両軍の対応魔術師の有無で有効か無効かが極端に分れてしまう。
 そのためルナルにおける生物兵器は、長期戦の際に相手の魔術師の有無や力量を測る
「試金石」として、前哨戦で使う事があるのかもしれない。
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