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■カルシファード出身者
 この項目では、カルシファード出身のキャラクターの作成ルールを紹介します。以下は、カルシファード侯国が辿ってきた大まかな歴史です。これを参考にした上で、キャラクターを作っていく事が望ましいでしょう。
■概要
 リアド大陸中央部内海に浮かぶ大きな島国カルシファードは、温暖多湿の気候であり、大自然が非常に豊かな土地です。特に清浄な水源が数多く存在し、かつてはエルファの祖先となる種族が繁栄していました。
 そんな中、人間の祖先となる種族は〈遥か人〉と呼ばれ、森と海の間の沿岸地帯で、大自然と調和した生き方をしていたと言います。また、魔法に対する忌避感情がなく、むしろ積極的に利用していました。
●神話直後の時代
 〈遥か人〉は、白き輪の月のウィザード種族と自分たちとを区別せず、一緒に暮らしていました(そもそもウィザードのほとんどは人間種族出身です)。〈遥か人〉の集落の村長は、主にウィザードが担当していたと言われています。
 また、後の時代に派生するエルファの祖先種族とも協力して、大自然の恵みを収穫しつつ、平和に暮らしていました。
 星辰の彼方より銀の月がやってきた際も、元から魔法に対する理解が深かったせいか、わざわざ信仰の鞍替えをする〈遥か人〉は、ほとんどいなかったと言います。それが原因で、この地方の銀の月の眷属は、あまり勢力を伸ばせずにいました。
 また、当時のカルシファードは大部分が森に覆われていたため、元素神の眷属たちの住居に適した場所がほとんどなく、そもそも領域の奪い合いが起こりようもありませんでした。

 以上のような理由から、カルシファードでは他の地方とは異なり、彷徨いの月の種族と銀の月の眷属の争いはほとんど起こらず、「何だかよく分からないけど、とりあえず共存可能な隣人」という関係に落ち着きました。そして、何かしらの和平協定を結んだと言いますが、その内容は現在には伝わってません。
 この時代の奇妙な共生関係は現在も続いており、この国の銀の月の眷属たちは(爬虫人ですら)人間に対し、他の地域ほど敵対感情は持っていないようです。風の元素神の眷属たる翼人にいたっては人間の国家の傭兵として雇われ、良好な関係を築いています。


 その後、人工天体としての緑の月が生み出され、エルファの祖先は彷徨いの月から独立し、緑の月を崇めるエルファとなります。〈遥か人〉は新種族エルファを歓迎し、それまでと同じように平和的に共存します。
 さらに、銀の月の種族から緑の月への転向者が現れるという、大陸では見かけられない奇妙な事件が各地で発生し、「銀と緑の月を同時に崇める」種族が発生しました。彼らはエルファの庇護を受け、森で暮らす事になりました。

 この共存と平和の時代は非常に長く続き、時にエルファと〈遥か人〉の混血もあったと言います。現在のカルシファード人もまた、エルファの遺伝子を一部引き継ぐためか、全体として長寿の傾向にあります。
 しかし、両者が同じ村で暮らす事は決してありませんでした。というのも、エルファは獣に近い独特なライフ・スタイルである事に加え、〈遥か人〉の「積極的に戦いを楽しむ」側面と、エルファの〈円環〉が示す「不必要な戦いは一切やらない」という思想が噛み合わなかったためです。

 とは言うものの、当時の〈遥か人〉同士の戦いというのは、現在のような集団戦ではなく、それぞれの部族が代表者である勇者1名を選出し、一騎打ちの形で武勇を競い合うものであり、戦争というよりもスポーツに近いものでした。
 エルファたちから見ると、〈遥か人〉は「荒々しい気質のギャビット・ビーよりずっと大人しい」と映ったようで、「やんちゃだけど良き隣人」といった認識でした。




●〈悪魔〉戦争時代
 〈遥か人〉とエルファの関係が大きく変わったのは、〈悪魔〉戦争に突入してからでした。〈遥か人〉は双子の月に鞍替えして「人間」となり、神々から様々な知識や文化を得ることで、その気質が大きく変わります。


 そしてある時、〈悪魔〉の策略により「黒の月を呼び出し、世界をどん底に陥れたのはエルファである」と、カルシファード全体に暴露されてしまいます。
 当時の〈遥か人〉は、純朴かつ潔癖症気味の気質だっただけに、この事実を知らされた直後のエルファに対する怒りは凄まじいものでした。両者の関係に、もはや修復しようもない大きな亀裂が入り、互いに駆逐し合うという最悪の事態へと発展します。

 そして人間たちは、エルファ種族の生命線であり、当時の人間自身の補給線でもあった森林を、次々と焼き払う戦術に出ました。エルファたちは信じられない思いで、人間たちの行動を前に唖然とします。
 エルファの常識からすると、どうみても後先考えない自滅じみた稚拙な行動でした。「いくら憎いからとはいえ、自分たちの生命線まで壊してどうするつもりなのか?」「我々と無理心中する気なのか?」と…

 しかし、エルファたちは知らなかったのです。
 双子の月から文明を得た人間は、新たに農耕技術を習得した事と、ドワーフの鉱山が生み出す機械文明の方にシフトした事から、実は以前ほど森に依存するライフスタイルではなくなっていたのです。人間として生まれ変わった元〈遥か人〉は、かつてのように自然に対する義務感を持ちあわせていませんでした。
 こうしてエルファたちは、予想外の戦術に対応できずに敗走を続け、多くの大森林を守れず、そのほとんどは焼失しました。近年になって、じわじわと自然が戻りつつあるものの、かつての豊かな大森林には程遠い状態です。それは、人間がサリカ神から授かった農業を効率よく進めるために、敢えて森を再生せず、平野として使い始めたのも1つの原因でしたが。

 現在、生き残りのエルファたちは、地方に残された小さな森の中で閉鎖的な暮らしを送っています。かつての人間との良好な関係など影も形もなく、今もなお絶縁状態です。
 この国に残る数少ないエルファたちは、自分たちの先祖が犯した罪に対する後悔と、自然を愛する心を失った人間に対する不信感の板挟みになっており、積極的に森から出て、人間と交わろうとする者は皆無となりました。


 さらに人間たちは支配的な側面を拡大し、定住地を持たず、ふらふらとうろつく彷徨いの月種族を次々と追放していきます。「〈悪魔〉に勝つためには徹底的に戦力を統合し、滅私奉公の精神で戦うべきだ!」「欲しがりません。勝つまでは」をスローガンとし、他の種族にもその生き方を強要したのです。
 平原に住んでいたミュルーンやギャビット・ラー、シャロッツといった存在は、規律ばかり唱えて全体主義に走り始めた人間をうざったく感じ、また島国ゆえに平野の広さも大した事がなかった事から、この島に見切りをつけ、次々と大陸へと移住しました。
 一方で、森に住んでいたフェリアやギャビット・ビーたちは、エルファに味方したがために住居である樹木ごと焼き殺され、ほぼ全滅してしまいました。


 〈悪魔〉戦争は、カルシファードの社会に多くの負の遺産を残しました。
 とりわけ大きかったのは、黒の月の種族との激戦を経験した人間たちが、過剰に「武」を尊ぶ精神に傾倒した事です。そしてTL3の時代、武力の資質に最も大きくかかわるのは「腕力」(体力)です。
 かくしてカルシファードの人間社会は、腕力が強い男性こそが絶対の支配者であり、非力な女性に支配者たる権利はなく、ただ男に従い、「生む道具」として奉仕すれば良いという、石器時代レベルの思想に退行してしまいます。
 さらに、さんざん〈悪魔〉陣営の魔法に苦しめられてきた経験から、「魔法は卑しい者が使う卑怯な手段」という考えが定着します…実際は、魔法使いが増えると、魔法に弱い戦士が支配者の地位を守れないからという、何とも姑息な理由でしたが。
 しかし、もはや勝つために手段を選ぶ精神的余裕がなくなった人間たちは、弱点を克服するのではなく、苦手なものを徹底して社会的に貶めることで自分たちを守るという卑劣な手法をとったのでした。

 これまでずっと仲間として扱われ、〈遥か人〉のリーダーの地位にいたウィザードたちは、社会から追放こそされなかったものの、一歩離れた場所に置かれ、群れて魔術師団を形成しないように個人ごとに切り離して管理され、警戒の目を向けられるようになります。


 魔法と親しく、正々堂々を好み、周囲との調和を重んじた〈遥か人〉の気質は、卑劣で、偏見に満ち、自分たち以外を下に置いて支配するという臆病者の暴君へと変化しました。こうした思想的な歪みは、以降のカルシファードの社会に深く根付いてしまい、文明の発展や国外や異種族との交流において、様々な弊害をもたらし続けます。

 すべては、〈悪魔〉がもたらした終わりなき恐怖と苦痛が原因でした。




 こうした歪な変化に対し、拒否反応を示した〈遥か人〉もわずかながらいたと言います。彼らは、(あくまで結果論ですが)力への渇望を促進してしまった双子の月を崇める事を止め、かつての彷徨いの月信仰を保ったまま、ウィザードが作り出した〈門〉を通過し、いずこかの地へと旅立ったと言います。
 その後、彼らがどうなったのかを知る者は、少なくとも現在のカルシファード人には存在しません。




●双月歴黎明期
 〈悪魔〉戦争による疲弊が激しかったカルシファードは、残敵たる黒の月の蛮族の掃討よりも、早く経済を立て直す事を重視した結果、軍時に携わる者を少数精鋭に絞り、それ以外の平民の徴兵は止め、生産活動に集中させる方向へとシフトしていきました。
 それは皮肉にも、彼らが駆逐したエルファの〈円環〉社会と似たような社会構造でした。

 その結果、馬上での弓術と、独自のカルシファード・ブレードの運用に練達した少数精鋭の重装弓騎兵「武戦士」が軍事を担当し、各地の治安を守る事になります。一方、民間人の徴兵がなくなったことから、他国では軍事に必須のクロスボウの運用が完全に廃れます。
 外敵がいなければ、あるいはこの統治でも良かったのかもしれません。
 しかし双月歴533年、その不安が現実のものとなります。当時、グラダス半島を統一していたシュラナート帝国の侵略軍が、リアド大陸中央部への侵攻の足がかりとして、カルシファードを制圧しようとやってきたのです。

 しかし、これは思ったほど脅威ではありませんでした。
 黒の月の蛮族との終わりなき戦いで、戦いの技量だけは極限まで研ぎ澄まされていた武戦士たちは、弓騎兵としての力を存分に発揮し、大軍で押し寄せてくるシュラナートの歩兵部隊に対し、一騎当千の凄まじい戦果を挙げます。
 シュラナート帝国軍は数こそ多かったものの、海を渡らせて送りつけてきたのは主力騎士団ではなく、占領地民の動員兵ばかりであり、武戦士たちの敵ではありませんでした。




 さらに双月歴795年頃、今度は大陸中央で最も強大だったザノン王国が、海を越えて侵攻してきました。ザノンの攻略軍の数は圧倒的で、カルシファード制圧はすぐに終わるだろうと予想されていました。

 しかし現実は予想と大きく異なり、鬼神のごとき強さの騎兵隊の前に、ザノン攻略軍の側が舌を巻きます。攻略軍は歩兵の損耗を避け、指揮階級である騎士たちが自らランスを持ち、武戦士に戦いを挑みます。
 ですが、馬上で騎射を行い、戦場を縦横無尽に駆け回る武戦士たちに対し、馬上槍突撃しかできないザノンの騎士たちは、ほとんど手が出せませんでした。逆に、足場が不安定な地形へと誘い込まれ、仕掛けられたトラップに次々と引っかかって、何もできないまま戦闘不能に追い込まれます。
 かくて、すぐに終わると踏んでいた戦いは20年の長きに渡り、ザノン攻略軍の指揮官は3度交代しました。

 一方で、侵略者を圧倒していた武戦士たちも、今度ばかりは楽な戦いではありませんでした。少数精鋭政策を取っていた当時の軍制度では、数で押されるとどうしても守り切れない箇所が出てきて、一部地方では取られては取り返すの連続となりました。これでは支配地の生産活動が安定しませんし、何度も出撃させられる武戦士たちも、やがて疲労で倒れてしまいます。
 カルシファードの部族連合は、武戦士になるための条件を引き下げ、彼らの周囲で世話をしていた従者たちにも武戦士としての称号を与え、主に歩兵として参戦させる事にしました。こうして歩兵部隊の概念が戻ってきたカルシファードですが、あくまで戦いは武戦士の特権である姿勢を変える事はなく、カルシファード・ブレードと弓の習熟にこだわりました。

 ある程度の兵員数を確保し、防衛戦が楽にできるようになった武戦士たちは、やがて島からザノン攻略軍を完全に追い出すことに成功し始めます。それでもザノン王は色々と思惑があり、執拗に侵略軍を送り続けました。




 そして、戦争が開始されて20年後。

 ついに侵略を命じたザノンの王が崩御しました。
 新たな王は、戦費ばかりかさみ、本国の経済を悪化させる一方の侵略作戦を速やかに停止するよう、攻略軍に命じました。
 ところが、攻略軍はその命令を承諾できませんでした。そもそも攻略軍に参加している騎士や兵士たちは、本国で居場所がない没落騎士や傭兵の食いっぱぐれたちであり、ここで領地を切り取らないとどうしようもない連中ばかりだったのです。
 ここにきて、当時の攻略軍司令官コウキ・エルナイドは一計を案じました。遥か遠方の本国の宮廷貴族などよりも、いまや最も親しい隣人のカルシファードの人々と、独自に講和条約を結んだのです。
 そして、現在切り取った部分の領地を直轄領として、自身をここの領主に任命してくれと本国に通達しました。それはすなわち、実質独立した国家として、自分をカルシファードの統治者として認めろという要求です。ザノン王家を宗家とし、税金も収める代わりに、カルシファードに政治干渉するなという交換条件でした。

 これに関して、カルシファードの部族連合も敢えて外来の王を頂く条件に乗りました。というのも、武戦士たちもあまりにしつこい攻略軍の侵攻で疲弊し、一刻も早く停戦しないと統治自体が破綻する寸前だったからです。
 一方で、攻略軍司令官エルナイドには、王としての資質が確かに感じられました。一向にトップを決められない武戦士たちを束ねるだけの力量とカリスマ性が備わっていたのです。

 この要求を、ザノン本国は飲まざるを得ませんでした。
 ザノン王国の主力部隊は、長い戦争の末、今や最前線にいる攻略軍となってしまっており、その最精鋭部隊を敵に回して戦えるだけの兵力など、もはや本国にはなかったのです。
 こうして二つの民族が融合し、カルシファード侯国という名が正式名称となります。司令官エルナイドは「大軍監」という地位名称に改められ、地元の各部族の長は「旗将」となり、各封土の自治権を認めるという、連合国家の形態をとるようになりました。




●新興国台頭期
 ようやく安定した統一政体ができたかと思いきや、初代大軍監が亡くなるとすぐに、国は割れてしまいました。結局、二つの民族はエルナイドのカリスマ性で辛うじてまとまっていただけだったのです。


 カルシファードは戦乱の時代に突入し、やがて東軍と西軍の二大勢力となります。かたやザノン王国の傀儡に過ぎない西部大軍監。もう一方は〈遥か人〉の正当な末裔と祭り上げられた王を頂く東部大軍監でした。しかし、どちらの勢力も傀儡政権に過ぎず、カルシファード全体を統制する力に欠きました。
 この混乱を収束して、カルシファードを統一政体にしたのは、クオン・アンデンという名の英雄です。元は、封土持ちの武豪士の従者に過ぎない自作農民出身者でしたが、戦場で功績を上げ、武戦士へと昇格。さらにそこでの武勇が認められ、旗将の片腕となりました。
 1軍を任された彼は、少数の兵力で西部大軍監本陣を打ち破り、大勝利をもたらします。さらに彼は、彼に忠誠を誓った影タマット集団の力を借りて、味方陣営内の政敵を次々と葬り、東部大軍監の地位を乗っ取る事に成功します。

 新生大軍監となった彼は、新たな幕僚府を開き、大陸からもたらされた文化を敢えて捨てる一方、かつての〈遥か人〉の文化を呼び戻し、それを重視した独立政策を取ります。例えば、名前を名乗る順を姓→名にしたのも、その現れと言えます。アンデン・クオンと名乗るようになった彼は、国外からの妨害が入らぬよう、さらに鎖国という策に出ました。

 元々、国外とは異なる部分が多かったカルシファードですが、この鎖国によってますますリアド大陸の文化から遠ざかりました。かといって、〈遥か人〉の文化を取り戻せたかと言うと、そうはならなかったのです。
 もはやこの時点で〈遥か人〉と同じ所に戻るには、あまりに多くのものを失いすぎていました。一方で、〈悪魔〉戦争後に得た負の遺産(極度の男尊女卑や武人の過剰優遇など)だけが、さらに深く根を下ろすようになり、文明の停滞を招いてしまいます。

 しかし、鎖国によって平和が訪れたのも確かで、彼が没してから200年の間は、大した事件も起こらず、平和な日々が続きました―――少なくとも、見かけだけは。




 事態が急変したのは、大陸中央で400年の長きに渡り、支配者であり続けたザノン王国が、ついに倒れたことがきっかけでした。ザノン王国を倒したのは、新興のトルアドネス帝国。

 さらに不味い事に、ザノン王家は完全には滅びておらず、最後の生き残りである第3王子ガイネストがカルシファードに亡命してきました。そして、もはや形式だけになっていたはずの主従関係を盾に、トルアドネス帝国を討伐するよう、幕僚府に命令してきたのです。彼の後に続くかのように、ザノン王国の残党たちも次々とカルシファードに流れ込んできます。

 200年もの平和で、完全に骨抜き状態だった幕僚府は、この事態に困惑するばかりで、全く結論が出せませんでした。国はザノン王派と幕僚府派の二つに割れてしまいます。
 実際のところ、今や国土なきザノン王ガイネスト・ザノス2世も、さすがに本気で国を取り戻せるとは思ってませんでした。しかし、このまま帝国を放置するわけにもいきません。

 ガイネストは、決断できない幕僚府を焚きつけるため、建国帝ライテロッヒに自分の居場所を垂れ流して挑発します。さらに、国外に残されていた王国の隠し資産と、わずか10名まで減った側近のスパイを全力投入し、辛うじて戦線を支えていたゼクス共和国とルークス聖域王国すらも動かしてしまいます。
 トルアドネス帝国は、ガイネストの一世一代のド派手な挑発行為に敢えて乗りました。彼らにとっても、グラダス半島を除くリアド大陸統一の絶好の機会だったからです。




 カルシファードに対する最初の侵攻は、西端のマダスカル島から始まりました。

 大挙して押し寄せてきた帝国軍ですが、カルシファードでこの島だけに唯一存在していた、銀の月の火の元素神の眷属「爬虫人」の部族と、セレン内海の海底に住む〈姿なきグルグドゥ〉が力を貸してくれたおかげで、どうにか撃退に成功します。
 彼らが力を貸してくれたのは、どうやら遥か過去にかわした〈遥か人〉との契約によるものだったようです。古き契約に従って、ただ一度だけ。


 次なる侵攻は、カルシファード本土への直接的なものでした。

 帝国軍は当時最新鋭だった巨大魔法兵器「飛空艇」を投入し、ミュルーンと飛空艇からのデルバイの火薬を用いた爆撃で敵を殲滅する予定でした。
 遥かな過去に、「頼りにならない」と彷徨いの月の種族全てを追い出してしまい、ミュルーンの航空戦力としての価値など全く知らなかったカルシファード人は、今頃になって慌てて翼人の傭兵部隊を雇用します。
 しかし、ミュルーン空挺部隊の空間戦闘能力は圧倒的でした。

 これに対抗するために送り込まれた翼人兵は、質はともかく数が全く足りず、退く事を知らない彼らは万歳突撃した挙句に全滅。
 しかも空挺部隊の背後では、バリスタなどの攻城兵器を搭載した飛空艇が、弓矢の射程外から悠然と大地を見下ろしています。これを撃退する方法など、陸戦兵に過ぎない武戦士たちは持ち合わせていませんでした。
 さらに海洋からは大型の揚陸艇が次々と着岸し、完全武装の重装騎兵とドワーフのマスケット銃兵を下ろしていきます。魔法で強化された最新鋭の騎士の鎧や、強力な貫通力を誇るマスケット銃に対し、武戦士の時代遅れな複合弓と大鎧はいかにも頼りなく映りました。

 もはや侯国もこれまでか―――と思われた、その時。

 カルシファード上空に奇妙な暴風が吹き荒れ、帝国の飛空艇が航行不能に陥ります。風に乗らないと長時間飛べないミュルーンたちも、慌てて空母へと戻っていきます。
 さらに陸上では、上陸した騎士団とガンナーを狙い撃ちするかのように、大規模な地震が発生。突撃どころではなくなりました。

 慌てて後退した帝国軍。
 けれど、天変地異が収まり次第、再攻勢に出るかと思われました。しかし、なぜかそのまま帰国してしまいます―――こうして、二度目の侵攻も阻止されました。


 この異常気象は一体なんだったのか?
 撃退したカルシファードですら理解していませんでした。様々な推測が流れますが、どうやら前回撃退した際に発動した古の契約のうち、まだ残っていた風と大地の元素神の眷属との契約が発動したのだという説が有力視されました。
 そして、この推測が正しければ、契約は今回で全て使い果たした事になり、次はもう「奇跡」が起きないであろうことも。

 なお、帝国軍が慌てて去っていった理由ですが―――なんとゼクス共和国方面において、建国帝自身が討ち取られてしまったせいでした。

 実際の皇帝崩御の顛末は、一般には知られていません。
 ですが、直接の原因はどうであれ、ガイネストの挑発に乗って軍事的な禁忌を犯したツケが回り回ってきたのであろうというのが、両陣営の関係者たちによる共通の見解です。
 というのも、帝国軍は自らの力を過信しすぎており、軍事において可能な限り回避せねばならない二正面作戦を、自分たちから平然とやらかしていたのです(ルークスにも喧嘩を売っていたので実質三正面)。
 これでは勝てるはずの戦も、ずるずると長期戦化するのは必至だったでしょう。実際、「一番楽だろう」と言われた遊牧民国家ゼクス共和国の攻略に3年もの歳月をかけており、最終的には皇帝が直接出陣した挙句、逆に討ち取られてしまっています。

 いずれにせよ、これにより帝国全体が喪に服す形となり、帝国の侵攻作戦は終了を余儀なくされてしまいます。後に、この大戦は「紅碧(こうへき)戦争」と呼ばれるようになります。戦闘時、帝国の軍旗には青の月が描かれ、もう一方のカルシファード陣営の旗は赤地で統一されていたことによる命名です。




 この戦いの後、ガイネスト王は42歳の若さで死去しました。表向きは病死との事ですが、実は暗殺されたのではないかと、まことしやかに囁かれています。

 彼は、扇動によって帝国に一矢報いるどころか、皇帝本人を倒してしまうという、彼自身ですら期待していなかった大快挙を成し遂げました。
 しかし一方で、そのためにあまりに多くの人々を巻き込みすぎました。敵味方双方に大勢の敵を作ってしまった彼が暗殺されるのは、もはや時間の問題だったのでしょう。




●そして現在
 皇帝は死んでも帝国は健在であり、ザノス最後の王ガイネストが死んでも、カルシファードの政権は混乱したままでした。

 そんな中、生き残ったわずか10歳のガイネストの1人娘ウェンディエン・ザノスが、父の後を継いで「ザノン女王である」と即位宣言を行いました。少女は父の仇を討つため、帝国が滅びるその日まで、純白の鎧を解く事は決してないと誓ったのです。
 この宣言により、カルシファードは真っ二つどころか4分割状態になってしまいます。

 現在の主な勢力としては、「ウェンディエン・ザノスに忠誠を捧げ、あくまでザノン王国の臣下として帝国との戦争を継続する派」と「滅びたザノン王国など無視して、今こそ1つの独立国としてアンデン家の下に集結し、国力の回復を最優先とする派」です。
 しかし、経済面でまた別の選択肢が存在し、「文化的・経済的限界を打破するために開国する派」と「独自文化を守るため、断固として鎖国を継続する派」の二つで分れています。

 基本的には、ウェンディエンに続いて打倒帝国を目指す者は開国派、アンデン家による治世立て直しを優先する者は鎖国継続派なのですが、「帝国には挑むべきだが、文化的には独立を保つべき」とする派閥や、「独立国として立て直し優先すべきだけど、経済的にもう無理ゲーなんで開国しないとどうにもならん」と主張する派閥も存在するため、単純な二択ではなくなっています。
 また、時代は既に農民のラスボスでしかない武戦士から、経済力を持つ商人の方が権力がを持つ時代になっており、旗将が必ずしも派閥のトップになってない封土も存在します。他方で、グラダス半島ではトリース森林王国が共和制に移行した事から、カルシファードの軍事政権制度自体が、もはや時代遅れのものになりつつある事も認識され始めており、旗将の統率力低下に拍車をかけています。
 そして、それらの主義主張を1つにまとめる力が、現在のアンデン家主体の幕僚府にない事は、誰の目からも明らかです。

 こうして、紅碧戦争から7年が立ち、双月歴1095年現在に至ります。
 常在戦場モードで常に武装している美少女王ウェンディエン・ザノスは18歳の年頃の娘となり、指導者としてのカリスマを発揮しつつあります。また、各旗将は内部抗争は集結させ、旗色を明確にしつつあります。そして国外では、帝国が新皇帝ナーデベント・ジェムの下で態勢を立て直し、再び開戦の意思を見せ始めています。




 果たして、この後のカルシファードの歴史はどの方向へと向かうのでしょうか。そして、あなたが作成するPC(プレイヤー・キャラクター)は、どの陣営に就き、どのような野望を持って行動するのでしょうか。

―――こうした背景を元に、キャラクターを作成すると良いかもしれません。
[編集手記]
 日本人の95%は「セロトニントランスポーター遺伝子」…俗に言う「恐怖遺伝子」を持つと言います。この遺伝子をここまで高い比率で持つ人種は、世界でも日本だけのようです。その効果は、「不安や恐怖を感じやすい」こと。要するに「怖がり」なんですな。

 怖いがためにリスクを回避し、ことなかれ主義に走ろうとします。長時間、恐怖や痛みに晒されるのが非常に苦手なので、短時間でケリをつけようとします。日本人は、酒場での殴り合いなどの喧嘩を嫌うのも、痛いのが嫌だからです。なので、圧倒的実力差を見せつけて、未然に戦いを防ごうとします。感情よりも理性を優先するのも、別に「民族的に頭がいいから!」とかではなく、単に恐怖から逃れる事を第1とするからです。
 …まあ、結果的に思慮深い国民性なのであれば、それはそれでいいんですがね(笑)


 ルナルにおいては、〈遥か人〉は〈悪魔〉という恐怖から逃れたいあまり、人間を絶対至上の存在として他種族を奴隷とし、さらに価値観を「腕力」だけに統一して女性蔑視へと進みました。とにかく極端にする事で先鋭化し、自分たちと同じじゃないものは徹底的に排除して、絶対的な短期間勝利を狙うアプローチに走ったわけです。
 こうした傾向は、現代におけるネット上のオンラインゲームでもよく見られます。1軍とか呼ばれる意識高い系ユーザだけで集まり、弱者(ライトユーザー)を淘汰していくわけです。特にこの傾向がみられるのは、やはり日本人ユーザだったりします。逆に、外国人ユーザーの多くはまとまるのが苦手で、個々が好き勝手にやるのがデフォルトなので、総体としては雑魚集団だったりしますが、個々を見ると非常にユニークなユーザーが多いのが特徴です。

 別に、どっちが正しいとかいう話ではありません。念のため。

 言うまでもないですが、どんな事でも極端に先鋭化してしまうと、異なる状況への対処が難しくなり、そこから崩壊が起こります。先鋭化は目先の危険への対処には非常に効果的ですが、多方向への対処が苦手なので、組織としての寿命が短いという欠点があります。しかも、体制が変化する事への恐怖から、なかなか改革しようとしません。
 結果、「まだ行ける」を繰り返した挙句、ギリギリの状態になってようやく改革しようとしますが、その頃には全ては手遅れってわけです…今の日本の政治もまさにそれですが。

 このように、人類学に基づく分析を行えば、〈遥か人〉の行動原理もだいたい予想がつきます。


 「ルナル完全版」の巻末に、カルシファードでの冒険用のルールがあり、そこに歴史が数ページにも渡って載ってるんですが、どうもルナルの作者はそうした行動学の知識がなかったのか、〈遥か人〉が変化していく過程の歴史が、あんまり上手に書けていません。
 エルファと決別してしまった顛末とか、彷徨いの月の種族がいなくなった理由とか、魔法嫌い・女性蔑視に走ってしまった歴史なんかは、〈悪魔〉戦争と人間行動学を絡めれば、そんなに頭を捻らずとも設定できるはずなんですが、ルールブックの説明書きはそのへんが全て曖昧になってて、「なぜかそうなってた」というダメな設定で満載しています(しかも無駄に文章が長い(笑))。

 なので、管理人が独自の解釈を加えて、大幅に設定しなおしました。上記の歴史の前半部分(〈遥か人〉だった時代)は、原作とは細部がかなり異なっていますが、原作のルール的な部分とは矛盾してないはずです。
 後半の双子の月の信者になって以降の歴史は、特に問題なかったので、ほとんどそのまま書き写しています。




【人物的な感想】
 ザノン攻略軍司令官のコウキ・エルナイドとか、第3王子ガイネストは、まぁ確実にシャストア信者なんでしょうな(笑)
 この二人は、恐怖のあまり武力に偏ってしまったカルシファードでは珍しく、武ではなく舌で歴史を動かしています。エルナイドは美形でカリスマ持ちのシャストア信者の王子様で、ガイネストは復讐に燃える軍師風のオッサンってとこでしょうか。MMDでのモデルも、それっぽいものを充てました。


 これに対極するのが、地元民出身の英雄クオン・アンデンで、名前からして小説の主人公アンディ・クルツのもじりだと思われるので、おそらくガヤン信者なんでしょう。やってることも超保守的で、〈遥か人〉に戻ろうとしています。さらに鎖国というコンボを発動。
 ですが、過去に大切な家族だったはずのエルファやウィザードに対して、あまりに酷い事をした後なので、戻るのは到底無理な話でした。結局、彼に出来たのは、歴史を停滞させて一時の平和を手に入れた事だけ。
 しかも停滞したことに対するツケを、帝国軍の侵略という形で支払いを要求されてしまいます。現代日本と同じく、ことなかれ主義で作った借金にひたすら追われてる感じですな。


 最後の最後に登場するガイネストの1人娘ウェンディエンなんですが…どう見ても蛇足感が半端ない。おそらく、地球におけるジャンヌ・ダルクがモデルかと思われますが、もうザノン王国は滅びたのに、敢えてザノンの旗を掲げるのは、自ら破滅のフラグを立ててるようにしか見えない。
 せめてその旗は下ろせよ、と(笑)

 実在したジャンヌ・ダルクも、フランス政府の広告塔として使われ、最後は敵側(イギリス)に売り飛ばされた挙句、イギリスの逆転負けの言い訳を捏造するためだけの生贄として処刑されました。
 ジャンヌ自身、頭が良くて信仰心の深い、ごく普通の富裕農家の真面目系美少女で、イギリス側も宗教裁判の際、処刑する理由がなくて非常に困ってました(士気高揚によるイギリス軍撃退に関しては、国家による正規の軍事行動なので、別に非合法ではない)。
 挙句の果てに、(看守の強姦を回避するために)男装していた事を理由に悪魔だという苦しい言いわけをでっち上げ、それを理由に火刑に処されました。ほんと、くだらない茶番の末、苦しみながら殺されたわけで、酷いなんてレベルじゃない。
 その感覚は当時の人々も同じだったようで、裏事情を知っていた当時の国民たちの感情の悪化は半端ではなかったらしく、フランス政府とキリスト教会は何とか国民をなだめるためにジャンヌを「聖人」枠に入れ、数百年立った現在でも彼女のためにお祭りをしています。

 …しかしまあ、私に言わせれば、そんなことをしても「ただの自己満足」かな、と。だって、ジャンヌ本人は死んだ後なんですから。彼女自身が生きてる間に救われなければ、いくら贖罪の行動を取ろうとしても無駄です。なので私にとっては、ジャンヌは聖女ではなく、まだ若かったのに人生を奪われた可哀そうな被害者以上のものではないです。
 仮に、あの世(霊界)にジャンヌが存在したとして、今さら祭られても何の喜びもなく、もう地上の出来事などに関わりたくないって思ってるでしょうね…


 なお、小説だかリプレイだかでは、ウェンディエン姫は代理決闘者と主人公ヒビトが決闘し、代理人が負けたので、どこかへ去っていったようです。まぁロクな結末にならない気がするんですが、ジャンヌ・ダルクと同じ結末にならなかっただけ良しとしましょうか…
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