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■第2節 火球魔術師
 古き時代のTRPG「D&D(ダンジョンズ&ドラゴンズ)」の頃から、魔術師が患いやすい病気があった。それは、レベルが上がって「ファイアボール」の呪文を習得した瞬間から、その強力な呪文ばかりに頼るようになり、なんでもかんでも破壊一辺倒な戦術を使うようになる病―――俗にいう(?)「ファイアーボール依存症」である。

 D&Dにおいて、ファイアーボールの呪文は中級魔術師になってから習得し、非常に長い射程(200m…弓矢の有効射程とほぼ同じ!)を持ちつつ、広範囲に渡って致命傷を与える事ができたため、便利すぎて戦術的に思考停止してしまい、なんでも火球一発で片づけようとする魔術師が後を絶たなかった。

 一方、ガープスでも、ファイアーボールに相当する呪文として《爆裂火球》の呪文が存在する。ただしガープスの環境におけるこの呪文は、射程が短く、さらに命中精度も悪く、コストが高い割にあまり効果が高くない事から、これを主体で戦術に組み込もうという魔術師を見かける事はほとんどない。
 しかし、だからこそここでは敢えて「《爆裂火球》を上手く扱う(ファイアボール依存症の)魔術師」というものを目指してみたい。
■状況
 以下のような状況において、「火球魔術師」を想定する。
●勝利条件
 PC側は
「敵の突撃兵を全滅させる(敵はHPゼロ以下で逃走)」、敵側は「城門を破壊して村の中に突入する」とする。

●防衛戦
 辺境の街にゴブリンの部族が攻めてきた状況を想定する。敵は城門を破って村に押し入り、略奪しようとしている。

 対するPCは、城門の破壊を阻止する防衛部隊に参加し、それを阻止する。

●攻城部隊と防衛部隊
 敵は、城門を破壊しようと突撃してくる攻城部隊と、防衛部隊を排除しようとする駆逐部隊の二種類がいる。以下にデータを記しておく。

 また、今回は味方の防衛部隊も参加するため、そのデータも以下に記しておく。
ブラック・コマンド(ホブゴブリン塹壕強襲兵)×6
体力:13 敏捷力:13 知力:8 生命力:12
移動力:6 能動防御:よけ6/受け8/止め-
受動防御/防護点:3(1)/5(3)
攻撃:
上質ハチェット/技能レベル16=切り2D(長さ1)
小型クラブ/技能レベル12=叩き2D(長さ1)
大型ナイフ/技能レベル13=切り1D+1(長さC,1)
格闘パンチ/技能レベル13=叩き1D-1(長さC,1)
特殊:暗視、鋭敏感覚1レベル、我慢強さ、戦闘即応、防護点1レベル

※詳細データは、改変ルール「ホブゴブリン」のサンプル・キャラクター「ホブゴブリンの剣客」(50cp)の所持技能のCP配分を変更しただけのものです。
 任務の性質上、メインウェポンは斧に変更され、突撃に備えてチェインメイルを着用しています。〈忍び〉技能を14レベルで習得しています。
シャドウ・レイダー(ゴブリン強行偵察兵)×2
体力:10 敏捷力:13 知力:12 生命力:10
移動力:6 能動防御:よけ6/受け5/止め-
受動防御/防護点:0/0
攻撃:
コンポジットボウ/技能レベル14=刺し1D+1(抜撃ち14 正確さ+3 射程200/250m)
呪文:火炎武器12、火矢15、矢よけ12
特殊:暗視、鋭敏感覚2レベル、魔法の素質2レベル

※詳細データは、改変ルール「ゴブリン」のサンプル・キャラクター「ゴブリン山岳猟兵」(25cp)に25cp追加したものです。
 知力と魔法の素質が+1され、技能CPに5cp分追加。火霊系と防御/警戒系呪文をいくつか習得しています。
ヴァイス・リッター(ソイル選王国従騎士)×6
体力:12 敏捷力:13 知力:10 生命力:10
移動力:3 能動防御:よけ3/受け6/止め-
受動防御/防護点:4/5
攻撃:
バスタードソード/技能レベル13=切り2D(長さ1-2)
スピア/技能レベル13=刺し1D+2(長さ1-2)
大型ナイフ/技能レベル13=切り1D(長さC,1)
クロスボウ/技能レベル13=刺し1D+3(抜撃ち12 正確さ4 射程240/300m)

※詳細データは、改変ルール「村人のNPC」のサンプル・キャラクター「騎士」(75cp)から25cp差し引いたもので、彼らはまだ正式な騎士になる前の「従騎士」扱いです。
 「財産」が「快適」にまで落とされ、それに連動して地位レベルが1に下がっています。また、技能から5cp差し引かれ、〈戦略〉-2、〈盾〉技能削除となっています。
■対策
 以上の「状況」から、対策を考案する。
1.高台に上れ
 《爆裂火球》の呪文は、近代兵器に置き換えると「手で投擲する手榴弾」に相当する。

 爆裂火球は射程が25メートルと非常に短いため、遠距離狙撃には使えない。しかし、敵との距離がたかだか20メートル前後だと、敵は2~3ターン全力疾走すればこちらに近接できるため、使う機会を逸してしまうだろう。
 つまり、隣接される可能性がある、敵と地続きの平面にいる状況で使う魔法ではない。櫓(やぐら)などの高台があれば、あらかじめその上に乗っかって射撃に徹する事が可能な状況がベストだ。

 不幸にも地続きの平面で遭遇戦闘になってしまった場合は、とりあえず《浮遊》の呪文で上空4メートル以上浮いてしまうとよい。ただしその場合、飛行状態での射撃という、非常に困難な作業が待っているので、最初から浮遊して撃つという戦術は、あまり勧められたものではない(よほど精度が高くないと、まともに運用できない)。


2.待ち伏せの有効性
 《爆裂火球》の呪文は場所を狙って撃つ呪文であるため、「相手が通るルートを想定し、あらかじめ呪文を用意しておき、想定ルートの地面に「狙い」をつけておく」のが、理想的な運用法と言えるだろう。

 つまり、「通るルート」がほぼ1つしかない状況を選べばよい。すなわち「待ち伏せ」などの防衛戦である。中世の戦闘の場合、特に「攻城戦で敵が城壁の登攀や、城門の破壊のために群がる状況」が、それに相当するだろう。


3.狙撃対象から外れる努力
 相手が射撃呪文を準備していれば、当然ながら敵の射手は優先的にこちらを狙ってくるだろう。特に爆裂火球のような呪文は、集中して手のひらに炎を発生させている段階から目立つため、優先的に狙われるだろう。
 そのため、射撃を反らす手段が必要である。ウィザードであれば、とりあえず《矢よけ》の呪文で回避してしまうと良いだろう。あるいは、呪文そのものを知られない手法として、《透明化》で術者ごと消えてしまう手がある(術者の手に持っている射撃呪文も同時に消える)。


4.対空手段としては不向き
 《爆裂火球》は場所を狙って爆発に巻き込むタイプの攻撃手段なので、相手が飛行していたりすると、そもそも爆発させる「場所」が相手の体しかなくなるため、爆発させる意味がなくなってしまい、単なるコスト効率の悪い射撃呪文となってしまう。
 そのため、あくまで敵が地面にいる場合に使う呪文と考えたほうが良い。


6.敵の《矢よけ》対策
 《爆裂火球》は場所を狙って撃つ呪文であるため、相手が《矢よけ》の呪文の影響下にあっても足元にそれを叩きつけることで、それを無視できるというメリットがある。
 もっとも、改変ルールのルナル世界では《矢よけ》を使える者がごく一部の信仰に限られているため、敢えてこの呪文で射撃せねばならない相手は、ごく限られているが…
■サンプル・キャラクター
 以上の理論により、作成されたキャラクターが以下である。
【基本設定】
 リアド大陸の中央、トルアドネス帝国の属領の一つ「ブラン=トルア」に本拠地を置く魔術師団〈第二の夜明け〉出身の女性魔術師です。大陸統一の野心に燃える帝国において、俗世から離れた魔術師団の中で育ったためか、深窓令嬢のごとく無垢に育ちました。
 ウィザードとしての魔術名「ヴィエル」は、グラダス半島で双月歴以前に使われていた古い弦楽器の名称で、彼女の師匠クラリスクレイスが、歴史の知識から引っ張ってきて付けたようです。

 そんな彼女は、これから帝国軍が介入、あわよくば制圧予定のグラダス半島に興味を持ち、冒険者として好奇心の赴くまま、そこへ旅立ちました。
 辿りついた先は、グラダス北部のソイル選王国。いまだ古い封建制度を敷く騎士の国で、ハリエット=リーン=レイナ・クエントという名の若き女領主が納める土地で、冒険者として活動しています。クエント家は、六王家の一つ「ハルシュタット」家に仕える騎士の家系であり、鉱山都市シュタイエールマルクを本拠地としています。辺境とは言え、ドワーフたちの鉱山から上がる収入で羽振りが良い土地なのですが、富を狙った小競り合いが頻発する地域でもあり、戦いが得意な冒険者の需要が多く、仕事には困りません。

 傭兵じみた仕事をするのに、無垢で美しい女性冒険者という特異な存在が目立たないわけがなく、やがて彼女は領主ハリエットの目に留まり、親交を持つ事になるのですが…
 なおキャラクターの元ネタは、オンラインゲーム「PSO2」に登場するヒロイン「マトイ」です。


【設計思想】
 《爆裂火球》の運用に特化した設計です。
 呪文のエネルギー確保のため、内蔵型パワーストーン2点(全て引き出せば4点供給)が取り付けられた魔法の錫杖を4本も持ち歩いており、大量のエネルギーを保有しています。基本的には錫杖から優先してコスト支払いに充てます。
 〈呪文射撃/火球〉のレベルが低いですが、これは戦闘が開始されてからターン冒頭に《すばやさ》の呪文で上昇させる事が前提になっているためで、このレベルのまま射撃を行う事はありません。

 まず戦闘前に《浮遊》を維持しておきます。これは機動性確保のためなので、必ず事前に維持しておいて下さい。熟練により、維持コストはゼロです。
 戦闘が始まったら、最初に瞬間発動が可能な《すばやさ》の呪文を、パワーレベル3で自身にかけます(消費4点)。コストの支払いは錫杖1本分を充てます。これにより敏捷力が+3され、呪文射撃技能が18レベルに達します(《浮遊》による飛行中でも射撃ペナルティがなくなります)。
 次に(必要であれば))《矢よけ》の呪文を自分にかけます。これも支払うコストが4点なので、錫杖1本のマナを空にしてかけます。
 それらの準備が整った後は、ひたすら《爆裂火球》を最大パワーレベル3になるまで集中し、上から投擲するのを繰り返します。呪文の熟練により、支払うコストがちょうど4点で収まっているので、錫杖1本をコストに充てます。至近距離でなければ、「狙い」を付けてから投擲してください。なお、爆裂火球はベーシックのルールにある「爆発物」と同じ扱いなので、外れてもどのへクスに外れたかを判定せねばなりません。

 彼女の呪文の使用は「コスト4点」に調整されているので、錫杖の本数がそのまま「本日の呪文使用回数」になります。一度使用すると、充電に2日かかるため、節約したほうがよいでしょう。一応、緊急事態の場合は、自腹でコスト4点まで支払えます(残り体力4)。また、生命力をコストに充てる事も可能です(これも4点がせいぜいでしょう)。これだけ使って決着がつかないのであれば、素直に戦線から離れた方が良いでしょう。

 なお、《爆裂火球》を使わない場合、代わりに錫杖のエネルギーを《すばやさ》や《矢よけ》の呪文に回し、味方の戦士の援護に専念するといった戦い方も可能です。探索能力に関しては、使い魔の白猫(名前はクラリッサ)にほとんど頼っています。
■実戦
 その夜―――

 ソイル選王国の辺境に位置する鉱山都市シュタイエールマルクにて、小規模な蛮族襲撃事件が発生した。敵は、周囲の山々に潜む黒の月の種族からなる軍団で、どうもゴブリン・ソーサラーが指揮しているらしい。

 シュタイエールマルクの若き領主ハリエットは、選王家の一つハルシュタット家の会合に呼ばれており、現在は不在である。代わりに代官の騎士長ヴァルナが防衛部隊を率い、この町の防衛にあたっているが、何分、人数が少ない。

 そこで、臨時の傭兵として冒険者が幾人か雇われた。ヴァルナが戦い専門の荒くれ傭兵ではなく、単価の高い冒険者をわざわざ戦力として雇った事は、防衛部隊の戦力の質の不安を示すものであっただろう。敵は魔術師であるゴブリン・ソーサラーが率いているため、魔法の知識を持つ特殊な人材が必要だと判断されたのだ。

 そしてその中には、戦闘魔術師であるマトイの姿もあった。
マトイ
『………この人数で……
 守り切れるのかな……?』

隣にいた白騎士
『…近接戦闘は、
 我々騎士に任せてくれればよい。

 君たち冒険者は、
 火力支援に徹してくれ。』

マトイ
『あ……
 は、はい……(照)』




 …独り言のつもりが、つい口に出ていたらしい。
 同じ矢倉にいた従騎士が、マトイの不安を取り除こうと声をかけてくれた。


 マトイが気にしているのは、ここにいる防衛部隊の大半が若い従騎士たちであり、正規の騎士ではない事だ。

 従騎士たちはいずれ正騎士に任命されるので、腕前という点では問題視していない。だが従騎士というのは財力が足りないため、その身分に留まっている者たちの総称でもある。
 職業「騎士」の戦闘力は「財産」レベルの大きさに依存しているため、財力の低い従騎士の強さもまた、それ相応の低いレベルに留まる。財力不足により軍馬が維持できず、騎兵として戦えないのも不安要素の一つだが、鎧がプレート・アーマーではなく、1ランク下のスケール・アーマーという点が、最も不安なのである。
指揮官
『敵が距離20まで詰めて来たら、
 直ちに迎撃を開始する。
 私が号令をかけるまで、絶対に撃つなよ!


 ―――諸君らの善戦を期待する!』




 防衛指揮官から檄が飛んだ。
 夜間で視界が悪かったが、敵の存在は距離100メートルの時点で目視できた。しかし、夜の暗さと、この時代の武器の精度、さらに騎士たちのクロスボウの練度からして、撃ってもまず当たらない。指揮官は十分に敵を引き寄せ、交戦に入って敵を殲滅する事で、後顧の憂いを絶つつもりなのだ。


 相手からのリアクションがないのでいい気になったのか、実質的な交戦距離まで敵が接近してくる。
 ―――敵は歩みを止めない。
 やる気満々のようだ。



指揮官
『―――構え!弓!』
 騎士たちは武器を構え、戦闘態勢に入る。矢倉にいる騎士たちは、クロスボウに太矢を装填する。それに倣い、マトイは呪文の詠唱に入った。
 ウィザードの戦闘魔術師マトイ(100cp)&ソイル選王国の従騎士6名(50cp)と、蛮族のホブゴブリン塹壕強襲兵6名(50cp)&ゴブリン強行偵察兵2名(50cp)が戦闘を開始します。

 両翼では、街の一般兵士と雑魚オークの戦いが展開されていますが、中央には直接関係しないので省略します。

 鉱山都市シュタイエールマルクの街の壁は高さ8メートルあり、矢倉にいる者も同じ高度にいるとして扱われます。
 矢倉にいる者は体半分が遮蔽されるため、それらに射撃する側は距離修正に加え、-3の射撃修正が課されます。

 中央の城門は、木造の板を鉄柱で補強したものです。防護点4、HP80の構造物として扱われます。
 攻撃側は城門を打ち破り、騎士たちを倒して進路を確保し、「移動」で一番下のへクスまで行った状態でターン終了すると「突破」した事になり、1名でも突破すれば戦術的勝利となります。
 一方の防衛側は、突破を試みるホブゴブリン6名全員を殲滅する事で、戦術的勝利となります。
●第1~2ターン
 精鋭部隊であるホブゴブリン塹壕強襲兵たちが、全力移動で接近を開始します。
 彼らが先陣を切って城門を突破する事で、後続のオークたちが一気に雪崩れ込む計画になっています。

 一方、支援射撃を行うゴブリン強行偵察兵たちは、《矢よけ》の呪文に集中します。自分たちは呪文の力で敵の射撃を回避しつつ、一方的に攻撃しようという算段です。



 これに対し、矢倉にいる白騎士3名は、ゴブリンの一人にクロスボウで「狙い」を付けました。接近してくるホブゴブリンに対しては、《爆裂火球》が使えるマトイに任せる方針です。

 そしてマトイは、熟練により集中なしで発動可能な《すばやさ》の呪文をターン冒頭にかけ、敏捷力が16まで上昇します。さらに自分のターンの行動として、《矢よけ》に集中。ゴブリンの射撃でやられないための処置です。
 ホブゴブリン、さらに接近。

 ゴブリンたちは《矢よけ》を発動させ、さらに《火矢》の呪文に集中。コンポジットボウを装備しているとはいえ、一撃で騎士を倒すのは難しいと判断し、火力の底上げを行う様子。



指揮官
『撃てぇーっ!!』




 そこで、矢倉の白騎士たちの一斉射撃!
 ゴブリンの一人を狙ったのですが、1発命中したのみで、残り2人ははずれ。

 ただし、命中したはずの一発が《矢よけ》の呪文に弾かれ、あらぬ方向へと偏向させられました。
 それを見たマトイは警告を発します。
マトイ
『―――ゴブリンは、
 魔法で矢が当たらなくなってる!
 私と同じ敵を狙って!』


白騎士
『承知!』 『イエッサー!』 『了解した』




 《矢よけ》を発動したマトイは、本命の《爆裂火球》の集中を始める。
●第3~4ターン
 ホブゴブリンが城門前まで到達。

 ゴブリンたちは、相変わらず《火矢》に集中。
 この呪文は準備に3秒かかるため、戦闘中に唱えるには不向きな呪文です。かといって、維持コストが2点なので、常時維持しようとするとレベル20まで上げねばならず、そこまでしてありがたい呪文かというと、微妙なところです。



 矢倉の白騎士たちは、クロスボウの弦張り作業に入りました。

 マトイは《爆裂火球》の発動に成功し、さらに火球を大きくするために「集中」を継続。
 ホブゴブリンたちが、城門破壊に取り掛かります。

 ベーシックの構造物破壊のルールによると、「適正武器で攻撃を行った場合、かなりの効果があります」とあるのですが、具体的なダメージ補正は全く書かれてません。
 困ったGMは第4版のルールも漁ってみるも、第4版の構造物破壊は第3版とは大きく異なっており、参考にはなりませんでした(「キャンペーン」p137~138)。
 なのでここでは、あくまで第3版のルールに従った上で、「適した武器で攻撃した場合は無条件で致傷力が+2される」ことにしました。

 ホブゴブリンたちは素で技能が16レベルあり、全力2回攻撃しても、まず外すことはありません。前衛3名がガシガシと適正武器ハチェットで全力二回攻撃を繰り出し、城門HPはあっという間に57点まで減少。
 城門の裏では、バスタードソードを構えた白騎士たちが、緊張しながら待ち構えています。その頃、マトイの爆裂火球が、ようやく最大パワーレベルまで溜まりました。
●第5~6ターン
 ホブゴブリンたちは城門破壊を継続。わずか2秒で城門のHPが半減(残り40)。

 一方、ようやく《火矢》の呪文の詠唱を終えたゴブリンたちは、弓矢の装填を始めました。



 矢倉の白騎士たちが、クロスボウの再装填をする中、最大パワーレベルまで貯めた爆裂火球の「狙い」を定めるマトイ。そして、続く第6ターンに発射!
マトイ
『―――
よ!

 彼の意を撃ち抜け!!』
 狙い違わず、後衛の真ん中にいたホブゴブリンの居場所に命中!

 全員「よけ」に失敗し、直撃を受けた強襲兵は9点、その周辺に5点、さらに外側にいた者に1点のダメージを与えます。直撃を受けた者は、ダメージにより転倒しました。
 あと、「とばっちり」を受けた城門にも4点ダメージ。これにより、城門は残りHP15点になりました。

 まだエネルギー満タンの魔法の錫杖が一本残っているマトイは、続けて《爆裂火球》の集中を再開。
●第7~8ターン
 ホブゴブリンは城門への攻撃を続け、ついに破壊しました。次のターンに、歩調を合わせて一斉に雪崩れ込む予定です。

 その間に、ゴブリンたちは弓矢の照準をマトイに合わせます。先ほどの爆裂火球の威力を見て、優先的に排除すべきだと判断したためです。
 また、爆裂火球は「場所」を狙う射撃呪文であるため、《矢よけ》では回避できないという点でも、この呪文に頼ってるゴブリンたちにとっては脅威となり得ます。



 その頃、矢倉の白騎士たちはクロスボウの照準を、後列でこけているホブゴブリンに合わせます。

 マトイは、2発目の《爆裂火球》を発動。このターン、さらに大きくするために「集中」を継続します。
指揮官
『―――何としても、城門を死守せよっ!!』

白騎士
『うおぉぉぉっ』
『勝利か!ガヤンの御許か、だ!』
 突撃を開始したホブゴブリンでしたが、予想外の反撃に見舞われます。突入した者が次々と「待機」行動をとっていた白騎士たちにカウンター攻撃を受け、一人が致命傷を負い、もう一人も手傷を負います。
 騎士たちは両手持ちのバスタードソード(長さ2)を装備していたため、長さ1しかない片手のハチェット持ちのホブゴブリンたちは、自動的に先手を取られて切り伏せられてしまったのです。

 なお、ゴブリンたちのマトイへの射撃は、矢倉の遮蔽物により目標値が6や7と低かったため、失敗してしまいます。



 続いて騎士たちのターン、追い打ちをかけるように手傷を負ったホブゴブリンに集中攻撃が行われ、これによりホブゴブリンの前衛が半壊状態に。
 その背後では、爆裂火球で転倒した後衛のホブゴブリン一人にクロスボウの矢が放たれ、とどめを刺しました。
 この時点で、ホブゴブリン3名が戦線を離脱します。
●第9~10ターン
 残ったホブゴブリンが足並みを揃え、果敢にも白騎士へと攻撃を仕掛けます。サイドの白騎士に、わずかに1ダメージを負わせます。
 その頃、ゴブリンたちは矢を矢筒から取り出していました。



 矢倉の騎士がクロスボウの弦を引いている間に、城門の騎士たちがホブゴブリンを迎撃。不幸な事に、中央の騎士の攻撃がファンブルし、剣は彼の背後へ飛んでいきました。

 そしてマトイは、最大パワーレベルに達した爆裂火球の「狙い」を付けます。
 続く第10ターン。
 ホブゴブリンたちは諦めず攻撃を仕掛け、これによ何人かのり騎士たちが負傷し始めます。しかし、戦線を突破するには至りません。



 そして、騎士団のターン…
マトイ
『わたしがみんなを守るんだ―――!』
『てーいっ!!』
ホブゴブリン
ぐわあぁぁっ!?

『くっ…くそっ またかぁぁぁ!?』



白騎士
あちっ!
 こ…こっちまでっ(汗)』

『ははは……
 見た目によらず「じゃじゃ馬」姫のようだな!
 あの魔術師の小娘!』
マトイ
『ごっ……

 ごめんなさぁーいっ!!(涙)』



 ホブゴブリンの後方へクスで爆裂火球が炸裂!
 しかもクリティカル命中で、効果表判定は「防護点無視」という結果に(笑)

 範囲内にいた者は能動防御すらできず、問答無用でダメージを与えられました。爆破地点から1へクス離れていたホブゴブリン3名は、鎧を無視して6点負傷。さらにその外周にいた味方の騎士全員にも2点のダメージが及びました。

 騎士の一人が、爆炎で手傷を負ったホブゴブリン1体に追撃し、気絶まで追い込みました。武器を落とした騎士は、予備武器のスピアを両手で構えます。
●第11~12ターン
 第11ターン目。
 ホブゴブリンは、一番被害が少なかった隅っこの騎士に攻撃を集中し、クリティカルヒット!防護点無視で9点のダメージを与え、既に味方の爆裂火球でわずかに負傷していたのが仇となり、あっさりと気絶してしまいます。



 さて、これはピンチの局面です。次のターン、ホブゴブリンたちが「移動」を選択してマップの端っこに到達すれば、そのターンの終了時に「突破」となり、敗北条件を満たしてしまいます。それはなんとしてでも避けねばならない。

 なので騎士たちは、防御を省みずに全力攻撃で特攻します。
 一人は1回目の攻撃を受けられましたが、二回目の攻撃を見事命中させ、チェインメイルを貫通して7点ダメージ。これまでの蓄積ダメージにより、ホブゴブリンの片方は倒れます。
 しかし、もう一人への二回攻撃は、攻撃の片方を外してしまい、当たった攻撃も回避されてしまいました。

 既に3発目の《爆裂火球》に集中していたマトイですが、このターンは「集中」して拡大しても、まだパワーレベル2(直撃で2Dダメージ)です。ホブゴブリンの防護点が、チェインメイル+毛皮で5点ある以上、2Dダメージで一撃で始末するのは困難でしょう。

 非常にまずい状況……
 案の定、第12ターン目でホブゴブリンは任務を優先し、「移動」でマップの端っこに移動。このままターン終了させるわけにはいきません!
マトイ
『―――行かせないっ!!』



 ダメージ量が不十分なのは承知の上で、マトイが爆裂火球を発射!
 しかし、相手は奇跡的にも「よけ」に成功。
 爆心地より1へクス離れた扱いになり、ダメージはダイス1個分に。当然、防護点5の相手にダイス1個分のダメージでは貫通する可能性は極めて低く、マトイの緊急行動は無駄に終わりました。


 続いて、騎士の片方が後ろから全力攻撃で駆け寄り、バスタードソードで2回斬りつけます。ところがなんと、相手は「後退よけ」と「よけ」の両方を成功してしまいます。背後から攻撃されて-2の回避ペナルティもついているのですが…なんという執念。


 しかし、ホブゴブリンの執念もここまででした。
 ファンブルで武器を落としてしまい、予備の槍で戦っていたもう一人の騎士が、全力2回攻撃の1回目は外してしまうものの、二回目で命中。装甲を貫通して8点ダメージ。
 ホブゴブリンは転倒チェックも意識維持チェックも成功しましたが、HPがマイナス領域に入ったため、自動的に「撤退」扱いとなります(そういうルールなので)。
 ギリギリでしたが、塹壕強襲兵の突破を完全に阻止しました。



 防衛側の勝利です。



[編集手記]
 本当にギリギリでの勝利で、最後の騎士5の槍の攻撃の初撃が外れた時は「もうダメだぁ><」って感じで、半ば敗北を覚悟していました…危ねぇ(笑)



 爆裂火球は有効な魔法か?と言われると、「単独運用では微妙」としか言えません。少なくとも、マンチキン作成が目指すところの「サシの勝負での勝利」で使うような呪文ではないのは確かです。今回のように、戦術的にボトルネックになった場所で使うのがセオリーだと思います。
 この呪文、習得自体は結構簡単で、「魔法の素質」すら必要ありません。火霊系が習得できる信仰(改変ルールだと、PCとしてはウィザードかデルバイ神官)であれば、《火球》を習得すれば続けて習得できます。
 ただし、この呪文は何の前準備もなしでは使えません。「消費コストが高い」「射程が短い」の二点を何らかの手段でクリアしないと、実用レベルに達さないと思います。テストプレイでも分かるように、単発では集団相手であっても、さほど致命的な結果とはならないからです。しかも、至近距離で集団が迫ってる状況で、悠長に「集中」行動なんぞとってられません―――普通は。

 今回は、スペルキャスターがマトイ一人しかいませんでしたが、「複数の」爆炎魔術師が一斉に《爆裂火球》の呪文を放てば、十分に効果を発揮すると思います。ですから、魔術師の頻度がそれほど高くないルナル世界においても、《爆裂火球》を習得した戦闘魔術師が並んで一斉射撃という戦術は存在するでしょう。例えば、トルアドネス帝国のハン=トルアのドワーフ兵団の中に「《爆裂火球》を習得したデルバイ神官だけで構成された防衛専門の特殊部隊」みたいなのがいても、世界観的に問題ないと思われます。



 爆炎魔術師のスタイルにも、今回みたいな防衛専門の射撃特化スタイルだけでなく、別のスタイルもあると思います。

 例えば、閉鎖空間で戦うSWATチームみたいな兵士が、遮蔽を取って立てこもってる連中に対し、「突撃前に手榴弾を投げ込む」みたいな感覚で攻撃的に使う展開というのも考えられます。つまり、魔法戦士として最前線で運用する手法です。イメージとしては「重装甲の戦車」でしょうか。この場合は1~2発撃てれば十分でしょう。
 なお、この手法で運用する場合は、同じ火霊系呪文にある《防熱》の呪文を駆使したほうがよいでしょう。この呪文は15レベル以上なら延々と維持でき、自身の火炎呪文で負傷する事がなくなります。余裕があるなら、一緒に突撃する仲間にもかけておいた方が良いでしょう。

 もう一つ考えられるのは、ウィザードが《飛行》《透明》《矢よけ》などの呪文を事前にかけて、ステルス爆撃機として運用するスタイルです。攻城戦において、矢倉に籠ってる射手を矢倉ごと爆撃するなどといった戦術が考えられます。
 防衛側は、《透明看破》の呪文を習得した見張りを用意しないと対処できないでしょう…しかも相手は矢よけも使ってるので、クロスボウなどによる対空射撃では対抗できません。一緒に見張ってる兵士に《透明看破》や《飛行》の呪文をかけ、近接で対処して貰うしかありません(《飛行》の呪文習得者はレアなので、ミュルーンや翼人の傭兵に対処して貰うのが現実的)。あるいは風霊系呪文を習得した魔術師を各矢倉に配置し、敵を察知したら矢倉を中心に《風》の呪文をかけて、爆撃対象から外れるといった防衛方法も考えられます…いずれにしても対抗手段が特殊になるため、かなりの脅威と言えるでしょう。

 ただしルナル世界においては、ウィザードという単独で英雄の連中が、わざわざそんな危険な任務を引き受けるかというと、かなり微妙なところです(魔化師になればそういった危険を冒さず、「安全に」戦争に貢献できるので…)。そういう現場主義の変人ウィザードは、いてもせいぜい一人か二人といったところで、世界観的に集団運用は難しいと思われます。そして集団運用でなければ、ウィザードのステルス爆撃戦術はあまり有効とは言えません。

 実は当初、ステルス爆撃タイプのウィザード運用記事にしようかと思ったのですが、以上の理由により断念しました。そんな特殊すぎるウィザードよりも、もっと冒険者として普通に使えるキャラクターでの運用の方が、サンプルキャラクターとしては参考資料になると思ったからです。「美しい容貌」と「生殖可能」なんぞに20cpも浪費している時点で察して下さい(笑)
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