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■第17節 地形利用
 ガープスにおいて、地形を利用して戦う状況というのは、少なくともリプレイ等ではほとんど見た覚えがない。リプレイではヘクスそのものが使用されていなかった事もあり、ほとんどガチバトルのみであった。

 しかしガープスは、本来はヘクスを使って厳密に距離を測り、様々な障害地形を利用して戦いを有利に進めるといった、現実に即した戦い方を表現する事も可能である。このレポートでは、そうした地形利用を重視した戦闘といったものを実践して見せようと思う。
■状況
 現実世界の戦場における地形利用の変遷を、簡単に見ていこう。
●遭遇戦
 紀元前の戦争というのは、基本的に平野での野戦がメインだったとされている。

 というのも、古代においては城などの拠点を攻撃するのは、攻撃側の消耗があまりに大きすぎたため、現実的ではなかったのだ。
 ゆえに、相手が城に引き籠ると、周囲を取り囲んで補給切れを待つ等して、敵が外に出てくるのを待ち続けた。

 だが、城の包囲というのは、実は攻撃側の方が消耗が大きい。
 遠征した先でロクに補給ラインも構築されておらず、食料は現地調達するしかない状況において、そうした準備をしていない軍勢は、城の周囲の食料をあっという間に食いつくし、消耗していったのである。
 一方、城に籠っている側はあらかじめ備蓄が用意してあるのが普通なので、こうした持久戦の準備が最初からなされていた。

 この状況で、攻める側が長く戦線を維持できないのは当然の結果と言える。



●陣形

 野戦がメインだった古代では、何の障害地形もない平野で軍同士がぶつかり合う事が多かった。しかしこれでは、単純に数の多い方が有利になってしまい、戦略も何もない。ただの消耗戦である。

 そこで「陣形」というものが考案された。
 陣形というのは、一言でいえば「兵士の並び方によって人工的に作り出された地形」である。例えば、固まった状態のままでぶつかるよりも、横一列に広がってぶつかった方が、兵士全員の攻撃スペースを確保でき、火力を上げる事ができる。
 また、槍兵と弓兵がバラバラに混在したまま当たるより、前列に槍兵を綺麗に並べ、その後ろから弓兵が攻撃する隊列にした方が、効率よく火力を引き出しつつ、相手の攻撃が装甲の薄い弓兵に集中されるのを防ぐことができる。

 こうして隊列を組む事で、敵軍と正面からぶつかり合った際、自軍の方が消耗が少なくて済む。陣形は、戦争におけるごく初期の「地形利用」と言えよう。
●攻城戦
 TL2以前の古代においても、攻城戦が全く行われなかったわけではない。ごく一部の例外だが、専門の工兵を有し、城攻めを効率よく行える戦闘民族もいたと言われる。また、古代ローマ帝国などは兵士全員が土木作業員も兼業しており、道を舗装し、拠点を作り、完璧な補給ラインを敷いて敵の籠城に備えたという。
 だが大半の国家の軍は、敵が城に籠った時点で追撃を諦めた。軍団というのは、何もせずに存在するだけでも、毎日膨大な量の物資(主に食料)を浪費していく。大半の古代国家において、軍を維持する事自体が困難だったため、軍を編成した場合、短期間でケリをつけるのが必然であった。

 しかし時代が進み、機械技術が発達して攻城兵器などの概念が登場すると、拠点を攻略する速度が向上し、城攻め等も積極的に行われるようになる。
 投石機(カタパルト)で城壁を壊そうとしたり、疫病で死んだ死体を投石機で投げ込んで疫病を流行らせようとしたり、少数の精鋭部隊で夜間襲撃をかけて城門を開かせようとしたりと、さまざまな手が使われた。
●塹壕
 TL3の段階でも、城を攻める段階において、敵のバリスタなどの砲火を回避しつつ城壁に近づくため、塹壕が掘られる事があった。しかしそれはごく一部であって、必ず用いられるわけでもなかった。

 現代における塹壕が一般化したのは、武器であるマスケット銃が発達し、命中精度や威力、射程が大幅に向上し、兵士が列を組んで立っている状況自体が、あまりに危険になったからである。
 隊列を組む時代は終わり、塹壕を掘って有刺鉄線を張り巡らせ、散兵状態で面に広がって戦線を広く防衛するのが一般的となった。現代戦においては、歩兵が銃撃を回避するための地形利用は必須であり、もはや平地で仁王立ちして決闘を行うような事はあり得ない。

 野戦においる塹壕は、「地形利用」の条件を満たすための最も手っ取り早い手段である。現代歩兵の基本業務は「穴を掘る」事であり、攻撃・防御問わず必須行為となっている。
■実践案
 ガープスの個人戦闘レベルで地形利用しようと思えば、戦闘前に防御地形を構築し、そこで戦うやり方が無難であろう。ルナル世界では「ガープス・マジック」の呪文が使えるため、思いの他、素早い陣地構築が可能だ。以下、その例を挙げていこう。
●即席陣地
 手っ取り早く地形利用するなら、防御/警戒系呪文の
《物質障壁》又は《完全障壁》を展開するのが一番確実であろう。全方位を絶対破れないエネルギー・シールドで囲う事で、非常に固く防衛できる。
 ただし、これら障壁系呪文にも色々と弱点がある。

消費コストが高く、通常の魔術師だとせいぜい直径5メートル程度のドームしか作れない(《物質障壁》3倍拡大で消費コスト9点)。この狭さだと、大した人数を「格納」できない。
持続時間が基本1分なので、1回の戦闘でしか使えない。つまり連戦の状況に弱い。パワーストーンなどを併用しても、非常に狭い障壁しか構築できないだろう。
障壁のサイズが小さいため、大人数で包囲されると逃げ場がない。《浮遊》の呪文で真上から出るといった事も考えられるが、そうなると射撃の的になってしまうため、さらに《矢よけ》などの防護策も必要となり、コストがかさむ。

 …ダンジョン等の狭い場所で突発的に起こるような戦闘であれば、これでも十分便利なのだが、屋外で村の防衛などの状況で、これだけに頼るのはちょっと無理がある。そこで、以下のような方法を考える。


●お堀と土壁
 地霊系呪文
《土変化》を用いれば、幅1メートル・深さ2メートルの穴を一瞬で掘りつつ、その横に土を積み上げて「壁」を作る事ができる。さらにその土壁に《石変化》をかければ、即席の「掘と壁」を構築できる。単に土壁を盛って遮蔽物を作りたいのであれば、《土作成》と叫べば良い。
 これらの作業を人間の手作業でやろうと思えば、穴を掘るだけでも余裕で2時間はかかるので、該当呪文に熟達していればかなり早い陣地構築が可能である。

 現代地球であれば塹壕の構築に使えて超有能そうだが、中世の火器では射撃速度が遅く、威力・命中精度も低いため、塹壕に突撃してきた敵を射撃だけで止められず、敵の方が高い位置にいる不利な状況で近接戦闘を強いられる可能性が高いため、塹壕が優位な局面は限定的である(攻城戦で敵の城壁に近づく時など)。
 なのでルナルにおいては、あくまで拠点構築の手段と割り切って良いだろう。


●煙幕
 塹壕と来れば有刺鉄線を張りたいところであるが、あいにくガープスではそのような装備の設定がなく、呪文にもそういうものはない。
 辛うじて《よじれ枝》を使えば、似た趣旨の構造物を構築できるが、草木が深い場所でないと障壁にならず、しかも1分しか持たない…騎兵の突撃などを咄嗟に防ぐといった用途になら使えそうだが。

 そこで、有刺鉄線の代わりに防御/警戒系呪文の
《魔法の霧》を張る手法を提案したい。この呪文で陣地を覆えば、外からは視線を遮る上、入ってくる兵士たちに恐怖判定を強要し、それで撃退できる可能性が出てくる。
 しかも《魔法の霧》は基本コストが1で非常に安く、1回の使用で10時間も持つという優れもの。これは非常に有用な陣地防御呪文と言える。
●食料確保
 敵がいつ来るか分からないとなると、拠点を建設した後、維持する事を考えねばならないだろう。現地の道具屋から保存食を買い込むのが一般的だろうが、GMによっては「十分な量を確保できませんでした」と言ってくるかもしれない。
 そんな時は、自分たちで確保する能力が欲しいところ。

 飲料水に関しては、
《水作成》の呪文が有用である。魔化アイテムでも$1,790で購入できるため、余裕のある冒険者であれば、身内に使い手がおらずともアイテムでフォローする事が可能だ。
 また、財政に余裕がない冒険者であれば、
《水浄化》の魔化アイテムで妥協する手もある。これはわずか$50の魔化アイテムで、輪っかを通した水が浄化されて飲み水になるというもの。極限環境(砂漠など)でない限り水分はあるだろうから、これを使って水を確保する場合、〈生存〉技能に多少のプラス修正があっていいだろう(GM判断)。

 …最悪、自分の体内から出た「水分」をろ過して飲むというパターンもあり得る。
 食料に関しては、何もないゼロから準備しようとすると《食料作成》の呪文が必要になるが、これも結局、何らかの固形物が必要になる上、ルナルではこの系統の呪文を習得できる種族が限られているため、やはり〈生存〉技能などで食料を探す方が現実的である。

 ただし、タンパク質(肉)を諦めるのであれば、実は呪文だけで解決する。地霊系呪文《土作成》などで適当な土壌を用意した後、植物系呪文の
《植物作成》でジャガイモや人参の野菜、好みの穀物(豆類や小麦など)を作ってしまえばいいのだ(この呪文は植物の種類は特に指定されていないので、術者が知る植物であれば何でも作成できるはず)。

 後は、作成した植物の芽を《植物繁茂》で3~4カ月ほどタイムシフトしてやれば、その場で即収穫できる(大半の食用植物は、種植えから収穫までの期間が約100日)。
 食料になる素材さえ入手できれば、《調理》が魔化されたアイテム(価格は1食につき$30)で調理して食すのが無難だろう。

 ルナルでは、エルファ種族が植物系呪文を独占しているので、エルファの魔術師であればこれらの呪文を習得しておくことで、飢餓状態を簡単に克服できる。肉が欲しい場合は、射撃武器で狩りを行えばよいだろう。


●武器と弾薬の補給
 弓矢やクロスボウの弾に関しては、
《豊穣の角》が魔化された矢筒を用意すれば、事実上無制限の弾丸を補充できるため、補給ルートの概念が存在しなさそうな冒険者にとって、とてもありがたい魔化系呪文である。魔化の価格は、$2の矢または太矢であればたったの$100である。

 白兵武器に関しては、魔法でどうにかするのであれば幻覚/作成物系の《物体作成》の呪文を使う手があるが、これは手放すと消えてしまうため、やはり現物を用意した方が良い。
 壊れた武器を直す方法として物体操作系の
《修理》の呪文が存在する。この呪文は魔法のアイテムでも補修できるという非常に優れた効果があるため、貴重な魔法の剣などを運用するのであれば、誰か使えるメンバーがいた方が良いだろう。
 なお、冒険者の武器に関しては、最初から「壊れる」前提で安い武器を複数購入し、使い捨てていくスタイルの方が無難かもしれない。というのも、防具と異なり武器は壊れる機会(ファンブル表など)が圧倒的に多いため、下手に魔法でフォローしようとするよりも、壊れたら諦め、現地の有り合わせの武器で試練を乗り越えていく方が、コスト的に考えて合理的であろう。
 となると、修理するよりも「作り出す」技能の方が有用かもしれない。〈鍛冶屋〉〈革細工〉〈武具屋〉等の技能を使って現地で武器を作るというのも、冒険者として遊ぶ際の醍醐味の1つではなかろうか。
 自作する武器種の中で、もっともレア素材を必要とし、量産しにくいのが剣系の武器種である。リアル中世において剣の刀身に使われる鉄は、上質の鉄でないとすぐに折れてしまうため、どうしても作成コストがかかってしまう(ガープスにおいて、剣だけがやたら高価格なのはそのせい)。さらに、頻繁にメンテナンスしないとすぐダメになってしまう。オマケに戦い以外の用途がない。騎士や貴族以外が使わなかった理由がここにある。
 一方、槍の穂先や斧のブレード部分には、剣素材としては使い物にならない低品質の鉄が使われるのが一般的であり、非常に生産コストが低い。これならば、現地での素材入手・武器作成も可能であろう。

 つまり何が言いたいのかというと、冒険者が使う武器種としての剣は
コスト・パフォーマンスが極めて悪いのである。補給のことを第一に考えるのであれば、剣のメイン武器にするのは避けた方が良い(辛うじて許容できるのはダガーやナイフくらいであろう)。
 一応、同じ〈剣〉技能で扱える武器として棍棒があり、こっちをメインにする手もある。だが、絵的に完全にバーバリアン(蛮族)になってしまうため、英雄物語を彩る武器としては、かなり微妙である。
 あと、低品質の青銅の剣(定価の4割)にする手もある。だが、ファンブルすると高確率で壊れてしまうため、武器としての安定性で大きく劣る。一応、物質操作系の《物質硬化》を使えば上質の剣に変換できるという裏技も存在するため、その呪文を習得しているのであれば、選択肢に入らないこともないが…
■サンプル・キャラクター
 以上の理論により、作成されたキャラクターが以下である。
【基本設定】
 カルシファード侯国出身の女性で、元は地元の〈唯一港〉マツトキのジェスタ神殿が運営する「自警隊」という組織のメンバーでした。カルシファードでは、女性が軍人になる事は(性別を偽っているケースを除いて)ほぼないのですが、自警隊はあくまで神殿内組織であり、他国でいうところの「神殿騎士」に該当するため、女性メンバーも普通に存在します。
 カルシファード人と外国人のハーフである彼女は、ペローマ学院卒業後、ずっと自警隊員として過ごしていましたが、「幼女マンセー!」のカルシファードでは彼女のような大柄な女性は男性からあまり人気がないらしく、一向に結婚相手が見つからない事から、出会いを求めて国外を旅をすることにしました。現在は冒険者として活動しています。

 彼女はいわゆるレンジャー系のクラスで、地形を利用する術に長けています。塹壕を掘るだけでなく、呪文の力で土を盛って高台を作って見張り台を作るなど、防衛主体の陣地構築を得意とします。また衛生兵も兼ねていたため、プロの医師が務まる程度のスキルも有しており、元職場では重宝される人材でした。
 この能力は、冒険者になってからも活用されており、主にウィルダネス・アドベンチャー(屋外探索)主体の冒険者隊で高い評価を得ています。もっとも、今のところ彼女が気に入るような冒険隊はまだ見つかっておらず、いくつかの冒険隊を転々としています。生真面目な彼女は理想が高く、「居心地がよく、結婚相手の男性がいそうなパーティー」にこだわるあまり、なかなか理想の冒険隊に出会えないようです。
 「いっそ自分で冒険隊を立ち上げてはどうか?」と神殿の司祭に勧められた事もあるのですが、人付き合いがあまり得意でない彼女は、リーダーを買って出るほど積極的な性格でもないため、思い通りにいかない悩ましい日々が続いています。

 ―――With the above settings, you are now registered as a resident of the Lunar world.(以上の設定で、ルナル世界の住人として登録されました。)

【基本戦術】
 構築陣地による待ち伏せを得意としており、《土変化》で適当に高台を作り出し、《土を石》で土台をしっかり固めた後、その上に登って《魔法の霧》を発生させて相手からは見えなくした状態での一方的な射撃を基本戦術とします。
 射撃武器は《石弾》の呪文であり、《魔法の杖》が魔化されたクォータースタッフの先端から弾丸を発射して射撃を行います。パワーレベル1であればノーコストなので、至近距離であれば無制限の連射が行えます。

 なお、《土変化》と《魔法の霧》の呪文のコンボは陣地作成でも有用なので、パーティーで行動している時は、簡易拠点の設営で活躍できるでしょう。呪文による疲労により限界がありますが、《呼吸法》を心得ているので、ある程度は連続して作業を行えるはずです。
■実戦
 今回は陣地構築しつつ、はぐれゴブリン部族30名の撃退を目指します。おおよそ半数をやれば撃退できるものとします。

 なお、さすがに玲愛1人では無理なので、冒険者仲間を4人ほど追加しました。以下、彼らのデータとなります。
■サンプル冒険者隊 『4thサバイバーズ(after)』
 「4thサバイバーズ」は、リアド大陸の辺境を周回する4人組の冒険者部隊です。メンバーの入れ替わりが激しいパーティーで、合計すると8名ほどいましたが、パーティー結成当時から生き残り、まだ部隊に残存しているのは、この4人だけとなっています。

 彼らに明確な最終目的などなく、サバイバルみたいな事をして冒険そのものを「趣味」として楽しむ集団です。その途上で、困ってる人々を助けてささやかな報酬を得たり、邪悪な黒の月の蛮族を討伐し、連中が貯め込んでいる財宝を奪ったりしながら、日々の糧を得ています。
 このパーティーは明確にリーダーは決まってませんが、よくしゃべるライとフィリアンが主導しています。そして、この二人は正義感が強く、人情に負けて割に合わないクエストを安請負いする事も割とある事から、あまり儲からないパーティーです。そのため、部隊の入隊・脱退は自由なのですが、金儲け目当てで入った者はすぐに抜けてしまいます。
 もっとも、この4人は冒険期間がかなり長い事から、個々が持つ総資産額はかなりのものであり、経済的には割と余裕があります(余裕があるから安請負いしてるとも言う)。


 元ネタは、TRPG「ソード・ワールド(1.0)」の初代リプレイ第二部の主役を務めた冒険者グループです。この冒険隊は公式名称が定まっておらず、当サイトが勝手につけたオリジナルの名称になっています。
 
■兵站フェイズ
 ジェスタ神に仕える山ガールズ(笑)による拠点作りが始まりました。

 《土変化》の呪文を使う事で、1へクス2メートルの土を毎秒2へクスの速度で移動できます。地面から体積分の土を持ち上げ、その横に置き、長方形に形を整えて鎮座させる作業を、合計26回行いました。2人で分業して1人13回。玲愛もアラシャも《土変化》を15レベルで習得しているため、1へクスの土を移動するのに必要なコストは1点で済みます。
 二人とも体力13のマッチョ系女子ではありますが、13回発動でギリギリ気絶してしまうため、途中でベリナスが《体力賦与》が魔化されたアイテムを用いて疲労点を2点ずつ分け与えてもらいます。

 ライとフィリアンですが、山ガールズの作業中、襲撃を警戒して見張りについています。

 ライはロングボウを構えて周囲を警戒。
 一方、フィリアンは《動物作成》で鷹を生成。これに《動物知覚》をかけて、上空から周囲を偵察させます。さらに、万が一に備えて《動物作成》で3体のチンパンジー(体重50キロ)を生成。戦力としてはイマイチですが、フィリアンの呪文レベルであれば体重50キロまでの動物ならばノーコストで生産可能なので、呪文維持による他の呪文判定の低下値が許す限り、いくらでも生産できます。

 おおよそ15分後、以下のような土の壁の即席拠点を形成できました。
 ここからの《土を石》の呪文判定は、実際にダイスを振って判定を行っているとキリがないため、期待値計算で行います。


①疲労点回復の期待値計算
 まず、現在の二人は
「玲愛 残り疲労点2点」「アラシャ 残り疲労点3点」という状態なので、20分休憩を取る事になりました。

 疲労点の回復ですが、通常の休憩だと10分に付き1点しか回復しません。ただし二人はジェスタ信者であり、独自技能の〈呼吸法〉を習得しています(ジェスタ信者がこの技能を習得できるのは、当サイトの独自設定です)。よって、10分の休憩で1点疲労回復する通常効果に加え、いくらか追加で疲労を回復できるはずです。
 〈呼吸法〉は2分の1回判定できますので、10分休憩で5回判定を行えます。5回のうち何回判定に成功するかは、技能レベルの成功確率から計算して四捨五入し、実際の成功回数から追加回復量を算出します。

玲愛 〈呼吸法〉10レベル(成功率50%) 5回判定で2.5回成功(=3回成功)
10分休憩で1点自動回復と合わせて
4点疲労回復
アラシャ 〈呼吸法〉12レベル(成功率74.1%) 5回判定で3.7回成功(=4回成功)
10分休憩で1点自動回復と合わせて
5点疲労回復

 20分休憩した二人は、残り疲労点が
「玲愛 残り疲労点10点」「アラシャ 残り疲労点13点(全快)」となりました。

②作業による疲労度合
 土壁に対して《土を石》の呪文をかける回数を数えた結果、19回必要でした。

 判定しているとキリがないので、期待値計算します(ダイスを振りません)。
 呪文レベルが15以上であれば成功率95%以上で、四捨五入すると実質「確定で成功」なので、熟練によるコスト軽減を差し引いた分の消費コストを支払う事で
自動成功とします。

 14レベル以下の場合、10%前後の確率で失敗する可能性があるため、
判定失敗時に1点疲労するというペナルティも考慮して、消費コストを計算する必要があるとします。
 実際の計算方法ですが、成功率を裏返して失敗率を算出し、100%にその分を上乗せして消費コストに乗算します。例えば、呪文12レベル(成功率74.1%)だと失敗率は25.9%なので、これを100%に加算して125.9%。さらにこれを消費コストに乗算して平均消費コストを算出します。結果を四捨五入して「1回の成功で必要な消費コスト」とします。

玲愛 《土を石》12レベル 基本コスト5×125.9%(1.259)=
6(6.295)
アラシャ 《土を石》15レベル 確定成功(計算不要) 
4(熟練により1点軽減)

 結果、玲愛は
「1回の成功」で6点消費します。アラシャは熟練によるコスト軽減だけ適応され、「1回の成功」で4点消費となります。
 なお、クリティカルとファンブルの確率は非常に低いため、それぞれ確率ゼロとして扱います(大失敗しない代わりに大成功もしなくなる事で互いを相殺します)。

③実際の作業判定
 作業1回ごとに疲労点がゼロにならない範囲で《土を石》を好きなだけ
成功させる事ができます―――とは言うものの、今回使用する呪文は消費が大きいため、ほとんど1回しか判定できないはずです。なお、作業時間は時間カウントはしません(集中1秒で呪文が発動するので、かかる時間は実質ゼロと見なします)。
 つまり、実際にかかる作業時間は「休憩時間」だけであり、その合計となります。1回の作業ごとに10分の休憩を入れるとします。①で計算した「10分の休憩で回復できる量」の分だけ、疲労点が回復するわけです。

 あとは、1回の作業ごとに二人の成功数を合計してカウントし、成功回数が19回になるまで淡々と計算を繰り返すだけです。

▼作業1回目
玲愛
(基本消費6)
 1回成功 残り体力4
アラシャ
(基本消費4)
 3回成功 残り体力1
[残り15回]

■休憩10分
玲愛
(基本回復量4) 体力8
アラシャ
(基本回復量5) 体力6

▼作業2回目
玲愛
(基本消費6)
 1回成功 残り体力2
アラシャ
(基本消費4)
 1回成功 残り体力2
[残り13回]

■休憩10分
玲愛
(基本回復量4) 体力6
アラシャ
(基本回復量6) 体力7

 …この計算を続けます(以下省略)。

 結果、9回目の作業で19回分の作業が終了しました。休憩回数は8回なので、かかった時間は80分(1時間20分)。最初の休憩(20分)も含めると、1時間40分の作業で要塞の城壁の換装が終了した事になります。
 その間にベリナスが、1時間ほどかけて中央にキャンプを設営しました。
 最初の《土変化》によるお堀と土壁の作成の時間(15分)も含めると、即席拠点の設営にかかった時間は1時間55分―――ほぼ2時間です。
 結構かかっているように見えますが、「ガープス・ベーシック」の肉体的な行動「穴を掘る」のルールで計算すると、鉄のシャベルで土に1立方メートル四方の空間を掘るのにかかる時間は2時間です。それを考慮すれば、わずか2時間でこのミニ拠点を作り上げた事は脅威的な速さです(しかもわずか5名で、パワーストーンも使ってません)。

 実際のセッションでは、ほとんど使う機会がなさそうな〈呼吸法〉技能ですが、この件に関しては大いに役立ちました。疲労の回復速度の速さがここまで冒険に影響するとは…管理人も完全に想定外でした。
 仕上げにかける呪文は《魔法の霧》です。アラシャは呪文を5倍拡大して、拠点全体を乳白色の霧で覆うようにしました(4消費)。

 魔法の霧は、特定の魔法的な手段(《魔法の目》を通して見る)以外で、外から中を見通す事ができません。ですが一方で、中から外への視界は一切遮断されません。つまり、霧の中から相手に姿を見られる事なく、一方的に射撃で攻撃する事が可能になります(《闇》の呪文がかかったヘクスのような扱いです)。
 また、外から霧に入ろうとした者は、問答無用で恐怖判定をせねばなりません。そして侵入した後も2へクス以上先を見通す事ができず、霧による視界遮断の影響を受け続けます。この呪文は、「敵」と「味方」の区別がはっきりと分かれるという特殊な性質を持ちます(呪文発動時に効果範囲内にいた者のみが「味方」と識別されます)。
 なお、野生の動物は基本的に霧を避けるので、寝てる間に入って来て襲われるといった心配はありません。

 このように、拠点防衛に超最適な呪文なのですが、最大の弱点として「準備時間が5分かかる」というものがあります。戦闘が始まってから使うのは無理です(戦闘中に同じことをしたのであれば《闇》の呪文を使って下さい―――視界遮断効果だけ模倣できます)。
 そのため、「持続時間10時間」という非常に長い持続時間を頼りに、事前に霧を展開して維持し続ける必要があります。そして最初は、昼間の当直であるアラシャが使用しました―――何やら中二病な呪文を大声で詠唱したため、休憩中の仲間からひんしゅくを買ったようですが。

 以後、サバイバーズは12時間単位の2交代で見張りを行います。
 昼間は黒の月の種族の本格的な襲撃はないと踏んで、ライとアラシャだけで拠点を警戒します。ライが高い所で周囲を警戒し、アラシャは正面入口を集中的に守ります。またアラシャは、《魔法の霧》を維持し続けねばなりません。

 この時、残りのメンバーは睡眠を取ったり、食事を用意したり、《清掃》の呪文で体を綺麗にしたりして、くつろぐ時間となっています。
 一方、夜間は襲撃が予想されるため、フィリアンとベリナス、玲愛という本命戦力で見張りを行います。玲愛が《魔法の霧》を14レベルで習得しているため、彼女がアラシャに代わって霧の維持担当となり、ついでに高台で周囲を見張ります。
 またフィリアンは、起きている間はずっと警戒用のフクロウを1体出して周囲を偵察しつつ、予備戦力としての熊6体を近場の森に伏せて待機させておくという重大な任務があります。ただし、彼女自身は奥に引っ込んでもらい、敵の狙撃を受けないようにします。
 そしてベリナスは、正面入り口の守りにつきます。

 なお、見張り時間の人員のリーダーには、アラシャの私物である《拡声》が魔化された角笛が渡されます。襲撃を発見したら、そのアイテムで休憩班の連中を起こすわけです。
 このようなシステムにより、サバイバーズは24時間フル稼働で警戒を行えるノウハウを持っています。
 「非番」状態の3人のうち、フィリアンと玲愛が夕方ごろに起きてきて、食事の準備を始めました。1日3食のうち2食は、宿屋のオッサンに貰った保存食の干し肉をかじってしのいでますが、夕食くらいは暖かいものを食べたい―――というわけで、素材を調達して調理します。

 フィリアンは近場に積み上げてあった盛り土1へクス範囲に《植物作成》の呪文をかけました(3消費)。人参やジャガイモ、タマネギの芽が発生しました。
 さらにそこへ《植物繁茂》の呪文をかけ(2消費)、3分間維持します(追加で2消費)。こうして新芽は3か月分(約90日)成長し、収穫期を迎えます。収穫量に関して、全く何の記載もないのですが、独自調査によると1平方メートルあたりのサツマイモの収穫量が2.4kg前後とのこと。1食分の食材の量はせいぜい0.3~0.5kgだと思われるので、ぎりぎり5人分を調達できたことにしました。
 水に関しては、フィリアンが《水作成》を使えるようになる魔化アイテムを所持しているので、疲労点が許す限り、好きなだけ清潔な水を用意できます。これを使ってスープ系の料理で量を稼げば、5人分の腹を十分に満たせるでしょう。

 こうしてエルファ娘が用意した食材を、《調理》技能を持つ玲愛が料理しました。
 地球における食文化において、出汁をベースとする料理の文化が最も発展したのは日本国だと言われています。無論、海外にも出汁の文化はあるのですが、日本の場合、野菜や汁物が中心だったため味が薄く、淡泊な味になるのを回避するために出汁が必須でした。こうしてあれこれ創意工夫を凝らした結果、様々な日本料理が発展しました。

 西暦2024年の現在でこそ、西洋料理も日本人の舌を満足させるのに十分な味付けがなされていますが、中世時代あたりだと、出汁を取る文化圏が乏しい地域の方が多かったようで、西洋でもフランス以外はあまり発展しなかったようです(肉食文化だと、素材自体に十分な旨味が含まれていたのが主な原因だと思われます)。
 ルナル世界のグラダス半島も、基本的には西洋文化圏と同じ扱いになっているため、フランス・ポジションのオータネス湖王国以外では、あんまり料理に凝った文化はなさそうです。そしてエルファに至っては「獣と同じ生活」を目指してる以上、加熱処理以上の凝った調理など存在しなさそうです。

 そんな中、カルシファード出身(+歴史平行世界「ブルー・スフィア」の日本出身)の玲愛が調理した料理は、グラダス半島の平民出身者のサバイバーズには斬新でした。彼らは塩分濃度の高い保存食か、現地食材をブツ切りにして茹で、塩を振って食べる程度の食文化しか知らない地域で育ったため、彼女の手の込んだ料理があまりに美味しそうに見えたのです。

 完成してわずか3分後。
 彼女の料理は食い尽くされてしまいました。
 夜間は玲愛、フィリアン、ベリナスの3名で見張ります。


 《魔法の霧》の維持は、玲愛が引き継ぎました(5消費)。かなり疲労点を消耗しましたが、玲愛は〈呼吸法〉を習得しているので、20分後には疲労は全て回復しています。

 一方、フィリアンは《動物作成》でフクロウを作り出し(消費ゼロ)、《動物知覚》をかけて(3消費…内蔵型パワーストーンから1点引き出し2点分を代用)から偵察に出します。フクロウは夜行性で「暗視」持ちなので、夜間でも問題なくクリアな視界を確保できます(ここまでで合計2つの呪文を維持)。
 それとは別途で、体重100キロのヒグマを6体作成し、背後の森に伏せさせています(1体につき2消費)。これらのコストの支払いには、彼女が大量に持ち歩いている内蔵型パワーストーン(2点)からエネルギーを引き出して支払いに充てています。3つのパワーストーンのエネルギーが空になりました(2消費×6回)―――もっとも、ルナル世界はマナ濃度が「密」であるため、1日につき2点充填できるので、2点までであれば毎日使い切っても問題ありません。
 フィリアンは起きてから次に寝るまで、この偵察用の鳥1体(+《動物知覚》付き)とヒグマ6体の小隊セットを常時展開し続けています(全部で合計8つの呪文を維持)。

 そしてベリナスは、正面入り口の守りに付きました。


 ―――見張りを交代してからおおよそ2時間後。

 好奇心旺盛なフィリアンが退屈し始めた頃、平原の向こう側から黒の月で最下層の種族オークが2体、姿を現しました。どうやら斥候のようで、槍を構えながら周囲を見渡しています。即席で建築したミニ要塞ですが、サイズが大きい上、奇妙な乳白色の霧で覆われているため、すぐに発見されました。
■戦闘フェイズ
 冒険隊「4thサバイバーズ」(150cpの冒険者5名)が構築した臨時要塞に対し、はぐれゴブリン部族(ゴブリンを指揮官とする黒の月の蛮族/30名)が攻撃を開始します。

 戦闘は前半と後半に分かれます。
 今回は前半戦で、オーク(0cp)10体が臨時要塞に攻撃を仕掛けます。

■オーク雑兵 (0cp) ×10名
体力:12 敏捷力:11 知力:8 生命力:12
移動力:8 能動防御:よけ5/うけ5(格闘7)/とめ-
受動防御/防護点:0/1 体重:66kg 大きさ:1へクス
攻撃:
スピア(投)/技能レベル11(11)=刺し/1D+2(長さ1-2/抜撃11/正確さ2/射程12)
ハチェット(投)/技能レベル11(11)=切り/1D+2(長さ1/抜撃11/正確さ1/射程18)
小型クラブ/技能レベル11=叩き/1D+3(長さ1)
(格闘)パンチ/技能レベル11=叩き/1D-2(長さC,1)
(格闘)牙/技能レベル11=切り/1D-2(長さC)
特殊:暗視 鋭敏感覚L2 我慢強さ 頑健


 対するサバイバーズですが、あらかじめ臨時要塞に《魔法の霧》を張り巡らせており、効果範囲内にに侵入時は恐怖判定を行わねばなりません(失敗すると中に入れません!)。
 また、フィリアンがあらかじめ《動物作成》でヒグマ6体を生成しており、伏兵として森の中に待機させています。

■ヒグマ(ベーシックp443) ×6体
体力:14 敏捷力:13 知力:5 生命力:14/14
移動力:7 能動防御:よけ6/うけ-/とめ-
受動防御/防護点:1/1 体重:100kg 大きさ:1へクス
攻撃:
噛みつき/技能レベル13=切り/1D(長さC)
鉤爪/技能レベル13=叩き/1D(長さC)
▼01~03ターン
 戦闘開始早々、オーク10体が仮設要塞に殺到します。機動性だけは高いオークたちは、2ターンで20メートルの距離を駆け抜けます。

 対するサバイバーズは、戦闘開始直前にフィリアン以外の全員が《赤外線視覚》が魔化されたアイテムを発動しています(各員のシート参照)。これにより、夜間戦闘の光量不足によるペナルティが打ち消されます(フィリアンは種族的に「暗視」があるので不要)。
 接近してくる蛮族の群れに対し、それぞれ射撃を準備し、1ターン「狙い」をつけて発砲。ライの長弓、アラシャの弩、玲愛の《石弾》の呪文がそれぞれ命中し、先頭を行くオーク01のHPをゼロ以下にして撃退しました。


 続く第3ターン。
 クォータースタッフをライフルか何かと勘違いしている(?)玲愛は、《石弾》の呪文を最低パワーレベルで連射(ターン冒頭に発動→抜撃ちで発射→そのターンの行動で「集中」 以下同じ事をエンドレス)しています。元々〈呪文射撃〉技能が高い上、高所から至近距離の標的を撃つので、抜撃ち射撃でも余裕で当たります。まるで近代兵器のサブマシンガンか何かのごとく、ちくちくと近場にいたオークのHPを削り続けます。
 他のメンバーは射撃の再装填中。

 そしてオークたちの手番。
 要塞の入り口に押しかけようとするのですが―――直前に《魔法の霧》に対して恐怖判定をせねばなりません。しかし、知力8しかないオークたちにとって、恐怖判定は鬼門でした。突撃していった順に次々と判定に失敗。オーク02は癖を1つ習得(笑)、03と04は数秒間朦朧状態となって掘りの手前で身動きが取れず、05はなんと気絶してしまいました(撃退扱い)。

 続く06はダイス目が良く、恐怖判定には成功して果敢に入口に突撃!
 ですが―――そこで「待機」状態で待ち構えていたベリナスにモールでどつかれ、10点のダメージと共に転倒します。

 残る07から10ですが、前が詰まっていて橋を渡れず、掘り手前で足踏み状態。要塞にとりつく事すらできません。
▼04~08ターン
 第4ターン。
 フィリアンが、要塞後方の森に伏せていたヒグマの群れを、正面のオーク部隊にけしかけます。掘りの外周をくるりと回り、オークたちに襲い掛かります。

 対するオークたちも、すぐに気づいて南側に隊列を組みます。ちょうど、要塞に入ろうとして恐怖判定に失敗した者が多く、別の戦場を求めて立往生していたため、これ幸いとばかり、熊対処に向かったわけです―――こうしてサバイバーズは、攻略側のゴブリンたちの当初の目論見(要塞破壊)から遠ざける事に成功します。


 第5ターン。
 クマーズ(ヒグマの群れ)とオークの交戦が始まりました。
 オークたちが敷いた戦列に対し、ヒグマたちが一斉に突撃!しかし、黒の月の眷属の中では比較的腕力の強いオークと、ヒグマの中では最小クラスの個体では、ほとんど体力に差がないため、この体当たり合戦は痛み分けで終わります。中には、即決勝負に負けて転倒させられた熊もいました。

 なお、マップ上のオーク04と09は、恐怖判定で失敗して5~15ターンほど朦朧状態になってる者たちです(当面、動けません)。恐怖判定に失敗してる時点で、要塞内に突入する事も(心理的に)できなくなっているため、サバイバーズからは放置されています。
 第6~8ターン。
 オークたちは、手にした槍でクマーズに応戦。技能レベルこそ低いですが、身体的性能は言うほど悪くないオークたちは、局所的には「4対6」という状況でありながら、かなり善戦しています。
 その原因は、原始的とはいえオークたちが槍で武装していた事です。手にした槍の一撃の威力は「刺し1D+2」。熊の体表の毛皮(防護点1)程度では防ぎようもなく、一撃でHPをごっそり持っていかれ、瀕死の重傷者(重傷熊?)が相次ぎ、1ターン後には1頭が意識維持判定に失敗して撃破されてしまっています。
 普通なら、瀕死の重傷を負った時点で野生動物は退却するのでしょうが、フィリアンは「ここが正念場!」と思い、無理矢理戦闘を継続させています。人数が減ってしまうと、戦線が一気に崩れてしまうからです。

 そしてクマーズ側の攻撃ですが、本来なら組み付いてベアハッグ(組み付き)を行い、ホールド状態のまま噛みつき連打するのが強いのは分かっているのですが、組み付くと他の敵からの攻撃がかわせなくなり、かえって不利になると判断し(過去の「武神降臨」にあった「組み付き中は「よけ」-3」というルールを導入しています)、大きな熊手で殴る攻撃だけで戦わせました。
 熊手パンチの威力は「叩き1D」しかなく、火力面でオークに劣っています。それでも要塞内のサバイバーズからの支援射撃を受け、どうにか数を減らしていきます。
 第9ターン。
 オークたちは残り3名まで減少し、さすがにこれ以上は戦えないと判断し、戦線から離脱します。3人ともまだ軽傷だったため移動力低下はなく、あっという間に走り去って行きます。

 初戦は終了です。
 続いて、部族の精鋭部隊が投入されました。
 後半戦に移ります。
 臨時要塞に対し、ホブゴブリンとオーガーで構成された傭兵部隊が攻撃を仕掛けます。


■ホブゴブリン刀将兵 (100cp) ×3名
体力:13 敏捷力:14 知力:10 生命力:12
移動力:6 能動防御:よけ5/うけ8(両手9・格闘10)/とめ8
受動防御/防護点:6/5 体重:75kg 大きさ:1へクス
攻撃:
長剣/技能レベル14=切り/2D(長さ1-2)/刺し1D+1(長さ2)
長剣(両手)/技能レベル16=切り/2D+1(長さ1-2)/刺し/1D+3(長さ2)
長弓/技能レベル14=刺し/1D+2(抜撃15 正確さ+3 射程195m)
短刀/技能レベル14=切り1D+1(長さC,1)
パンチ/技能レベル14=叩き/1D-1(長さC,1)
特殊:意志の強さL4 暗視 鋭敏感覚L1 我慢強さ 戦闘即応 頑健 防護点L1
■オーガー鬼神兵 (100cp) ×2名
体力:20 敏捷力:13 知力:9 生命力:13
移動力:7 能動防御:よけ6/うけ7(格闘8)/とめ-
受動防御/防護点:3/6 体重:204kg 大きさ:1へクス
攻撃:
大槌/技能レベル14=叩き/4D+2(長さ1-2)
鉾/技能レベル14=叩き/4D+1(長さ1)
投石/技能レベル14=叩き/2D-2(抜撃12/正確さ0/射程40m)
パンチ/技能レベル13=叩き/2D-2(長さC,1)
牙/技能レベル13=切り/2D(長さC)
特殊:意志の強さL3 暗視 鋭敏感覚L3 我慢強さ 防護点L2 バーサーク
 対するサバイバーズですが、まず《赤外線視覚》を維持していた者(フィリアン以外全員)は維持コスト(1点)を支払い、持続時間をさらに1分延長しました。
 また、前半戦で瀕死状態のヒグマ3体の持続時間延長を止めました。無理やり持続を維持して戦わせ続ける事も可能ですが、操作しているフィリアンの「生成物とはいえ意志を持った野生動物には違いなく、私たちの目的のために苦しい最後を迎えさせたくない」という意向から、持続を延長しない事にしました(この世界から消失)―――どのみちヒグマ程度では、今回の敵戦力に対してほとんど太刀打ちできないため、戦線に大きな影響はないと思われます。

■ヒグマ(ベーシックp443) ×残り3体
体力:14 敏捷力:13 知力:5 生命力:14/14
移動力:7 能動防御:よけ6/うけ-/とめ-
受動防御/防護点:1/1 体重:100kg 大きさ:1へクス
攻撃:
噛みつき/技能レベル13=切り/1D(長さC)
鉤爪/技能レベル13=叩き/1D(長さC)
▼01~06ターン
 敵が要塞目前までやってきたのを狙って、ヒグマたちが迎撃に向かいます。

 しかし、ヒグマの体力14に対してオーガーたちは体力20。さらにヒグマの攻撃威力が「叩き1D」なのに対し、オーガーの装甲は「防護点6」というありさまで、ヒグマはオーガーに対して圧倒的にスペックで負けています。
 なので、辛うじて勝負可能な体力を使って、ひたすら体当たりで足止めするしか出来る事はありません。そして「体当たりしかしてこない」事を悟った敵は、防御を捨てて「全力攻撃」を叩きつけてきます。生命力14のヒグマと言えども、怪力のオーガーとホブゴブリンの超火力には耐えられません。
 ヒグマが倒れるまでの間、サバイバーズ本隊がひたすら射撃を行いました。しかし、まともに装甲を貫通できる射撃が可能なのは、《石弾》の呪文を余分に集中する事で単発威力を高められる玲愛くらいで、ライの長弓やアラシャの弩では、オーガーの装甲をなかなか貫通できません。

 当初の予定では、ヒグマを囮に使っている間にオーガーに射撃を集中し、ダメージによってバーサーク状態にする事が「正面から突っ込んでもらう」&「撤退できなくする」事が目的でした。しかし、サバイバーズの遠距離火力では難しかったようです。なので、危険を承知で接近戦になるまで待つしかありません。
▼07~08ターン
 ―――ヒグマ小隊、4秒弱で全滅。とても支えきれませんでした。

 オーガー02が先行して、要塞の橋を渡ろうとします。《魔法の霧》の効果範囲内に入るための恐怖判定を強要されますが、このオーガーは知能が高く、「意志の強さ」まで備えた英雄個体です。意志判定に成功し、悠々と橋を渡ってきました。

 …と、そこで「待機」行動を取って待ち伏せしていたベリナスが、すかさずモールで要撃。しかし命中判定で失敗し、攻撃が外れてしまいます。目標値14なので確率90%以上なのですが、外す時は外すものです。

 …どうでもいいのですが、木の板の橋だと、オーガーの体重で乗ったらバキッと割れて壊れそうな気がしたのですが、今回は面倒なのでその手の処理はパスしました。どうせオーガーの身長(2.6m)であれば、お堀(深さ2m)にハマってもベリナスの立っている位置ならば普通に攻撃が届きます。
 貫通重視の自称「スナイパーライフル・モード」で射撃を続ける玲愛ですが、パワーレベル3の石弾が命中・貫通してダメージを与え―――なんと、その衝撃でオーガー02がバーサーク状態に移行してしまいました。

 無論、サバイバーズとしても、オーガー達には是非ともバーサークしてもらうつもりでした。なぜならば、バーサーク状態になれば冷静な判断ができなくなり、とにかく敵を倒そうと前進しかしなくなるからです。
 オーガーたちがそういう状態になった後、アラシャが《物質障壁》を張る事で、攻撃が通じないと分かっていても攻撃を止めなくなる性質を利用して、障壁越しにじっくりと料理するのがサバイバーズの狙いでした(注:当サイトのハウスルールでは、障壁系呪文は《避難所》と同じ趣旨の呪文という解釈になっており、「味方」は自由に障壁を行き来したり、武器で障壁の外の敵を一方的に攻撃できる事になっています)。

 なので、できれば遠距離戦のうちにバーサークに持ち込み、敵が接近してくる前にあらかじめ障壁を張る予定だったのですが、その狙いが外れたので、白兵戦になっても相手がバーサークするまで下手に障壁を張れませんでした(興奮してない状態だと、さすがのオーガーも攻撃が通じないのを考慮して一旦退いてしまうでしょう)。
 ベリナスは両手武器の戦士なので、回避はそこまで高くありません。魔法の鎧の受動防御向上を含めても、能動防御「よけ」の目標値は10しかありません(確率50%)。この状態で、怪力でモールを振るうオーガーから全力二回攻撃とかされてしまうと、さすがに防護点7のベリナスでも一撃で瀕死になる可能性の方が高く、今の二連撃は相当ヤバかったのです(管理人も想定外で肝を冷やしました…)。
 ライが慌てて抜刀して壁から降りてきたのも、ベリナスが倒れた時の事を想定してでした。そしてベリナスの背後では、フィリアンも万が一に備えて《大治癒》の呪文の集中をしていたりします。

 幸運にもベリナスは、目標値10を二回とも成功させました(ダイス目10とかでした(笑))。しかし、次の手番ですぐにアラシャの《物質障壁》をかけてもらいたいところ。さすがに次の幸運は期待できないでしょうから。
▼09~14ターン
 アラシャが2倍拡大の《物質障壁》を展開しました(6消費)。


 ―――実は、この時点で
「詰み」です。
 正面を陣取っているオーガー02はバーサークしており、目の前のベリナスを倒すまで、ひたすら全力攻撃行動しかできません。しかし彼は無敵のエネルギー・シールドの向こう側にいるため、いくら殴りつけても倒す事はできません。
 通常の精神状態であれば、いくら頭の悪いオーガーでもこの時点で攻撃を止め、一旦は退くでしょう。しかし、バーサークしてる者にそのような理屈は通じません。

 あとはもう、ライとベリナスが武器で全力攻撃を浴びせたり、フィリアンとアラシャがクロスボウで顔を狙って撃ったりして、時間はかかりましたがオーガーの生命力(13)の5倍のダメージを与える事で、完全に損耗なしで倒す事ができました。
(後で考えてみれば、単発大火力のベリナスが全力攻撃/技能+4で脳を狙って攻撃すれば、バーサーカーでも一撃で昏倒させて早期KOできる事に気づきました(笑)…いや~多人数を操作していると、基本的な戦術もうっかり忘れてしまうものですね…。)

 さらに、弟(この二人のオーガーは兄弟で、02は弟でした)が殺された事でプッツンした兄貴(01)が、なんと意志判定でダイス目17が出て見事に失敗。弟の死後、兄もバーサーク状態になって撤退できなくなりました。こうして01も餌食に。

 貴重な要塞攻略戦力を全て失ったはぐれゴブリン部族は、これ以上戦っても勝ち目がない事を悟り、村襲撃を諦めて撤退を開始しました。


 4thサバイバーズの勝利です。
 ―――さらに1日後。

 この辺りを治める領主の軍勢がやってきて、騎兵隊がゴブリン部族を領域内から完全に追い払います。サバイバーズの撃退任務も、これにて終了です。
[編集手記]
 旧SW(ソード・ワールド)のリプレイ第二部とか懐かしい…。

 このリプレイ、読者の間ではあんまり人気がなかったようです…しかし、それがはっきり分ったのは、インターネットが繋がってからでした。当時はネットがなかったため、ドラゴンマガジンという雑誌上でしか情報が得られず、それほど不人気という空気は感じなかったです。

 第二部以降、SWリプレイは偶数回が不人気というジンクスが出来上がります(第1部「スチャラカ冒険隊」(人気)→第2部 名称なし(不人気)→第3部「バブリーズ」(そこそこ人気)→第4部 名称なし(不人気)→第5部「へっぽこーず」(超絶大人気 おそらくリプレイ最盛期)→第6部「ぺらぺらーず」(いまいち)…)
 第二部が不人気だった主な理由は「GMのマスタリングの失敗」です。当時のGMは、PCを容赦なく殺す一方、復活の機会すら与えなかった。しかも不公平な事に、女性陣は全く殺そうとしない。殺さない代わりに強制的に脱がされる…と、GMとしての拙劣さがあまりに目立ちすぎました。そのせいで男性陣PCが慎重になり過ぎて、あんまり個性を出せなかったんですね。個性を出そうと派手に動いた男性PCは、容赦なく死にました(笑)
 一方で、女性陣はGMに贔屓されて殺されないので、特にフィリアンなどは異様なほど目立ってました。GMも彼女が好きだったらしく、なんかやたらとGMとの二人きりプレイのシーンが多かった記憶があります(情報制限と称するセクハラ行為(笑))。
 このリプレイは、以後のリプレイ・シリーズの反面教師となりました。第二部以降、「PCは基本殺さない」「死んだ場合は蘇生の機会を必ず与える」「情報制限にかこつけた特定PC優遇マスタリングの禁止」など、数々の暗黙の了解ができたようです。

 そんなグダグダなリプレイでしたが、私は旧SWのリプレイシリーズの中では一番好きでした(大人気の「へっぽこーず」よりも好きです)。
 SWリプレイが始まった当時は、リプレイというジャンル自体がマイナーで、他にSNEほど本格的にリプレイ本を作るメーカーがいなかったことが原因なのでしょうが、他にも私が「ロードス病を患っていた」のも原因かもしれません(ロードス病とは、エルフの娘と人間の男のカップリングを至上とする思想の事…管理人個人が勝手にそう呼んでいただけです(笑))。
 当時、エルフ・フェチでもあった管理人は、とにかくエルフ娘ならば何でも好きでした。当然、フィリアンはその餌食(笑)となり、彼女のお相手としてライシードル・アレリーを勝手に脳内で結びつけていました(実際のリプレイ第二部では、PC間の恋愛要素は全くといっていいほど皆無でしたが…)。そうした精神的疾患(笑)が原因で、リプレイ第2部に高い評価を与えていると思われます。いわゆる「懐古厨」みたいなものかもしれませんね。

 …というわけで、本題の「地形利用」の話でも。


(陣地構築)
 TRPGで陣地構築を1からやるセッションというのは、少なくともリプレイでは見たことがありません。そもそも、それ周辺の詳細ルールがほとんど設定されていないのが一番の原因かと思われます(土木作業に何分かかるとか、補給時間がどのくらいとか)。TRPGのセッションでは、「GMが用意した特殊地形をPCがどう利用するか作戦を立てる」程度で、1から地形をいじって陣地構築するようなプレイは一般的ではないでしょう。
 また、防御戦術は地味で同じ作業になり勝ちです。つまり、単調で退屈な戦い(手順に沿って雑魚化した敵集団を延々と処理するだけの作業ゲー)をする事を目的としているため、ゲームとしては「面白くない」事が多いんですよね。そのため、コンシューマ・ゲームでもあまり好まれません。何もない平野部で、真っ向から実力むき出しのガチバトルする方が、エンターテイメントとしては確実に面白いです。例えばカプコンのモンハン・シリーズとかは、敢えてバカ正直に巨大モンスターと正面対決する事が楽しいゲームと言えます。

 なお、陣地構築の目的は「防御戦術」であり、防御戦術の基本は「戦術的なボトルネックを作る」事です。戦術的ボトルネックを作るとは、「攻撃側の攻め場所をごく狭い1か所に絞り、それ以外からの攻撃を行わせない」事です。そうする事で、少ない戦力をそこに集中でき、一方で攻撃側の敵は、狭い場所では動員できる味方の数に限界があるため、「数の多さ」をあまり生かせなくなります。「少数が多数に包囲されて四方八方から攻められて敗北するのを回避する」と言い換える事もできるでしょう。

(陣地構築が楽しいゲーム)
 陣地構築が楽しめるゲームとして、一番有名なのが「マインクラフト」ではないでしょうか。

 このゲーム、夜間になるとゾンビやスケルトンといったモンスターが湧いて、不定期にPCに襲い掛かってきます。夜間は一種の持久戦です。PCはそれを回避するため、ブロックを積み上げて拠点を作り上げ、夜襲に備えます。
 マイクラをやると分かりますが、陣地構築で一番楽しいのは「戦いの前」、陣地を作ってる間です。実際に戦いが始まった後は、狩場に追い込んだモンスターを弓などで一方的に狩るだけの作業となります。まぁそこも楽しいっちゃあ楽しいですが、その楽しさは「戦闘前にいかに準備の手間をかけたか」(武器防具の作成、装備へのエンチャント付与、馬や犬の飼育と武装など)にかかってるので、結局のところ「戦いの前の準備の楽しさ」の結果を見ているに過ぎません。

 実際のところ、今回のレポートも「戦闘」よりも「戦闘前の陣地構築」で半分以上の量を占めることになりました。そこさえわきまえておけば、TRPGでも陣地構築で楽しむセッションを準備する事は可能だと思います―――それを証明するため、今回のレポートを書いた次第です。

(各戦術の評価)
 今回のレポートで使われた戦術を、それぞれ個別で評価してみます。

●《土変化》での要塞構築 ★★★
 冒険者が即興で陣地を作るなら、これが一番手堅い手段だと気付き、今回のレポートにしようと思いました。お堀と土壁の作成をほとんど一瞬で行えるのは、よくよく考えてみればかなり強いです。現代地球であれば、陸軍歩兵が塹壕を掘るのに使えるはずです。

 なお、中世の戦場では塹壕はあんまり役に立ちません。現代戦において塹壕が必須になったのは、銃器の性能があまりに向上し過ぎて、鎧では全く防げなくなったからです。鎧で防げない以上、遮蔽物としての「防壁」が必要です。そのために塹壕の概念が生まれました。
 なので、鎧や盾で敵の射撃を防げるローテク環境では、塹壕を掘るメリットは減少し、作業にかかる時間や労力を消費するデメリットの方が大きくなります。防御側が城などの拠点に籠り、拠点防御力を上げるという点ではまだメリットがあるのですが、攻撃側はシールドを構えて弓や弩の射撃に備えておけば事足りるので、必須というほどではありません。
 バリスタ等の盾で防ぐには無理がある高威力の射撃に対し、塹壕を掘って城壁ににじり寄るといった戦術を取る事はあったようですが。

●《魔法の霧》での防御煙幕 ★★★
 煙幕というと、管理人としては「パワードール」のようなシミュレーション・ゲームを思い出すのですが、パワードールの煙幕弾と同じくらい有能な呪文です。味方に対して視界遮断がないというのが凄い。一方的に射撃できます。
 さらに、知力の低い雑魚集団除けの効能もあります。レポートでオークの群れを全く寄せ付けなかったように、これは超強いです。

 ただし、「準備:5分」というのが最大のネックでして、冒険者が遭遇戦で咄嗟に使うといった方法では、ほぼ利用できません。あくまで陣地防衛に特化した呪文です。
 となると、「攻め」が主体となる冒険者には、イマイチ使い勝手がよろしくないのかもしれません…雑魚相手の簡単な陣地構築手段としては有用なんですが。

●《植物作成》《植物繁茂》で食料調達 ★★
 下手な食料系呪文より有能な植物系呪文。タマネギ、ジャガイモ、ニンジン作り放題!これで晩飯確保は余裕です。問題は土なんですが、上記の要塞構築が可能なキャラがいるならば、土の調達はそんなに苦労しないはずです。よほどひねくれ者のGMでもない限り、土くらいは確保させてくれるでしょう。

 ルナルでは、植物系呪文が習得可能なPCはエルファとウィザードくらいしかいないので、食料が心配ならエルファで魔法戦士を作って上の二つの呪文を習得しておく事で、飢え死にを回避できます。あと欲を言えば、《水作成》の呪文も欲しい所ですね。

●《土を石》で城壁強化 ★
 使えるなら便利ではありますが、ややコストが重い呪文でもあり、《土変化》で盛った土の山全部にかけて回るのは、かなり時間がかかります。なお、1×1×2mの立方体の石は重さ5トン、防護点8・HP600といった性能であり、少なくとも戦闘中に破壊される事はなくなります(防護点とHPは第3版のルール下で算出した推定値です)。
 今回、ジェスタ独自技能《呼吸法》があったので、わずか2時間で城壁全体を強化できましたが、この技能がない信徒の場合、休憩1回で1時間とか余裕でかかります。《呼吸法》か、最低でも《体力回復》の呪文15レベル以上を習得している場合のみの手段です。

●《動物作成》で兵員増量 ★★
 人数を揃えられて便利なのですが、100キロ以下の動物だと戦闘力自体はそれほどでもなく、装備を揃えた戦士相手だとかなり辛いです。今回は、種族的に文明レベルの低いオークの集団相手だったので互角に戦えましたが、ホブゴブリンなどまともに装備を整えた一人前戦士だと歯が立ちませんでした。
 この呪文が一番輝くのは、飛行偵察ドローンよろしく「鳥類に《動物知覚》をかけて運用する時」だと思います。偵察要員としては非常に優秀で、TL3の時代ではまともな対空兵器もほとんどないため、撃ち落される可能性も低く、知識系呪文《魔法の目》よりもコスト面で有利です(《魔法の目》は維持コストが高く、20レベルにならないと常時偵察には使えません)。
 なお、偵察用ドローンとしてのみの運用に限定するのであれば、《動物作成》の呪文は15レベルあれば事足ります。

●〈呼吸法〉による疲労回復 ★★
 正直、ここまで大活躍するとは完全に想定外でした。2時間で要塞が完成したのは、この技能のおかげです。たった二人でこの規模の要塞を作るなんて、普通なら絶対不可能です。
 ジェスタ独自技能にこれが入ってるのは、当サイトのハウスルールによるものですが、設定した当時は「他の取れる独自技能が思いつかないので、持久戦に備えた技能でもいれとくか…」という程度の適当設定でした。ですが、今になって大正解だったと気付きました(笑)

 逆に、原作ルールではウィザード種族にこれが独自技能として入っているのですが、基本的にウィザードって、パワーストーンでエネルギー調達した方が圧倒的に効率が良い種族なので、正直ウィザードにこの技能を持たせても基礎体力が低い弊害で「宝の持ち腐れ」になりやすい。オマケに《体力回復》の呪文を習得できるので、明らかに能力が重複してるんですよね。
 なので当サイトのハウスルールのウィザードは、この技能を習得できない事にしています。


(各キャラの解説)
 SWリプレイ第二部からお借りした彼らですが、原作との違いなどを軽く解説。

●ライシードル・アレリー
 世間ではライ「シールド」(通称:雷盾)という名で誤解され勝ちだった主人公的存在。男性PCの中では良くしゃべっていた方。ただし慎重派で、あまり派手なアクションには飛び込まない上、ダイス目も特に爆発しないので、ほんと目立たない人。冒険前の前夜に晩餐会を開くのが趣味?

 本人いわく「インディージョーンズの主人公みたいなキャラ」を目指してたようなので、若干レンジャー系のキャラクターにシフトした前衛戦士として設計しています。ロングボウを扱わせてみましたが、「射撃呪文ほど連射速度はなく」「クロスボウより威力が低い」「オマケに技能難易度が極めて高い」ガープス第3版の弓矢はイマイチ。射撃戦では、「連射すれば高速」「溜めて撃てばマスケット銃並みの高威力」の万能性を示した玲愛の《石弾》が、遠距離アタッカー枠をほぼ独占してました。
 一応、魔法なしでサバイバルできるキャラクターにしてあるので、最悪他のキャラで抜けが出ても、彼が物理的にフォローできるようにはなってます。

●フィリアン・エッダ・フローティリス
 ルナル世界のエルファは、氏名を意味のある英語にしないとダメという規則があるので、「エッダ・フローティリス」の部分をどうするかで結構悩みました。
 「エッダ」は「(北欧神話の)古詩」とか「知識」という意味があり、これはいいんですが、「フローティリス」は完全に人名専用の造語で、そのままでは使えません。なので、近い語感を持つスペルを探していたら「フローレンス」というのを見つけました。意味としては「花盛りの」「繁栄している」といった感じのラテン語らしい。この二つを合わせ、「繁栄をもたらす知識」氏族としました…かなり強引で、文法的に明らかにおかしいんですが。「ニーベルン・ヴァレスティ!」的な?(笑)

 リプレイでは一番目立ったキャラですが、当サイトでは裏方に徹してます。「《動物作成》で生体ドローンを生産して指揮官に徹するキャラ」の性能を実地で見たかったので、そういう性能になっています。一応、クロスボウでの射撃戦闘も可能にしておきました。
 なお、大柄で知られるルナルのエルファ種族ですが、原作のフィリアンは小柄な女性なので、かなり高度を下げて(笑)対処しました。ギリギリ、恋人のライよりも低くなってます。

●アラシャ・クリューワ
 原作リプレイでは序盤にかんしゃく持ちのお姉さまという事でちょっと目立ったくらいで、後半はほとんど空気と化していました。プレイヤーが「読者サービス拒否!」したのが原因かもしれません。

 しかしドラゴンマガジンの扉絵で見事「えちえち尻出し姉さん」の名声を得ました!
 こんな感じのヤツでしたヨ↓
 ちなみに、現在ネット上に残ってるリプレイ第二部関連の読者のイラストで、残ってるのはアラシャお姉さまの作品だけみたいです。当時は色んなキャラのイラストが描かれていたはずですが(フィリアンのイラストも結構ありました)、ネットがなくてドラゴンマガジンに掲載のみという形だったので、今はほぼ残ってません。

 …んで、当サイトのキャラ作成では、かなり冒険させています。
 というのも、兵站系の能力にCPを多く割り振ったキャラというのは、今まで作った試しがなかったからです。《土変化》や《土を石》、《魔法の霧》とかいう、おそらくガープスユーザーの誰もが目を向けないであろう(笑)呪文や、実際の使い場所不明の〈呼吸法〉技能などに大量のCPを投資しました。
 そして、あくまで結果論ですが、陣地構築でここまで活躍できるキャラになるとは思ってなかったため、今回のレポートでは一気に主役格へと躍り出ました。よかったね。

●ベリナス・ブレスト
 原作でも「重戦車」以外に目立った特徴のない強面の男性ですが、当サイトでもやはりそうなりました。「モール」という使いにくい武器を装備しているのが唯一の特徴でしょうか。必要体力14の武器とか、正直使いどころに困るんですがね…

 ただ、装備条件が厳しいだけあって、それなりにメリットもなくはないです。まず、100cp帯で致傷力3Dを目指そうとすると、一番手っ取り早いのが「体力13にしてハルバードを持つ」事なんですが、ハルバードは一度攻撃に使うと準備に2ターンも要してしまい、ガープスの白兵戦では二撃目をほとんど期待できません。ですがモールであれば1ターンで準備可能なので、「致傷力3Dをキープしつつメイン・ウェポンにする」のであれば、モールという選択肢は十分あり得ます。
 ただ、体力14以上というのがかなり厳しい。体力だけに半分近いCPを割り振ったところで、結局それだけでは役に立たないので、もう専業戦士に振り切るしかないんですよね。

●キドマン・ブリューワ → ジール → シア
 キドマンはリプレイで唯一、他の男性とは異なる柔和なイメージのソーサラーで、割と良い感じだったのですが、なんとセッション中に虎に殺されてしまっています。ちょっとは加減しろよなー?GMよー?(笑) 正直、彼が殺されたのはもったいなかった。
 殺されて以降、NPCキャラのジール(ダークエルフハーフ)を演じた後、後半のヒロイン役のシアを演技していたと思われますが、シアはGMの下半身の趣味丸出しキャラだったためか、イマイチ読者受けはよろしくなかった模様(えちえち衣装の女性キャラは、同じ女性の読者のウケが悪いのは定説)。

 今回、レンジャー枠に異世界転生娘の玲愛さんが入ってくる関係で、シアには抜けてもらいました。個人的にも、第二部の女性キャラの中ではあんまり好きになれなかったキャラだったので…ごめんよ。

●リン・エルドリア → ベルモット・ロウ
 なんか、プレイヤーがやたらかっこつけたがる性癖があるらしく、無謀にも色々と挑戦するのですが、大半が「トラップの囮役」で終わっており、かっこつけというより、ただの無謀なだけのキャラになってしまっている印象。リンは前半のラスボス戦で「アシッド・クラウド」をモロに受けて死亡。
 後半、ベルモットというハーフエルフキャラで参戦しますが、盗賊要素が加わり、ますます胡散臭いだけのキャラに。オマケに新人のくせに馴れ馴れしすぎて正直ウザい。

 …というかですね?偵察役のスカウト系キャラが無謀な事に挑戦するって、完全に戦犯プレイです。ただの足手まといですがな(笑) せめて戦士系のキャラならばそれも役立ったのかもしれないが、知的活動を担うヤツがそれって…
 第二部リプレイで唯一、管理人が気に入らなかったキャラだったので、今回は降りてもらった。キミはグラスランナーにでも転生しなさい(笑)


(SWリプレイ第2部GM担当 山本弘氏)
 これを書いている西暦2024年と同じ年の3月29日―――68歳の若さで亡くなられました。まずは、ご冥福をお祈り申し上げます。

 管理人にとって、山本氏は1つの「目標」でした。当時のグループSNEは、主にSWの小説をたくさん手掛けていましたが、その中で特に山本弘氏と水野良氏の小説が非常に面白く、「読んだら確定で当たり」だったので、とにかく二人のSW小説を買い漁って読みました。「この二人のどっちの小説が面白い?」と聞かれたら、迷う事なく山本氏でした。
 当時の学生時代の私はSNEに入社したくて、とりあえず小説家でないと入れてくれなさそうなので小説家を目指していたのですが、山本氏の小説を何度も読んで、どうすれば彼のように面白い小説が書けるのか?と、ずっと考えていました。結果、「自分には知識と人生経験が足りない」「特に英語力がない」事に気づき、「自分がSNEの小説家として所属するのは無理だな…」とあっさり諦めてしまいましたが。

 山本氏は、SWリプレイの第1部と第2部のGMを担当していたようで、第1部はリプレイという読み物自体がまだ黎明期だったため、非常に人気が高かったようです。第1部は今でも伝説になってます。
 残念ながら第2部は酷評というか、ほとんど相手にもされてないのですが、私個人の感想はそれほど悪くないです。ただ、上記に書いたようなマスタリング上の問題と、後半のシナリオ自体の流れの悪さがプレイヤーの行動を縛った結果、PCが無個性化してしまっただけだと思ってます。リプレイ自体の雰囲気やノリは、第1部の頃とさほど変わりませんし、やり方を間違えなければ十分良いリプレイになったのに惜しい…と思ってます。

 これ以降、私個人はSW世界から離れてしまったため、あんまりSNEの作品を買わなくなったのですが、「サーラの冒険」だけはずっと追ってました。途中で結婚されたらしく、何やらその頃の彼の小説の描写は、かなりエロチックに走っていましたが(さすがに露骨すぎて引いたぞ(笑))、最終巻では見事、綺麗にまとめられていて「さすが」と思いました。
 「作品を最後まで描く」って、本当に苦しいんですよね。自分もニコニコ動画でドラマ動画を作ってた頃があって、その事を酷く痛感しました。だから、山本氏がサーラ最終巻を出すまでいかに苦悩したのが、感覚でわかります。作品を最後まで出し、きっちりシリーズを閉めてこそ「真のプロ」を名乗る資格があるんです。山本氏は「真のプロ」の姿勢を貫きました。

 結局、管理人は小説よりもゲームクリエイターの方向に向いて歩いていったので、SNEメンバーや山本氏と直接会う機会はなかったわけですが、私の人生に、SNEと山本氏の作品が強く影響している事は間違いありません。


 山本さん。
 素敵な作品をたくさん、本当にありがとう。

 私は生涯、あなたの存在を忘れる事はないでしょう。
 どうか安らかに――――
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