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■第14節 ルナル世界の遊牧民
 我々が住む地球では、ユーラシア大陸中央部の大草原地帯を中心に、定住地を持たず、家畜と共に草原を駆け回って暮らす遊牧民が存在する。西暦2023年現在、遊牧だけで生計を立てている生粋の遊牧民はごく少数でほとんど残っていないが、かつては大帝国を築くほどの強大な勢力を形成していた。
 一方、ルナル世界のリアド大陸にも、ゼクス共和国という限定された地域において遊牧民が存在する。彼らは主に赤の月を崇め、気の向くまま草原を放浪しているという。

 ここでは、地球の遊牧民を説明しながら、ゼクス出身者独自のキャラクター作成ルールなどを挙げてみる事にしよう。
■我々の世界の遊牧民
 現代の我々にとって、遊牧民とは「草原を駆け回りながら、のんびり暮らしている牧歌的な人々」というイメージがぼんやりと浮かぶのかもしれない。そしてそれは間違いではない。

 だが、かつて一大勢力を誇った遊牧民たちは、農耕民族が恐れる
暴君の群れであった。
 遊牧民が暮らすエリアは、人間が定住して農業を行う事が不可能な不毛の土地である。だからこそ、家畜を連れ、餌となる牧草を求めて荒野を放浪したのである。遊牧とは、人間の生存には不適切な枯れた土地で継続的に生活するサバイバル技術である。当然、利用可能な物資は限られており、少ない物資を家族内で分け合って暮らしを支えていた。

 遊牧民は、生きるにあたって弓術と馬術を必須とする。その目的は、野生動物や隣の敵対部族に対抗するためであったが、部族戦争が一応の終結を迎えると、今度は外征へと向かった。それはすなわち、定住する農耕民族の土地を略奪する事であった。
 かつて各地で一大勢力を為した遊牧民たちは、周辺の土地で農業を行っている定住民にとって、略奪するだけ略奪し、だからといって代わりに自分たちを治めてくれる為政者になるわけでもなく、ただ破壊と殺戮の限りを尽くして去っていくだけの、まさに暴君でしかなかった。こういう最悪の状況になってしまった理由は、生活の全てを持ち運びする遊牧民にとって、定住地など不要だったからである。


 各地の農耕民族国家は、彼らに定期的に貢物を差し出す「奴隷村」となる事で、略奪の末に全滅するという最悪の事態を免れた。
 あるいは古代中国のように、複数の民族をまとめて巨大な中央集権制国家を確立し、万里の長城などの巨大防衛施設を築き上げ、より高度な武器の開発を行って富国強兵を行い、独立性を守ろうと徹底抗戦した。

 しかし一方で、遊牧民は自前で穀物や工業製品を生産できない事から、各地を巡って交易を行い、その利益で必要なものを購入していった。これは、異種の文化同士を交流させる効果があった。
 ユーラシア大陸中央部の遊牧民の活動圏は、地球の赤道のやや北側のエリアを占め、まるで道のように東西で連なっていた。この「道」を使って、東西の離れた文化圏同士の交流が行われたのである。その文化の運び手こそが遊牧民であった。

 日本では最初の火器として有名な「火縄銃」も、元は東の中国で発明された初期の火薬武器「火槍」が遊牧民を通じて西洋に伝わり、そこで「マスケット銃」に進化したものが、さらに東へと舞い戻ってきたものだ。
 この文明伝播と発展のプロセスは、遊牧民がいなければ起こらなかっただろう。
 それは、ただの「地理的配置の偶然」の産物だったのかもしれない。

 だが、大陸中央部に席巻していた遊牧民の存在が、良し悪しはともかく地球文明の急速発展の担い手となったのは間違いない。
 彼らの存在は高度な銃火器を登場させ、最強だったはずの騎馬弓兵を無力化するほどにまで文明を進歩させた。そして最終的には、遊牧という文化そのものを過去のものにしてしまうほどの強固で安定した政治システムを育て上げたのだった。
■ルナルの遊牧民
 上で紹介した遊牧民は、あくまで我々の地球のものである。しかし、ルナルのゼクス共和国に存在する遊牧民は、上の例には当てはまらない部分が多く、そのまま使う事はできない。

 ここでは、ルナル世界のゼクス共和国の遊牧民がいかなるものかを、地球における遊牧民を参考資料としつつ、独自の設定をしていこう。
1.ステップ気候の遊牧民
 地球における遊牧民は、気候に応じておおよそ3種類存在し、寒冷地(ツンドラ気候)、高山気候、乾燥地のいずれかである。だが、遊牧民と言われて真っ先に思い出すのは、モンゴルを中心に騎馬弓兵で歴史的な武勇を立てた「羊や馬を率いて放浪する人々」だろう。

 「ガープス・ルナル完全版」のゼクス共和国の解説ページ(p138)には、ゼクスの草原は温暖地域に属し、定期的に雨に見舞われるよう、雨の女神イアナン(アルリアナの下位従属神)に祈りを捧げるといった記述がみられる。
 このことから、ゼクス共和国もモンゴル民と同じ「乾燥地の遊牧民」と見て良いだろう。



2.率いる家畜の種類と数
 上記のように乾燥地の遊牧民なので、羊・山羊・ポニー(小型の馬)・牛・ラクダを引き連れていると思われる。各家畜の保有数比率だが、地球におけるいくつかの資料を当たった結果、おおよそ
羊10:山羊3:牛1:馬1であり、ラクダは牛、馬のさらに10分の1程度の保有率であり、現在の地球に残っている遊牧民の場合、飼っていない家の方が多い。

 ルナルのリプレイや設定を見る限り、基本的には上4つの家畜(羊・山羊・牛・馬)を考えれば良いと思われる。一方、ラクダは主に運搬能力に優れるため、キャラバンを率いて行商を行うキャラクターの場合のみ、ラクダの保有を考えればよいだろう。


 遊牧民の具体的な家畜の保有数は、羊を基準に考えるのがセオリーらしい。1つの群れで羊200~300頭とするのがスタンダードだと言う。そして羊に対し、山羊は3分の1程度とするようだ。無論、この頭数には、それぞれ理由がある。

 羊はこれより数が上回ると、群れによる食害で牧草地が深刻なダメージを受けて荒廃したり、密集しすぎて相対的に弱い個体(子羊や老羊)に十分な栄養が行き渡らなくなった結果、弱った個体から病気が発生して、群れ全体に伝播させてしまうといった弊害がある。
 逆にこの数より少ないと、群れ全体の羊が不安がって牧草を食べず、群れの管理が困難になってしまう他、オスとメスの比率が偏るといった弊害が発生するようだ。

 一方、山羊に関してだが、臆病で従順な羊とは異なり、山羊は好奇心が強く我が強いため、羊の群れに混ぜておくとリーダーシップを発揮し、牧人が群れを統率する上で制御しやすくなる効能がある。ただし、牧草を根こそぎ食い荒らす習性があるので、草原へのダメージを回避するため、相対的に少なくなっている。


 1つの群れの羊保有数はほぼ固定であり、それによって家畜の管理に追われる人間の数も自動的に決定する。上記の比率から計算すると、ゼクスにおける1部族の家畜保有数は、

羊200頭 山羊60頭 牛20頭 馬20頭

が標準値となる。それを管理する牧人は20名前後といったところだろう.。



3.家畜の価格
 牛や馬のデータはガープスでも設定されているが、他の家畜のデータが全くないので、地球における中世の物価表の資料を元に、それらの推測価格を掲載しておく。元となる資料は、中世ヨーロッパにおけるシリング通貨での物価であり、現在のドルや円に直すのは困難なので、各物価の相対価値からの推測値である。

 なお、遊牧民が住む環境は栄養に乏しい事から、通常は騎馬としてポニー(小型の馬)を飼育する。西洋の騎士が乗るような軽装騎馬や重装軍馬は、小麦など穀物を食べて育てられた高価な家畜であり、一般に牧草が乏しい遊牧民の土地で飼われる事はない。

ポニー(小型馬) $1500
戦闘訓練を受けたポニー $3000
$1500
ラクダ $1500
$100
山羊 $100
牧羊犬 $200
$10

 この価格表に従って、上記の1部族の家畜の総額を計算すると、羊200頭($20,000)山羊60頭($6,000)牛20頭($30,000)馬20頭($60,000 戦闘訓練済み)となり、合計$116,000となる。

 なお、牧羊犬に関する公式ルールは何もないが、よく訓練された(主人に懐いた)牧羊犬が居れば、群れを操作する際の〈御者〉〈荷役〉技能判定に+2(さらに1頭追加するごとに+1)とすれば良いだろう。
4.家族構成と財産の考え方
 かつて、地球において勢力を誇った時代の遊牧民は一夫多妻制度であり、家長は膨大な量の家畜を率いる事から、遊牧民における実質「貴族」階級となった。

 遊牧民の男女の役割は明確で、男子が放牧を担当し、女子が家庭内での料理・家事を行う。また、さすがに家長の男子1人では家畜の面倒を見切れない事から、財産を持たぬ者を隷属化させ、家畜の世話を担当させた。通常は自身の息子や親族がそれに該当するが、戦争などがあった直後は、「財宝」として入手した奴隷や捕虜も同じように隷属化させたと言われる。


 しかし、ルナルにおけるゼクス共和国の遊牧民は、赤の月の教えにより
「個人が最大限に尊重され、男女差別や身分は存在しない」架空の社会である。そのため、地球の遊牧民の家族制度をそのまま持って来る事はできないので、独自の設定を行う事になる。

 ガープスにおいて最大の問題となるのは、上記の家畜を単独の家長が所有すると仮定すると、CPを全振りして「財産/富豪」にしても、所有財産額に達さない事である(TL3における個人資産の最大限度額は$100,000)。
 なのでこれは、家畜の所有者を各家族で分担所有し、それぞれの家庭で「財産」レベルにCPを払うのが無難な解決法と思われる。「徹底した個人主義」という社会的価値観からも、特定個人に財産が集中するのは設定的におかしいので、分割所有が妥当であろう。

 ゼクス共和国は一夫一妻制と過程すると、1家族(夫と妻で2人)当たり馬1頭は欲しいので、上記の家畜資産を20(馬の数)で割るのが現実的と言える。そうすると、
1家族(夫婦2人)あたりの財産総額は$5,800(保有家畜は羊10頭・山羊3頭・牛1頭・馬1頭)となり、さらにこれを伴侶1人(1キャラクター分)で計算すると、1人当たりの固定資産額は$2,900となり「財産/富裕」(20cp)で収まる。
 夫と妻それぞれの手元には$2,100の所持金が残るので、それらを使って弓矢や防具や鞍、テント4人用(トーナ)を購入できるだろう。また、弓騎兵として出陣しない伴侶(家畜と一緒に後方待機する役)は乗用馬として非戦闘用の通常のポニー($1,500)を購入すれば、「逃げる時に乗る馬がない」といった事態を避ける事ができるだろう。

 そして部族の族長は、標準家庭よりも多い「財産」を持ち(「大金持ち」以上)、追加で騎乗馬や貨物運搬用のラクダなどを余分に所持すれば、現実的な遊牧民の1部族を構成できるだろう。



5.雇用者と被雇用者
 上記は「1人前の遊牧民」を考慮したものであり、当然ながら、これに該当しない「財産」レベルの低いエタンも大勢いる。そういった者たちは、「財産持ちの遊牧民に雇われる」形で部族に参加する形になる。
 農耕民族でも、土地持ちの「自由農民」と、その地主に雇われている「小作農」に分かれており、貧しい小作農が圧倒的に多かったように、遊牧民でも貧富の格差は存在するので、上記の「一人前の遊牧民」は、ゼクスにおいても数は少ないと思われる。こうした貧しい雇われ遊牧民を
使用人と呼ぶ事にする。

 使用人の多くは、固有の家畜を持たない遊牧民であり、ここではそれを牧人と呼ぶ事にする。遊牧民は数名の牧人を雇っているのが普通で、遊牧民に代わって家畜の世話をしている。牧人の代表的な者は、遊牧民の息子・娘たちである。要するに、家族の子供たちが親元で働いてる形態であり、成人して独立するまでは、大抵この形態になる。
 一方、災害などで家畜が全滅して破産した者が牧人に身を落とし、他の遊牧民に雇われるケースも多く存在する。彼らは生きるために従属しているわけだが、一方で世話すべき家畜を持たぬ自由な身でもあるわけで、牧人の中には「自由でいたい」がために、敢えてこの低い地位で満足している者も一定数いるようだ。

 牧人以外の使用人として、プロの調理師や吟遊詩人が専属シェフや娯楽担当として身1つで雇われているケースがある。また、「財産」を家畜ではなく武装に特化させた傭兵も、使用人として雇われている事がある。彼らの仕事は見張りや護衛であり、戦争になれば最前線で戦う騎兵となる。
 こうして遊牧民を中心に、さまざまな職の者が部族メンバーに参加し、1つの部族を形成しているのだ。
6.交易相手の不在
 「ガープス・ルナル完全版」のリアド大陸の地図(p109)を見てもらえば分かるが、ゼクス共和国の位置は海岸沿いであり、北はトルアドネス帝国、東と南は海である。そして西はエルファたちの活動領域(サイスの森)となる。

 上の地球の例で書いたが、遊牧民はそれ単独では生産手段を持たないため、穀物や工業製品が手に入らない。穀物や野菜から接種する栄養素(ビタミンなど)に関しては、乳酒などを飲む事で代用可能だが、鉄鉱石に関してはどうしようもない。
 そのため各地を巡って交易し、その利益で購入するわけだが、ゼクスは農耕民族の村が実質北側の帝国しかおらず、残り3方向に交易相手はいない。海上には文明が存在しないし、森は〈円環〉の教えに従って自活し、外部との交易など全く必要がないエルファたちの領域である。そして北の帝国とは敵対関係にあり、まともな国交は皆無である。

 そのためゼクス共和国の遊牧民は、大規模な交易経済が成立しないだろう。ならば、足りないものは自前で採取するしかない。幸い、リプレイの地図を見る限り、ゼクスにも山岳地帯がちらほら見られるので、おそらくドワーフの鉱山都市が小規模ながらも存在するはずである。ゼクスの民はそこへ赴き、家畜の肉や皮素材との交換で必要な鉄製品を入手するのだろう。
 また、エルファとの交易はなくとも、同じ森に住むフェリア種族のファッション・デザイナーとであれば、服飾関連での交易が存在するかもしれない。


7.魔法がもたらす水の恵み
 ルナルと地球の最も大きな違いは、魔法が存在し、日常的に使われているか否かである。

 ルナルにおいては、乾燥地帯であっても魔法によって水をもたらす事は可能である。サリカ神官が風霊系呪文
《雨》で雨を降らせたり、リャノ神官が水霊系呪文《水作成》で直接真水を生成する事はできるからだ。
 無論、これらの呪文は瞬間的なものであり、継続して効果を発揮し続けるものではない。だが、日常的に水を生成する習慣があれば、地形は乾燥したままでも、使える水の量は豊富という事は起こり得る。
 ゼクス共和国では、アルリアナの下位従属神の信仰も盛んであり、これらの神官や司祭は雨を降らせたり、水を生成する呪文を習得できるようだ。彼女らが「儀式」として定期的にそれらの呪文を使い続ければ、わざわざ土地から搾取せずとも水の供給は可能である。

 乾いた風が吹き続け、土地が枯れていても、水さえあればどうにかなる。ゼクスの民は、天候の女神たちの加護によって生活を守られているのだ。
■ゼクス共和国出身者
 この項目では、ゼクス共和国出身のキャラクターの作成ルールを紹介します。
■国家の概要
 リアド大陸中央部に広がる温暖気候の大草原地帯に、ゼクス共和国と呼ばれる国が存在します。ゼクスの人々は、自らを「エタンの民」と呼び、特定の定住地を持たずに遊牧民として生活しています。

 エタンの民の主な構成員は彷徨いの月を崇める種族のうち、平野を走り回る者たちです。主な種族としては、鳥人ミュルーン、馬人ギャビット・ラー、小人シャロッツで、これに双子の月の信仰者である人間を加えて「エタン」と呼ばれます。

 エタンの人口比率は人間が4割で、残りが彷徨いの月3種族を合わせたものとなります。つまり、彷徨いの月の種族の方が多いと言えます。
 ゼクスの大草原は温暖気候ですが、南のララン台地から吹きつける乾燥した風の影響で豊かな地形にはなれず、草原より上位の自然にはなれません。そのため、エタンの民は農耕では食料供給が間に合わないため、遊牧という生活スタイルをとっています。


 この国に住む人間の9割は赤の月の信仰者であり、国が制定する法律らしきものはほとんどなく、個人の自由が最大限に尊重されます。国境ラインの線引きも曖昧で、国内外の行き来は基本自由です。ただし、巡回するレンジャー部隊によって監視はされています―――特に最近は、帝国との戦争の直後であるため、青の月信者が通ったりすると、帝国人でなくともいちゃもんをつけられる事もあります(帝国のスパイではないかと勘ぐられるわけです)。

 一見すると無法地帯に見えますが、法はなくとも各神殿の教義はしっかりと根付いてますし、各部族は血縁家族を中心に構成されており、家族愛に溢れ非常に結束が固く、厚い信頼で結ばれています。この家族同士の「慣習」こそが実質「法」と見なすことができます(なので「誠実」で善良な遊牧民も大勢います)。

 そして当然ですが、そのような親密な関係をぶち壊す闇タマットや〈悪魔〉教団などは、他国と同じように敵視されます。特に、闇タマットが扱う奴隷や麻薬は、個人の自由を最も尊重するこの国では「自由を奪う猛悪」と認定され、発見され次第、各部族が兵を差し向けて秘密裏に葬り去られます―――通常は裁判なしの私刑(=死刑)です。制裁戦力として、プロの冒険者が雇われる事もあるようです。

 法の代わりに絆が重視され、裏切者には苛烈な制裁を与えられる身内社会の集合体―――それがゼクス共和国という国の実体と言えるでしょう。
 エタンの民のうち人間種族の上位層は、大量の家畜を率い、大勢の家族や雇用した使用人を養う遊牧民として存在します。連れている主な家畜は、羊を始め、山羊、牛、馬(ポニー)など様々です。一部、行商を担当している者は、ラクダを連れている事もあります。常に移動している性質上、手に入れた財産は家畜の形で保持し、必要に応じて売り払ったり食料にしたりするのが、この国の経済活動の基本となります。
 この国における「財産」とは、食料や資材となる「家畜」とそれを飼う「人」であり、土地などの不動産に対し、他国のような資産価値は見出されません。一応、「縄張り」の概念はありますが、「縄張りを主張する事」は「縄張りを管理する義務」とセットなので、エタンの権利主張は常に曖昧であり、管理もかなりいい加減なものです。

 このように、エタンは家畜と強く結びついていますが、一方で鳥類には関心がなく、鶏などを飼う習慣はありません(他国では一般的な家畜です)。エタンが鳥が関わるのは埋葬が行われる時だけで、かつてこの地で死んだ者は遺体を草原の真ん中に置かれ、野生の鷲などの猛禽類に食べてもらう「風葬」という習慣がありました。風葬によって大自然と一体化し、大地に戻っていくのだと信じられていたわけです。
 なお現在は、衛生上の問題と邪術師によるアンデッド化を防止する意味で、火葬が一般化しています。


 エタンには定住する者もおり、それらはゼクスで唯一の町「天幕都市イーア」で暮らしています。定住と言っても、この都市はトーナ(テント)の集合体であり、何か不都合があると簡単に位置を変えてしまいます。エタンの国民性は、青の月信仰者でも移動属性が抜けないらしく、本当の意味で定住している人間はほとんどいません。

 そんなゼクスの民のうち、本当の意味で定住しているのは、鉱山都市に住む少数のドワーフたちです。ゼクス国内にある数少ない山は、文明を維持するために必要不可欠な鉄資源を採取する貴重な場所で、ドワーフの都市は半ば秘境状態の場所(切り立った谷の壁面や、高山の中腹など)にぽつぽつと点在します。
 遊牧民たちは肉や毛皮をこれらの小さな鉱山都市へと持っていき、鉄の道具を買い入れたり、手持ちの鉄製品のメンテナンスを行います。

 なお、草原には舗装された道などなく、車両整備が得意なドワーフもごく少ない事から、馬車などの車輪構造を持つ乗り物はほぼ使われません。荷物は全て家畜の背中に載せての運搬となります。極限状態の生活に耐えられる家畜のうち、特にラクダは長距離運搬能力に優れる事から、行商人は数頭のラクダを率いて交易を行います。
 この国は国民皆兵制であり、腕の差はあれ国民全員(家長から子供にいたるまで)が弓騎兵として戦う術を備えています。使われている軍馬は戦闘訓練を受けたポニーで、馬上でも装填が容易な弓矢を用い、ヒット&アウェイ戦術で戦います。移動力低下を避ける観点から、金属鎧を着用している者はいません。これらの兵力は通常、正面から戦うのではなく、主に敵の補給線を攻撃し、行軍能力を奪う事が任務となります。

 一方、接近戦も可能な重装弓騎兵も少数ながら存在し、上記の軽装騎兵の度重なる弓の牽制攻撃でへばったところで最終突撃を行う役目を担います。重装弓騎兵はスケール・アーマーなどの頑丈な鎧で武装し、ランス突撃を行います。その多くは、戦神としてのタマットを崇める傭兵たちです。
 傭兵たちのほとんどは有力遊牧民部族に雇われており、平常時は見張り巡回や護衛などに従事する一方、戦時になると最前線で戦う事を求められます。他国で言うところの「騎士」は、彼ら傭兵が担当しています。


 かつて、彷徨いの月を崇めていた時代のゼクスの遊牧民たちは、豊かさを求めて草原を北上し、現在のトルアドネス帝国南部に当たる地域に対して頻繁に襲撃を行う略奪者だったと言います。
 しかし、双子の月がやって来て文明と魔法を授けられた後は、かつてほど物資が困窮しなくなりました。特に、水をもたらすアルリアナの下位天候神の神官や司祭が呪文で水の供給を行うようになると、少なくとも人間や家畜の生活用水の供給は、ほぼ完全に満たされるようになりました。
 結果、草原で遊牧しながら気ままに暮らせればいいと考える民が圧倒的多数となり、赤の月の個人主義的な教義もあいまって、他国の土地への侵略行為は必要性を失い、完全に過去の思想となりました。
 それでもなお、ごく少数の者が北への侵攻を提唱していますが、これは貧困が理由ではなく、トルアドネス帝国という侵略国家の脅威を未然に取り除こうという、防衛上の要撃の必要性が主な理由のようです。
■エタンの民の特徴
 ゼクス共和国出身者(エタンの民)のキャラクターを作る際の、大雑把な指針を示しておきます。ルール的には、他の国の一般的なキャラクター作成方法と変わりませんが、アルリアナの下位従属神の信仰が追加されており、プレイヤーが望むならばその信者のキャラクターを作成できます。


(不動産を「財産」とは見なさない)
 エタンの民は遊牧民であり、定住しません。なので、家畜と人が持っていける物に対してしか資産価値を認めません。他国では土地や家屋に高い資産価値をつけますが、エタンの民はそれらに対する縄張り意識はあるものの、売買するような「商品」とは見なしていません。

(徹底した個人主義)
 エタンの民は、個人の自由こそが全てだと考えています。いわゆる「地位」に対する執着がありません。というのも、「地位」には「財産」が必ず付随しますが、エタンにとって財産をたくさん抱え込むというのは、世話すべき家畜や、それを管理するのに必要な多くの使用人を必然的に大量に抱え込まねばならない事を意味し、それらに対する大きな管理責任が生じます。それは、自身の「自由」というリソースがどんどん減っていく事に他なりません。
 ゆえに、エタンの富裕層というのは「守ってやりたい多くの身内がいる」義務感の強い者がなる傾向が強く、自分勝手で自由に生きたい大多数のエタンにとって、必要以上の金持ちになるというのは「束縛される責任が生じる面倒なもの」としか映らないようです。

 しかし、「自由に活動できる自分たちの縄張り」=「ゼクスという国」を守るためには、ある程度の団結が必要なのは理解しています。そのため、エタンは自由が保証された領域を守るため、ある程度の資産を持ち、分担して扶養義務を引き受けます。そして、自由を奪おうとする侵略者に対して徹底抗戦します。
 そのため、彼らにとって金持ちになるというのはどちらかというと「義務」に属し、ならなくていいならなるべくしないという「権利」の方に傾きがちです。それは、日常業務における「怠惰」(-10cp)な勤務態度という特徴で現わされたりするケースもあります。

(勝ち負けにこだわる)
 エタンは身分は気にしませんが、どちらがより実力が高いかという実力の差にはこだわる者が多いようです。というのも、強い者ほど他人に頭を下げなくて良い=自分のワガママ(自由)を押し通せるからです。「どちらが上か」がはっきりするまで、徹底的にやりあいます。
 そのため勝負事を好む傾向が強く、喧嘩っ早い気質の者が多いようです。ガープス的には「勝ち気」(-10cp)「かんしゃく」(-10cp)「高慢」(-5cp)などが該当するでしょう。中には、自分を強く見せたくて、やたらめったら喧嘩腰の「乱暴者」(-10cp)もいます(もちろん面倒事が嫌いなエタンでは嫌われ者です)。

(身内社会)
 遊牧民は小規模コミュニティの連続体であり、普段は自分の家族や同じ部族の者以外とはほとんど顔を合わせません。ゆえに、外の世界の他人との交渉能力が低い傾向にある人がやや多いようです。
 ガープス的には「内気/L」(-5~15cp)「義務感/家族」(-5cp)「狭量/よそ者」(-10cp)といった特徴が考えられます。

(時間感覚がルーズ)
 遊牧民には、時間厳守という概念がありません。穏やかに流れる時間の中で、徹底して自分のペース配分で生きているため、集団行動や計画的行動が苦手な者が多く、30分の遅刻は遅刻のうちに入りませんし、気が乗らないので先延ばしのためのドタキャンをする事も頻繁にあり、それに対して反省もしません。これは、ゼクス国内ならまだしも、他国で他人と付き合う際に大きなトラブルの元となるでしょう。
 ガープス的には「放心」(-15cp)「怠惰」(-10cp)などで表現するのが適切です。また「時間感覚」(5cp)の特徴を利用してせかせかと秒単位で時間管理するような生き方は、エタンには似合いません。
●エタンの気質(-15cp)
 上記の気質のうち、「不動産は持たない」「地位に執着しない」はエタン特有の社会制度に起因する気質と言えます。ゆえに、こうした気質を持つ者は「エタンの気質」(-15cp)を獲得する事になります。これは、ガープス・ベーシックのルール的には「大きな誓い/馬が運べるだけの財産しか持たない」(-10cp)と「高慢」(-5cp)を組み合わせた強迫観念や執念の一種と言えます。
 エタンの人間種族の9割(赤の月信者!)がこの特徴を持っており、運んで移動できる財産しか持たず、定住しない生活を送ります。また、「地位レベル」など全く眼中になく、相手が帝国の皇帝だろうと聖域王国の巫王だろうと対等に付き合おうとします。
 それ以外の「勝ち負けにこだわる」「身内に引き籠る」「時間感覚にルーズ」は程度の差があり、信仰する神の教義によっては矯正される事もままあります。よって、この特徴には含まれません。それらの特徴を獲得するかは、各キャラクター毎に決めて下さい。

 なお、人間以外のエタンに関して、ミュルーンとシャロッツがこの特徴を取得できますが、ギャビットの場合、種族セットの中に同じような内容の特徴が既に内蔵されているため、この特徴は「CPの二重取り」になってしまいますので獲得できません―――逆の発想をすれば「他の種族が「ギャビット化」するための特徴がこれ」という事です。
■クラス概要
 エタンの民は、大雑把に「双子の月を崇める人間」と「彷徨いの月を崇める種族」に分かれます。いずれも基本ルールと同じ作成になりますが、人間種族のキャラクターであれば、遊牧民出身者として最低限、射撃武器(弓矢など)技能と〈乗馬〉技能くらいは取った方がそれらしくなるでしょう。
 人間種族の双子の月信仰ですが、全体の9割が赤の月信者で、5割がアルリアナとその従属神、2割がリャノ、残り2割がタマットやシャストアで、残り1割が青の月信者となります。以下、職業別で主な信仰を解説しておきます。


(遊牧民)
 ポニーに騎乗し、家畜を率いる草原の民で、この国における実質貴族階級です。通常、戦力としては馬上で射撃を行う弓騎兵となります。それに加え、荷役師としての能力も要求されます(〈鷹匠〉を除く全ての動物系技能が必須)。幼い頃から家畜と共に生活しているため、大抵の者は「動物共感」(5cp)を持っています(動物系技能全てに+4修正)。

 家長クラスの一人前の遊牧民キャラクターを作ろうとすると、最低でも「富裕」(20cp)以上の「財産」を取得せねばならないため、作成の自由度がかなり減少してしまいます。
 なので、「家長になって独立する前の修行中の息子・娘たち」「別の遊牧民一家の使用人として雇用されている貧乏人の牧人(下記)」など、まだ家長になれるほどの資産を持たない未熟な立場の若者キャラクターとして作成する事をお勧めします。騎乗するポニーは、雇用主(遊牧民の家長)に借りる形になるでしょう。

 人間の遊牧民(牧人)の9割は、アルリアナおよびその従属女神ティアフ、イアナン、エレアラの信者です。代々、部族の長を務める家系の中には、口伝の継承者としてのシャストア信者も一部混じっている事があります。アルリアナの下位従属神3柱の信仰ルールに関しては、下の項目に記してあります。

 また、人間以外にギャビット・ラーの遊牧民が存在し、同じように家畜を率いて生活しています。ギャビットの9割が、遊牧民および使用人として存在します(残り1割は傭兵)。
 蓄財に興味のないギャビットたちは、人間の遊牧民ほど豊かではなく、雇っている使用人も身内(親戚や子供たち)だけに留まっている事がほとんどです。彼らの多くは文明的な事に興味を持たず、のんびりと放牧しながらその日暮らしを満喫しています。

(使用人(牧人、調理師、楽師、吟遊詩人))
 大多数の遊牧民は、自前で家畜を飼い、生計を立てられるほどの「財産」(=家畜)は持っていません。ですから、他の遊牧民家族の使用人として雇われ、牧人や調理師、楽士として生計を立てる者が大勢います。彼らは「財産」レベルが低い分、行動を家畜に縛られない自由さがあるため、PCとしてもキャラ作成はしやすいでしょう。

 牧人は雇い主に代わって動物の世話をする者で、〈御者〉〈乗馬〉〈獣医〉〈動物使役〉〈荷役〉といった技能が必要です。たいていは幼少期から動物に慣れ親しんでいるため、「動物共感」(5cp)の特徴を持っています。その多くは主人と同じアルリアナ信者です。
 調理師は専属コックとして遊牧民家族に仕えます。普段は保存用乳製品を作る作業で一日が終わるでしょう。高いレベルで〈調理〉技能が求められます。吟遊詩人、楽士はエンターテイナーとして〈歌唱〉や〈楽器〉技能で食卓の場を盛り上げる役です。この二つの職に就く者は大抵がリャノ信者(たまにシャストア信者)です。

 あと、かなりレアな存在ですが、〈話芸〉技能を持つミュルーンの話芸師や、ボードゲームを開発・提供するシャロッツといった連中が、吟遊詩人枠で雇われている事もあります。

(傭兵/人間)
 大量の家畜を率いる代わりに、馬1~2頭だけに抑えて武装を整えて戦闘特化した者は、傭兵として他の遊牧民に雇われる傭兵の道を選びます。ゼクスの人間の傭兵は、基本的に「突撃可能な弓騎兵」である事が求められ、自前で装備や戦闘馬を揃える必要があります。平常時は遊牧民一家の護衛、戦時は最前線で戦う事が求められます。
 PCとしては、遊牧民と同じく「弓騎兵」のキャラクターを作る事になるため、馬上戦闘のルールを理解していないと作成や運用の難易度が高くなります。また、最低限「馬」を自前で用意しないと機動性を確保できないため、「財産/標準」では収まりません(戦闘訓練を受けたポニーは$3000です)。そのため、PCとしての傭兵キャラクターを作りたいのであれば、人間種族ではなく彷徨いの月の種族で作成する事をお勧めします。

 傭兵のほとんどはタマット信者ですが、たまにエレアラ信者も混じっています。

(傭兵/亜人種)
 ゼクスで最も多い傭兵は、翼による飛行で機動性を確保できるミュルーンや、生まれつき神速を誇るギャビットやシャロッツの傭兵です。

 一般的なミュルーンの傭兵は、「降下猟兵」として期待されます。ミュルーンは飛行は行えますが、空中戦闘は得意ではないため、翼による飛行能力は移動だけにとどめ、移動先で一旦地上に降下し、弓や弩で遠方から射撃を行い、撃ったらまた飛行で逃げるを繰り返すわけです。ギャビットやシャロッツの場合も同様で、自慢の脚力で移動し、移動先で射撃を行います。これらは「自前で特殊な移動手段を持つ軽装騎兵の亜種」と言えます。

 一方、少数ですが飛行中も戦闘を行える者もいます。「器用な足」の特徴を有し、高い〈滑空〉技能で長距離飛行可能なミュルーンや、遥か南のララン台地からやってきた翼人たちです。彼らは文字通り「航空兵」として、主に帝国の空軍(飛空艇やミュルーン傭兵)との戦闘を担当します。ゼクス共和国は、リアド大陸で最もミュルーンが多数存在する地域であるため、何気に航空戦力では最強国家だったりします。

 彼らは人間の傭兵のように高価な軍馬を所持・管理せずとも、自前でそれに匹敵する速力が出せるため、「財産/標準」でも傭兵家業が務まります。PCとしてゼクスの傭兵キャラを作りたいのであれば、これら亜人種の傭兵を作る事をお勧めします。

(行商人)
 主にゼクス国内の流通を担う人々で、基本的には他国の行商人と同じ存在です。ただし、ゼクスは陸続きで貿易可能な相手に乏しく、家畜を率いて国外に出入りするのは地理的に難しいため、外国船舶が停泊している沿岸部から、国内の天幕都市やドワーフの鉱山都市に物資を運ぶのが主な巡回ルートとなります。

 行商人で一番多い種族はシャロッツです。彼らは体力こそ低いですが自慢の脚力を用い、荷物を詰め込んだバックパックを背負って草原を駆け回り、運搬回数で収入を稼ぎます。人間なら確実にオーバーワークな走破距離も、走る事が楽しくて仕方ないシャロッツにとっては苦痛でも何でもないようです。
 シャロッツに比べると、人間の行商人はそれほど多くはなく、シャロッツのような人外な脚力がないため、彼らよりは大きい体格を利用して一度に多くの荷物を運ぶか、あるいはラクダを1頭だけ連れて運搬量を稼ぐ方法で稼いでいます。大抵はタマット信者ですが、一部ガヤン信者も混じっています。特にガヤンの行商人の場合、キャラバン的なラクダの群れを率いた大規模輸送力で固定の交易ルートを築き、堅実に稼いで巨額の資産を形成する者もいます。こうしたガヤン豪商の多くは、天幕都市イーアに取引用の拠点を置き、在庫用の倉庫を所持しています。
 その他、ごく一部ですがミュルーンの伝令が行商を兼ねている場合があります。彼らは翼を用いて国外へ出る事が可能ですが、個人レベルの飛行能力では大きな荷物が扱えず、あくまで副業の域を出ない事がほとんどです。

 PCとして作成するのであれば、基本的には家畜なしでも営業可能なタマットorシャロッツの行商人をお勧めします。彼らの多くは護衛など雇う余裕はない事から、自衛できるくらいの戦闘力は備えているのが普通です。

(神官、司祭)
 魔術師として身を立てる知識階級で、呪文が使える事が大前提です。通常は、天幕都市イーアの各神殿で働いていますが、遊牧民の使用人として雇用され、一緒に草原を旅をしている場合もあります(特に3女神の神官)。その場合も、他の(呪文が使えない)使用人とは異なり、「雇用者たる遊牧民の家長と対等の軍師」のような存在として扱われます。
 そして、遊牧民家庭に雇われている神官の多くは、呪文による「水の生成」を期待されています(《雨》《水作成》等の呪文が習得可能なサリカやリャノ、3女神の神官が適任)。

 あと、ごくごく稀な例ですが、ミュルーンの「月の賜りもの」の[天候操作]を習得した者が、この枠で雇われている事があります。

 PCとしては特に制限はなく、他国の神官と同じように作成できますので、魔法使い系のキャラクターであればお勧めの立場です。

(伝令)
 ミュルーンの8割くらいがこの職に就いており、常に国内外を出入りしています(残り2割は傭兵)。ゼクスに限定して生活しているミュルーンはほとんどおらず、子作りをする際に一時的に滞在する者が大半を占めています。
 そんな流動的な存在ですが、それでも常に一定数以上のミュルーンがゼクスには存在します。この事実は、リアド大陸に現存する多くのミュルーンがゼクスの草原を「故郷」と見なしているからに他なりません。

 PCとしてミュルーンを作るのであれば、この職業が無難と言えます。傭兵のような「縛り」もないため、自由に作成可能です。

(ウィザード)
 この国のウィザードは、お国柄に影響されてか徒党を組まず個人で独立している者が大半です。そのため、大規模な魔化に関わる魔化師はあんまりいません。
 天幕都市イーアで人間社会と交流を持つ魔化師のほとんどは、ごく親しい少数だけで組み、パワーストーンや魔法の杖、豊穣の角の矢筒の作成など、比較的小さな魔化で稼いでいる者のみです。
 また、現場で魔法を使う魔法屋や戦闘魔術師が多く存在し、傭兵として遊牧民に雇われたりします。特に腕の立つウィザードは、大規模な部族を率いる〈ハーン〉の補佐官として、実質「宮廷魔術師」のような地位に就いています。

 一方、ゼクスでも俗世と関わらないウィザードは存在し、その多くは中央部の「天上の湖」に無数に存在する小島のいずれかで、単独で隠居生活を送るか、魔術師団を形成して比較的大規模な魔化を行っています。しかし、他国に名を轟かせるほどの有名な魔術師団は存在せず、この国のウィザードの社会的影響力はごく小さいものです。

 PCとして使うのであれば、冒険者稼業の戦闘魔術師などが適任でしょう。

(鍛冶屋)
 ゼクスにおいても、辺境には山や谷といった地形があるため、そこには小規模なドワーフの地下鉱山都市があり、鍛冶屋のドワーフもいます。しかし、常時風が吹きつける何もない地形は彼らの感性に合わないのか、鉱山に引き籠って出てくる事はほとんどありません。
 草原の民にとっては鉄製品を入手できる貴重な場所なので、行商人が定期的に彼らの都市に出向きますが、ドワーフの側から外に出てくる事はほとんどありません。

 PCとして使う事も可能ですが、この国でわざわざドワーフのキャラクターを作る必然性は低いでしょう。山岳地形に乏しい事から、龍闘士を抱える龍寺院も存在しないようです。

(国外からの旅人)
 草原の住人ではないものの、比較的良く見る存在として、西のサイスの森からやってきたエルファのはぐれ者や外交官、フェリアの服飾家などがいます。
 最近は、対帝国同盟の使者として、遥か南から銀の月の翼人がやって来る事もあります。しかし、海抜高度が低いゼクスの草原は彼らの感性に合わないのか、長期間駐留する者はいないようです。

 PCとして使うのであれば、サイスの森出身のエルファかフェリアがお勧めです。


【エタン種族別職業表】
人間:遊牧民、使用人(全般)、傭兵、行商人、神官・司祭
ミュルーン:伝令、傭兵
シャロッツ:行商人、傭兵
ギャビット・ラー:遊牧民、使用人(全般)、傭兵
■3女神信仰
 ゼクス共和国では、特に不足する水を供給してくれる信仰として、アルリアナの下位従属神3柱の信仰が行われています。主神に比べて信者の数は少ないですが、社会的には非常に重要な地位におり、主神と一緒に祭られています。

 以下、3つの女神の信仰ルールを示しておきます。
●白き雲の女神ティアフ
【本質】 思い出
【司る側面】 奔放さと笑い
【2次的に司る側面】 喜び、晴天、種撒き、遊び、逃避。
【教義】 常に笑顔で乗り切れ。遠くを目指し、目標を高く持て。
■■ ティアフの神格
 アルリアナの下位従属神の1柱で、「喜怒哀楽」の「喜」を担当しています。信者は常に笑顔で、ポジティブな精神状態であらゆる困難を乗り切ろうとします。信者の多くは気分屋で、行動に計画性がなく、その場のノリで何とかしようとする傾向が強いようです。一方、嫌な事はすぐ忘れようとします。シャストア信仰に似た側面もあり、笑いをとるためにトリックスター的な振る舞いをする事もあります。
 天候神としてのティアフは晴天を司り、植物の種撒きの役割を担います。

 なお、ティアフと対を為すサリカの下位従属神は晴天の女神エアリィで、周期性と喜びを司ります。主に、娯楽性を伴う行事(収穫祭など)を欠かさず定期的に行う事の重要性を説く女神で、天候神としてはティアフと同じ晴天を司ります。
 エアリィは伝統を死守し、変化を嫌う神格であり、時代と共に制度が変化する社会においては合理性に乏しい事から、取り立てて信仰する者はいません。サリカの祭壇で主神と共にひっそりと祭られています。

■■ 神殿の役割
 必要に応じて《雨》の呪文で降雨させるのが主な仕事です。天幕都市に常駐しているサリカ神官とは異なり、遊牧民に同行して各地を巡回する者がほとんどです。
 その他、狩りに適した出発日を定める役割もあり、〈気象学〉技能や《天候予測》の呪文で晴天の日を予測します。

■■ 信者に多い特徴
 「自信過剰」(-10cp)や「お祭り好き」(-5cp)の者が多く、常に笑顔を絶やさない楽観主義者が多いようです。何にも考えず、とにかく動けばいいやとばかり「直情」(-10cp)な者もいます。
 一方、笑えない・面倒くさい事を避けたいあまり、嫌な事はずるずると後回しにする「怠惰」(-10cp)の者も時々います。

■■ 特殊武器
●ポール・スリング
 スタッフ・スリングの柄が長くなったもので、柄の部分が「クォータースタッフ」として両手用の白兵武器に使える一方、先端に付いている革ひもに石を装填する事で「スタッフスリング」として射撃も行えます。本来は「種を飛ばす」ための儀礼用ですが、戦闘でも利用できます。

(近接)叩き 振り+2 長さ1-2/叩き 突き+2 長さ1-2
(射撃)叩き 振り+2 抜撃ち16 正確さ1 射程:体力×15/体力×20m
価格$40 2kg 必要体力6

■■ 独自技能
〈ポール・スリング〉(肉体/難)
 ポール・スリングを扱う技能で、両手専用武器です。この技能で〈杖〉技能で使うクォータースタッフ、〈投石機〉技能で扱うスタッフスリングの双方をペナルティなしで扱えます。ただし、片手で射撃するスリング使用時は、この技能で代用できません。

 白兵武器として運用している間は1ターンに一度、技能レベルの3分の2で「受け」が行えます。基本的に〈杖〉技能と同じ両手武器で、杖の両端で殴ったり突いたりします。
 スタッフスリングとして運用している間は両手で扱う射撃武器として扱われます。石を用意するのに1ターン、紐への装填に1ターン、撃つのに1ターンとなります。実際は抜撃ち値が高いため、1ターン以上の「狙い」をつけてからの射撃となるでしょう。

〈強靭精神〉(精神/難)
 高ぶらせた強い意志の力で、害意のある魔法的干渉をはねのけます。あらゆる呪文や月の賜り物への抵抗の際、対応能力値の代わりにこちらを使用できます。
 「意思の強さ/弱さ」が、技能への修正となります。呪文、超能力への抵抗以外の判定には使えません。

■■ ボーナス技能
 〈航法〉〈生存/草原〉〈気象学〉〈演技〉〈社交〉の各技能を習得する際、技能レベルに+1のボーナスを得られます。

■■ 使用可能な僧侶呪文
 ティアフ信者は「風霊系」と「精神操作系」の二種を僧侶呪文として習得できます。
[神官呪文] (素質1まで)
風霊系:
空気浄化、空気作成、空気変化、空気噴射、消臭、肉体気化、天候予測、空気破壊、水中呼吸、空中歩行、雲、雨、土を空気、悪臭、芳香、風、嵐、電光
精神操作系:
恐怖、パニック、恐慌、勇気、狂戦士、間抜け、酩酊、吐き気、忘却、眩惑、集団幻惑、心神喪失、誘眠、集団誘眠、安眠、狂気、偽記憶、人払い、忠実、魅了、奴隷、知恵、感情操作、ささやき、集団ささやき、視覚強化、聴覚強化、嗅覚強化、注意力強化、背中の目
[高司祭呪文] (素質2まで+独自呪文+高司祭共通呪文)
精神操作系:
完全忘却、永久狂気、思考停止、悪夢、命令
独自呪文:
気流、不眠

*独自呪文データ
《気流》 特殊/範囲 (天候系呪文)
 現在吹いている風の状態を変化させます。風向きを22.5度変更するか、風力を「ビューフォート風力階級」に当てはめて1段階変更できます。一度で風向きと風力を同時に変えたり、より多くの段階変更を試みる場合は、その分だけ比例して消費エネルギーを増やします。

 この呪文は、術者が指定した特定の地点を中心に唱えます。地上から高度100mまでの風に影響します。この呪文は、帆船のような移動物体を目標にする事も可能で、その場合は物体の動きに合わせて中心点と効果範囲も移動します。
■持続時間:1時間 ●消費:50分の1(最低1)・同 ◆準備:1分 ★前提:風霊系呪文4種
*この呪文はサリカ独自の同名の呪文と同じものです。ビューフォート風力階級図はそちらを参照して下さい。

《不眠》(至難) 通常 (精神操作系呪文)
 目標は一晩だけ徹夜できます。不眠による疲労点減少は一切起こりません。
■持続:一晩 ●消費:8。維持はできないがかけ直し可能 ★前提:素質2+《誘眠》
●哀しき雨の女神イアナン
【本質】 思い出
【司る側面】 安らぎと嘆き
【2次的に司る側面】 哀しみ、雨天、収穫、休息、達観。
【教義】 悲しみは優しさの源なり。休息して心を癒し、一新せよ。
■■ イアナンの神格
 アルリアナの下位従属神の1柱で、「喜怒哀楽」の「哀」を担当しています。ティアフ信者とは異なり、現実の嫌な事と正面から向き合い、哀しみを受け入れます。そして信者は、気持ちの切り替えのため、睡眠など休息を行います。休息する事で嫌な事を忘却しようとするわけです。一部信者はアルリアナの精神病棟に出入りしており、治療に協力しています。
 天候神としてのイアナンは雨天を司り、実った作物の収穫の役割を担います。

 なお、イアナンと対を為すサリカの下位従属神は雨天の女神シュニーで、停滞と後悔を司ります。戦争や災害などで起こった悲惨な事件の記録を後世に伝え、同じ過ちを繰り返さない事の重要性を説く女神です。天候神としては、イアナンと同じ雨天を司ります。
 シュニーは哀しみに捕われ、未来に向かって生きる気力を奪い、時代に取り残される事を肯定する神格であるため、取り立てて信仰する者はいません。サリカの祭壇で主神と共にひっそりと祭られています。

■■ 神殿の役割
 ティアフ神官と同じように《雨》の呪文で降雨させる他、直接的に《水作成》《聖水》の呪文で水を生成し、主に人間や家畜の生活用水を確保します。多くは遊牧民に同行していますが、天幕都市の精神病棟や神殿の貯水槽で働く者もいます。
 その他、狩りの宿営地を定める役割もあり、〈生存/草原〉技能でキャンプを張るのに適した場所を探します。

■■ 信者に多い特徴
 「誠実」(-10cp)や「平和愛好/専守防衛or非殺」(-15cp)を持つ者が多く、物静かで優しさを秘めたタイプが多いようです。やや悲観的な者もおり、対人ですぐ萎縮してしまう「臆病」(-10cp)や「内気/L」(-5~15cp)な者もいます。

■■ 特殊武器
●スローイング・シックル
 片手用の小さなサイズですが、柄の反対側に強靭な60センチほどのロープがついており、あらかじめこのロープを手首に括りつけておきます(戦闘中に手首にロープを固定するには2ターンかかるので、戦闘前にやった方がよいでしょう)。戦闘になったらサイズを目前の敵に投げる事で、フレイルと同じ攻撃機能を発揮します(技能レベル-1)。なお、この攻撃手段で非準備状態になった場合、サイズの回収に必ず1ターンかかります(必要体力を5以上上回っても準備時間の短縮はできません)。
 一方、フレイル機能を使わない場合はハチェットと同じ手斧として機能します。なお、投擲武器としては設計されていないため、敢えて手首にロープで固定せずに〈斧投げ〉技能で投げるといった攻撃はできません。

切り 振り 長さ1 準備1ターン 攻撃/受けに使うと非準備状態
切り 振り+1 長さ1 準備1ターン 技能レベル-1。対象は「受け」-4、「止め」-2。攻撃/受けに使うと非準備状態
価格$80 1.5kg 必要体力7

■■ 独自技能
〈スローイング・シックル〉(肉体/並)
 スローイング・シックルを扱う技能で、基本的には〈斧/メイス〉技能と同じ片手武器で、技能レベルの2分の1で「受け」が行えます。通常の斧/メイスに属する武器を扱う際にも、ペナルティなしで代用できます。
 一方、フレイルとしての機能を使う場合は〈フレイル〉技能と同じになりますが、フレイル運用するターンは技能に-1のペナルティがあります。さらに、通常のフレイル系武器を扱う際も、-1のペナルティを受けてこの技能で代用できます。ただし扱えるのは、片手で運用できる「モーニングスター」のみで、両手で扱う「フレイル」は扱えません。

<呼吸法>(精神/至難)
 ルナルでは、一部の信者でしか習得できない技能です。

■■ ボーナス技能
 〈催眠術〉〈生存/草原〉〈心理学〉〈農業〉〈探索〉の各技能を習得する際、技能レベルに+1のボーナスを得られます。

■■ 使用可能な僧侶呪文
 イアナン信者は「水霊系」と「精神操作系」の二種を僧侶呪文として習得できます。
[神官呪文] (素質1まで)
水霊系:
水探知、水浄化、水作成、水破壊、脱水、水変化、空中呼吸、水中呼吸、水泳、聖水、水面歩行、霧、水中視覚、雨傘、肉体液化、水噴射、氷結武器、氷球、氷剣、雨、霜、氷面、冷凍、雪溶け、氷中視覚、雪靴、雪、雹、凍傷、間欠泉
精神操作系:
恐怖、パニック、恐慌、勇気、狂戦士、間抜け、酩酊、吐き気、忘却、眩惑、集団幻惑、心神喪失、誘眠、集団誘眠、安眠、狂気、偽記憶、人払い、忠実、魅了、奴隷、知恵、感情操作、ささやき、集団ささやき、視覚強化、聴覚強化、嗅覚強化、注意力強化、背中の目
[高司祭呪文] (素質2まで+独自呪文+高司祭共通呪文)
精神操作系:
完全忘却、永久狂気、思考停止、悪夢、命令
独自呪文:
土を水、狂気回復、

*独自呪文データ
《土を水》 通常 (水霊系呪文)
 土を泥(あるいは水)に変えます。通常の地面を泥沼に変えて不整地にしたり(追跡者の足止めに使えるでしょう)、虫さされの治療に泥を使う、土をこねて何か作る時に柔らかくするなどといった使い道があります。
 コストを倍にすると水に変えます。浅い湖を作る事ができます。
■持続:永久 ●消費:10キロまでの土を泥に変えるなら1。1へクスなら2。コストを倍にすれば水に変わる。 ★前提:素質1+《水作成》

《狂気回復》 通常/《狂気》《永久狂気》で抵抗 (精神操作系呪文)
 一時的ですが、目標の精神を平静にします。「妄想」「恐怖症」「強迫観念」や、魔法によってもたらされた狂気1つを取り除きます。《狂気》《永久狂気》の場合、この呪文に対して抵抗します。
■持続:10分 ●消費:2。維持できません。◆準備:10秒 ★前提:《知恵》
●怒れる雷の女神エレアラ
【本質】 思い出
【司る側面】 勇気と怒り
【2次的に司る側面】 怒り、雷、焦土、衝突、無慈悲。
【教義】 対立する事を恐れるな。勇気を持ち、困難を乗り越えよ。
■■ エレアラの神格
 アルリアナの下位従属神の1柱で、「喜怒哀楽」の「怒」を担当しています。
 ティアフは他人との衝突を避けますが、エレアラは敢えてそれと向き合い、対立する事を肯定します。そして互いの本心をさらけ出し、最終的には和解・共存する事を推奨しています。
 ところが、ゼクス以外では教義を誤解されて、根に持って復讐を誓う信仰と勘違いされる事が多々あるようです(それはむしろ束縛を司る「青の月」的な考え方です)。しかし実際は逆で、女神エレアラは怒りの感情を抑え込むのではなく、むしろストレートにぶつけて速やかに問題を解決しろと教えています―――そうしないと怒ってる当人が(青の月信徒のごとく)後々も根に持つ事になるからです。この辺りは戦神タマットの信仰と似た側面であり、困難にぶつかるための勇気を尊びます。
 天候神としてのエレアラは雷を司り、雨天時に地面を撃ちます。それは「神の祝福」であり、豊作をもたらすと信じられています。

 なお、エレアラと対を為すサリカの下位従属神は復讐の嵐の女神マナファで、執念と復讐を司ります。加害者への恨みや憎悪を肯定し、復讐して加害者を叩き潰し、見せしめによって社会秩序を守る事の重要性を説きます。他国では、エレアラの教義と勘違いされている神格でもあります。天候神としては、エレアラの雷の発生源である嵐を司ります。
 マナファは復讐のためならば反社会的な行動も許容し、相手がくたばるまでネチネチと嫌がらせを継続する事を推奨する神格であるため、健全な社会では受け入れられにくく、取り立てて信仰する者はいません。サリカの祭壇で主神と共にひっそりと祭られています。

■■ 神殿の役割
 エレアラの司祭はネゴシエイター(交渉人)的な立場にあり、主に部族間で起きた対立の調停を行います。その際、片方に肩入れするのではなく、両者の意見を聞き入れた上で、どうしても互いに妥協点がないのであれば、決闘などの勝負的な解決手段を提案し、司祭は審判の役割を負います(決闘=殺し合いとは限りません)。その多くは、遊牧民に同行して共に旅をしており、《雨》の呪文による水の供給と喧嘩の仲裁を期待されています。
 狩りにおいては、仲間内で起こった諍いを仲裁する役割を負います。必要に応じて「決闘」を提案し、審判役になります。

■■ 信者に多い特徴
 信者は勝負事とそれに勝つ事が好きで、「勝ち気」(-10cp)や「高慢」(-5cp)な信者が多いようです。また、感情が顔色に出てしまって隠せない「正直」(-5cp)な者もいます。中には、周囲に喧嘩ばかり売っている「暴れん坊」(-10cp)もいます。
 一方、交渉人となる神官や司祭クラスになると、形はどうあれ名誉を重視する者を尊びます。そして司祭本人も「淑女の名誉」(-10cp)など名誉重視気質である事が多いようです。彼女らも勝負事を好みますが、勝ち負け以上に「公平な」試合である事にこだわります。タマットの賭博師はイカサマを肯定しますが、エレアラの司祭は不正な勝負を嫌います。

■■ 特殊武器
●コピア
 エレアラ信徒のみに伝わる木製のランス(馬上槍)で、通常のランスより軽量な分、長く作られています。武器の長さが5になっており、通常のランス持ちの騎兵やハルバード持ちの歩兵と対峙にした場合、常に先手を取れるわけです。
 ただしコピアは軽量化の代償で、非常に脆い構造になっています。コピアは一撃で16点以上のダメージを与えると、16点以降のダメージは無視されて15点に補正され、さらにコピア自体が折れてしまいます―――最大で「刺し15点」のダメージしか出せないわけです。
 それ以外の性能は、通常のランスと全く同じです。致傷力は騎士ではなく、馬の体力と移動力の計算式から算出して下さい。

刺し 突き+4 長さ5 受け不可 準備1ターン/命中時は2ターン
*16点以上のダメージは無視され、15点として算出されて武器が折れる。
価格$40 4kg 必要体力12

■■ 独自技能
〈コピア〉(肉体/並) 前提:〈乗馬〉12レベル以上
 木製のランス「コピア」を扱う技能です。運用は通常のランスと同じです。コピアは少し長めに作られているため、通常の〈ランス〉技能で扱う場合は-3の修正を受けます。この技能であれば、長さ5の範囲ではペナルティは受けません。
 なお、この技能で通常のランスを扱う事もでき、ペナルティはありません。

〈レスリング〉(肉体/並)
 ルナルでは、一部の信者しか習得できない技能です。エレアラ信者は、この技能を「ハウマニ」と呼んでいます。

 近接戦闘を技能として体系化したもので、敵の倒し方、フォールの仕方、押さえ込み方、関節の極め方など、近接戦闘の判定を有利にします。この技能は、荷重レベルが「軽荷」以下の時しか使えません。効果は以下の通りです。
・<レスリング>技能は<柔道>技能と同じく、近接戦闘での敏捷力判定全般を<レスリング>で代用する事ができます。
・「倒し」「押さえ込み」「振りほどき」【腕関節技】を行う際の体力判定で、技能の8分の1の値を体力判定に加算する事ができます。
・なお、レスリングで「格闘受け」は行えない事に注意して下さい。

■■ ボーナス技能
 〈生存/草原〉〈外交〉〈戦術〉〈賭博〉〈尋問〉の各技能を習得する際、技能レベルに+1のボーナスを得られます。

■■ 使用可能な僧侶呪文
 エレアラ信者は「風霊系」と「音声系」の二種を僧侶呪文として習得できます。
[神官呪文] (素質1まで)
風霊系:
空気浄化、空気作成、空気変化、空気噴射、消臭、肉体気化、天候予測、空気破壊、水中呼吸、空中歩行、雲、雨、土を空気、悪臭、芳香、風、嵐、電光
音声系:
作音、発声、雷、拡声、音噴射、沈黙、沈黙障壁、騒音、静寂、忍び足、遠耳、聴覚強化、超音波視覚、筆記、魔法の耳、透明な耳、遅発伝言
[高司祭呪文] (素質2まで+独自呪文+高司祭共通呪文)
独自呪文:
電撃武器、爆裂衝球

*独自呪文データ
《電撃武器》 通常 (風霊系呪文)
 目標の白兵武器は電光をまといます(木製や石製の武器にはかけられません―――神殿武器コピアも木製なので対象外です)。この武器で攻撃し、対象の防護点を貫通してダメージを与えた場合、追加で2点の防護点無視ダメージを与えます(電撃によるもので固定値です)。また、攻撃は命中したものの防護点を超えられずノーダメージだった場合でも、対象が金属鎧であれば1点の防護点無視ダメージを強制的に与えられます。
■持続:1分 ●消費:4・1 ◆準備:2秒 ★前提:素質2+《電光》

《爆裂衝球》 射撃 (音声系呪文)
 圧縮空気の塊を標的にぶつけます。命中すると爆発を起こし、命中箇所を中心に攻撃型「叩き」の衝撃ダメージが発生します(防具は通常通り有効)。
 射撃技能は〈呪文射撃/球体〉を用い、抜撃ち13、正確さ+1、射程20/60mとなります。標的および周辺の者は「よけ」および「とめ」が有効で、「よけ」に成功すると爆発地点から1へクス遠ざかれます。
●消費:2~6。エネルギー2点ごとに1Dダメージ。《爆裂火球》と同じく、1へクス遠ざかるごとに-1Dダメージ。 ◆準備:1~3秒 ★前提:《雷》
■シナリオにお勧めのスポット
 ゼクスでの冒険にあたって、お勧めの冒険場所を簡単に紹介しておきます。
●天幕都市イーア
 エタン唯一の固定の町であり、ここでは他の土地と同じような「シティ・アドベンチャー」が行えます。家屋は全て「トーナ」(テント)ですが、町としての機能は一般的な人間の町と同じで、双子の月の各神殿も存在します。特に、青の月信者の多くがここを拠点にしています。
 なお、「入信者」以上のキャラクターはペローマ学院(大学相当)を卒業する事が大前提であるため、ゼクス出身のPC(普通は入信者以上)は、少なくとも学院に行っていた期間はこの町にいた過去があるはずです(国外出身者でもない限りは)。

 この国でも「闇タマット」や「悪魔教団」などは闇に潜んでおり、通常はイーアを拠点にしています(ゼクスで富が集積するのはここくらいなので、この町以外を縄張りにする事はほとんどありません―――農業すらできない草原では「儲からないから」です)。自力で馬を維持できなくなった貧しい傭兵などが、こうした裏組織の用心棒に雇われるケースもあると言います。

 また、ごく一部の部族が生活に困窮した挙句に狂暴化し、まるで他国における山賊のように他の部族を襲って財を強奪する集団と化す例が、たまにですが発生します―――部族1つが「闇タマット化した」とも言えます。通常、困窮すれば他の部族に家畜を分けてもらうか、部族を解散して他の部族と同化する道を選ぶはずなので、こうなる原因は邪術師が絡んでいるのが普通です(スターウォーズのシスの暗黒卿よろしく部族ごとを乗っ取ってしまうわけです)。
 もっとも、その多くは複数の部族が組んで編成した討伐隊によって、ごく短期間で消滅させられてしまいます。こうした討伐隊に、冒険者が追加戦力として雇われる事もあります。

●山岳地形
 リプレイに登場しましたが、ゼクスには「野牛の台地」「木霊の谷」「風山羊岬」「黒馬峠」といった山岳地形も少数ですが存在し、そこには定住する「エタンではない」彷徨いの月の種族がいると言います。彼らは「何か」を守るための守護部族として定住しており、外部からの来訪者を嫌う閉鎖的な集団です。
 また、この地形には小規模なドワーフの鉱山都市が点在し、ゼクスでは貴重な鉄資源の供給源となっています。普通の冒険者がこれらの土地に関わるとすれば、ドワーフとの交易行商の護衛などを引き受けた場合でしょう。

 その他、これらの地形はエタンたちが足を踏み入れない場所なので、いくつかの遺跡も手つかずで残されていると言います。敢えて草原の国でダンジョン探索をしたいのであれば、これらの地域に存在する迷宮を探すしかないでしょう。

●天上の湖
 ゼクスの中央部に存在する、かなり大きな湖です。現在の天幕都市イーアは、この湖の北側に位置しています。
 地図上では表示されていませんが、この湖には小さな島がたくさん存在し、そこの一部には俗世に関わらないウィザードたちが居住にしていると言います。ウィザード関連の冒険がしたい場合、ここの魔術師が関わってくる形にするとよいでしょう。

●皇帝の呪い
 ゼクスと帝国の国境近くにある沼地で、沼自体は昔からあったのですが、帝国の建国戦争で皇帝ライテロッヒ・ジェムがここで崩御してからというもの、狂暴なモンスターや黒の月の種族(主にゴブリン等)が徘徊する危険な土地になり果てています。
 沼の奥地には、エルファの集落の遺跡のようなものが存在し、元はこの辺りは森だった気配もありますが、どうしてこのような状況になったのか、知る者はいません。

 この土地が「皇帝の呪い」と呼ばれるのは、建国帝が死んだ場所だからというよりも、皇帝にいくつもの不幸が重なった経緯が由来です。本来ならば当たるはずのない手斧が命中して即死したり、直後に執り行われた蘇生の呪文がなぜか失敗したりと、この地を攻めようとした建国帝はロクな目に合わず、現世から退場するハメになりました。
 この奇妙すぎる事件は明らかに偶然の産物ではなく、魔法や因果律が関わっています。おそらくこの土地は、何らかの形で〈悪魔〉の力が宿っているのでしょう。その根源は〈悪魔〉を生み出す原因にもなったと言われますが、真相は定かではありません。
●神馬(しんめ)
 上記の辺境の1つ「黒馬峠」には、人語を介する馬が住んでおり、たまに人里に下りてくる者がいます。彼らはサイズ的に大型のラバに相当し、身体能力もそれに匹敵します。また、それに加えて魔法も使います。
 彼らの由来は不明です。例外なくウィザードとして存在し、〈天使〉を身に宿して自在に魔法を使いこなすため、巨人族などと同じく「白き輪の月」の種族として扱われています。
 一説では、魔法で馬に変身中の魔術師が本物の馬と交配した結果とか、現在は存在しない馬が祖霊動物のエルファ氏族の者が人としての姿を捨て、知性ある馬として生きるようになったからだとか諸説ありますが、真相は定かではありません。

 神馬はキャラクターとして使えますが、現在のルナルの文明社会とは無縁の存在なのでNPCとして使う事をお勧めします。種族的に「自然に対する義務感」(-15cp)を持つため、草原の平和を守るためのクエストを依頼してくるNPCとして登場させるのが良いでしょう。
 神馬の中には、ごく稀に6本の足を持って生まれてくる個体がおり、「スレイプニール」と呼称されます。スレイプニールは「最高の軍神」と称され、空を駆け、神馬やエタンの司令官として君臨すると伝わっています。
 以下、CP計算する場合に用いる種族セットです。

[神馬種族セット](60cp)
●体力倍増2レベル(制限あり -50%)(50cp)
 体力4倍。疲労点、荷重、近接戦闘での体力判定、体重のみ適応される。
●知力+1、生命力+2(+30cp)
●動物共感(5cp)
●魔法の素質L3(35cp)
 自身の身体に〈天使〉を宿らせる事で魔法を行使。「ガープス・マジック」の全ての呪文を習得可能。〈天使〉は生得能力的に働いているため、一般的なウィザード種族のように特定系統の呪文に親しい〈天使〉を召喚し、ボーナス修正を得る事はできない。
●巨大1レベル(3cp)
 大きさ2へクス扱い。
●複数の足L2(20cp)
 4本足。移動力+1。
●鉤爪1レベル(足のみ -20%)(12cp)
 爪または蹄によりキックのダメージ+2。
●高速走行1レベル(20cp)
 直進移動時に移動力2倍。
●支持肢なし(-50cp)
 手がない。キックは敏捷力or〈格闘〉技能のレベルそのままの値で判定を行える。
●原始的3レベル(-15cp)
 文明レベル0。衣服なし。たまにマジックアイテムを所持している程度。
●財産/どん底(-25cp)
 初期財産の総額0ムーナ。アイテム持ちなら買い戻す必要あり。
●誓い/自分が運べるだけの財産しか持たない(-10cp)
 経済の概念がない。縄張り意識はあるが、不動産の概念はない。
●義務感/自然全て(-15cp)
 同族への義務感も含まれる。

 座高は同体力の人間の2割増し。体重は10倍。爬行姿勢であるため、ヘクスで表示する場合は3へクス扱い。
 6本足のスレイプニール種は上記に加え、「カリスマ2レベル」(10cp)「複数の足L4」(差額で+2cp)「空中歩行」(20cp)で合計+32cpが必要となる。

(通りすがりの神馬・サンプルデータ)(100cp)
体力40 敏捷力10 知力12 生命力14
移動力:7/14(全力疾走) よけ:6 受動防御/防護点:0/0
体重:700kg 大きさ:2ヘクス(表示は3ヘクス)
攻撃:キック/技能レベル10=叩き1D(距離C,1)
呪文: 《空中歩行13》《雨13》《水作成13》《小治癒13》
《騎乗》を除く動物系呪文全て13レベル
《植物変身》を除く植物系呪文全て13レベル
技能:生存/草原12、動植物知識10、戦術9

●神代の種族
 上記の辺境の1つ「野牛の台地」には定住するフォーン族のシャロッツたちがおり、角が1本ではなく2本生えており、ツインフォーン族と呼ばれています。彼らは通常のシャロッツよりも遥かに強い「月の賜りもの」の力を持つと言います。また、通常個体より長生きだと言います。

 これらは「神代の種族」と呼ばれており、双子の月が到来する以前の彷徨いの月の種族に時々見られます。ガープスのルール的には「現代種より繁殖力が大きく劣る代わりに「月の賜りもの」のパワーレベル上限(5または10レベル)が撤廃され、無制限に上昇させられる(「特殊な背景」+10cp)」「種族的に「長命」の特徴を有する(+5cp)」という扱いになります。
 シャロッツ以外にも、ギャビットやミュルーン、フェリアにも同様の神代の種族が現存し、上記の各山岳地帯で「守護者」をやっていると言います。彼らが何を「守護」しているのかは詳細不明ですが(リプレイ「天空の蹄」篇を参考に各GMが決めて下さい)、おそらく月の神々に直接関わるものです。

 これらの種族はマンチキン作成すると明らかに強すぎるので、基本的にはNPC専用種族とした方が良いでしょう。

●彷徨いの月信仰の秘密
 当然ですが、かつて彷徨いの月を信仰していた人間種族にも「神代の種族」が存在すると言われており、草原を徘徊する遊牧民部族の一部が、双子の月がやって来る前の彷徨いの月信仰を、いまだ口伝の形で継承しているという噂があります。
 人間の彷徨いの月信仰がどのような「月の賜りもの」を授かるかは、現在では忘れ去られていますが、「〈源人〉に一番近い種族」という経緯から察するに、おそらくユエルのシェイパーが行使するような「変身能力」と推察できます。そして、現在においても彷徨いの月信仰を行えば、おそらく該当能力を授かるはずです(もっとも、現在の人間はシャストア信仰を行えば、少なくとも外見の変更は安いコストで行えますが…)。

 その秘密を探って草原を徘徊するのも、1つの冒険のネタとなるでしょう。
■サンプル・キャラクター
 ゼクス共和国の一般的な1つの家庭のサンプルを紹介しておきます。
■サンプル冒険者隊 『テイレン一家』
 ゼクスのとある遊牧民部族に所属する1家族で、家長は行商人レンと妻の遊牧民テイです。テイとレンの間には、既に0歳と2歳の赤ん坊がいますが、ある時、空から降ってきた謎の少女が「娘」として家族に加わった事で、「3人兄弟」という扱いになっています。

 その他の家族の1人として、ティアフ司祭のリンがいます。彼女はレンの実の妹です。また、部族の傭兵の1人として、エレアラ信者の騎兵メイコがいます。テイレン一家との血の繋がりはありませんが、長きに渡って雇用され続けた結果、現在は家族の一員となっています。
 その他、非戦闘員のエタンが使用人として何人か雇われており、そのほとんどはテイかレンの血縁者です(必要に応じて設定して下さい)。また、所属する部族はおおよそ20家族からなる大所帯であり、財力と商業力のあるレンは「次の族長」の候補として扱われており、かなり発言力のある家系となっています。

 元ネタは、クリプトン社製ボーカロイドの「鏡音リン・レン」「MEIKO」、1st PLACE株式会社のボーカロイド「IA_-ARIA_ON_THE_PLANETES-」、UTAU音源の「健音テイ」です。
[編集手記]
 考察の項目で編集手記をつけるのは避けていたのですが、最近は付け足したい事も多かったので、今回から付ける事にしました。なるべく短く済ませたいと思いますが。

 では、さっそく本題。


【ゼクスの遊牧民のイメージ】
 ルナル作者が考えたと思われる遊牧民のイメージは、おそらく現代の「のんびり暮らしてる遊牧民」だと思います。
 しかし、TL3の時代は他国が隙を見せれば攻め込んで略奪するのが普通の時代でした。そのため、遊牧民も力をつけると遠慮なく略奪を行いました。それは、ルナル世界でも基本的には変わらないはずなんですよね。トルアドネス帝国やらスティニア高地王国が大した理由もないのに侵略戦争を行ってる時代に、常時資源が困窮している遊牧民が、何の裏付けもない平和主義者ってのもおかしな話ですし。

 …ただですね?作者が考えた「のんびり遊牧民」も、状況によってはありえるかも?と管理人は考えました。結果が以上のレポートです。双子の月の神々がもたらした呪文という奇跡が、不毛の乾燥地帯に水をもたらしたら?バイオームの特性が変わる程ではないけれど、人々の生活を十分守れる程度には清潔な水が供給されたら?
 現実の地球では、そういう歴史は存在しませんでしたが、魔法が存在するファンタジー世界であれば、そういう架空の社会が存在してもいいかもしれない。資源がなくとも水があれば繁栄した例は地球でも存在し、砂漠のど真ん中の河川周辺で文明を発展させた古代エジプトやメソポタミア文明などがそれに該当します。
 なので、河川すらない乾燥地帯でも、魔法があれば同様のことが起きるかも?と考え、作者が考えた空想の遊牧民国家を管理人なりに実現してみました。


【三女神信仰に関して】
 当サイトは原作ガープス・ルナルを大きく改変している事から、ゼクス特有のアルリアナの下位従属神信仰に関しても、原作のルール(リプレイ「天空の蹄篇」の巻末の信仰データ)からかなり大きく変えています。

 三女神の教義に関しては、ほぼ原作と同じに合わせてあります。ただし、3つ目の女神エレアラに関しては、原作のルールだと「復讐の女神」みたいになってしまっていて、「覚えておいて復讐する」のはどちらかというと信念―――すなわち青の月のサリカ神に属する思想なので、これは教義的に明らかに間違ってると思い、大きく変更しています。「怒りの感情を素直にぶつけてすぐに仲直りする」―――こっちの方が忘却を司るアルリアナの下位神に相応しいと思います。

 次に、神殿武器の数々を「遊牧民でも手に入りやすい動物の皮とか木片で作れるもの」に変更しました。原作ルールはほとんど無視しています。
 ちなみに、エレアラの神殿武器「コピア」は、現実世界ではポーランドのフサリア(有翼重騎兵)が実際に使っていたランスで、全長7メートルほどあったと言います。これは、当時7メートルほどまで伸びていたパイク兵の槍に対抗するためで、軽量化の代償で一度命中したら確定で折れたそうです。
 で、これは「騎馬民族」で「怒りの感情をぶつけて速攻和解する」というエレアラの教義にぴったりだと思い、神殿武器に採用しました。

 呪文に関しては、どの女神でも《雨》の呪文が習得できるようになっており、遊牧民が豊かな生活を営むのに必須の水を供給できるように設定してあります。各部族には、三女神のいずれかの神官クラスが必ずおり、必要に応じていつでも雨が降らせられるような社会を想定しています。


【神は歴史平行世界をどう管理しているのか?】
 第11節「時を駆ける少女」の項目で、ルナル世界での時間移動に関する考察を行いましたが、当サイトでは以下のルールで処理しています。

●過去ワープは歴史平行世界を増やすだけ
 当サイトにおける過去ワープは、「過去ワープした時点で新たな歴史分岐が発生し、時間移動者は新規で生成された時間線に強制移動させられる。これによりタイム・パラドックスを回避する」としています。つまり過去ワープした時点で、その人は「過去によく似た別の世界に迷い込んだ」扱いであり、その人が元いた世界の歴史を修正する事はできません。
 そして神と言えども、一度刻まれた歴史を後から修正する事は不可能です。神々にできる事は、滅んでしまった時間線の過去に何らかの干渉を行い、新たな歴史平行世界を作る事だけです。上手く干渉すれば、新たな時間線は滅亡を免れるかもしれません。

 このルール下において、リプレイや小説で登場した「滅亡を救うために未来からやってきたメノア」を導入した場合、彼女は「未来の記憶」を失いません(何らかの事情で失っていても問題はありません)が、どう足掻こうと元の世界の滅亡を救う事はできない事になります。
 ただし、上記の神々のように「滅亡しない新たな平行世界を作る」という大義名分は通るので、過去ワープに全く意味がないわけではありません。
 なので、神の立場から世界を救いたい場合、滅亡する歴史が生み出される「前」に、速やかに救助行動を行う必要があります。例えば、「黒の月が発生して、このままではルナルが滅びる確率が高いので、あわてて双子の月という援軍を送る」といった具合です。
 しかし、神と言えども未来予知は不完全であり、あえなく滅んでしまったので、仕方なく「後から」別の歴史平行世界を作るといった事は往々にして起こります。例えば「〈源初の創造神〉が双子の月の援軍を送らなかったため、黒の月に滅ぼされた時間線」という黒歴史な歴史平行世界が、ルナルにも存在するかもしれません。

 リプレイ「月に至る子」で「《長時間遡行》の呪文でメノアが未来から跳んできた」のも、双子の月の神々が未来予測を間違えた(月への扉が開けっ放しでも大丈夫だろ~我々は人間を信じてる…あれ?大丈夫じゃなかった?)ため、「修正」するために彼女のような存在を許した(あるいは意図的に生み出した)のかもしれません―――無論、滅びの歴史を救うためではなく、「滅びなかった新たな歴史平行世界を作るため」ですが。
 そしてリプレイの主人公たちは、神々の「滅びの歴史はもう見捨てる」選択を承諾できず、自ら滅びの歴史へ救助に向かいました……果たして、結末はいかに?

●神々は「唯一の存在」
 ルナルを含むあらゆる世界の人々は、歴史平行世界のそれぞれに同一の「自分」が存在し、それぞれの歴史の中で生きています。量子レベル(似たような歴史平行世界の集合体1つを階層で表すもの)が大きく異なる遠い「神話平行世界」であっても、その世界での「自分」が必ず存在します―――例えば、第13節「銃と魔法」で登場した、ルナル世界のウィザードの女性「レア・クラブフラット」と、遠く離れた量子レベルの平行世界から召喚された「蟹平玲愛」は、名前、文化、身体能力に至るまで全く異なりますが「同一人物」です。

 それらに対し、高次元の存在である神々は、複数次元に存在しない「唯一の存在」です(このあたりのルールは、ガープス第4版では明確に設定・数値化されていますが、第3版の段階ではまだ存在していませんでした)。
 ただしその状態だと、複数の歴史平行世界に存在する自身の信者たちを守れないので、自身のペルソナのコピーを分散配置し、それぞれの歴史平行世界を管理しています。つまり神々は「1つのコピー元」が存在するため、どの平行世界でも同じ性格や記憶、見た目で現れ、各世界で得た記憶情報も全て共有しています(シャストア神が即座に別世界のデータを検索・解析できたのも、既に別世界のペルソナとの共有済みの情報だったからです)。

 一方、「守護していない遠い平行世界」に関しては、何かしら興味を引く事象がない限り、神はコピーを派遣しません。世界によって崇められる神格が全く異なるのも、それぞれの世界に応じた全く別の神格が世界を管理しているからです。
 ただし、興味本位で全くの別世界にコピーを飛ばし、「神」ではなく「観察者」として活動する例はあります―――当サイトのルナル世界で、双子の月で奉仕活動(アルバイト)しながら活動している女神イアが、そのような存在に該当します。

 さらに、宇宙の創造神レベルになると、創造した宇宙1つの歴史平行世界全てを監視をしてはいますが、管理の範囲が広すぎるため、個々へのアプローチ(加護だの粛清だの)は非常に希薄になり、住民からすればほとんど干渉してこない存在となります―――そうなると住民たちは「創造神の存在すら知らない」といった事も普通に起こります(どの世界においても創造神クラスになると認識すらされず、信仰対象にならない理由がこれです)。

 ルナル・サーガの小説の第4巻で、エフィがシャストア神と直接対話するシーンがありました。さしものエフィも神相手に萎縮したのですが、シャストア神は「そなたと話しているのは、私の万分の1以下に過ぎぬ」と返していました。
 つまりこれは、「複数の時間線を管理する立場上、1つの時間線に特化するわけにはいかないので、いくつもの自身のペルソナを分散配置して対応している」ことを遠回しに述べているのだと、管理人は解釈しています―――エフィには全く理解できなかったでしょうが。

●神々の未来予知は数学の範疇
 私たち人間は、未来予知を学問などで行いますが、基本的に神々も同じだと考えています。ただ、高次元生命体である神々は、歴史平行世界を直接見る事ができるため、もっと単純に統計学的に未来予知ができると考えています。
 無論、まだどこの時間線も辿った事がない歴史の場合、神と言えども完全な予測は不可能です。なので、神々としては「ありきたりの時間線」よりも「特殊な歴史を辿った例外的な時間線」の方が、ずっと興味を引くことでしょう。

 シャストア神がエフィに「私の意思を超えるものこそ、私が望むもの。計算外のもの、宿命なき子よ」と言い、特に可愛がっていたのも、エフィが「今までになかった歴史平行世界を生み出す可能性の高い興味深い存在」だからだと思われます。
 そしてこれは伏線でもあったようで、最終巻では未来からやって来たメノアが現れ、エフィは彼女の「未来を救いたい」という願いをかなえるため、残りの人生全てを費やし、歴史の改変作業を行う大冒険に出るきっかけとなりました。

 果たしてエフィは、シャストア神の意思を超える存在になれたのでしょうか―――
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