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■第13節 銃と魔法
 科学と魔法は相容れないと言われる。

 それは、生物における収斂進化(しゅうれんしんか…似た環境で暮らすと全く異なる生物種でも似た特徴や造形を持つ現象)と同じように、魔法文明と機械文明それぞれのインフラを支える動力源(電力やらマナやら)が異なるだけで、文明を表現する「形」(構造物やシステム構造など)自体は、似たようなものになるからなのかもしれない。
 似たものが同一環境にあると、強い側が優先されて発展する一方、弱い側は淘汰される。マナが濃い世界では魔法が全てを制御し、科学理論や機械技術など必要ないであろうし、逆にマナ濃度が低ければ、科学と機械が社会システムを構築し、魔法など子供の読む絵本に登場する「おとぎ話」のネタにしかならないであろう。

 あるいは、精神面で十分に成熟した高度文明であれば、双方を共存させる事の意義(単一手段に依存する事による滅亡の回避)を見出し、両方とも発展させているのかもしれない(例えば機械と超能力が融合したSF社会など)。
 ただ、そういったレベルに至る遥か手前で、互いに殲滅せんと潰し合い、おそらくは片方が再起不能に近いレベルで没落する歴史を歩んでいると思われる(文明黎明期は、異種の思考との共存を認めるほどの経済的・精神的な余裕がないため)。

 ゆえに、機械文明の発展の先に登場する銃火器と、戦術転化しうるレベルの攻撃魔法は、同一の世界に存在しないと思われる。



 しかし、その共存不可能な似た者同士がそれぞれ発展した後、何らかの偶然で互いに邂逅した場合―――そこでは一体、どのような戦いが展開されるのであろうか。
■サンプル・キャラクター
 ルナル世界の100cpキャラクターにおいて最強になりうるのは、自在に魔法を使いこなすウィザード種族であろう。ここでは、以下のキャラクターを使う。
【基本設定】
 レア・クラブフラットこと通称「レアさま」は、グラダス半島の鬼面都市バドッカ近郊に存在する垂直都市ピール出身の女性ウィザードです。彼女は、偶然バドッカに立ち寄った師匠によって赤ん坊の頃に引き取られて、大事に育てられました。師匠はピールの魔導兵器部門で活躍する魔化師で、開発中だった潜水用魔導兵器「クラブ・フラット」の名前をそのまま引用され、魔術名とされました。

 彼女はバドッカの富裕層が集う頭部地区の豪商の家出身であるためか、生まれながらの「お嬢様」体質でした。そして、彼女を拾った師匠も似たような気位の高い女性魔術師であったため、まるで貴族令嬢のようなお上品な娘に育ちました。
 自由自在に思い描いた空想を、「魔化アイテム」の形で現実世界で作り出す魔化師という職に就く師匠の影響を受け、彼女も空想の中で生きるようになります。しかし彼女の場合、構想の段階(空想)にのめり込み過ぎて、現状ではまだ実際に作品を作り出す魔化師としての能力がありません。というより、どんどん空想に特化した結果、今では《神託》の呪文の1つ「夢占い」を用いて、様々な空想知識を集めるようにまでなりました。

 修行を経て師匠から独立後も、師匠が彼女の神託の呪文を当てにして「魔化アイテムの設計構想が上手くいくかどうか」を尋ねに来るようになっています。同時にそれが「夢占い師」として生計を立てる手段になっています(現代地球で言うところのコンサルタントのような職業です)。彼女のところにやってくる顧客の多くは、師匠と同じ設計構想の技術的問題点の洗い出しを依頼してくる魔化師のウィザードや、行政の政策決定段階でアドバイスを求めてくる政府の官僚といった「上流階級」が主流になっています。
 将来的には、師匠と同じ魔化師の道を選ぶ予定ですが、別の道として《神託》の呪文を複数習得し、「占い師」に特化した人生もちょっと考えています。


 キャラクターの元ネタはフリーソフト「MikuMikuDance(MMD)」における、かにひら氏デザインのユーザーオリジナルキャラの1つ、商品分類上は「ボーカロイド」の一種(?)とされている「レア」、通称レア様です。


【設計思想】
 夢占い師の設定を拾った上で、可能な限りマンチキン作成した100cpウィザードです。25レベルに達した《誘眠》で対戦相手を即座で制圧します。また、何らかの理由で《誘眠》が効かない場合、接近して《音噴射》での制圧を試みます。
 一応、常時《浮遊》の呪文で飛行しているため、地上キャラ相手ならば近接戦闘もそれなりにこなせますが、《韋駄天》や《盾》などの維持呪文での接近戦フォローが一切ないので、能動防御はあまり高くありません。なるべく近接戦闘は避けた方が良いでしょう。

 防御に関しては、射撃に対抗するために《矢よけ》の呪文を20レベルで習得しており、朝起きた時に必ずかけて、活動中はずっと維持状態にしています(コストはゼロ)。これと《浮遊》を合わせれば、地上キャラから接近戦に挑まれるのを回避できるので、同じく飛行キャラが白兵攻撃を仕掛けて来たり、、遠隔誘導可能な特殊兵器(例えば《踊る武器》が魔化された剣など)に晒されない限り、戦闘で負傷する事はないでしょう。
 一方、魔法抵抗に関してはあまり高くなく、一応「意志の強さ」を2レベルで取得していますが、基準となる生命力が低い事から、生命力抵抗の呪文で攻められると耐えられません。今回は、機械文明出身者が対戦相手なので、魔法抵抗が必要になる局面はないと割り切った上で、そのような設計になっています(これにより発生した余剰CPで「夢占い師」の設定を再現しています)。
■実践
 レア様が唱えた呪文は《神託》の「夢占い」です。
 寝る前に「準備」を1時間行い、寝て夢を見る事で回答を得ます。コスト支払いは起床時に行われます。消費コストは10点です。
 レア様は熟練により1点減少しますが、そもそも体力9しかないので、起床時に体力がゼロになって気絶するという間抜けな状況になります(笑) なので、6時間寝た後、さらに疲労回復のために1時間は寝ないといけません。

 なお、「ガープス・マジック」が出版された年代が古いためか、「夢を見る確率は5割しかありません」と説明にありますが、これは明らかに間違っています。2022年現在の最新の心理学や脳科学では、人間を含む記憶力を備えた動物全般は、睡眠時に必ず夢を見ている事が判明しています。
 夢とは、言い換えれば「記憶の整理中の残滓」のようなものであり、パソコンを定期的に再起動して記録を整理し、処理速度を戻すように、睡眠によって脳をリフレッシュして記憶を整理する過程でチラ見できる画像記憶です。
 メンテナンス中、脳内に蓄積された画像記憶がシナプスを駆け巡り、それを見た人間は「意味」を求めるあまり、何やら不思議なストーリーをでっち上げます。断片化したパーツのつなぎ合わせなのでちぐはぐではありますが、一応それっぽい物語にはなっています。これが一般に「夢」と呼ばれるものです。
 ただし、起きた時にそれを覚えているかいないかは、その人の心理状況によります。神経質な人や悲観的な人、夢そのものに用事がある芸術家などは覚えていやすいと言われますが、少なくとも確率では決まりません。特にストレスを抱えている時などは頻繁に悪夢を見るため、それを記憶したまま起床する事が多いようです。

 そのため、当サイトでは夢占いの《神託》を使った場合、判定に成功すれば必ず夢の記憶を持って現実世界に戻れるとします。
 《神託》は、上位存在に質問する呪文です。
 具体的に「何(誰)に聞く」のかは、世界観によるでしょう。「マジック」の説明文には「精霊」に関連した説明がみられますが、それは超自然的存在―――要するに「神」です。よってルナル世界では、月の神々に聞くと解釈するのが自然です。


 レア様が「上告」した質問は、この星の衛星軌道上でたまたま情報整理をしていた赤の月の下位従属神の元へと届きました。
 ルナルの人々は、毎日神殿に通って神様に祈りを捧げますが、彼女はそれらの祈りの内容をジャンルごとに整理し、青の月のガヤン神の法廷や、赤の月のシャストア神の劇場へと送信する作業をしていたようです―――我々の地球で言うところの「ネット上の意見箱に投函されたメールを見て上司に報告する」みたいな認識で大体合ってます。

 ちなみにこの女神は、ルナルからは遥か遠い平行世界からやってきた精霊で、この世界のアカシック・レコード(世界記録)を見るためにやってきたらしいですが、その膨大な作業の傍ら、双子の月の神々の仕事に協力する事で利便性を図ってもらってます。歌が得意なのでリャノ神の従属神として仮登録され、人々を助ける歌の女神として活動しているようです。
 …何やらよく分かりませんが、どうやら「真のレアさま」なるものをめぐって、二人のレア様が対決するようです。


 垂直都市ピールの夢占い師
レア・クラブフラット(100cp)と、別世界からやって来たと思しきレア様の色違いキャラ蟹平 玲愛(かにひら れあ)(100cp)が、戦闘を開始します。相対距離は10メートルです。
 レア・クラブフラットは、常時《浮遊》《矢よけ》《音噴射L1》の呪文がかかっており、初期状態から飛行移動・「よけ」+2状態で、右手にパワーレベル1のソニックブレードを展開しています。

 今回は「決闘」が趣旨なので、「高さ」の概念は存在しません(片方が攻撃が届かない場所に移動すると、もう片方は逃げるしかないため)。ただし、《浮遊》の呪文などによる飛行状態の恩恵は有効とします(移動力の変更、「踏み込み」3へクスまで可、「よけ」が無条件で+2など)。
_/_/_/ Turn-01 _/_/_/
 移動力順で、蟹平玲愛(以後、玲愛と省略)から行動開始。

 玲愛はロクに狙いも定めずに、抜撃ち射撃を行いました。通常、10メートルの距離でサイト(照準)も使わずに撃ってもほとんど当たらないと言われます。しかし彼女は、〈銃器〉技能18レベルの猛者であり、この距離で小銃を腰だめ撃ちでも当てられる自信があるようです。
 さらにガープスでは、フルオート射撃での特殊ルールとして「連射しながら狙いをつける」という動作があります。これは連射撃ちしている最中に「狙い」による正確さのボーナスを受けられるという特殊な行動であり、腕のいい射手がこれを行えば、抜撃ちでもそこそこの命中が狙えるわけです。

 玲愛が使用している小銃は、1ターンに10連射できます。ガープス第3版では、連射火器の命中判定は弾4発ごとに1グループとして判定を行い、標的はそれぞれのグループに対して能動防御を行う仕様になってます。今回は、最初の射撃だけ判定の詳細を書きます。

[自動連射武器の命中判定例]
 玲愛が装備しているアサルトライフルのマガジンは20発装填で、フルオート射撃を行うと1秒間に10発発射します。弾の命中判定は4発ごとに行い、それぞれ成功度に応じて命中弾数が決まります(当サイトでは命中弾数に関しては簡略化して、成功度=命中弾数(ゼロ成功でも最低1発命中)としています)。
 今回は4発・4発・2発の合計3回の命中判定(&相手の回避判定)となります。

(第1グループ) 4発
 距離修正(-4)、反動修正(-1)で目標値13―――ダイス目12で1発だけ命中。
(第2グループ) 4発
 距離修正(-4)、反動修正(1倍累積で-2)。銃器の反動ですが、グループが進むごとに累積する仕様なので、第2グループは倍の-2になっています。さらにこの第2グループの判定から「連射しながら狙いをつける」の恩恵が発生します。「狙い」の補正(+11)で最終目標値は23―――ダイス目14で4発全弾命中。
(第3グループ) 2発
 距離修正(-4)、反動修正(2倍累積で-3)、「狙い」による補正(+11)で最終目標値は22―――ダイス目6でクリティカル!2発とも自動命中となりました。

 これらに対し、レア様がそれぞれのグループに対して回避行動を試みます―――が、ご存じの通り、レア様は常時《矢よけ》の呪文を維持しています。よって、これら全ての命中に対し、判定不要で「全て回避成功」となります。最後のグループがクリティカル命中でしたが、《矢よけ》の防御効果を貫通する事はできません。


 ―――結果、レア様は全くの無傷でした。
 さすがの玲愛も、この結果を見て不審に思いました。
 続いて、レア様の反撃。

 25レベルまでマンチキン上げした《誘眠》の呪文を用い、一撃必殺を狙います。10メートル離れていますが、目標値15で判定を―――ところが相手の玲愛は、なんと「魔法の耐性」持ちでした。
 この特徴は、抵抗を突破する側の目標値を
「最終目標値からレベル分だけ差し引く」という、とんでもない効果があります。つまり、どんなに呪文レベルを上げようと、抵抗系呪文の最終目標値は最大16にしかならないのに、なんとこの16からレベル分だけ目標値を下げられてしまうのです!これでは、「ダイス目6以下(確率10%)のクリティカルによる抵抗自動突破」が狙えないどころか、呪文の発動判定すら普通に失敗する確率が跳ねあがってしまいます。

 レア様の放った《誘眠》は目標値10まで下げられて判定―――ダイス目は15で失敗。発動すらしませんでした。


 玲愛が生まれた世界はマナ濃度が「疎」であるため、魔法は全く発展せず、認識すらされていません。その世界は、テクノロジーだけで文明が成立しています。
 そして彼女自身、生まれつき霊感が弱く、心霊現象との遭遇体験が全くありません。さらに、軍隊という組織に属している事もあり、徹底したリアリスト(現実主義者)です。魔法の存在など、はなから信じてません。
 そうした特徴は、ガープスでは「魔法の素養がないから遭遇しない」とか「オーラ感知の能力をもってないから見えてない」と解釈されるのが一般的ですが、ここでは「魔法の耐性で自らそういった現象を封殺している」→「そうした神秘の力を全く信じない娘になった」と解釈し、「魔法の耐性」持ちのキャラクターにしています。

 社会的に魔法が認識されない世界とは、その星のマナ濃度が低いのに加えて「住人の多くが「魔法の耐性」持ちで生まれてくるから」と解釈する事もできるわけです。
_/_/_/ Turn-02 _/_/_/
 魔法を信じない玲愛は、自分の射撃が何らかの原因で外れてると考え、横着せず1ターンかけてサイトを使い、「狙い」をつける事にしました。
 その際、弾倉の交換を行います。弾倉の除去(ゼロ秒)→〈準備/弾倉〉判定成功でマガジンを準備(ゼロ秒)→〈再装填/ライフル〉判定成功でマガジンを装着(ゼロ秒)という手順を踏み、一瞬で再装填を行った後、そのターンの行動として「狙い」をつけました。

 取り外した弾倉には、まだ10発の弾丸が残っていました。しかし玲愛は、相手に装弾数を知られないため、敢えて再装填を行いました(業界用語で「タクティカル・リロード」と言います)。
 ただ相手のレア様は、TL3の中世ファンタジー世界の住人です。そのため、TL7で発明される自動小銃の知識など、そもそも持ち合わせていません。なので、この戦術的配慮は杞憂でした―――まあ、玲愛は相手がどこ出身かも分からないので、無理もありませんが。


 一方のレア様は、続けて《誘眠》を放ちますが、「魔法の耐性」により目標値11まで下げられて判定失敗。ダイス目が悪いのもありますが、さっぱり効きません。

 こうなるともう、もう一つの手段で制圧を試みるしかありません―――すなわち、火球や電光といった射撃呪文、あるいは火炎噴射や音噴射といった噴射系の攻撃です。
 これらは魔法を使って生成した武器を相手にぶつける呪文ですが、生成されたエネルギーや弾丸は、物理法則に従う「魔法とは関係ない普通の物質」です。これらの攻撃手段を使えば、「魔法の耐性」を持つ相手でも普通に効きます。

 レア様は《音噴射》の呪文でパワーレベル1のソニックブレードを維持しているので、これを使ってスタン効果を狙います。ただし、この剣は射程1しかありません。当然の事ながら、彼女にとっては苦手な白兵戦を行うしかありません。

 《浮遊》の呪文で飛行している彼女は、移動力3で前進。
 相手との相対距離は6ヘクス。
_/_/_/ Turn-03 _/_/_/
 1ターンかけて「狙い」をつけた玲愛のフルオート射撃が、わずか6メートルの距離から放たれます。どのグループも目標値20を超えているため、外しようもなく全弾命中。しかし、やはり不可思議な力のせいで、全く命中しません。

 ―――おや?
 玲愛はセーフティーレバーをかけてしまいました。もう撃たないのでしょうか?


 一方、レア様の《誘眠》もさっぱり発動しません。
 そして、この激しい銃撃の中、彼女は半泣き状態で前進します。本当は接近などしたくありません。けれど他の攻撃手段はない。敵との相対距離、3メートルまで接近。


 …レア様が自分の《矢よけ》の防護に不安を抱くのも、無理はないのです。

 なぜならば、ファンタジー世界で《矢よけ》の呪文が開発されるのは、文明レベル1や2といった「隣の部族との交流が発生し、戦争が盛んになり始める頃」と想定されるからです。その時代、飛んでくる射撃と言えば、せいぜい手投げの槍や初歩の弓矢、速くてもクロスボウの太矢くらいでしょう。
 しかし、たった今レア様が体験したように、黄銅で覆われた鉛のフルメタルジャケット弾が、秒速1000メートルもの超高速で秒間数十発以上飛んでくるような環境など、少なくとも《矢よけ》の呪文開発時には想定してないはずです。そして、そんな常軌を逸した超高性能チート武器が遠い未来に開発されるなど、その時点では誰にも想像できないでしょう。

 で、そのような「想像もできない」ような射撃に見舞われれば、どんなに高名な魔術師でも考えるでしょう―――「はたして《矢よけ》の呪文は通用するのだろうか」と。
_/_/_/ Turn-04 _/_/_/
 第4ターン目。

 なんと、玲愛はソニックブレード片手に接近してきたレア様相手に、自分から「飛びつき」を慣行。このリスキーな行動は成功し、玲愛は一気にレア様を転倒させて「組み付き」状態に持っていくことに成功してしまいます。

 「飛びつき」は、ガープスにおいてはほとんど使われないマイナー近接動作です。「体当たり」の亜種扱いなのですが、この判定は敏捷力即決勝負ではなく、飛びつき側が敏捷力で命中判定を行い、防御側が「よけ」で能動防御を行うというプロセスを通ります。つまり、即決勝負ではなく命中・回避判定を挟んでいる時点で、成功率は非常に低いのです。そして攻撃側は、命中判定で失敗したり相手が回避したりすると、敵前で転倒状態になります。
 メリットとしては、命中した場合の体力即決勝負において、攻撃側に実質+4のアドバンテージがあること。この即決勝負で攻撃側が5成功以上上回った場合、同時に「組み付き」状態へと移行できるといった優位性がありますが、同じ体格の人間同士でやるにはデメリットの方が大きすぎて、実用性は低いです。
 ぶっちゃけこの動作は、失敗しても敏捷力判定に成功すれば転倒扱いにならない四足動物が行う動作です。よほど格闘の性能差がなければ、人間同士ではとても推奨できる動作ではありません。

 しかし今回、玲愛は「自分と相手では相当な体格差があること」(玲愛は体力13、対するレア様は9)、「手足が細い上、おおよそ戦いを想定しているとは思えない服装からみて、お世辞にもインファイトが得意そうには見えないこと」「何となくではあるがお互い手詰まりなので、これで打開できるのではないか?」といった事情を考慮した上で、思い切ってギャンブル行動に出ました。

 結果は玲愛の大勝利で、レア様は一応50%の確率で成功の望みがあった目標値10の「よけ」(「移動力5」+「飛行によるボーナス+2」+「後退防御+3」―――受動防御はどう見ても関係なさそうなので今回は無効としました)に失敗してしまい、その後の体力即決勝負では10差で敗北。文字通りマウントをとられてしまいました。


 押し倒されたレア様は、ソニックブレードを持った右手を相手に押し当てようとしますが、近接戦闘では武器技能に-2のペナルティがつきます。〈呪文噴射〉14レベルで実際の判定は目標値12―――ダイス目13で惜しくも失敗。

 一応、さっきから瞬間発動の《誘眠》も放ち続けているのですが、一向に突破できる気配がありません。加えて、そろそろ疲労点がヤバイ段階です(残り疲労点4)。もう《誘眠》を使うのは断念した方が無難でしょう…となると、完全に抑え込まれる前に、このブレードでスタンを狙う以外に勝利の道はなさそうです。
_/_/_/ Turn-05 _/_/_/
 マウント状態に持ち込んだ玲愛は、ホルスターから拳銃を引き抜き(〈準備/拳銃〉判定成功でゼロ秒)、セーフティーを解除して(〈準備/拳銃〉判定成功でゼロ秒)、躊躇なく発砲。さらに一発。

 …しかし、魔法が引き起こす現象に「理屈」なんてものはないのです。《矢よけ》の呪文が「射撃をそらす」と言っている以上、至近距離で撃っても結果は変わりません。
 なお、この状況の場合はGM判断で「完全に密着状態で撃てば弾道をそらすだけの空間がないので命中する」としても良いでしょう―――今回、シャストア神の劇場を間借りした歌の女神は、無慈悲にも許可を降ろさなかったようですが。

 あんまりな結果に、氷のごとく冷静に戦っていた玲愛もさすがにキレてしまい、拳銃を放り出してしまいます。

 そしてレア様自身も、何が起こったのか分からず混乱しています。レーザー照準器の光がきっちり額をマークしていた時点で、彼女は死を覚悟していました。にもかかわらず、肝心の射撃が外れたからです。


 …実は、《矢よけ》の呪文にも限界があります。

 「ガープス・グリモア」の光/闇系呪文《陽光撃》(射撃呪文)の説明文には、「レーザー兵器に対して《矢よけ》《矢返し》は効果がない」とはっきり書かれています(理由までは書かれていませんが、おそらく《矢よけ》では光速で動く物体に対応できないのが理由と思われます)。
 非殺傷とはいえ額をポイントしたレーザーサイトを全く防げなかったのは、《矢よけ》の許容限界(光速以上)を超えていたからです。しかし、TL7のライフル銃の弾丸(マッハ3前後)は辛うじて防げました。レア様は、この許容範囲を理解してなかったために混乱したのです。

 あと、これはガープスのルールブックには書かれていませんが、おそらく誘導ミサイルに対しても《矢よけ》は効果がないものと推測できます。つまり、「自分自身で飛行し、ある程度の誘導能力を持つ飛翔体」は、いうなれば「自分自身の意思で「体当たり」しに行く個人」なわけで、これは《矢よけ》が対象とする「射撃」とは異なると思われます。
 他の例で例えるならば、「飛翔して体当たりしてくる小型の昆虫」とか「《高速飛行》の呪文で飛行して体当たりしてくる魔術師」に対し、《矢よけ》が効果あるか?と言われたら、よほど体当たりに嫌な思い出のあるGMでもない限り、「ない」と判断するでしょう。
 誘導ミサイルは生物ではありませんが、人工の自律誘導装置が自前で操縦し、飛行も自前で行っています。なので「《矢よけ》ではかわせない」とするのが妥当です。

 ようするに《矢よけ》の呪文が効果あるのは、せいぜいTL7の兵器までということです。TL8以降は、レーザー火器やジャイロジェット・ライフル(個人携帯可能な超小型ロケット・ランチャー)が実用化されるため、魔法もそれに応じた防御呪文を開発する必要があります(グリモアの《陽光撃》の説明文にもそう書かれています)。

 レア様が夢占いの内容で提唱した「魔術師は無条件で無敵ですぅー。」という考えは、この舞台を用意した女神からすれば、あまりに浅い思考の産物でした。
_/_/_/ Turn-06 _/_/_/
 第6ターン。

 玲愛はタクティカル・ナイフを抜いて、斬りかかろうとしました。しかし、拳銃と違って使う機会が少ない事もあり、〈準備〉技能を取得していませんでした。1ターンかけてナイフを構え……そうこうしている内に、ようやくレア様のソニックブレードの命中判定が成功します。音の刃には受動防御が無効であるため、玲愛はほぼ回避できません。刃は胴体を貫きました。

 ただし、それでは終わりません。《音噴射》が命中した場合、対象は生命力判定を行い、失敗すると気絶しますが、成功すれば何の効果もありません。パワーレベル1の音噴射なので、判定にマイナス1のペナルティが発生しますが、着用している防具の防護点5点につき+1のボーナスも発生します。
 玲愛が着用しているのは、TL7の技術で生産されるケブラー繊維防護服をセラミック・プレートで補強した軍用ボディアーマーで、防護点は15もあります。拳銃程度であれば、ほぼ完全に止めてしまえる強力な鎧です。そして、上記の計算に当てはめると+3の修正を得ます。
 基準となる生命力11にこれらの修正を加算して、最終目標値は13。これならまぁ成功するだろう―――と思ったら、なんとダイス目は16……失敗です。
 玲愛は、ソニックブレードの一撃で気絶してしまいました。


 レア・クラブフラットの勝利です。


 玲愛は、十分にレア様に勝てるだけのステータスはありましたが、ちょっとばかり運がなかったようです。あるいは、レア様のヒロイン修正ってヤツでしょうか…。
 「銃と魔法が戦ったらどうなるか」

結論。

1.途中経過は完全にGMが決めた初期条件次第。
  双方が相手の文明を知っているか知らないかで変動。

2.魔法文明側は射撃遮断手段を講じなければ、
  1ターン目で即死する可能性大。

3.魔法文明側が《矢返し》を常時維持できれば、
  銃弾を反射して1ターン目で勝利する可能性あり。
  (撃ってくる弾と撃った側の防具開発度により変動)

4.機械文明側に「魔法の耐性」の所持を認めたら、
  最終的には近接戦闘の結果次第になりやすい。

5.機械文明側がTL8以降だと、
  独自の対抗呪文の開発を認めない限り、
  魔術師側の勝ち目は薄い。

――――以上。
■エネミー・データ
【基本設定】
 彼女は、歌の女神によって別の歴史平行世界から召喚されたレア様です。
 「本体」は元世界で普通に生活しており、召喚されたのは幻覚/作成物系呪文で作られる「作成物」に過ぎません。ただしこの作成物は、記憶や経験、身体を構成する分子に至るまで、本人と全く同じ存在であるため、実質「本人」と言っても問題ありません。

 この平行世界のレア様は、あまり幸せな人生を歩めなかったようです。
 彼女の人生の転機は、父親の早すぎる死でした。父は「国境なき医師団」と呼ばれる組織に所属する名医でしたが、とある戦場で流れ弾に当たって死亡してしまいます。
 その事で、父を愛していた玲愛は深い悲しみに包まれましたが、最もショックを受けたのは彼女の母親でした。父の死亡の報を受けた母は精神異常を起こし、玲愛が通学している間に自宅に火を点け、焼身自殺してしまったのです。

 親戚の家に引き取られた彼女ですが、大切な父を失って悲しみに沈み、娘を放り出して自決した母には失望し…それ以来、全く笑わない娘になりました。そして何を思ったのか、おおよそ向いているとは思えない軍人の道を目指したのです。現在は、防衛大学出身の医官(衛生兵)として、「自衛隊」と呼ばれる軍事組織で活動しています。
 軍人を選んだ主な動機は「現実逃避」でしたが、「戦場にいけば父親の影に会えるかもしれない」という妄想も多分に混じっているようです(出会うのは父の幻影か、幽霊か、はたまた父親似の軍医か…)。表向きはリアリストに徹している彼女ですが、本当はロマンチストな側面が強いようです。しかし、それを他人に見せる事は決してありません。

 彼女は趣味の1つとして、VOCALOIDと呼ばれる音声出力ソフトで作られた曲を集めており、特に「IA(イア)」と呼ばれるボーカロイドの曲やグッズを熱心に集めています―――実は、そのボーカロイドは「設定」だけの存在でなく、実際に「意思」が存在するのですが、(「魔法の耐性」持ちなので)魔法や心霊現象に縁がない彼女は、その事に全く気付いていません。
 また彼女の世界における先進国では、新興宗教は「うさんくさいもの」として扱われ、宗教自体にマイナス感情が付きまとうという特殊な世界なので、彼女自身は「自分が何かの信者である」という認識はありません。

 ただし、彼女は収入の1割をVOCALOIDのグッズ購入に充てており、熱狂的なボカロ・ファンです。これはシステム上、ルナルにおける「入信者」の寄進行為をほぼ同じ行為なので、彼女は女神イアの「入信者」として扱われています。ただし、「神殿武器」や「ボーナス技能」の特典がないので0cpの特徴として扱われます(そして、この世界では呪文を習得できないため、神官以上になる事もありません)。
 信徒のわずかな御利益として、女神がたまに運勢面で助けてくれたり、夢を通じて助言してくれたりするといった事があります。そして今回のように異世界に召喚され、不思議な体験記憶をプレゼントしてくれる事もあります。


【設計思想】
 現代の先進国の陸軍所属の衛生兵として設計されており、医師を名乗るのに必要な最低ラインの〈医師〉技能レベルを取得しつつ、プロの兵士としての実力も備えています。特に、〈銃器〉技能の鍛錬に異様なまでに入れ込んでおり、アサルトライフルを抜撃ちで撃っても命中させられるだけの脅威的な技量を備えています。
 格闘戦はそれほど得意というわけでもないのですが、並の男性よりも恵まれた体格で押し切る事も可能です。
(特徴の解説)
●特殊な背景/クリエイション(100cp)
 この特徴は、キャラクターが幻覚/作成物系呪文《従者作成》や《戦士作成》と同じような
「魔法で生成された仮初の存在」である事を示すものです。ただし、身体能力から記憶や技能、構成物質に至るまでオリジナルと完全に同じ存在であり、魔法で生成された点を除けば「本人」と言っても差し支えはありません。

 クリエイションは、魔法文明レベル9以上の上位存在(俗にいう「神」)によって生み出されるのが一般的で、主に「神の代行者」として生成されます。神は自分の信者の生体データをあらかじめ記録しておき、必要に応じて現地でそのデータを元にコピーを生成し、使命を達成させるわけです。無論、本人が現地に直接召喚されるわけではないので、オリジナルには何の危険もありません。
 また、クリエイションはオリジナルとも精神的にわずかに繋がっており、クリエイションが使命を終えてその世界から消えた後、オリジナルは鮮明な「夢」という形で、クリエイションの体験記憶を見る事になります。それは、わずかですが精神的に成長するきっかけになるかもしれません(GM裁量でオリジナルに0.5~1cp程度の経験値を与えても構いません)。

 クリエイションが存在できる期間は「使命を達成するまで」で、あまり長い期間を設定する事はできません(命令内容の許容範囲は、精神操作系呪文《命令》の説明文を参照して下さい)。使命を達成した、あるいはどうにもならないレベルで失敗したと術者が判断した場合、クリエイションは光に包まれながら徐々に粒子レベルで分解され、やがて消えていきます(苦痛は一切ありません)。クリエイションは消える際、テレパシーで現地の人々に短い最後のメッセージを伝える事も可能です。

●先進的/レベル(1レベルにつき5cp)
 「原始的」(-5cp/L)の逆バージョンです。ゲームの舞台より文明レベルが高い地域や世界からやってきた者の場合、より高度で洗練された装備や技能を扱えるため、この特徴が必要です。
 ルナルはTL3の世界なので、TL7の異世界からやってきたキャラクターの場合、4レベル分の有利な特徴と見なされます。

●死の秒読みL3(-100cp)
 クリエイションは使命を終えた後、直ちにその世界から消える事を表現しています。

●危険な使命(-20cp)
 クリエイションは通常、命がけの試練を課されて現地で生成されます。緩めの精神操作系呪文《命令》がかかっている状態だとみなして下さい。生み出された瞬間から自身の置かれた状況や使命を記憶としてインプットされており、取るべき行動を迷う事はありません。

 ただし、術者の意図せぬ事実が発覚し、それに対してクリエイションが別の解決法を提案・実行するといった事は、術者のクリエイションに対する自律行動の許容範囲に応じて発生するかもしれません(クリエイションを生み出した上位存在の意向や性格によります)。
(装備の解説)
●Type-89 自動小銃
 「自衛隊」の装備の1つで、該当世界では「89式5.56mm小銃」と呼ばれています。該当世界の世界規模軍事同盟「NATO」によって規格化された5.56x45mm NATO弾を撃ち出す事が可能なアサルトライフルです。
 「ガープス・ベーシック」の武器表(現代・未来)のライフル銃にある「M16」のデータとほぼ同じです。

●SFP9 自動拳銃
 ドイツという国の銃器メーカーH&K社が生産しているハンドガンで、市場での名称は「H&K VP9」となっていますが、本社や自衛隊内ではSFP9の呼称で知られています。該当世界の西暦2019年頃、「自衛隊」の正式装備として採用されました。
 「ガープス・ベーシック」の武器表(現代・未来)のオートマチック・ピストルにある「ベレッタ92」のデータとほぼ同じです。

●Mk11 手榴弾
 軍事大国アメリカが生産しているハンド・グレネード弾で、該当世界では標準的な信管式小型爆弾です。「自衛隊」における歩兵の標準装備の1つになっています。
 「ガープス・ベーシック」の武器表(現代・未来)の手榴弾にある「アメリカ Mk67 防御用」のデータとほぼ同じです。

●Type-03 防弾装甲服
 「自衛隊」で正式採用されているボディアーマーで、該当世界では「防弾チョッキ3型」と呼ばれています。ケブラー繊維の防弾服をセラミックプレートで補強した防具で、拳銃程度の弾丸であれば十分に防げます。
 「ガープス・ベーシック」の防具表にある「ライト・ボディ・アーマー」のデータと同じものです。
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