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■序節 緑の月の社会
 この項では、森に住むエルファたちのデータを紹介していく。


 エルファたちは〈円環〉なる社会形態を軸とし、互いに調和して生きるという。ルナル世界の人間には少々理解しがたいのかもしれないが、我々地球には、似たような過去の事例が存在する。まずはそこから、エルファたちの〈円環〉を理解していこう。
 
■〈円環〉の概念とは
 エルファが言うところの〈円環〉とは、「身分が存在せず、職業別に氏族が分かれて分業制を徹底させ、自然と調和した社会システム」「しかも文明レベル3相当」であるらしい。地球では存在しえぬこの社会システムを理解するには、地球の歴史上に存在する様々な社会・組織形態を理解する必要がある。

 以下、〈円環〉を理解するのに必要そうな、地球における実在した社会システムを検証していく。最初に、エルファが謳う「身分が存在せず貧富の格差もない」社会形態に似た構造を持つものとして、地球人類のごく初期に発生する原始共産制の社会を見ていこう。



■原始共産制
管理人エルフ
「エルフ・サーバーへようこそ!

 この鯖(注:サーバーの事)では、
 共有チェストの物資を自由に使って下さい!
 ダイヤ装備も勝手に持ってってもらって構いません!」

新規エルフ
「おー。すげー。」

管理人エルフ
「ありふれた物資の調達は、
 公共施設を使ってください!
 森林伐採場や収穫畑、家畜用牧草地などがありますよ!

 自然地形をできる限り破壊しないためにも、
 これらの共有施設の利用にご協力下さい!」

新規エルフ
「ふむふむ。把握。」


管理人エルフ
「ちなみにトイレも共有です!」

新規エルフ
「それは
イヤです」






 原始共産制が成立するのは、大規模な農業がなく、狩猟採取生活が社会基盤となっている社会である。狩猟採取は生産性が低いため、自然豊かな環境でないと成立しない。

 しかし、21世紀現在の地球においても、貨幣経済が入っていない熱帯地方の一部の部族社会に、この社会形態は残存している。
 またインターネット上の仮想世界では、「マインクラフト」などに代表される「箱庭ゲーム」のマルチ・サーバーにおいて、同じサーバーで活動しているユーザ間同士では物資を共有し、実質的に原始共産制になっている事が多い。これはゲーム世界において、フィールドの広大さに反比例して人口(接続人数)が少なく、一方で使いきれないほどの大量の物資を採取できるため、個人の財産の概念がなくとも、コミュニティがうまく回るからである。


 原始共産社会において、すべての生産物は共有財産であり、身分やそれに伴う搾取は存在しない。社会に属するすべての人員が平等な存在として扱われる。また、狩りや採取が行えない時期は自由時間となるため、ストレスが溜まりにくい社会となる。

 しかし、社会全体の生産性が低いため、食料をはじめとする物資の貯蔵がほとんど行えず、時に首狩りやカニバリズム(食人)といった、人口削減のための残忍な習慣が発生した。また、大規模な災害によって環境が激変し、生産性が急激にダウンした場合、村自体があっという間に飢餓状態に陥り、全滅する可能性が高かった。

 さらに時代が進み、狩り対象が大型の獣から小動物のウサギなどに変遷していくと、村人総出で狩りを行う必要がなくなり、狩人個人の腕の良しあしが収穫の増減に直結するようになった。結果、腕のいい狩人ほど取り分をたくさん奪われて損をするという、不平等な状態を生み出したのである。


 こうした各種問題に対処するため、農業が組織的に行われて貯蔵を増やし、飢餓を回避したり、狩りの取り分に関して、個人の才覚に応じた一部資産の独占化が行われるようになると、身分や貧富の格差も自然と発生するようになり、原始共産制は終焉を迎える。
■農業の罠
 狩猟・採取から農業に移行する事で、食料生産力は飛躍的上昇する。その生産効率は、森林での採取や漁業の16~17倍ほど言われる。これにより、より多くの人口を養えるようになった。
 だが、この生産力増大には罠があった。



■労働時間の延長
 狩猟採取では、それを行うのに適した時期・天候というものが存在し、それが適さない時期は、必然的にヒマになる。つまり、労働者の余暇時間が多く取れ、必然的にストレスが溜まりにくいライフスタイルとなる。

 ところが農業だと、そうはいかない。どんな天候だろうと関係なく、継続的に畑を管理せねばならない。さらに作物の種類を増やすと、別々の手間をかける必要がある。
 農業のもう一つの問題は、飢餓を恐れるあまり、過剰生産に陥る事である。既に社会全体が食うのに十分な収穫量を確保したにも関わらず、「貯蔵」と称して無駄な労働時間を延長してしまう。
 結果、余剰収穫分は地代や税金として吸い上げられたり、地主や仲買人に安く買い叩かれ、商品市場に流れてしまう。こうして、「生産活動に従事しなくても生きていける人々」が出現する。つまり農民たちは、他人の分まで作るために、余計に働かなければならなくなってしまったのである。

 これは「国を守るため」「統治者が統治に専念するため」という、もっともらしい後付けの口実により社会システムとして正当化され、農民たちの労働環境は悪化の一途を辿った。さらに、戦争によって生じた敗北側の捕虜が農奴として扱われ、このシステムを強化してしまう。

 こうして、必要もないのに他人の一生を踏みにじり、一部特権階級が暴利を貪る奴隷制度ができあがってしまったのである。
■余計な生産を行わない知恵
 上記の状態を回避するため、未開地の部族社会を営む者たちは、必要な量の収穫を得ると、あとは労働をやめて別の事に時間を費やすという行動に走った。

 原始共産制の小規模農業社会では、コミュニティ全員のニーズを充足させることが最優先目標である。そのため、社会の基本的なニーズが保証されてしまうと、それ以上はムダなモノを作ろうとはせず、余った自由時間は、おしゃべり、祭り、旅行、スポーツ、芸術活動などに向けられたのである。
 社会的ニーズとは、主に以下のように分類される。
【生存のニーズ】 衣食住や食など。生存に必要な物資への欲求。
【保護のニーズ】 医療や防災、軍事など。生存のニーズを守りたい欲求。
【愛情のニーズ】 家族、恋愛や結婚など。愛し、愛されたい欲求。
【理解のニーズ】 教育、宗教など。他人や世界を理論的に理解したい欲求。
【参加のニーズ】 祭事や組織活動全般。組織に所属して貢献したい欲求。
【閑暇のニーズ】 余暇時間。遊びなど「無駄」に時間を費やしたい欲求。
【創造のニーズ】 創作活動。効率を無視した創造的な活動の欲求。
【自己同一性のニーズ】 自己研鑽。自身のオリジナルな価値を高めたい欲求。
【自由のニーズ】 意志決定。自分のやりたい方法で目的を達成したい欲求。


 このニーズの内容は、文明社会でも未開社会でも同じである。文明レベルや資産に応じて、見た目ややり方が変わるに過ぎない。
 つまり、原始的な村社会においても、きちんと「計画経済」が行われていたのである。近代的な資本主義社会だけが、数字を操って厳密に管理しているわけではないのだ。


 ただし、社会システムが全体のニーズを満たす部分だけで終わってしまうと、一生懸命働く生産者だけがバカを見て、怠け者が得をするようになってしまう。そこで、フリーライダー(不労所得者)の出現を回避する仕掛けが必要である。
■相互扶助、清貧の正義化
 大量の財産を持つ事が尊敬される文明社会とは異なり、未開社会では全く逆の価値観が存在した。つまり、気前よく何もかも自分が持っているものを他人に与えてしまい、質素になるほど、偉大な人物だとして社会的名声を得た。寛大さ、気前のよさ、親切なもてなしがこそが最高の美徳とされ、ケチや出し惜しみ、貪欲さは最低の悪徳とされた。
 かくて蓄財は欠乏している者の元へと流れ、共同体全員のニーズが満たされたところで、流通を一旦停止させたのである。


 例えば、ポリネシアのタヒチ島の古代農耕民は、誰もが友好的で気前が良く、貧乏でも誰にも見くびられず、貪欲は最大の恥とされていた。度し難い貪欲さを見せたり、皆が必要な時に自分の持つものを手放すのを拒んだりすると、たちまち近所の人々から財産を全て破壊され、一番貧しい境遇に落とされてしまった。

 例えば、インドネシアの古パニアイ族においては、私的貯蓄を行なった者が問答無用で処刑された。「お前だけが金持ちであってはならない。皆が同じであるべきだ。だから貴様も平等に戻るために、全てを差し出すのだ―――」という理由によってである。
 また、この価値観を裏打ちするために神話が使われた。例えば、「贈り物には霊が憑りついており、お返しをしないと手元に霊が溜まり、病気や災害に見舞われる」といった迷信の類である。これらは部族宗教の教義に組み込まれ、霊媒師や巫女によって広められ、人々はそれを信じ、「神」による報復を恐れたのだ。


 つまり未開文明において、短期的にはフリーライダーが得をするが、早く贈り物のお返しをしないと厄災で死んでしまう可能性が増大し(そう思わされ)、社会的地位が下がって「贈与者」に隷属させられ、発言力を失う(自由のニーズが満たせなくなる)一方だったのである。

 これらの風習は、現代の文明社会からすると奇異に見えるが、古代社会で施行されていたヒンズー法、ローマ法、ゲルマン法などにも、贈与原理が「黄金律」として存在していたことが明らかになっている。つまりお礼制度は、古代人にとっては「常識」だった。

 資本主義社会になって以降、家族や恋人以外で働かなくなって久しいが…
■縦割り組織の疾患
 エルファの〈円環〉を理解する上で、もう一つ考慮せねばならない事がある。それは、エルファたちが職能集団である事に起因する。こういった縦割り組織タイプの社会には、陥りやすい病気がある。
『調査が難航して気が滅入っていた時に、
 何度も同行を断った彼が現れ、
 思わず酷い言葉を叩きつけてしまった。

 でも彼は、私が怒る理由が分からない様子。
 彼のそういう処に苛立ちを覚える…』


『彼が、暗殺者の凶刃から私を護ってくれた。
 私は散々、彼を邪険にしてきたのに……

 明日、今までの事を謝ろうと思う。
 そして彼と、少し話をしてみようと思う。』


『彼と少し話ができるようになった。
 私は「なぜ普段は無口なのか」を尋ねると、
 彼は言いにくそうにしていたが答えてくれた。

 何かと注目される彼は、常に模範足れと意識し、
 やがて感情を表に出せなくなったのだという。
 彼は才能に恵まれ、苦悩とは無縁だと思い込んでいた。
 でも、そうではなかったのだ。

 もっと彼と話をして、その想いを聞きたい。
 そして、私の悩みも彼に打ち明けられたら…』
(ハイリア・フォレストのフェルトレの姫弟子の私的記録より)
 職業ジャンルごとに専門家を育成し、互いに不得意なジャンルを補い合う「縦割り組織」は、一見すると時代に取り残されない最良の手法に見える。しかし、それら専門家同士の連携の段階において、セクショナリズムの問題が生じやすいという欠点がある。セクショナリズムとはすなわち「自分の部門に引き籠り、他部門のメンバーを排斥する性格」「縄張り至上主義」に陥る事である。

 事業の失敗に対し、「自分たちは可能な範囲でベストを尽くした。にもかかわらず社会全体がうまくいかないのは、俺たち以外の部門の連中のせい!」という責任転嫁論がまかり通り、そうした視野の狭いメンバーが各部門で幅を利かせ、同じ組織・社会に属しているにも関わらず、他の味方を排斥し始める…これが
組織のセクショナリズム化である。

 こうなった組織は、組織全体の生産力がダウンし、クライアントの要求にも満足に答えられなくなり、ついには社会的な信頼も失って取引相手がいなくなり、廃業するのである。


 こうした現象は、自分が担当していない仕事への理解不足、それらの担当者との円滑なコミュニケーションの不足が原因である。自分の所属以外の部門に口出しすることを「何も知らない門外漢による机上の空論」と決めつけ、「余所者は口出しお断り!」の習慣を作る事が各セクションの孤立化を招き、セクショナリズムを増長させるのだ。
■〈円環〉の概要
 以上を踏まえた上で、エルファたちが営む〈円環〉が具体的にどういったものなのかを想定してみよう。


【種族の性向】
 エルファは種族的に
「義務感/自然」という非常に大きな不利な特徴を持っているため、人間やドワーフのように土地を開墾して、自分たちの生活スタイルに合った農業や建築を行うことはせず、あくまで「あるがままの自然の一部」となって暮らすことを理想とする。
 そのためテクノロジーに関しては、物質の加工の機会が少なさから、発達の度合いが遅れている。

 しかし、その大きな縛りプレイの代償として、「動物共感」や「獣化耐性」、マナとの親和性(魔法の素質)といった恩恵を受けており、人間やドワーフに比べ、生物の生態系への理解やマナへの親和性が高くなっている。彼らエルファは人間社会における一般人クラスであっても、初歩的な呪文を最低限習得しているため、魔法に関する文明は進んでいる。

 以上が、エルファ社会における大前提である。この前提条件を達成するための社会制度を考案してみよう。
◆文明の種類◆
 エルファたちは、文明の概念を魔法で補っていると想定できる。そのため、ガープスにおける「文明レベル」の内容は、すべて魔法によって達成しているものとみなされる。具体的には以下。

文明(魔法/自然調和) レベル3
 概要:遺伝的長寿種族社会。職能制度、自然破壊なしの産業化農業
 移動手段:自身の動物変身、乗馬
 エネルギー:《発電》が魔化された常動型アイテム
 武器:氏族武器、魔法のチェインメイル、森林の要塞化
 医療:儀式魔法による高レベル治癒呪文、死亡状態からの蘇生

 なおプレート・アーマーは、森の中の生活ではデメリットの方が多いので使用されていない。エルファ最強の鎧は、鎧系魔化が施されたチェイン・メイルとスケール・アーマーとなる。だたしプレート・アーマーの製造自体は、現在のエルファの鍛冶でも可能であり、修理も行える。


◆経済◆
 〈円環〉社会は、見た目は狩猟採取社会に見えるが、実際は初期の小規模農業社会に属する。貨幣による経済流通は行われておらず、全てが物々交換で成立している計画経済である。データ的には、必要な財産は可能な限りアイテムの形で持つ事が好ましい。
 一方で、森の外との交流も皆無というわけではなく、そこでは人間やドワーフが流通に用いるムーナ貨幣を使用する。そのため、外務中心の特殊氏族であるPC(プレイヤーキャラクター)のエルファは、ある程度の貨幣を持っていて問題はない。

 ただし、CPの増減が発生するレベルの「財産レベル」の大幅な変更は、社会システムから想定すると好ましくない。なぜならばエルファ社会は「不足する資産は他のエルファから贈与され、過剰な自身の持ち物は足りない他者へと贈与されるのが普通だから」である。
 よってエルファのキャラクターは、可能な限り「財産/標準」(0cp)から変動させない事が好ましい。ただし「はぐれもの」に関しては、この原則に当てはまらない。


◆記録媒体◆
 エルファは寿命が長いため、情報記録媒体としてエルファそのものが使われる―――つまり「口伝」である。人間社会では、主にシャストア信者が行う補助的な業務だが、エルファ社会では、歌と踊りで伝承を伝えるナクセル氏族が担当し、記録を行う主要手段となっている。
 もう一つの主要な記録媒体として、身体に直接彫り込む「刺青」が存在する。カクトス氏族が担当し、主に所属氏族や個人の経歴(「良い名声」の特徴など)を身体に記すのである。

 その他、狩猟した動物の皮を用いた羊皮紙が使われているが、その多くは皮鎧の製造に消費されるため、羊皮紙の生産量はごく少ない。そのため、これらのほとんどはフェルトレ氏族が記録媒体として使う書籍に消費され、他のエルファが使うことはほとんどない。
 また最近では、人間の習慣にならって木の板に文字を刻む手法も導入されているが、彼らは「物を作るために、わざわざ大木を切り倒す」文化がないため、場所を示す看板や地図程度の目的でしか利用されていない。


◆婚姻の扱い◆
 エルファの結婚制度は一夫一妻制をとっているが、生まれてきた子供は〈円環〉全体で育てる。そのため、両親と子が隔離スペースで一緒に暮らすような習慣はない(両親の氏族が異なると、必然的に同じ生活スペースでは暮らせないため)。また、夫と妻はそれぞれが所属する氏族の生活スペースで別々に暮らしている。

 そのため、結婚後も人間の恋人同士のように「ヒマを見つけて逢引する」「たまに子作りをする」という、いわゆる通い婚に近い形態である。エルファたちには婚姻を強制するような習慣は存在せず、長い時間をかけて深い関係を築いた上で結婚に至るため、不仲になって離婚したり、伴侶を裏切って不倫行為に及ぶようなケースは、極めて稀なことである。




【生産基盤】
 基本的には狩猟採取で成立しているが、魔法によって収穫量強化された自然収穫物の採取がメインとなっており、これはある種の農業と言える。収穫が増える事は、そこに生きる野生動物の繁殖も促す。
 エルファたちは、魔法によって増えた余剰収穫物の採取と、繁殖過剰となった動物を狩猟する事によって、飢餓に耐性のある社会を成立させている。

 狩猟担当はプファイト氏族、採取担当はケルティカ氏族である。余剰収穫物は、住居を担当するモルトゲ氏族が作った簡易テントに貯蔵される。
◆飢餓への対策◆
 小規模農耕社会の〈円環〉において、農業を担当するのはセローハマ氏族である。

 彼らは人間の農夫とは大きく異なり、土地の開墾は行わず、天然植物の豊作を手助けし、採取の収穫量を底上げする形で余剰生産物を得ている。この余剰生産物は野生の草食動物の増加にも影響を及ぼすため、結果的に狩猟対象の動物を増やす事にもつながる。

 セローハマ氏族の実際の業務は、〈農業〉技能による植物育成に加え、植物系呪文《植物祝福》の呪文(魔法の効果で収穫が二倍になる!)を使用することであり、それによってこのような特殊な農業を成立させている。
 また、生態系のバランスがおかしくなった際は、

1)弱っている種を《植物治癒》の呪文で治し、《植物繁茂》で勢力を戻す。
2)《動物制御》の呪文でハキリネズミ(セローハマ氏族の祖霊動物)を大量流入させ、増えすぎた植物種を食べさせる。それによって増えたハキリネズミを狙って、ウサギなどの小動物も流入する。
3)増えすぎた小動物を、プファイト氏族のハンターが狩って食糧とする。
4)明らかに既存種に含まれない外来種の浸食や、増えすぎた結果、どうしても駆逐できないほど繁殖してしまった既存種に関しては、氏族レベル2以上の者から許可を得て《枯死》の呪文をかけ、直接的に対象の植物種を減らす。

…といった、呪文の使用を前提とした調整手順を行う事で、既存の生態系を維持し続けている。


◆余剰人口の扱い◆
 エルファたちは人間のように娯楽の副産物として子作りすることはせず、計画的に妊娠・出産を行い、子供1人1人を大切に育て上げる。また種族性向として、人間ほど生殖行為に対して貪欲ではないため、人口が増えにくい性質が最初から備わっている。

 1つの〈円環〉はおよそ1000人で構成されており、人口がそれ以上になると氏族を分割し、それぞれが別々の場所で暮らす事になる。各〈円環〉は、社会統治において互いに不干渉であり、それぞれが自治を行うことで距離をとり、〈円環〉ごとに所属するエルファの全体性向も微妙に異なる。
 そのため、ある〈円環〉で問題を起こしたり、性格的に他の仲間と合わなくて「はぐれエルファ」になってしまっても、自分に合った別の〈円環〉に再所属することで、人生のやり直しが可能となっている。

 またそれらとは別に、エルファはルナルを危機に陥れた「黒の月」の根絶を、教育の段階で叩きこまれており、それらとの妥協なき戦いを日々繰り広げている。そのため、平常時から戦いによって人口を損耗し続けており、それが結果的に人口削減策となっている。




【社会制度】
 職業ごとに氏族として分かれ、それぞれが自分たちの担当するジャンルでプロフェッショナルを目指す組織形態をとっている。そこに身分差は存在しない。一方、氏族内では能力に応じてランク分けが存在するが、それは実力に応じた責務の大きさを示すものである。

 また〈円環〉全体の会合の場において、「氏族レベル3」の〈導き手〉から「氏族レベル1」の見習いに至るまで、参加者全員がそれぞれ対等の発言権を持つ。ただし、〈円環〉全体の最終決断者としてフェルトレ氏族が存在し、〈円環〉全体の意思決定が必要な際は、フェルトレ1人の決断が全体の決断として扱われ、他のエルファもそれに従って行動する。

 なお、フェルトレ氏族に属するエルファは原則1人(+次期フェルトレとしての弟子1名)であり、人間社会における酋長に相当する。
◆国民皆兵制度◆
 森には、危険な野生の獣が多数徘徊しており、そこに住むエルファたちも「自然の掟(弱肉強食)に則った祖霊動物に近い生活」を徹底している。また、種族的に敵対している黒の月の種族との闘いは、基本的に避けられない。
 そんな事情から、各エルファは例外なく自衛のための最低限の戦闘力を保持しているのが普通である。非戦闘員扱いで守られるのは、未成年の間だけである。

 多くの一般氏族のエルファは「平和愛好/専守防衛」を持っており、無暗に戦いを行う事を好まない。しかしそれは「戦闘力が低い」事を示すものではない。
 上記のように、エルファたちは「自然の動物に近い暮らし」をしているため、普段から野生の肉食動物との緊張状態にあり、また一方でゲルーシャやその他黒の月との闘いに明け暮れ、人口を損耗し続けている。そのため、可能な限り「これ以上の外敵を作らない」事によって、消耗を避けようとしている意味においての「平和愛好」である。

 ゆえに、戦いに関して無能ではなく、むしろ戦闘の技量や意志に関しては、人間やドワーフの種族平均を上回っていると考えてよいだろう。


◆独裁者出現の防止策◆
 フェルトレは〈円環〉全体の最終決定権を持つが、その権限を行使することは稀である。フェルトレが行うのは、各情報系氏族(ナクセルやカアンルーバ)と、自身の独自情報網から得た全ての情報の公開と、それらの情報を元に各エルファたちが議論し、そこから出た意見に基づく意見調整であり、フェルトレ個人の独断を権力で強行するわけではない。

 なお、フェルトレとなるエルファは、育成中のまだ氏族が決定してないエルファの中から、特に優秀な子が1人選ばれ(実際には選ばれた子がフェルトレの〈しるし〉を得るよう、大人たちによってあれこれと誘導される)、現フェルトレの弟子として育てられる。
 現役のフェルトレが結婚して子をなしている場合、次期フェルトレの弟子として自身の子を選ぶ事は基本的に避けられる(血統による独占回避のため)。


◆セクショナリズム対策◆
 エルファたちは教育の過程で〈円環〉の構造を教え、同族同士で助け合うことで成立している事を知り、社会全体への義務感を持つ。また結婚に際しては、別氏族との異性との婚姻が推奨されている(同じ氏族のエルファは「兄弟姉妹」とみなされるため、それらが結婚することは、人間社会における近親婚に近い感覚で受け取られる)。

 エルファたちが毎週行う社会行事として、歌と踊りで伝承を伝えるナクセル氏族主催の交流会が存在し、別氏族のエルファ同士が疎遠になる事を回避しようと努力している。
 また、種族の大多数を占める氏族レベル1のエルファたちは、日常の労働時間が1日平均2時間ほどであり、残り時間は完全に自由時間である。この余暇時間を使って、自身の実力を鍛えたり、他の氏族のエルファとの交流を深め、それを男女の愛に発展させる事で「セクショナリズム対策」と「種族の繁栄」を図っている。
■リアド大陸のエルファの集落
 リアド大陸には、エルファの集落が無数に存在するが、その中でも特に大きな集落が3か所存在し、事実上のエルファの自治領となっている。

【サイスの森】
 トルアドネス帝国の南側、大草原が広がるゼクス共和国に隣接し、リアド大陸で最も広範囲に森林で覆われている地域。
 リプレイや小説に登場したレスティリ氏族のラナーク・ブラストウインドの故郷でもある。

 この地域は、複雑で広大な河川が森の間を縫って流れており、地形的に他の種族(特に人間)が開拓するには全く向いていなかったため、結果的にエルファの繁栄地として現在に至るまで残り続けている。

 この森に存在する〈円環〉の数は、数百を超すと言われており、少なくとも50万人以上のエルファが居住している。
 これほど多数の〈円環〉が同一地域に存在する例は、少なくともリアド大陸では他に存在しない。そのせいか、さしものエルファたちも「他との折り合いが悪い」〈円環〉同士の組み合わせが存在する。
 
深刻な武力闘争こそ行われないものの、「どこそこの樹の根の数センチまでが我々の領域だ!」といったくだらない縄張り争いや、似た〈円環〉同士で同盟を組んで別の同盟を露骨にライバル視するといった、人間社会でも見られる不毛な派閥抗争が、この地域のエルファの間では見られる。

 無論、そうしたトラブルを黒の月の種族が見逃すはずがない。〈悪魔〉や堕ちたエルファであるゲルーシャなどが傷を広げにかかるような事件を起こすのは、この森では日常茶飯事なのである。


【ラジスの森】
 リアド大陸では二番目に大きいエルファの居住地。人数はともかく、集落の面積規模はトリースとほぼ同等であり、事実上のエルファの自治領として存在する。〈円環〉の数も100を超えており、全てのプファイト氏族の戦士を集めれば、1国の軍事力となり得る。

 ラジスの森は、人間が植林した森と隣接しており、エルファや人間の木こりが見れば、明確な「境界線」が存在する。基本的には、これらの領域は互いに不干渉だった。
 しかし近年、スティニアの反乱の際に人間とエルファの間に戦時同盟が成立する。これにより文化的交流も始まり、最終的にはトリース森王国が森林共和国へと制度的に移行するきっかけとなった。

 エルファの〈円環〉制度に似た社会機構を持つ共和制国家が、ついに人間の国家の中にも出現したのである。


【タイバの森】
 リアド大陸で3番目に大きいエルファの居住地。他の2つとは異なり、雪原のど真ん中にあり、1年のうち9か月は雪で覆われている針葉樹林の森である。
 そこに住むエルファは、他の地域の同族より体格が良く、肉付きのよい大柄な者が多数を占める。これは主に寒さ対策によるものである。また、じっとしていると体温を奪われて凍死してしまう環境のためか、即断・即決・即実行をモットーとする気が短くてプライドの高いエルファが多いようで、やや脳筋気味と言える。あと、寒冷地出身者の宿命というべきか、人間の基準からしてもかなりの酒量を誇る者が多いようだ。

 ルークス聖域王国政府とタイバの森の〈円環〉連合は、緩くではあるが対帝国同盟を結んでいる。また、酒飲みという共通点ゆえか、氷の山に住むドワーフとも仲は悪くないようだ。
[編集手記]
 エルファの〈円環〉について、ルールブックでは大雑把な形でしか描かれていないので、現実世界の例をいくつか拾って、自分なりに仮想構築してみました。一言で言えば「魔法によって生産力を増強・拡大した、一見すると狩猟採取民だけど実際は小規模農耕民族」です。

 エルファたちは、あまり人口を増やしません。弱者を見捨てるような事はせず、各個人のペースに合わせて辛抱強く成長を待ちます。また全体の傾向として、抜け駆けして慌てて前進しようとはしません。
 エルファが人間と根本的に異なるのは、おそらく「寿命の長さ」です。これに余裕があるエルファは、社会的には少数精鋭主義でありながら、成長を見守るだけの精神的余裕を持っています。基本的に脱落者と言える者は、人間と比べて少ないはずです。


 現実の人間社会における少数精鋭主義は、結果を急ぐあまり、早熟の人材ばかり優遇し、成長の遅い者は置いていくといった「弱者淘汰」の道を行きます。管理人の人生経験上、これに関してほぼ例外を見たことがないです。
 結果、大勢の「落ちこぼれ」という名の敵を作り、最終的には周囲が敵だらけになり…「多数決」という、実に民主主義的な法則により、組織は社会から追放されます(苦笑)。

 あるネトゲーをやっていて、ユーザの1人がこんな事を言ってました。「もはや俺たち1軍は、この世界で必要されてない」…と。
 そのゲーム内で、管理人が活動していたサーバーは、既に明確に1軍部隊と呼べる効率厨集団がいなくなっていて、古参ユーザたちは敢えて大きな群れを作らず、ワンサイド・ゲームになるのを防止していました。結果、そのサーバーは最後まで生き延びます。
 一方でワンサイドゲームによる初心者潰しを辞めなかった別のサーバーは、対戦相手となるユーザが一気にいなくなって、あっという間に他サーバーと統合されてしまいました。
 つまり、上の古参ユーザの発言は正しかった事が証明されたわけです。


 エルファの職能集団という組織形態は、現代日本社会ではおなじみですが、これも大きな弱点を抱えます。各部門ごとに孤立し、他の組織を排斥する行為、すなわちセクショナリズム化が発生する事です。これは主に、部署に所属する人間の視野が狭い者が主流を占めてしまう事で起こります。

 新人が全く居つかず、すぐ辞めていく会社というのは、明らかに会社の側に問題があるのですが、会社に居ついている者たちにはそれが分からない。辞めていく人間たちも、余計なヘイトを買いたくないがために、理由を言わずに去っていきます。
 実際のところ、自分たちの居心地の良い空間を追求した結果、戸口が狭くなりすぎているわけですが、改善を目指して戸口を広くすると、今度は今まで社の発展に貢献してきた古参社員たちの居心地が悪くなるのを許容せねばならなくなり、それがイヤで改革ができません。そうして組織や社会は、緩やかな滅亡の一途を辿ります。滅亡速度が緩やかなので、なかなか改革しようともしません―――夏休みの宿題を、最後の日まで取っておく心理と大差ないのかも(笑)。

 エルファの〈円環〉も、おそらく同様の病を患うと思うのですが、小説ではそこまでエルファを取り上げられた事がないので、おそらく各GMで「そういうのやりたいなら自分たちで決めてくれ」といったところなのでしょう。
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