▲メインに戻る
■第4節 天災魔術師
 戦士と一言で言っても、戦い方に応じた様々なタイプが存在するように、魔術師にも様々な形がある。


 一番分かりやすいのが、ひたすら戦闘呪文を追求し、個人戦闘レベルだと無敵の存在と化した
「戦闘魔術師」である。《完全障壁》や《透明》などで防御を固めてしまえば、同じ魔術師でもないかぎり、まず殺される事はなくなる。
 冒険者向きなので、多くのPCが魔術師を作る際、このタイプを選ぶ。

 戦闘力を追求しないタイプもある。例えば
「魔化師長」になるようなタイプの魔術師だ。《魔化》の呪文を習得していて、強力な魔化アイテム作成の際に必要な存在である。究極的には、《大祈願》などの選ばれた者しか習得できない魔化を執り行える貴重な人員でもある。

 戦闘魔術師の中でも、やや毛色が異なる存在として「魔法で天変地異を引き起こし、戦争で勝利をもたらす」タイプの魔術師というのも想定できる。シミュレーション・ゲーム的な言い方をすると「MAP兵器としての魔術師」である。ここでは
「天災魔術師」と呼ぶ事にし、通常の「戦闘魔術師」とは区別する。

 天災魔術師は、防御に関しては戦闘魔術師に近いレベルを誇るが、攻撃面では大軍を想定した呪文に特化しており、通常の戦闘魔術師とは違った作成方法が必要となる。通常の冒険では、あまり役に立たない人材なので、100cpの段階の冒険者キャラクターで作る事はほとんどないだろう。
 そこで、今回はガープスでお目にかかる事がほとんどない「天災魔術師」を、350cpの英雄キャラクターとして作成してみたい。PCとして使う事はほとんどないだろうが、例えば大国の宮廷魔術師のNPCとして出す際に、参考資料になるかもしれない。

 英雄としての天災魔術師とは、一体どのようなキャラクターになるのだろう?
■状況
 以下のような状況において、「天災魔術師」を想定する。
●会戦
 草原の国ゼクス共和国の北部から、トルアドネス帝国軍が侵攻してきた。敵は歩兵部隊2000名。
 該当エリアに常駐する味方は200騎の軽装槍騎兵しかおらず、このまま敵を放置すれば、領土の一角を切り取られてしまうだろう。


●野営地への攻撃
 敵は本格的な侵攻を行うため、まず現在地にキャンプを張り、野営地としている。彼らが動き出す前に、こちらから攻撃をしかけて野営地を破壊する。

 ただし、味方は敵勢力の10分の1の兵力しかおらず、普通のやり方では無理な相談であるため、単機で天変地異を起こせる英雄魔術師の出番となる。


●敵戦力詳細
 敵戦力の内容は以下である。約1000人単位の連隊2つで構成される。

(連隊1つの戦力)
長槍兵 700名
戦列弩兵 250名
デルバイ銃兵 40名
帝国士官(騎兵) 10名
■対策
 以上の「状況」から、対策を考案する。
1.四大精霊呪文は大雑把
 「ガープス・マジック」における精霊系呪文は、汎用性は高いが大雑把な傾向にあり、特定の動作に特化した呪文系統より「弱い」と見られる傾向にある。

 例えば、風霊系では《空中歩行》で一応空を飛ぶことはできる(実際には徒歩移動だが)。しかし、移動に先鋭化した移動系呪文を見れば、《浮遊》から始まり《高速飛行》、さらには瞬間的に位置を変える《瞬間移動》など、明らかに精霊系呪文よりも高性能な移動呪文が存在する。

 例えば、地霊系には《肉体石化》という呪文が存在し、防御力を高める事ができるが、この呪文は準備時間が長くコストもかかり、上昇する防御力は固定値である。しかし、防御に先鋭化した防御/警戒系呪文を使えば、《鎧》や《盾》といった呪文で装甲強化の度合いを微調整できるし、何より準備時間やコストが軽い。


 しかし一方で、広域エリアに効果を及ぼすという呪文というのは、基本的に精霊系呪文にしか存在しない。地霊系には《地震》や《火山》といった代表的な天変地異呪文が存在するし、水霊系には《間欠泉》、風霊系には《風》《嵐》といった具合で、個人戦闘ではなく明らかにMAP戦闘を考慮した呪文が存在する。

 なので天災魔術師は、精霊系呪文のいずれかの系統を習得する必要がある。


2.平原の敵軍団に最適な呪文は?
 今回は遮蔽物の存在しない平原で大軍を駆逐する必要があるため、風霊系の《嵐》の呪文が候補に挙がるだろう。
 ただし、この呪文で人間サイズの物体を吹き飛ばそうとすると、かなり拡大せねばならず、20点や30点といった膨大な量の消費エネルギーの確保を考えねばならない。儀式魔法という手もあるが、複数の魔術師が手をつないで輪になって悠長に儀式など行っていたら、おそらく敵の軽装部隊が殺到してきて、瞬時に制圧されてしまうだろう。

 そのため、単独あるいはごく少数の魔術師が、膨大なコストを支払えるようにしておく必要がある。人数が少なければ少ないほど、隠蔽呪文で魔術師自体を隠すことも容易になる。今回はわざわざ350cpの英雄を用いるのだから、基本的には単独で赴けるキャラクターを考案する。


3.術者の隠蔽手段
 一部の天変地異系呪文(《地震》など)は、戦場での使用を想定しているためか、遠くに呪文をかけるのが楽なルールになっているが、《嵐》にはそのような特殊ルールが存在しないため、ある程度まで敵の近くに寄ってからかける必要がある(少なくとも敵を目視できる範囲)。

 そのため、術者は軍団からの攻撃を完全回避する手段が必要となる。とりあえず白兵攻撃を回避するためには飛行したり、射撃武器から身を護るために《矢よけ》の呪文を用いたり、果ては認識されないために《透明》の呪文で透明になるといった手段が考えられる。

 幸いにも、《嵐》の呪文によって引き起こされた竜巻は、直径サイズと同じ移動力で動かす事ができるので、少し離れた場所で可能な限り巨大な竜巻を作り出し、敵に向けて誘導していくプロセスを踏むことになるだろう。
■サンプル・キャラクター
 以上の理論により、作成されたキャラクターが以下である。
【基本設定】
 ディードリットは、リアド大陸最大のエルファの居住地「サイスの森」出身のエルファの魔法剣士です。彼女は、サイスの森のすぐ隣にある「ゼクス共和国」の人間の男性パーンと結ばれ、現在は6人の子を持つ母親です。
 夫パーンは「自由騎士」を名乗るゼクスの戦士であり、非常にカリスマ性が高い勇者でしたが、数年前にトルアドネス帝国との戦争で戦死してしまっています。しかし、二人の間にできた子供たちは成長し、年上の何人かはすでに現役で活動中で、草原と森を守るために帝国軍と戦っています。母親となった彼女は子供たちの活動を裏で支えつつ、森と草原、さらに南のララン台地(翼人の領土)を自由気ままに旅し続けています。

 彼女は英雄クラスの魔術師であることから、ゼクスのエタンの民(草原を駆ける人間、彷徨いの月の種族の連合体)・サイスの森のエルファ・ララン台地の翼人の対帝国3同盟の代表者の一人として数えられており、エルファ種族を代表して会合に赴く役割を担っています。
 しかし彼女自身は、夫パーンと結婚した時点で森を出ており、森と草原の間に家を建て、そこで夫と共に暮らしていました。独立の際、出身氏族名「エターナル・メイデン(永遠の乙女)」も捨て、現在はただ「ディードリット」とだけ名乗っています(名前のみ名乗るというエタンの風習に倣ったのです)。
 その暮らしは現在も変わっておらず、彼女はエタンにも〈円環〉にも直接的には参加していません(出身部族からは、「外交任務を引き受けて外で超長期活動中のカアンルーバ氏族の諜報員」という扱いになっています)。

 長命なエルファ種族であるディードリットですが、夫パーンと過ごし続けた25年の間に、人間である夫と同じ時間感覚で生きるようになっています。そのため、成長速度も人間に等しくなっており、同じ時間生きている同族よりも、はるかに膨大な量の技能を習得しています(「特殊な背景/人間の時間感覚」を参照)。

 彼女は恋愛に関しては非常に一途で、今もなお亡き夫の事を想い続けています。時にそれが、彼女自身を苦しめる事もあるにはあるのですが、夫ほどの高潔でカリスマ性に溢れた人物など、そうそう現れる事もないため、代わりの伴侶を見つける気にもならないようです。


【設計思想】
 詳細欄に書いていますが、《嵐》の呪文を7倍拡大で使用し、敵の軍勢を巨大竜巻で吹っ飛ばす設計になっています。基本的に相手は逃げるしかありませんが、移動力15で誘導性を持って迫ってくる竜巻から逃げるのもまた至難の業です。

 大軍相手に呪文を使うとなると当然、集中砲火で狙われるので、対策として《透明》の呪文を25レベルで習得しており、維持コストがゼロになっています(ずっとノーコストで維持可能)。また、《空中歩行》で上空に「立って」おり、白兵攻撃が届かない位置にいます(これも熟練により維持コストゼロ)。
 さらに、見つかった場合の射撃対策として、攻撃に用いる《嵐》の呪文を自分中心にかけ、二つ目の護身用の竜巻を作る事もできます。《嵐》の呪文は30レベルで習得しており、2倍拡大までなら維持コストはゼロです。

 一方、個人戦闘の攻撃に関しては、主に《集団誘眠》の呪文をかけて鎮圧するくらいしかありません。一応、フェイントソードを16レベルで扱えるので、これだけでも雑魚相手ならどうとでもなるでしょうが、腕力も装甲も常識的な範囲でしかないため、決闘は避けるべきです。
■実戦
 ゼクス共和国の草原の西の端と、サイスの森の東の端の中間エリアにて―――国境ラインが曖昧なこの土地に、帝国軍が侵攻してきた。数およそ2000の歩兵部隊。
 この付近は所属が曖昧であり、ゼクスの人間とサイスの森のエルファ、どちらも相手の誤解を避けたい意味合いから、堂々と兵力を送りこみにくいエリアであるはずだ。そこに突くように帝国軍が押し入り、このエリアに駐屯地を作る事で、領土をかすめ取りつつ、両者の連携の分断を図ろうという試みだったが。
 だが、その目論見は甘かった。ゼクス共和国とサイスの森の同盟関係は、意外にも強固なものとなっており、両方から国境防衛部隊が速やかにやってきた。


 ゼクス共和国からは200の自由騎士団。
 そしてサイスの森からは、たった一人のエルファ。
 一人だと侮ってはならない。
 彼女こそ、サイスの森が誇る「決戦兵器」なのである。
ミュルーン(緑)
『…ちょっと数が多いんと違うか?』

ミュルーン(黄)
『せやかて工藤』

ミュルーン(青)
『クドウって誰やねん』

ミュルーン(桃)
『このエルファのねーちゃんが、
 どないかしてくれるんやろ?

 うちらは、どっしり構えとけばええねん。
 ―――なぁ?』
ディードリット
『え……!?

 ええ!そ、そうね…(汗)』

ミュルーン(緑)
『せやけど…
 ちょっと敵さんとの距離、近すぎひんか?
 見つからへん??』

ミュルーン(青)
『もう見つかっとるやろ』

ミュルーン(黄)
『イマサラ・タウンやな』

ミュルーン(緑)
『どこの町やねん』

ミュルーン(桃)
『連中来たら、飛んで逃げたらええねん。
 ねーちゃんも空飛べるさかい。
 なーんも心配あらへん』

ミュルーン(黄)
『せやろか?』

ミュルーン(青)
『まあ、なんでもええからいこ』

ミュルーン(緑)
『ほな 出発しよか…』




 エタンから派遣された護衛ミュルーンたちの緊張感のない会話を聞き終えたディードリットは、心の中で苦笑しつつも《空中歩行》の呪文を発動しつつ、空を舞った。

 ディードリットは、ミュルーンたちの気質が好きだった。彼らの自由気ままでお気楽な人生観は、ある面で彼女の性格とよく似ていたからだろう。何物にも縛られぬ自分だけの世界。



 ―――だが、彼女がここにいる理由は、自由とは全く逆の「愛」という名の牢獄が原因だった。生前の彼は言った。「草原の自由を守りたい」と……

 だから、彼の意志を継がねばならない。
 そして今、この戦場に同行しているはずの自分の息子たちのためにも、使命を遂行せねばならない。
●戦闘開始
 エルファの魔法剣士ディードリット(350cp)と、トルアドネス帝国軍二個連隊(2000名)が戦闘を開始します。

 初期配置では、ディードリットが潜む茂みと敵との距離は1000メートルです。さらに彼女の後方500メートル付近の開けた平原に、ゼクス共和国の
自由騎士団(200名)が突撃命令に備えて待機しています。
●戦術フェイズ01(ディードリット)
 ディードリットは、自身に《透明》と《空中歩行》の呪文をかけ、30メートル上空を陣取ります。《空中歩行》の消費コスト1は自腹で支払い、《透明》の消費コスト2は5点の内蔵型パワーストーンの一つから1点(=エネルギー2点分)引き出して補填しました。5点のパワーストーンは7つあるので、そのうち一つを「作業用パワーストーン」とし、残り6つでツイスター(竜巻)の維持を考えます。



 次に《嵐》の呪文を7倍拡大で発動。
 この呪文は、レベルに関係なく瞬間発動という特殊な呪文ですが、最大パワーに達するまで「集中」を続けなければなりません。7秒集中し、直径15メートルのツイスターが完成します。ここまでで13秒かかっています。
 消費コスト24点は、「ウンディーネの指輪」の内蔵型パワーストーンのエネルギー12点(=倍で24点)を全て引き出して充てました。



 ツイスターは「集中」する事で、1秒間に直径サイズに等しいメートル分だけ動かせます。今回発生させたツイスターは直径15メートルなので、移動力15となります。
 残り47秒間、集中を行って約700メートル敵陣に近づけます―――
 帝国軍本陣まで残り300メートルの位置へと、ツイスターを動かしました。
●戦術フェイズ01(帝国軍)
 帝国軍は、いきなり大ピンチに追い込まれました。
 竜巻による攻撃など全く考慮せず、軍勢の数だけで敵は恐れおののくだろう!と、遠征軍の指揮官は考えていたためです。実際、200騎の軽装騎兵だけならば、それほど恐れるに足らぬ存在でした。



 しかし、竜巻が迫ってくるとなると、全く話が違います。
帝国士官
『……逃げ切れないっ!!』

『…へっ、兵を散開させましょう!』

『駄目だっ!!
 騎兵の各個撃破の対象になる!』

『し、しかし司令っ―――!!』




 歩兵を密集させているのは、ポールアームを装備した歩兵でファランクス(密集隊形)を形成し、騎兵のランス・チャージに備えるためでした。
 単独の歩兵は、騎兵の餌食でしかありませんが、密集隊形であれば関係が逆転し、歩兵部隊が騎兵を効率よく駆逐する事ができるからです。

 しかし密集隊形は、天災魔術師に対してとるべき陣形ではありません。このように固まっていては、範囲魔法の餌食にしかならないからです。
 かといって、今さら歩兵部隊を散開させるわけにもいきません。目視距離に騎兵隊がいるのに歩兵を散開させたら、各個撃破されてしまいます。

 また、このツイスターは明らかに何者かの誘導を受けているので、近場に術者が潜んでいるはずなのですが、透明な存在を見る手段を持たない帝国軍は、戦列弩兵を動員して術者(ディードリット)を狙撃する事すらできません。



 何もできないジレンマに絡まれ、致命的な空白の60秒を浪費します。
●戦術フェイズ02(ディードリット)
ディードリット
『風の精霊イルクよ―――

 翼を広げ 時間
(とき)の狭間を
 光の速さで疾れ
(はしれ)―――!』



 《嵐》の持続時間は1分です。既に1フェイズ(60秒)を終了したため、ツイスターを継続したければ維持コストを支払わなければなりません。

 7倍拡大時の維持コストは、ディードリットの場合は10点です(熟練により消費コスト4点軽減されています)。「疲労回復の指輪」の内蔵型パワーストーン5点(=エネルギー10点)1つを支払いに充てます。



 さらに放送枠(笑)を1分延長したツイスターは、帝国軍本陣のど真ん中を突っ切ります。
帝国軍兵士
『うわあああぁぁぁーっ!!!』

『たっ、助けっ……
 ぎゃああああっ!!』



 ディードリットが生成したツイスターは、105キロまでの重量物を問答無用で巻き上げます。上昇物は1D-1×15メートル上空から投げ出されて落下ダメージを負います。

 2000人の兵士一人一人をいちいち判定するのは現実的ではないので、平均値から求めます。上昇高度は1D-1の平均値(3)×15=45メートルとなり、落下ダメージは45D-90で平均68ダメージです……平均的な生命力10の兵士だと生命力の6倍以上のダメージを受け、即死確定です。

 ただし、ツイスターは15へクス幅なので、進路上のそれより外側にいた兵士には影響しません。また、吹き飛ばされないようにする手段がないわけでもありません。例えば馬の重量であれば、このランクの竜巻では吹き飛びませんので、馬にしがみ付く事で助かる可能性はあります。また、装備重量と合わせて105キロを突破している兵士(例えば「肥満」持ちや「巨人症」の巨漢など)も、数は少ないでしょうがいるでしょう。

 なのでGMは、指揮官に-10修正の〈戦略/陸戦〉判定を行わせ、失敗度×5%の被害(最低10%)が連隊ごとに及ぼされることにしました。判定結果は、連隊1は8失敗で40%の被害、連隊2は4失敗で20%の被害となりました。



 GMはさらに士気判定を要求します。
 明らかに通常の兵士では戦争で経験する事のない、回避不能の恐ろしい天変地異が迫ってきているので、+5の修正で行わせました。さらに連隊の被害10%毎に+1の修正をつけます。つまり、連隊1は+9修正、連隊2は+7修正です。

 士気判定(敵対的反応)の結果、連隊1は17、連隊2は22となり、反応は「とても良い」以上。「逃走するか、無理なら降伏する」とあるので、ここは「我先にと逃げ出して潰走状態に陥る」とするのが妥当でしょう。

 事実上、帝国軍は全滅です。
自由騎士
『突撃するぞ!俺に続け―――!!』

『うおおおぉぉ―――っ!!』




 チャンスと見たゼクス共和国の自由騎士団が、突撃を開始しました。軽装騎士の移動力は12です。1フェイズ駆け続けて720メートル前進。潰走状態の帝国軍の掃討にかかります。
●戦術フェイズ02(帝国軍)
帝国士官
『―――その情報は確かなのだな!?』

『は、はい!司令どの!
 この近場を試験飛行中のはずです!』

『よし。
 大至急、合図を送れ!』




 連隊2つが潰走状態となり、もはや軍として機能していません。しかし、一人でも多くの味方を逃がすため、帝国士官たちは救難信号を上げたようです。

 果たして、近くに味方はいるのか―――?
青銅猫ミャウ
『…どうしたの?アリサ。
 お腹でも痛いの?』

アリサ
『…ホットケーキに飽きたわ。
 私…別の食べ物とお付き合いがしたい。』

ミャウ
『何、言ってんのさ…
 アリサが「私はホットケーキが主食なの!」って
 駄々をこねて、
 狭い船倉に無理やり積み込ませたんでしょ?』

アリサ
『だぁ~ってぇ~………

 こんな長期航行するなんて、
 知らなかったんだもん~……
 はぁ………
 …ねえ、ミャウ?

 このまま何にも起きない巡回航行がずーっと続いてさ?
 おばあさんになるまで毎日、毎日、まいにーち!

 …ホットケーキばっかりだったらどうしよ?』

ミャウ
『…ぼく、ホットケーキ好きだよ?
 焦げてなかったらね。』
アリサ
『ふんっ…!
 猫って気楽ね…

 今にホットケーキみたいに
 まん丸くなっても知らないからっ』



宮廷魔術師ルツ(心話)
(―――アリサ。
 取り込み中に済みませんが、
 緊急通信です。)


アリサ(心話)

(―――ルツ?どうしたの?)
ルツ(心話)
(救難シグナルを感知しました。
 この近くで戦闘中の味方のものです。
 すぐ艦橋までお願いします。)

アリサ(心話)
(―――分かった。すぐ行くわ。)




 自治都市パルマの若き女領主で、古の〈龍〉の封印を守る使命を帯びたアリサ・ランディールは、飛空艇の試験運用でこの周辺の空を航行中でした。

 一応、対〈龍〉ユニットの名目でパルマに貸し出された飛空艇団ですが、実際は帝国自治領の一つ、ブラン=トルアの公王にして現皇帝の従姉ランナカイ=ジェム直属の軍人たちによって運用されており、アリサの監視役を兼ねています。
 アリサは、旧ザノン王国の王家の血を引いているため、帝国にしてみれば不穏分子であり、本来ならば謀殺される運命でした。しかし、帝国領ザノス=トルア近郊に封印された〈龍〉エリュトロンの封印を守るために活躍し、彼女が封印継続のための絶対必要なキーマンとなってしまったため、やむ得ず帝国の1都市の領主として起用されました。

 この定期巡回任務も「対竜戦闘の訓練」という名目ですが、「使える人材なら使い倒そう。ヒマしてると体もなまるだろうからな」&「旧ザノン派の人間が反乱謀議を持ち出そうと彼女と接触しようとするだろうから、物理的に領地から引き離して機会を減らしてやろう」といった理由も含まれているようです。
ミャウ
『―――どうしたのアリサ?
 お出かけ?』

アリサ
『うん…
 ちょっと帝国に恩を売ってくる。』

ミャウ
『…どうせ、ヘボ将軍の尻ぬぐいか何かでしょ?
 ほっときゃいいのに。』

アリサ
『たまには忠義を見せとかないと、ねぇ?』
アリサ
『―――で、状況は?』

ルツ
『共和国とサイスの森の国境付近に
 強行偵察を仕掛けた2個連隊が、
 局所的な竜巻に襲われて潰走中です。

 この竜巻は偶然の産物ではなく、
 明らかに何者かの制御下にあります。
 《透明看破》の呪文で調べたところ、
 2時方向の低空に
 隠蔽中の術者と思しき存在を発見。』

アリサ
『分かったわ。
 その術者をどうにかすれば、
 逃走中の帝国軍への被害を軽減できるわけね。


 ―――アリサ=ランディール、出撃する!

 ルツ。
 ありったけの力で、
 私に《透明看破》をかけて持続して!』

ルツ
『―――承知しました。ご武運を。』
飛空艇艦長
『……え?
 ご自身で出撃を!?

 すっ、すぐにミュルーンの護衛の手配を…』

アリサ
『―――無用です。』
飛空艇船員1
『うわっ……
 ほんとに単機で出ちゃったよ…』

飛空艇船員2
『確かにあんな速度じゃ、
 ミュルーンでもついていくのは無理だな…』

飛空艇船長
『………これが本当の英雄ってヤツか。』




 鎧に魔化された《高速飛行》の呪文で飛行を開始したアリサ。移動力28という、ミュルーンでも翼人でも到底不可能な飛行速度で、戦場へと突入開始。

 標的は、ディードリットただ一人。
●戦術フェイズ03(ディードリット)
ミュルーン(青)
『…おぉ?
 飛空艇がきよったで―――帝国軍も必死やな。』

ミュルーン(黄)
『なんや?
 あのピンク色の飛行物体は。』

ミュルーン(緑)
『あっ………
 あかん!
 アレは
〈剣の巫女〉や!』


ミュルーン(黄)

『…誰やねん?それ』

ミュルーン(青)
『聞いたことあるで。確か…
 ドラゴン並のパワーと装甲を備えた対竜剣士、
 かわいいけど貧乳娘とかなんとか。』

ミュルーン(緑)
『とにかく、
 わいらの手には負えんバケモノや!

 エルファのねーちゃん!
 はよ逃げえぇぇぇーっ!!』
 ディードリットは逃げられません。

 今、ツイスターの維持をやめてしまうと、一部の帝国軍が戦列を立て直し、目前まで迫っている自由騎士団が手痛い反撃を受けてしまう可能性があります。騎士団には、彼女の息子の一人が加わっているのです。

 また、ディードリットは《空中歩行》で空中を「歩いている」だけなので、アリサの《高速飛行》から逃げる事は、速度的にほぼ不可能です。地形が山間ならまだしも、何もない平原では隠蔽することもできません。
 一応、《透明》の呪文を使って消えている最中なのですが、相手は完全にこちらの位置を把握し、真っすぐ飛んで来ています。透明状態は既に看破されている、と考えるべきです。

 この状況でディードリットにできる事は、《集団誘眠》25レベルによる一撃必殺に賭ける以外にないでしょう。



 健康的だけど貧乳娘 VS 細身だけど巨乳エルファの勝負が始まろうとしています。
ミュルーン(緑)
『……しゃあないのぅ。
 ここがわいらの墓場か。

 短かったけど、
 まぁまぁ楽しい人生やったわ。』

ミュルーン(赤)
『…見せてもらおか。
 帝国軍の〈剣の巫女〉の性能とやらを。』

ミュルーン(青)
『お前、口が利けたんかい!?
 もっとしゃべらんと出番なくなるで?』



ミュルーン(緑)
『…お前らはねーちゃんのアシストや。
 わいらに何があっても、
 絶対生還してもらうんやで。』

ミュルーン(桃)
『わかった……
 アンタらも、生きて帰るんやで?
 待っとるから…』

ミュルーン(緑)
『…おぅ。
 期待せんで待っといてくれや』

ミュルーン(青)
『まあ、何でもええからいこか』




 ミュルーンの護衛がディードリットの前に布陣し、〈剣の巫女〉を待ち構えます。彼らは「器用な足」(10cp)の特徴を持っているミュルーン空挺兵のエリートで、ミュルーン種族にはやや苦手な空中戦闘を行える設計になってます。
 しかし、〈剣の巫女〉にそれが通じるでしょうか…
 一方の地上では、自由騎士団が追撃を一時停止しました。敵の飛空艇が潰走中の帝国軍の真上を陣取り、撤退を支援し始めたからです。

 飛空艇には多数のバリスタが取り付けられており、このまま突撃すれば、支援射撃で迎撃されてしまうでしょう。
●戦術フェイズ03(帝国軍)
 1フェイズ(60秒)で1680メートルの移動が可能なアリサが、帝国軍の頭上にいる飛空艇から、一気に距離を詰めて白兵戦闘フェイズに入ります。
 第1ターン。
 移動力28のアリサが先行。28メートル直進しながら《すばやさ》に集中。
 そこへミュルーンたちが殺到し、距離8メートルのところまで接近。
〈剣の巫女〉アリサ
『―――好機!』


 第2ターン。
 アリサは自ターンの冒頭に《すばやさ》を発動、敏捷力+5の効果を得つつ、さらにラコニウム・ソードの倍速効果を発動します。
 全力攻撃を選択し、技能レベル24でフェイント(10成功)→攻撃で赤い翼のミュルーンをざっくり切り裂いた直後、さらにセカンドアクション(倍速による効果)でとどめの一撃。瀕死に追い込みました。
ミュルーン(赤)
『みっ…認めたくないもんやなっ………!

 自分自身の……
 若さゆえの未熟っちゅうヤツ……を………っ』




 赤い翼は生死判定、意識維持判定共に成功はしましたが、マイナス生命力に等しい負傷を負い、やむなく戦線離脱します。対戦相手が悪すぎましたが、アリサのダメージの目が回らず、生き残っただけでも彼はまだ幸運な方でした。

 残った二人のミュルーンが、果敢にもスピアで突き攻撃。
 しかしアリサの能動防御は、素で目標値16を余裕で超えています。弾かれたばかりか、青い翼のミュルーンはクリティカル「止め」をされて姿勢を崩し、次のターン行動不能に。


 第3ターン。
 アリサは緑の翼のミュルーンに対し、先ほどと同様のフェイントからの二連撃コンボでクリティカルヒット!(ダメージ3倍)。緑のミュルーンはマイナス60ダメージの負傷を負い、何度目かの生死判定で失敗して死亡。
 戦い直前に彼が自分で言った「ここが墓場か」発言が、現実のものとなってしまいます。
ミュルーン(緑)
『くそっ……たれ……!

 〈剣の巫女〉は…
 ほんまもんのバケモノ……やったか……

 ぐふっ…』



 第4ターン。
 残った青い翼のミュルーンが姿勢を立て直す間に、3度目のアリサの攻撃。
 先ほどのコンボ攻撃により、1秒前に昇天した同僚とほぼ同様のクリティカル攻撃を受け、何度目かの生死判定に失敗して死亡。



 圧倒的な技量と、無敵のパワーと装甲の前に、100CPで作られたはずの対空戦闘ミュルーンたちはわずか4秒で全滅。
 足止めにすらなっていません。
 まだ6秒残っているので、ディードリットへの追撃フェイズを実行します。
 距離50メートルから白兵フェイズを再開。


 第5ターン。
 倍速中のアリサは、その気になれば1回の手番で距離ゼロまで詰められます(倍速により二回「移動」が可能なため)。しかしここは蛇行飛行して、敢えて距離20メートルまで距離を詰める行動で終わりました。二回行動を有効に生かすためです。

 対するディードリットは、フェイントソードを構えて「待機」行動。
 《集団誘眠》の呪文は25レベルなので、ここで使っても目標値5にしかならず、下手するとファンブルしかねないので使いません。


 第6ターン。
 アリサは、20メートルの距離を一気に詰めて「体当たり」を試みます。近接へクスに到達する前に、「待機」行動をとっていたディードリットがフェイントソードを一閃!しかし、「受け」によって簡単に弾かれ、移動は続行。

 アリサの敏捷力22(《すばやさ》の呪文で+5されています)とディードリットの敏捷力15では勝負にならず、体当たりは命中。
 そしてアリサは「ミディアム以上のシールド持ち」「高速移動で体当たり」の条件を満たしているので+4で体力即決勝負。アリサの基準値は20とかいう巨大生物の体当たりとほぼ変わらない数値となっており、即決勝負も難なく勝利してディードリットは空中で転倒。《空中歩行》の効果が切断し、自由落下状態へと移行します。

 アリサのセカンドアクション。
 次のターンの反撃がなくなったので、迷わず全力攻撃を選択。フェイント即部位狙いで、ディードリットの「重要器官」にみねうち(刃をひるがえして「叩き」攻撃)を行います。-14ものフェイント効果に対し、ディードリットはまともな防御行動がとれません。
 攻撃が命中したディードリットに4点ダメージ。そして、気絶判定で14の目を出してしまい、なんと一撃で気絶。これにより、維持し続けていた《嵐》も停止してしまいました。
 一応、説明しておきますが、相手がヒロインだから手を抜いたわけではありません(笑)。

 普通に斬りつけた場合、ダメージのダイス目が回らなかった場合、ディードリットを一撃で倒せない可能性の方が高く、しかも英雄クラスとなると「意思の強さ」5レベルとか普通に所持しているので、ダメージ累積による毎ターンの意識維持判定の失敗も、ほとんど期待できません。
 しかし部位狙いのルールでは、重要器官や頭部に叩き攻撃が命中した場合、「たとえダメージゼロでも生命力基準の気絶判定が必要」というルールがあり、その判定では「意思の強さ」も加算されません。つまり、それを狙っての行動です。

 真向から勝負しても、アリサの方が勝率は高そうですが、ディードリットの《集団誘眠》がクリティカルした場合、アリサは問答無用で眠らされて敗北してしまいます。ですから今回、「そもそもディードリットに呪文を使わせない」事を念頭に置いて行動する必要がありました。
 アリサが接敵前に距離を調整したり、初手で体当たりを使ったのも、相手に《集団誘眠》使わせないためです。



 そしてアリサの任務は、あくまで「術者を鎮圧して《嵐》の呪文を停止させる」ことなので、これでクエスト達成です。ディードリットがもう一度、同規模の《嵐》を起こそうにも、起動に必要な12点の内蔵型パワーストーンは空っぽなので、少なくとも6日の充電が必要です…つまりこの戦場では、もう先ほどの巨大なツイスターを再現するのは不可能です。

 気絶して落下中のディードリットの方は、この星の重力がとどめを刺してくれるでしょう…
ルツ(心話)
(―――アリサ。
 帝国軍の撤退は上手くいきそうです。

 あなたもそろそろ単独行動はやめて、
 お戻りなさい。)

〈剣の巫女〉アリサ(心話)
(ご忠告どうも―――撤収するわ。

 ホットケーキ…
 冷めちゃってるだろうなぁ………)




 ピンク色の悪魔は、戦場から離脱しました。
『―――ディード。』
ディードリット
『―――パーン!』
ディードリット
『私………
 この時を、ずっと待ってた…

 ようやく、あなたの傍に行ける……
 パーン………!』




パーン
『まだだ……
 まだ諦めるなディードリット……!』
ディードリット
『―――イヤよっ!!
 あなたなしの世界なんか、
 もう耐えられないっ!

 ずっとあなたに触れていたいの!
 お願いっ!!
 一人にしないでっ!!!』
パーン
『俺はずっと君の傍にいたよ―――
 君が気づかなかっただけで―――


 それに、俺たちの分身を助けてやってくれないか?
 一番下の子は、まだ君の庇護が必要だ。

 そして一番上の子は今、
 君と同じ戦場で戦ってる。』


ディードリット
『あっ………』


パーン
『―――全て終わったら、一緒に行こう。
 緑の月か、双子の月…行き先は君が決める。
 そういう約束だったろう?

 その時が来るまで、君の傍で待ってる。』




 愛してる―――ディード。
 今までずっと……
 そして、これからも―――――
パーン………!
ミュルーン(桃)
『………ちゃんっ!
…ねーちゃんっ!
 起きてーな!

 《覚醒》の呪文とかいうの、
 かかったはずやで!

 はよ起きて!
 自力で飛んでーや!
 うちも墜落してしまうぅぅぅっ!!(汗)』




ディードリット
『!!』
『―――ありがとうっ!!』
 気絶して墜落、そのまま激突の寸前――――

 生き残っていたミュルーンの護衛の一人が、特別支給されていた《覚醒》の呪文を魔化されたアイテムを使ってくれたおかげで、気絶状態から回復。
 直後、瞬間発動可能な《空中歩行》を発動し、地上ギリギリで着地に成功します。



 ディードリットは生還しました。
ディードリット
『………んんっ。
 あら?これは…

 長男に渡したはずの、
 パーンのマントじゃ……??』
『ま、まってくれ!
 俺のマントっ………!』




ディードリット
『…!』
『―――んんっ?あれ??
 母さんじゃないか!

 「増援のすごい魔法使い」って、
 母さんの事だったのか…



 えっと、あの……

 ……ただいま?』
ディードリット
『……うふ。
 おかえりなさい。』

No Pain.
No Winners.
No Losers.

WILL MEET AGAIN.
《 It's a FAIN DAY. 》


[編集手記]
 管理人の世代では、もはや伝説と化している「ロードス島戦記」の続編が、10年以上の時を経て出ました。管理人は、マンガの方(1~2巻)だけ読みましたが…



 ストレートな感想を言わせてもらいます。
 管理人から見ると、ハイエルフのヒロイン「ディードリット」の扱いが、あまりに可哀そうというのが第1印象でした。

 まず、パーンとの間に子供ができなかった!
 …え?なんで??というのが最初の感想。

 だって、人間とハイエルフの恋なんですから、どうがんばったって人間であるパーンがはるか手前で死んでしまって別れが来るんですよ。その恋人と唯一、つながりを維持できるのは、二人の間に生まれる「子供」だけです。だが、それがない。納得いきませんでした。
 無論、パーンが死んで、故郷の森に帰って許嫁のエスタスと再婚する、という展開なら、それでもまだ納得はできました。が、肝心のディードリットは延々とパーンの事を一途に恋し続けており、再婚の意志は全くなさげ。森の中で一人、寂しい余生を送り続けるのみ。事故死しないかぎり、永遠に。
 ならせめて、子供を残してやれよ!と、言いたいです…言いたくない?いや、管理人は言いたいです(笑)。この状態だと、ディードリットは永遠に救われないままじゃないですか。

 まあ、そうなった理由は、いろいろ考えられます。
 一番の理由は、作者が嬉しそうに「永遠の乙女!」と作品内で登場人物たちに連呼させている事から、作者水野氏にとっての理想の女性が「永遠の乙女」なんだと思われます(笑)。結婚して子供を産み育てて、乙女性(?)か何かを失ったディードリットなんて、見たくなかったんでしょうな、作者は。
 次に、恋愛は好きでも子供はあまり好きでないという人も当然いますので、「永遠の恋人関係」を維持したかったというのも考えられます。子供ができてしまうと、恋愛感情に関しては色々と喪失してしまうものなのでしょう(管理人は独身なので、その辺はただの憶測です…そうでないカップルもいると、たまに聞きますが)。
 まあその変化を「喪失」と考えるか「成長」と考えるかも、人それぞれだと思います。

 ただ、作品の中のディードリットは口頭で「私たちの間に子供はできなかった」と主人公に対して明言しているので、「本当は欲しかったけどできなかった」と考えられます…なぜかって?子供に興味のない人妻であれば、そもそもそんな事をいちいち表明したりはしないでしょうから。
 ですからディードリットとしては、パーンとの子供が欲しかったんだと思います。でも、作者のヒロイン理想像の追求のせいで、授かる事ができなかった。だから可哀そうなんです。

 あと、新ロードスの主人公ライルが「愛した女性が永遠に生きて、自分の事をずっと想っていてくれる」事を「男の理想だ!」とか言ってるんですが…管理人個人は、それは一部の男の至極一方的な理想だなぁ…とか思っています。
 仮に管理人が結婚していて、伴侶を愛していて、自分が死んだ後…伴侶がまだ若く、他の男性を魅了できるのであれば、適当に他の人を探して、次の幸せを見つけて過ごしてほしいなぁ、とか考えてます。
 どうせ死んだ後は、この世界に干渉できないんですし、仮に来世とかがあったとしても、生まれ変わる際に前世の記憶は全部消えてしまうんです。だったら、生き残ってる側は今の幸せを追求する方が現実的ではないかと。まあ、伴侶と死別した時期、自分も老後で死にかけという状況ならまだしも、まだ若いのに過去の甘い想いにとらわれ、残りの人生を捨ててしまうのは、ちょっと勿体ないです。
 PSO2に登場したファレグ・アイヴズのように「もう恋愛はさすがに飽きた」「今は戦いが楽しくて仕方ない」とかいうお方ならまだしも、ディードリットはそうじゃないんですよね(もっとも、ファレグも実際はアーデムの事を忘れられないようですが…「憎い」のは愛情の裏返しです)。その点でも、ディードリットは救われていないと思います。ハイエルフは寿命の概念がないため、余計に救われない。ファレグのように、ストレスをぶつける相手もいない。

 そんなわけで、私がもしロードス島戦記の作者であれば、上のように子供ができたことにしてしまいますね。そんな作者アンチな考えを、そのままレポートにしてみました(笑)。あくまで管理人個人の理想展開なので、絶対こうすべき!と主張する気はありません。
 というか、新ロードスは始まったばかりなので、ニースがある事情から転生してしまってるように、ひょっとしたらパーンも何らかの事情で転生し、ディードと再び邂逅する日が来るのかもしれません…それなら、ディードリットの一途な想いを100年後も継続させた意味も出てくるでしょう。
 新ロードスを酷評するのは、まだ時期尚早かもしれませんね。



 レポートで使用しているMMD画像に関して。

 パーンとディードリットのMMDモデルを自作しました。まぁ、管理人は1から作る能力などないので、あちこちのモデルからパーツを引っ張ってきて、それっぽく仕上げただけのシロモノです。各パーツの規約は一応見ましたが、「再配布不可」とあるので配布予定はありません…というか、配布するほどの出来栄えではないです。
 なお、昔のMMD界隈の環境では、これらのモデルを改造で作るのはほぼ不可能でした。今は、さまざまなモデルが無料配布されているので(ありがたい事です…モデラーに感謝!)、改造しかできない管理人でも、どうにか原作にかなり近いものを作る事ができます。特に、リアルな大人体型のモデルが増えたのが嬉しいですね。もうちょっと、マッチョやグラマーなモデルがあってもいいとは思いますが…基本的にMMDモデルって、どれも「お子様」体型なんですよね…ちょっと残念。

 ディードリットが巨乳なのは、それしかディードっぽい胴体モデルがなかったという理由もあるんですが、個人的には「細身のエルファでも、6人も子供を産んでいれば、必然的に胸も大きくなるだろう」という、ちゃんとした理由もあります…まぁこれはデカすぎですが(笑)。
 なお、6人の子供というのは、現代人の感覚だと多いのかもしれませんが、文明レベル3の中世ヨーロッパでは、農民の子はそのくらいいるのが普通でした。栄養状態も衛生状態も悪い環境だったため、そのうち半分くらいしか成人しなかったからです。

 パーンに関しては、最初は子供顔バージョンしかなかったんですが、あまりに顔が幼過ぎてディードとカップリングしにくいという理由により、別途で大人バージョンも作りました(ディードリットとキスしてる方が大人バージョンです)。
 MMD界隈では男性モデルが少ないせいで、なかなかパーツ集めに苦労しましたが、一度見つけたらあとはくっつけるだけ。ディードのモデルよりは作るのが楽でした。



 天災魔術師に関して。
 天変地異系の呪文でルールに則って処理可能なのは、実のところ《嵐》だけです。他の呪文は「GM裁量」になっており、具体的にどのようなことが起きるかは、完全にGMのアドリブの域です。
 でもそれでは数値的検証にはならないので、無難に《嵐》の呪文を使う魔術師を抜擢しました。ちょうどディードリットというキャラクターが、風の上位精霊の呪文が得意という設定なので、それに乗っかる形で採用に。

 なお、レポート内で「戦術フェイズ」とかなんとか、誰も聞いたことがないであろう集団戦闘システムを用いてますが、実はこれ、きちんと構築されたシステムなんて全くなくて、管理人のノリだけで勝手に進行しています(笑)。
 一応、ガープスでも未訳サプリメントに「マス・コンバット」システムは存在するのですが、全体の戦力を合計し、指揮官同士が〈戦略〉技能の即決勝負を行い、互いに被害表を振って終わり、という、ちょっと味気ないものです(あくまで戦争結果を算出するだけのルール)。
 管理人としては、こうした「ターン制で進行する集団戦闘ルールがあってもいいんじゃないか?」と常々考えていたので、それっぽいものを試験的に動かしてるように「見せかけて」みました。実際はルールなどなく、ただのハッタリです。



 アリサ=ランディールに関して。
 マンチキンのサンプル・キャラクターとして出したのですが、当サイトの「改変版ルール下でのキャラクターシート」がまだなかったので、それを作りたくて出演してもらいました。
 見ての通り、ドラゴンとの白兵戦闘に特化した娘なので、普通のキャラクターではほぼ倒せなくなっています。一応、抵抗魔法で一撃必殺はできるのですが、今回のように高機動でうまく立ち回られてしまうと、そもそも呪文をぶつけれない状況に持ち込めます。
 アリサは管理人のお気に入りキャラクターの一人なので、今回はガンダムのような無双状態で、ヒロインよりも活躍させてしまったような気がしますが、ちゃんと正規のヒロイン(ディード)も死なないような展開にしたのでいいんじゃないですかね。

 なお、アリサのPMDモデルに関しても、ちゃんと足をつけなおしました。旧式モデルは足が中途半端にしかついてなくて、しかも戦士系キャラとしてはあまりに細すぎたので、少し太目の足の女性下半身モデルを改造してくっつけました。
 「胸がないなら、せめてえちえち足で勝負しろ!」…とか何とか。

 一応、敵側として登場したアリサのシートも展示しておきます。
【基本設定】
 〈剣の巫女〉の異名を持つアリサ=ランディールは、かつてリアド大陸中央部を支配していた旧ザノン王国の王家の傍系血筋ランディール家の若き女傑です。
 海岸都市パルマを中心に広大な領土を治めていたランディール家ですが、アリサがまだ13歳の頃に帝国によって滅ぼされました。父アウレス=ランディールと兄である騎士隊長ネロが、迫りくる帝国軍に対して最期の突撃をする間に、元宮廷魔術師ルツと民間人出身の兵士長タイロンが半狂乱状態の幼いアリサを抱きかかえ、強引に街から連れ出しました。


 家族を失ってしばらく無気力だったアリサですが、家の物置にしまい込んでいた「青銅の猫ファール」(青銅製の猫型ゴーレムに《ゴーレム》の呪文を魔化しようとしてファンブルした結果、魂らしきものが宿って自立してしまった「アイテム」の一種。「ルナル完全版」p268)が、帝国の制圧下にあるパルマからこっそり抜け出し、アリサの元にやってきました。彼は自分を「ミャウ」と名乗っています(おそらくファールの同族の別個体)。
 幼い頃、よく一緒に遊び(アリサの人形を使った1人遊びですが)、いつも綺麗に磨いてくれた娘が家族を失い、悲しみに暮れてるのを見て、いてもたってもいられなくなったミャウは、ついに何十年ぶりかに自発的に動き出したのです。
 ただの置物と思っていたものが自分の元までやってきたのを目の当たりにして、さすがのアリサもびっくり。しかし、かつて愛情を注いでいたものが、想定外の形で励ましてくれたのがきっかけとなり、立ち直る事に成功します。アリサにとってミャウは、同じ家に住んでいた「家族」の一員であり、その生き残りが自分の元までやってきた―――アリサには、そう思えてならなかったのでした。


 亡命したアリサは1年後、一般市民としてルツ、タイロン、そしてミャウの3人と1匹(?)で冒険者を始めました。もはや貴族の娘ではなくなったアリサにとって、未来は自分の実力で切り開くしかなかったのです。
 幸い、建国王直属の忠臣としての勇者の血を濃く受けついだようで、アリサは美しさ、知性、体格などに恵まれ、一流といって良いレベルの魔法剣士へと成長します。
 しかし、そんな彼女を帝国情報部が見逃すはずがありませんでした。一般人として静かに暮らしているならまだしも、強力な魔法剣士となって世間を動かすとあらば、帝国にとっては危険分子以外の何者でもありません。

 情報部は、当時問題になっていた「転生竜アートルム」による元素神復活の陰謀の解決に、彼女を巻き込む事にしました。転生竜は元素神を復活させることで、対となって封印されている〈赤炎龍〉エリュトロンも同時に復活させ、かつて神話時代に行われた銀の月VS〈龍〉の戦いの続きをやろうとしていたのです。
 そして、それを阻止するためには、封じられた元素神を崇める海底の〈グルグドゥ〉の街に赴き、元素神と直で話をする必要がありました―――無論、ルナルとは世界律が異なる世界からやってきた異貌の神と交信して、人間が正常な精神でいられる確率はほとんどないと思われていました。つまり帝国情報部は、彼女を交渉の生贄に使って使い潰すつもりでした。

 しかし、神との交渉は成功してしまいます。数々の冒険を通じて強靭な意思を獲得していたアリサは、正気を保ったまま元素神との交信用アイテム「封龍剣ラコニウム」の所有者となったのです。そして、パルマの上空に現れた黒幕の転生竜を単独で撃破してしまいます。
 ラコニウム・ソードの所有者は、異貌の神と〈龍〉の調停を行う〈剣の巫女〉であり、彼女がいなければ封印を保てません。そして世論を考えれば、単独で帝国都市を守ったという偉大な功績をないがしろにする事などできません。

 ここにきて帝国は、彼女の謀殺を諦めざる得ませんでした。それどころか、彼女がいなくなると海底のグルグドゥたちが敵に回り、帝国領土が一方的に危険な状態に陥ってしまいます。
 そのため帝国は、海岸都市パルマだけを独立させてアリサに領主役を任じ、〈剣の巫女〉として生涯を全うするように依頼しました。旧ザノン王家血筋の者に自治領を与えるなど、通常ならばありえない選択ですが、状況が状況だけにやむ得ません。
 一方、もはやザノンの復興などに全く興味のなかったアリサですが、〈剣の巫女〉としての使命をまっとうするためには資金力や実行部隊が必要なため、これを受ける事にしました。

 数奇な運命を辿った彼女は、こうして10年ぶりに故郷の地を踏むことになりました。旅の仲間たちは、現在も彼女の臣下として共にあります。
 アリサは現在、「特命領主」(地位レベル3)という非常に特殊な立場にいます。

 中央集権制国家であるトルアドネス帝国は官僚制度であるため、領地持ちの官僚である「領主」(地位レベル4)と、それを補佐する領地を持たない官僚(地位レベル3)によって統治されており、地位レベルが3しかないのに領地経営権を持つ「特命領主」などという地位は、少なくとも帝国内には他に誰もいません。
 実のところ、彼女にだけ「旧ザノン王国の封建制度」が適応されており、封建制度における「村レベルの領地1つを割譲された騎士」(地位レベル2)という特別な扱いを受けているのが実情です。ただし、国家の存亡に関わる重大な使命を常時抱えていることから「地位レベル3」扱いとなっており、末端ながらも帝国貴族です。そのため、政治にもある程度は口出しする権限を持っています(平常時は、本国から免税特権を受ける形で権限を行使しています。アートルムとその眷属の陰謀から、街を防衛する資金を得るためです)。
 無論、帝国としてはアリサ個人の能力は認めるが、旧ザノン王家の血筋を復興させる気など毛頭ないので、その地位は彼女1代限りのものです(もっとも、アリサが帝国貴族の誰かと結婚したら話は変わってくるでしょうが)。

 しかし、限定的とはいえ帝国に権力を認めさせた彼女の元に、元ザノンの貴族や騎士が「王国の復興」のために取り入ろうと頻繁にパルマに訪れており、それに対処するための帝国情報員も街中で暗躍しています。そのせいで海洋貿易の拠点でもあるパルマは異様な活気に包まれており、帝国の経済に影響を及ぼす程度の存在になっています。一時期は、カルシファード侯国に亡命中のザノン王家の最後の生き残りの姫君ウェンディエン・ザノスからも極秘通信が飛んできたと噂されていますが、アリサは知らぬ存ぜぬ状態です。
 アリサにとって現在の自分はあくまで故郷の町の人々を守る〈剣の巫女〉という神官的な地位であり、もはや滅びた王国の王家の地位とかいうものに興味がなかったのでした。

 現在のアリサには「対竜戦力」の名目で、帝国自治領の一つ「ブラン=トルア公国」の女公ランナカイから、黎明期に製造された初期型の飛空艇を数隻貸し出されています…実際には、アリサの行動を見張るための監視部隊ですが。
 それでも飛空艇は、空中での高速戦闘が主体のアリサにも付いてこれる数少ない空中拠点であり、対地・対空戦闘なども一通りこなせるため、アリサもちょっと気に入ってます。


【設計思想】
 《すばやさ》の呪文で敏捷力を5点引き上げ、ラコニウム・ソードに魔化された《倍速》を使って、「全力二回攻撃」→「攻撃」を繰り返すという純戦士に近いキャラです。竜相手であれば、ラコニウムソードにかかった魔化により、致傷力4Dのダメージを叩き出す事が可能です。呪文も一応使えますが、非戦闘時用の補助に過ぎません。

 アリサはこのように大出世した身でありながら、年齢はまだ24歳と非常に若いため、技能に投資可能なCP量が制限されています。その代わりに、能力値と「財産」が異様に膨れ上がった設計になっています。体力が16もあるため、バスタードソードを片手で振るっても非準備状態にならず、長さ2の安定した武器として使えます。しかも片手なので、左手にはシールドも持てます。
 なお、鎧には《高速飛行》が魔化されており、これによって飛空艇の力を借りずとも、単独で飛行戦闘が可能です。高速飛行中は余裕で移動力20を超えてしまうため、空挺専門のミュルーンや翼人でも追いつけません。
▼次のステップへ
▲メインに戻る