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■第2節 邪術師
 ルナル世界において、黒の月とそこから来る〈悪魔〉は全ての生命体の敵であり、シナリオのボスとして最も推奨されている存在である。今回は、その力を扱おうとして自身も邪悪な存在になり果ててしまった邪悪な魔術師―――「ソーサラー」(邪術師)を紹介しよう。
 
■概要
 邪術師(ソーサラー)とは、白き輪の月を崇めるウィザード種族のうち、力を求めるあまり〈天使〉を破棄し、代わりに〈悪魔〉を召喚して魔術具に封じ、その「力」だけを利用しようと目論む危険な魔術師たちである。そして、種族的にも「ソーサラー」という別の独立した種族へと変化する。

 〈悪魔〉は〈天使〉と同じくエネルギー生命体である。〈天使〉と決定的に異なるのは、〈悪魔〉は強烈な自我と負の感情を持っており、破滅的な行動を取りたがる事である。そして最終的には、自分自身を含む世界の破滅を目指している。生物種としての存続を真っ向から否定しているため、ルナル世界においては「生物全ての敵」と認識されている。
 彼らの属性は「神」に近く、ゆえに利用できるような生易しい相手ではなく、逆に肉体を乗っ取られてしまい、魂の破滅を引き起こす。この一連の流れは人の身では回避不能であり、破滅の運命から逃れる術はない。
 邪術師たちは、その破滅の途上にある存在であり、契約して憑依される事ですでに精神的にも〈悪魔〉に同調し始めているので、残虐で無慈悲な存在と化し、社会的な倫理観を喪失している。ただし種族的に知性が高いため、表面上は善人を演じ、世間から身を隠し、破滅をもたらす絶好の機会が訪れるまで状況を窺っている。

 彼らの人生目的は、ウィザードだった頃と基本的には変わりなく、魔術研究の追求だったり、魔法を使って何らかの理想をかなえる事である。中には、「白き輪の月に至り、上位天使になって至高なる輝きの地を目指す」といった意識高い系ウィザードのように、「黒の月に至って世界を滅ぼす力を持つ魔神となる」といった、マイナス方向で生真面目なソーサラーも存在する。
 ただしウィザードとは異なり倫理観を喪失しているため、手段を選ばず目的に直行する。むしろ、他に穏便な手段があるにも関わらず、わざわざ拙劣な手段を取りたがる傾向すらある。生贄が必要ならば人をさらって殺害するし、町の破壊が必要ならば侵略行為も辞さない。
 ソーサラーの中には、刹那的な感情を満たすためだけに残忍な犯行を繰り返す「手段が目的と化している」短絡的な者もおり、知的な魔術師のイメージとはおおよそかけ離れた者が結構な頻度で出現するのも、邪術師ならではの特徴である。
 邪術師たちは、〈悪魔〉の力を得て最強の存在となったと錯覚しているため、基本的には自分が「唯一絶対の王」であり、他の存在は全て利用すべき「駒」である。同じ邪術師であっても没交渉であり、利害が一致しない限り、一時的に協力しあうことすらない。
 そのため、ほとんど例外なく単独で活動する。他作品でいうならば、スターウォーズの世界の「シスの暗黒卿」に近い存在と言えるだろう。

 邪術師によっては、魔術実験の触媒や生贄を効率的に集める目的で、自身の手足となる〈悪魔〉教団を設立し、魔術の恩恵を与える代わりに教団メンバーになるように勧誘し、組織を作り上げるケースもある。教団メンバーとなるのは、現在のルナルの支配種であり、双子の月信者の人間たちがほとんどである。
 しかしその場合でも、邪術師自身が絶対君主であり、メンバーは全て奴隷に等しい存在でしかなく、「仲間」という概念は存在しない。教団がガヤン神殿の強制捜査を受け、戦闘が発生する場合でも、邪術師が配下の教団メンバーと協力して集団戦を行うことはなく、教団員を前哨戦の捨て駒として扱い、自身は単独で迎撃を行うスタイルを取る。
 これは「自分の手の内を味方に知られたくない」という理由が最も大きい。また、教団は基本的に恐怖で支配されているため、「どんな手段を使うか分からない」ことが教団主への恐怖の演出に一役買うわけである。

 さらに、非常に稀な例ではあるが、複数の邪術師が集まって教団化する事がある。一般的なのは、「1人の師匠と複数の弟子」という形態である。さらにその下には、手足となる人間の教団員を無数に抱えることになる。
 ただし、この場合の組織であっても、内部で厳格に序列が形成されており、「第1の邪術師」である師匠以下、「第2」「第3の邪術師」の弟子と続く。この序列は、弱肉強食の理論(戦闘力の高さ)で厳格に定められており、自分より上位者の命令は絶対である。そのため、邪術師による合議制組織などといったものは成立しない。
 そして邪悪な彼らのこと、弟子が師匠の油断を突いて不意打ちで倒し、教団を奪い取る下剋上な展開、あるいはそれに対して師匠が返り討ちにして反抗者を粛清するといった展開も、教団内部では特に珍しい事ではない。
 邪術師が魔術武器として使う「邪術具」は、基本的にはウィザードの「魔術具」と同じ存在であり、〈天使〉が司る力に応じて種類が分かれているように、〈悪魔〉もまた司る側面に応じて種類がある。
 それぞれの頂点に立つのは、黒の月の神格として存在する「魔元帥」であり、邪術師が実際に召喚する〈悪魔〉は、崇める魔元帥の配下の〈悪魔〉である。

 そして、ウィザードが〈源人〉の先祖返りであり、時々通常の人間にはない身体部位をもって生まれてくる事があるように、邪術師も崇める魔元帥に相応しい外見へと変化する。獣や昆虫のような外見になったり、あるいはゴーレムのように肉以外の素材で構成された肉体をもったりと、ウィザードよりも外見の変化が大きく、明らかに人間の範疇を逸脱した外見が多い。
 そのため、異様過ぎる外見のせいで邪術師だとバレないよう、ぶかぶかの黒ローブを被って本体の姿を見えないようにしている者も多いようだ。


 さらに邪術師は、追い詰められた時の最後の「切り札」として、支配している〈悪魔〉に自らの肉体を貸し与え、強力な物理戦闘力を得るという能力がある。

 この変身は、いつでも術者が望むことで一瞬で行われる(自身のターン冒頭、呪文発動のタイミング)。また、邪術師が戦闘中に気絶したり、生死判定に失敗して死亡した場合でも、ターン冒頭に肉体から魂が離れる直前に、必ず〈悪魔〉の側から「変身に合意するか?」の機会を1回だけ与えられる。
 どのようなケースであれ〈悪魔〉変身に合意すれば、速やかに変身が始まり、ダメージや気絶、死亡結果などは全て打ち消され、地上で肉体を持った際の〈悪魔〉の姿と力を使えるようになる。ゲーム的には、ターン冒頭に「変身」の発動が行われ、1ターンかけて変身が完了するものとする(変身中は自発行動が取れないが、能動防御は可能)。PC側が、この邪術師の変身行動を止める事は不可能である。

 ただし、この変身能力を何度も使うと(ルール的には3回)、最終的には体を〈悪魔〉に乗っ取られ、邪術師の意志も〈悪魔〉の意志に飲み込まれて消滅する。この現象は、一般に「魂の破滅」と称される。
 魂の破滅後の邪術師の肉体は、完全に〈悪魔〉の所有物であり、〈悪魔〉自身が望めば乗っ取る前の「人間」の姿に戻れるが、その姿の元「所有者」だった邪術師の意志が復活する事は二度とない。
 そのため邪術師が変身能力を使うのは、本当に追い詰められた場合のみとなる。

 大抵の邪術師は、戦闘で死亡した際に「どうせこのままだと人生終わりだし?」ということで変身を了承し、復活して暴れる方を選ぶのだが、何かしらの信念を持っていて、〈悪魔〉変身に同意しない邪術師もごく稀に存在する。死亡時の〈悪魔〉の囁きに抵抗した場合、邪術師は最後の最後で踏み止まった事になり、魂は〈悪魔〉から解放される。
 また、合体後でも〈悪魔〉が戦闘で物理的に倒された場合、〈悪魔〉が現世から放逐されるタイミングで、それまでに取り込まれた魂も全て解放される(逆を言えば、これ以外で捕らわれた魂を救う方法はない)。


 最後の注釈として、人間以外の種族が邪術師になるケースがある事も留意しておいてほしい。例えば、黒の月の種族であるゴブリンは族長クラスになると、そこそこの確率で邪術師が混じっている。
 ただし今回のレポートでは、街の中など人間社会で登場させやすい「人間種族出身の邪術師」に限定し、それ以外の種族の邪術師に関しては、また別のレポートでサポートしたい。




■■ 邪術師キャラクター
■特徴
 社会的倫理に乏しく、自分だけが最上位の存在であり、魔術のためならば何をしても良いという問題児であるため、「高慢」「誇大妄想」「熱狂/自分自身」などといった特徴を持つ確率が非常に高い。また、対人関係でこじらせている場合、「狭量」「偏執狂」「虚言癖」といった特徴を持ち、他人を信用しないのが普通である。
 また、〈悪魔〉の力を使い始める事によって精神的に歪みが生じ、「暴れん坊」「サディスト」「残忍」といった本質的に歪んだ特徴が発現する邪術師も少なくない。

 一方で注意して欲しいのだが、「強欲」や「けちんぼ」といった金銭に関する特徴は、あまり適切とは言えない。というのも、貨幣は各種サービスを受けるためのただの「仲介物」であり、魔術師はそのようなものがなくとも、呪文を習得・行使すれば直接的に願いをかなえられる存在である。よって、敢えて金に執着する理由に乏しい。

 なお、元ウィザードで堕ちた邪術師、あるいは赤ん坊の頃に素質を見出され、邪術師の師匠に導かれて正規の訓練を受けた邪術師たちは、最低でも150cpで作成される。邪術師は、社会的に以下の不利な特徴のどちらかを所持する事を強制される。よって、不利な特徴は-40cpではなく-80cpまで取得しても良いものとする。

1)「被差別集団/邪術師」(-20cp)および「敵」(主にガヤン神殿など)
 特に表の顔などを持たず、裏社会専属で活動する場合、邪術師として認識され、ガヤン神殿から指名手配を受けているのが普通である(邪術師は個体数が少ないため、活動していればほぼ確実に知られる)。一般市民からの反応は-4され、ガヤン神殿に見つかれば裁判なしの即処刑となる。
 一方、闇タマットなどが活動する裏社会においては、畏怖判定という事で+4の反応修正を得る。裏社会での仕事には困らないはずである。

 なお、「敵」でガヤン神殿を設定する場合、1つのコミュニティ(町一つとその周辺の村々)で指名手配されている程度であれば「小集団」(-20cp)、1地方全て(複数の町で構成された行政区1つ)のガヤン神殿が追っているのであれば「中規模」(-30cp)、1国全体で指名手配されている場合は「大集団」(-40cp)が1つの目安となる(さらに国際指名手配されるような超大物邪術師の場合、単純に敵の登場頻度を上げると良いだろう)。

2)「秘密/死」(邪術師であること)(-30cp)
 変装などを行い、一般社会において善良な一般市民(例えばウィザードなど)を装って秘密裏に活動している場合、まだバレていないうちはこの特徴を取得する(過去にガヤン神殿で指名手配されていても、バレてないうちは「敵」としては登場しない)。何らかの事情で「身割れ」し、揉み消せなかった場合、直ちに上記の1の特徴群に置き換わる。




■性能
 戦闘面における邪術師の能力は、大きく分けて2タイプ存在する。

(魔法戦士タイプ)
 呪文を交えた近接戦闘に手馴れている魔法戦士タイプ。
 近接戦闘手段として、剣などの得物を使う場合もあるが、《火炎噴射》《音噴射》などでも近接武器として扱える上、飛行系呪文などの能動防御値を底上げできるため、魔術オンリーでも白兵もできるキャラクターを作るのは比較的容易である。
 また、崇める魔元帥に応じた身体部位の変化により、地肌の受動防御や防護点が上がる恩恵を受けていれば、着用する防具は薄くてもプレート並の固さといった事も可能である。

(指揮官タイプ)
 自身で戦うのではなく、サーバントを用意して戦わせ、自分は後方支援主体という邪術師もいる。邪術師で最もありがちなのが、《死人使い》の呪文で複数のアンデッドを連れまわしているネクロマンサー(死霊術師)タイプだろう。
 その他、動物系呪文で大型獣を随伴させたり、幻覚/作成物系呪文の《動物作成》《戦士作成》で幻覚兵士を連れているケースなども考えられる。また、精神操作系呪文《奴隷》などで戦士タイプの傭兵などを洗脳し、連れて歩くパターンもあるだろう。

(邪術師に向かないタイプ)
 上記二例と異なり、邪術師にはあまりいなさそうなタイプに「魔化師」が存在する。

 邪術師が軽率にも〈悪魔〉の力を借りるのは、即物的に強大な力を得たいがためである。だが、魔化系呪文は最初から作品の完成まで非常に時間がかかるのが大前提であり、しかも単独の術者での魔化では、ごくごく小さなアイテムの作成に限定されてしまう。群れる事を嫌がり、孤高を気取る邪術師たちが、魔化教団を形成するのもおかしな話である。

 そのような背景から、邪術師が持つ魔化アイテムは市場で金銭購入したり、どこかの魔術師の倉庫から盗んできた「他のウィザードが作った品」であるとするのが妥当である。
 そして、自作ゴーレムをひきつれた邪術師や、自前の魔導兵器を繰り出してくる邪術師というのは、設定的にかなり無理がある(ゴーレム使いのウィザードを《魅了》の呪文で操ってるとか、埋もれた古代魔導兵器を偶然発掘したという言い訳なら通るかもしれないが)。

 邪術師がゾンビやスケルトンなどの簡易サーバントを好むのは、「あまり強くはないが単独の術者が短時間で用意しやすい」からである。GMはオリジナルの邪術師を設計する際、この点は留意しておいた方が良いだろう。




■〈悪魔〉の共通能力
 通常、追い詰められた邪術師は〈悪魔〉に変身し、戦いを仕切り直す。
 その〈悪魔〉の能力だが、ルナル完全版でははっきりを定義されていないため、ここでは全ての〈悪魔〉が最低限持っている能力をルールとして定義しておく。
●純粋知性体、異次元移動(ルナル⇔黒の月のみ)
 〈悪魔〉は基本的に「情報統合思念体」と同等の存在である。ただし、この世界の魔法文明レベルはまだ低いため、そこの人々の思いから生まれた〈悪魔〉もまた、出来る事が限られており、魔元帥や妖将クラスはともかく、それ以下の〈悪魔〉は神格としてはかなりレベルの低い存在である。
 〈悪魔〉は黒の月を「ゲート」として利用し、ルナルと黒の月の向こう側の世界〈絶対の闇なる邪悪の地〉を行き来できる。

●宇宙の法則
 〈悪魔〉は不滅の存在であり、地上で肉体を持ち、戦闘の結果、破壊されたとしても、悠久の時を経てその魂は復活する。ただし一度「死亡」すると、存在が復活するまでに最低でも50年、通常は100年以上かかる(強い〈悪魔〉ほど蘇生に時間がかかる)。
 そのため人間のタイム・スケールから見れば、〈悪魔〉を倒す行為に全く意味がないわけではない。

●物体憑依、生物憑依
 ルナル世界に現れた〈悪魔〉は、そのままの状態ではテレパシーで生物にメッセージを送信する程度の事しかできない。ゆえに、近くの生物に憑依を試みる。対象が〈悪魔〉だと認識している状態で、3つの承諾を得て契約した時点で、対象が所持する物体1つに憑依し、「仮住まい」する事ができる。

 さらに、契約状態で対象が〈悪魔〉への変身を望めば、今度は対象に直接憑依する事ができる。この憑依は3回行われた時点で完全に肉体を乗っ取る事ができる。

●マナ集積
 〈悪魔〉は自分の周囲だけマナ濃度を「濃密」まで上げて、
呪文をほぼ無限に使う事ができる。ただし、1回の呪文の発動で使えるエネルギーの量は、疲労でぶっ倒れない範囲までである(例えば、体力20の〈悪魔〉ならば19点まで)。そのため〈悪魔〉と言えども、範囲呪文などの効果範囲を無制限に拡大できるわけではない。

 なお、「マジック」のルールにあるように「HPを削ってエネルギーに充てる」事も当然できるのだが、使用したHP分だけ発動にペナルティがかかり、しかもマナ濃度が「濃密」の環境で呪文判定に失敗すると即座にファンブル扱いとなるため、〈悪魔〉がHPを消費してまで呪文を使うことはまずない。

●我慢強さ、飲食不要、酸素不要、睡眠不要、毒無効、ダメージボーナスなし/重要器官なし
 〈悪魔〉はこちらの世界で力を振るう際、憑依した肉体を用いる。この肉体は、魔力によって動かされているだけなので、一般的な生物のようなエネルギー補給は必要とせず、マナの接種のみで活動する。また、痛覚も〈悪魔〉自身には鈍くしか伝わらない。誘眠系の魔法に対しても+5で抵抗する。

 一応、肉の塊ではあるので「切り」「刺し」攻撃のダメージボーナスは有効。ただし重要器官(脳や重要器官など)は存在せず、頭部らしき場所に「叩き」攻撃を受けても気絶判定を行う必要はなく、「刺し」攻撃で目を貫いても脳などないのでダメージは平常通り処理され、《音噴射》などで内臓を揺さぶってもマヒさせる事はできない。外見上は地上の生物に酷似した部位を持つものの、本質的には均質な肉の塊でしかない。

 ただし、〈悪魔〉の形状に手足や翼などがあり、それらを実際に行動に利用しているのであれば、部位狙い攻撃する事で一瞬だけ使用できなくする事は可能である。

●再生L2
 1分につきHPが1点回復する。戦闘中に利用する事はできないが、逃走中に自己修復を行い、再戦を試みるのが容易となるだろう。
 なお、マナ濃度が「なし」の状態では効果は働かず、逆にダメージを受け続ける(下記の弱点(生存条件/マナ)を参照)。

●変形修復
 部位狙い攻撃によって、手足や翼、角、触手などが切り取られたり、目を潰されたなどといった状況でも、〈悪魔〉自身のターン冒頭に即座に周囲から肉が寄り集まってきて修復する。これを行うためのコストも特に必要ない。
 ただし、これによってHPが回復するわけではなく、あくまで「使えなくなった部位を治すために周囲から肉を集めてきて機能だけ無理やり戻した」状態である。

 注意してほしいのは、これによって〈悪魔〉への部位狙い攻撃は無意味というわけではないということだ。例えば、足に相当する部位があってダメージで一時的に使えなくすれば、転倒させる事はできる。その後の〈悪魔〉のターンにその部位の機能は即時回復するだろうが、転倒状態まで無効化するわけではないので、次のターンは「姿勢変更」に行動を費やさねばならないだろう。

●オーラ感知L2、闇視
 〈悪魔〉は対象のオーラを見る事で、対象の生命の性質や健康状態、その時の感情まで見抜くことが可能。〈悪魔〉自身はよくウソをつくが、こちらのウソはほぼ通用しないのである。
 また、完全な闇の中でも見る事が可能であり、暗闇は〈悪魔〉にとって何の障害にもならない。

●即時退場
 〈悪魔〉が地上で肉体を持ったとしても、それはあくまで仮初のものである。ダメージの蓄積により肉体と精神の繋がりが断絶する危険のある状態になると、〈悪魔〉の精神は強制的に肉体から切り離され、残された肉の塊もコントロールを失って急速に風化していく。
 これは、HPがゼロになった時点で気絶および生死判定に自動失敗し、即座に死亡するものとして扱われる。

●マナがないと生きていけない(生存条件/マナ)
 マナとの親和性が高い反動で、マナが存在しないエリアでは存在する事ができず、1時間マナなし空間にいると、以後は10分毎に1点のダメージを負う。
 この状態に陥り、状況打開が困難と見た〈悪魔〉は早々に黒の月へと帰還してしまう。

●暴れん坊、サディスト、残忍
 全ての〈悪魔〉がこの特徴を持っているため、彼らに慈悲を乞うのは無駄である。
 そういった事情を知らぬ者が慈悲を乞うた場合、〈悪魔〉は一見すると慈悲深い対応で応じるが、それはもっと最悪な状態に誘うための方言でしかなく、魂の破滅をもたらす契約を結ばされる事になるだろう。


 ぼんやりとだが、おおよそイメージを語ると、

「〈悪魔〉は正面ガチバトルで倒すしかねぇ!」
「〈悪魔〉はいくらでも呪文を唱えられる!」
「とりあえずHPをゼロにしてやれば撃退できる!」
「〈悪魔〉はいつか復活する!(なんだってぇー!?)」


 …こんな感じだろうか。




■■ クエストで絡むケース
 シティ・アドベンチャーにおいて、殺人・失踪事件などの真相を辿っていくと、単独の邪術師が何かしら社会秩序を乱す歪んだ事をやっていたという展開で、最後は廃屋や洞窟最深部でも対決という展開が、ルナルのシナリオでは良くあるパターンである(町、村のどちらでも適応しやすい)。
 教団を登場させる場合、それなりの大がかりな事件となるだろうが、1シナリオで終わらせたいのであれば、脅威となるのは教団主の邪術師1人の小規模教団にとどめ、一般教団員は戦闘力を低く設定するか、あるいは完全に非戦闘員とし、邪術師との対決だけで済ませるという設定が有効だろう。
 なお、幹部クラスの邪術師も配置した大規模教団の場合、1シナリオではなくキャンペーンとして複数回の連続シナリオで教団と関わる事になる。毎回、幹部クラスの邪術師1人が登場してはPCがそれを倒すといった展開になるだろう。毎回、登場させる敵に違う戦術属性を持たせ、様々な戦いを提供することができる。

 一方、ウィルダーネス・アドベンチャーにおいては、「ちょっと危険な獣が徘徊している地域」のようなものを出し、そこで登場するのが邪術師というパターンもありうる。
 魔元帥ガルダを崇める殺戮邪術師が獣の生き方を実践している地域とか、村々の墓を掘り返してはアンデッドの戦力を増やして回ってる死霊邪術師が徘徊する地域など、村を通りかかった際に領主から討伐依頼などが飛んでくるかもしれない。
 あるいは旅の途中に邪術師の襲撃に巻き込まれ、否応なしに討伐せざる得ない状況なども考えられる。

 いずれのケースにせよ、邪術師1人で1つのシナリオが作れるほどの存在である。なので、PCに飽きさせないためにも、どうせ出すなら独創性に富んだ魅力的(?)な邪術師を用意したいところである。




■■ 基本的な運用
 事前に雑魚戦を入れたい場合、邪術師以外の雑魚だけで登場させて戦闘させ、邪術師本人は単独で待ち伏せして迎撃準備をする展開が基本となる。
 邪術師との対決では、「本人との直接対決(主に魔術や剣術の勝負)」→「変身後の〈悪魔〉との対決(パワーと装甲のゴリ押し戦闘)」の展開を踏む事で、二種類の戦術展開を楽しめるようにしたいところ。そうする事で、戦い方が異なるPCたちの活躍の場をたくさん作る事が可能だろう。

 なお、最初の邪術師本人との戦闘は、あまりハードにしない方が良い。後半戦で登場する〈悪魔〉は怪力でHPが高いため、前半で消耗すると後半戦を乗り切れないケースが考えられるからだ。
 
■敵キャラクターの詳細データ
 状況を選ばず「とりあえず邪術師を出したい」時に使いやすい元素邪術師、ゾンビやスケルトンといったアンデッドとの集団戦を想定した死霊邪術師、宮廷魔術師として表面上は人間社会に溶け込んでいる魔女といったメンツを紹介する。当然だがこれらには、追い詰められた時に変身する〈悪魔〉のデータも付随している。
■配置
 各邪術師ごとの説明を参照のこと。基本的には、パーティーと邪術師との距離および高度差を決めるだけである。

 ほとんどの邪術師は《浮遊》などの最低限の飛行手段を持っており、空中にいるのが普通である。そのため、PC側のメンバーに飛行手段持ちが全くいない場合、天井の低いダンジョン内での遭遇にした方が無難であろう。
■テストプレイ
 以下のサンプル・キャラクターを用いて、テストプレイを行ってみた結果などを紹介する。
■サンプル冒険者隊 『アリサ一行』
 トルアドネス帝国の建国に伴って滅ぼされた旧ザノン王国の貴族令嬢アリサ=ランディールがリーダーを務める冒険隊です。現在は故郷のリアド大陸中央部から外れ、主にグラダス半島での冒険をして経験を積んでいます。


 ランディール家の家臣だった男性二人がアリサを強力にサポートしており、実質そちらが主戦力です。アリサ自身はキャラクター再現のための特徴にCPを大量に消費している反動で、能力値や技能への投入CPが極端に少なく、現状ではあまり戦力になりません(ほぼネタキャラの彼女をフォローするため、男性2人は極度のマンチキン作成にシフトしています)。

 また、アリサのペット(?)として「ミャウ」と名乗る猫が同伴しています。この猫は、本物の猫ではなく魔法生物(青銅の猫ファール)であり、基本的にはNPCとして扱います。呪文を使えば戦闘もできなくはありませんが、基本は後方支援キャラで戦闘には参加しません。
 
■テストプレイ 「元素邪術師との決戦」
 どこぞの神殿型ダンジョンに潜り、最後の広間でボスである邪術師と対決するシーンを想定している。
 なお、この戦闘ではヘクスは用いた「上級戦闘」で行われる。シールド破壊に関してのみ、当サイト独自のハウスルールを用いる(盾のHP管理が面倒なので)。


【遭遇状況】
 既に邪術師は侵入者に気付いており、広場で堂々と待ち構えている状況。

【戦闘ルールの主な概要】
●「上級戦闘」のルールで管理する。ヘクスを用いる。
●シールド破壊に関してのみ、「止め」を行った場合のみ自動的にダメージ算出へと進み、一撃破壊のルールのみを適応する(独自ルール)。
邪術師
『―――よくその本を見つけたものだ。

 それは褒めてやろう……
 だが……

 その本で
「禁断の知恵ある炎」の秘密を知られると、
 私の計画が振り出しに戻ってしまうのだ…!』




 「禁断の知恵ある炎」とは、ルナル完全版の設定で一度だけ登場するワードです。ヴァンパイアの始祖となった〈源人〉が、〈源初の創造神〉の怒りを買い、不死の呪いを受けるという罰を与えられました。
 彼がどのような罪を犯したのか、神話では語られていません。一説では「禁断の知恵ある炎を求めたのだ」とされていますが、それが具体的にどのようなものであるのか、全く伝えられていません。
 …しかし、「知恵ある炎」という語感から、ある程度は推測できます。

 「炎」というエネルギーが意志を持ち、知恵を授けてくれる……これと非常によく似た存在が、現在のルナルにも存在します―――そう、黒の月からやってくる〈悪魔〉です。

 あくまで管理人個人の勝手な推察ですが、「黒の月」とその向こう側にある〈絶対の闇なる邪悪の地〉というのは、エルファによって唐突に生み出された存在ではなく、最初から存在したのではないか?
 エルファたちは自らの力に奢り、第二の緑の月を生み出そうとして黒の月を生み出してしまい、そこから〈悪魔〉たちがやってきたわけですが、それは〈悪魔〉の世界と繋がるための単なるきっかけに過ぎなかったのではないか?と…

 真相は不明です。
 しかし、〈絶対の闇なる邪悪の地〉が唐突に生み出されたとするよりは、説得力があるような気がします。少なくとも、〈源初の神〉がまだこの地に存在していた神話の時代、既に〈悪魔〉に近い存在が次元の壁を隔てて存在しており、罰を受けた〈源人〉はそこの世界の住人と接触しようとしたのではないか?という推測はできます。
 邪術師がローブを脱ぎ捨てました。

 その肌は白に近く、血が通っているようには見えません。この邪術師は、魔元帥シファールの加護により「石の体」の特徴を取得しており、皮膚は完全に石化しています。




邪術師
『―――この世界の歴史に、
 ダルク=ファクトの名を残すため、
 貴様らには死んでもらう!
 ―――どうせ大地の重力に捕らわれた者では、
 私には勝てんのだ!』



 TL3の中世ファンタジー世界においては、戦いは二次元で語られるのが普通で、戦闘機やヘリコプターといった空挺ユニットなど存在せず、その存在しない概念で攻めてくる敵に対抗するのは非常に困難です。少なくとも、我々の地球の中世時代、空から襲ってくる敵などほぼおらず、対抗するとすれば、クロスボウによる精密射撃くらいしか思いつきません。

 ところが困った事に、ルナル世界に存在するウィザードやソーサラーといった種族は全ての呪文を習得可能であり、《空中歩行》や《浮遊》といった飛行呪文も簡単に習得できてしまいます。当然ですが戦闘になれば、これらを使って戦いを有利にしようとします。

 よって、邪術師と戦おうとする酔狂な冒険者集団であれば、必ず飛行手段か対空迎撃手段を持っているのが普通のはずです。アリサたちも、複数の対空手段を用意しています。
邪術師ダルク=ファクト
『では……

 そろそろ行くぞ!!』



 これより、戦闘を開始します。
 お互いの距離は10mです。天井までは10メートルあり、邪術師は《空中歩行》の呪文によって5メートル上空に「立って」います。
 イニシアチブ(先制行動権)は、アリサたちが取りました。

 アリサたちのターン冒頭、ルツが挨拶代わりに瞬間発動の《凍傷25》を飛ばしました。距離修正と維持呪文によるペナルティ込みで目標値13でしたが、流石に邪術師に抵抗されました。

 最初の1~2ターンは、お互い呪文の集中です。
 ルツは、戦士としては未完成のアリサに《すばやさ》、さらに《怪力》をかけようと集中。隣ではアリサが、まずタイロンに《空中歩行》をかけ、続いて自分にも同じ呪文をかけようと集中。タイロンは呪文がかかるまで、地上で「待機」しかありません。

 2ターン目。アリサの魔法の効果を受けて空中を歩けるようになったタイロンは、2ターン目には5メートル上に「駆けあがり」ました。
 さらにルツの能力値上昇呪文により、アリサは体力13、敏捷力14まで一気に上昇し、〈剣〉技能15レベル、ブロードソードの致傷力が「切り 2D」になりました。これで100cpの専業戦士並の攻撃スペックを持つ戦士へと、アリサの戦闘力が一気に跳ね上がります。
 呪文のエネルギーコストは、ルツが自身で所持している内蔵型の作業用パワーストーン(2点)で賄いましたが、熟練による消費軽減を含めてもなお、それぞれの呪文で1点疲労しています。


 対する邪術師ダルク=ファクトは《電光》に集中。
 2ターンかけてパワーレベル2の電光を生み出し、まずは先陣を切って突っ込んでくるであろうタイロンを迎撃する構えです。
 第3~5ターン。

 一足早く、空中歩行で邪術師に突撃したタイロンが「大振り」で斬りかかりますが、これは外れます。


 ちょうど目の前にやってきた標的に、邪術師が電光を叩きつけます。距離1メートルなので距離修正は+2。抜撃ちでも余裕で当たる距離です。
 タイロンの電光に対するシールドでの「止め」の目標値は12(成功率74%)。スケイル・アーマーは金属鎧扱いなので、防具の受動防御は防具魔化呪文《防御》による+1の恩恵しかありません。

 ―――判定は成功。どうにか止めることに成功します。
 シールドへの命中なのでダメージ処理に進みますが、ミディアム・シールドを一撃破壊するには、パワーレベル2の電光(致傷力2D-2)では非力過ぎます。案の定、破壊は起こりませんでした(一応、2Dのダイス目が6ゾロなら、破壊の可能性はありましたが)。


 接敵後、タイロンがジェスタ・アックスを振るって攻撃しますが、命中判定の段階で攻撃を外してしまいます。
 続いて邪術師のターン。ターン冒頭に《火炎噴射》をパワーレベル2で瞬間発動し、火炎の剣を手にします。そして、そのターンの行動は《脱水》に集中。

 その頃、アリサは自分への《空中歩行》の呪文に一度失敗し、集中をやり直しています。既にタイロンにかけた《空中歩行》により、維持中の呪文の個数によるペナルティ-1があるため、アリサの呪文発動の目標値は11に下がっています(成功率62%)。

 そしてルツは、最初から維持していた《浮遊》の呪文によって移動力3で邪術師に接近しつつ、毎ターン《凍傷25》で攻撃していますが、今のところ邪術師の抵抗を打ち破れません。


 1ターンの集中を終えた邪術師が《脱水》を放ち、タイロンの抵抗を打ち破りました!これにより、防護点無視で6点のダメージ。生命力が半減します。
 タイロンは負傷による転倒を回避するための生命力判定に成功。
 もしこれに失敗したら、《空中歩行》の効果が中断して5メートル落下し、復帰はかなり困難です(アリサの未熟な呪文の腕では、復帰させるのに手間がかかりすぎます)。なので、今ここで失敗するわけにはいきません。

 呪文を放った邪術師が、直後に手にしたヒートサーベル(火炎噴射の剣)を振りかざして斬りかかってきました。ヒートサーベルの威力は2D。確率は低いですがシールド破壊が起こる可能性があります。ここでシールドを喪失するわけにはいかないタイロンは、「後退よけ」でこれを回避。


 この時点で、ようやくアリサとルツが前線へと到達します。
 第6ターン。

 毎ターンの冒頭に飛ばしているルツの《凍傷25》は、いまだに敵の抵抗を打ち破る事ができていません。
 アリサは接近して「大振り」で攻撃するも外れ、タイロンの攻撃も軽く「よけ」られました。


 邪術師は余裕たっぷりで、次の《脱水》→ヒートサーベルのコンボのために集中します。しかし、次の瞬間に戦況が一変します。
 ようやくここでルツの《凍傷》が抵抗を打ち破り、8点のダメージを与えます。これにより、邪術師は生命力判定に失敗して転倒してしまいます。

 そこへ、アリサの追撃がクリーン・ヒットします。
 なんと、命中したアリサの攻撃のダメージ判定において、2Dの最大値(12点)が出ました!相対的に見て、アリサはタイロンより戦力として低いと誰もが見ていたため、これは完全に予想外です。石の皮膚を持ち、鎧と合わせて防護点5もの重装甲を持つ邪術師が、一気にHPマイナス域にまで負傷しました。

 直後のタイロンの追撃は、空中で転倒して《空中歩行》が切れたにも関わらず、奇跡的にも回避しました。


 邪術師は自分のターンの冒頭で、瞬間発動の《空中歩行》をかけ直し、同じ位置に「着地」しました。ルール的には何の注釈もないのですが、自由落下状態での《空中歩行》による体勢の立て直しは1ターンの行動と見なし、このターンは何もできずに終了としました。

 ―――しかし、予想外の追撃は次のターンにも続きます。
 続く第8ターン。
 ルツの《凍傷》が軽く入った(6ダメージ)後、アリサのさらなる追撃でまた最大ダメージが出ました―――あの、アリサさん?1人で頑張らないで下さい(笑)

 実際、アリサは普通に攻撃しただけなんですが、既に邪術師はHP3以下になって移動力とよけが半減していたため、普段なら軽くよけられる攻撃もうまくかわせなかったのです。
 無論、邪術師は《空中歩行》を再起動してちゃんと立っているので、「後退よけ」も出来たのですが、アリサよりもタイロンの方が脅威であるため、アリサの攻撃は甘んじて受ける方針で戦ってました―――しかし、アリサはまるでヒロインみたいな出目を連打してくれたため、あっという間に戦線が崩壊しました(まぁ実際ヒロインなんですが…)。

 …前回のレポートのヒロイン、ユージィ・マヌエルは本当にダイス運のない娘でしたが、今回のヒロインは勝利の女神にとことん愛されているようです。


 アリサのキル・オーバーなダメージを受けた邪術師は、3回の生死判定を要求されました。しかし、さすがに生命力12もあるだけあって、これらの判定は成功しました。

 しかし、第9ターンでルツの《凍傷》が順調に抵抗を打ち破り9ダメージ、さらにアリサの攻撃は―――さすがに邪術師も警戒して、アリサの攻撃に対して「後退よけ」を使いました。ダイス運とかいう、どうしようもないものに翻弄されても困るからです(笑)

 というか、ダイス運に脅威を感じて警戒対象を変えるって一体…

 ただ、邪術師の健闘もここまででした。
 続くタイロンの追撃はかわせず、固い皮膚を通して7ダメージ。生死判定を更に3回要求され、今度は二回目の判定で失敗。


 邪術師ダルク=ファクトは死亡しました。
 邪術師が支配する〈悪魔〉にとって、生死は「次元間の行き来」に過ぎません。

 死のゲートをくぐる直前、〈悪魔〉は邪術師の意識に耳を傾けます―――




邪術師ダルク=ファクト
『我が思い……
 まだ成就していない……

 ―――そう、それは「願い」だ…!
 〈悪魔〉の名で呼ばれしよ!

 次元の狭間より出でし情報統合思念体よ!
 時の歩みを、
 止めないでくれ―――!』





 …どうやらこの邪術師は、「禁断の知恵ある炎」について書かれた書物を解読していたようです。彼は「情報統合思念体」の存在を知り、〈悪魔〉を正しく理解しています。

 〈源初の創造神〉も双子の月の神々も、どこぞの平行世界からやってきた自称「精霊」の歌姫も……そして黒の月からやってくる〈悪魔〉ですらも、本質的には同じ「情報の塊が意志を持った存在」に過ぎません。
 これらに違いがあるとすれば、それは「どのような個性で活動しているか」です。他者を助け、善行を積むならば神。自己のために、ひたすら他人を犠牲にするならば悪魔。ただそれだけです。


 しかし、現在のルナルの人々が、これらを理解するのは難しいでしょう。「自分が崇めている神と〈悪魔〉が同じ存在」などと触れ回れば、多くの人々は混乱し、一部の人は発狂して攻撃してくるかもしれません。
 知識や文化レベルが一定段階に達するまで理解されない知識というものは、確かに存在するのです。

 そして彼の眼前で、〈絶対の闇なる邪悪の地〉へと繋がるゲートが開きました…
〈暗闇の悪魔〉ゾルドギアス
『―――だが、ダルク=ファクトよ。
 汝は既に、我と二度の融合を果たしている。

 今、再び我と融合すれば、
 汝と我の意志の境界を、
 維持できる保証はないぞ―――?』


邪術師ダルク=ファクト
『それでも、俺は―――!
 明日が欲しい――――!』




 …なぜか〈悪魔〉の方が、彼に気遣うような事を言ってますが、これは「合体」をより確実にするためで、邪術師の方からその気にさせて、モチベーションを上げているのです。

 〈悪魔〉は、対象の意志に反して合体した場合、しばらくの間は元の体の持ち主の魂が激しく抵抗するため、本来の力を発揮できるようになるのに時間がかかります。まして今は戦闘中、不完全な状態で肉体を得ても、直後に倒されて「死亡」状態にされてしまっては全く意味がありません。肉体を得た後に「死亡」状態で現世から追放されると、魂が再生して再活動するまでに数百年の年月がかかってしまうからです。
 ですから、「〈悪魔〉の側から合体を誘惑するよりも、本人が合体したがってる」状況の方が圧倒的有利というわけです。今回は、邪術師の側がこのまま死ぬと現世での願いをかなえられない状況なので、邪術師の側から合体したいと言わせるように仕向けています。


 邪術師のターン冒頭、〈悪魔〉変身が発動します。これは契約者が同意すれば、判定不要の行為です。一瞬だけ暗い光に包まれ、邪術師の肉体は完全に別の存在へと変貌を遂げました。
〈暗闇の悪魔〉ゾルドギアス
『―――礼を言うぞ!人間共!

 おかげで我は、
 十分過ぎるほどの力を得る事ができた―――!』



 ゲーム的には、ターン冒頭の呪文発動のタイミングで〈悪魔〉変身が使えるようになります。気絶や死亡の状態でも、気絶および生死判定の直後であれば発動可能となっています。
 そして、そのターンの行動は「変身」行動だけで終了してしまいますが、それまで受けたダメージや気絶、死亡といった状態変化は全てクリアされ、万全の状態で変身が完了します。

 言い換えれば「新たに生まれ変わった」のです。


〈暗闇の悪魔〉ゾルドギアス
『―――来たれぇ!!
 黒き月の波動よ!我が下へ!



 憎悪に満ちたその肉体と我が1つとなった時!
 虚像は実体となり―――
 邪悪正義に変わるのだ―――


 ふっ―――
ふははははっ!!!



 PC側にとってみれば、「一度倒した敵が全回復して再戦してくる」わけで、これは非常にうっとおしい展開です。
 第10ターン。


 アリサの攻撃が、今度はクリティカル命中します……
ま た で す か。
 その、ダイス目でヒロインを演じるの止めろ(笑)

アリサ
『たあああぁぁぁ―――っ!!!』



 …しかし、さすがに今回のダメージは平均値。6ダメージを与えるに留まります。

 続いてタイロンもジェスタ・アックスで攻撃。
 今回はダイス目が悪く、ゾルドギアスは「受け」に失敗して攻撃命中。9ダメージを与えました。通常のダイス目であれば、やはりタイロンの方が戦力としては脅威です。


 しかし、まだまだHPに余裕のある〈悪魔〉はタイロンに標的を定め、鉤爪での攻撃を行います。タイロンは既に邪術師の《脱水》の呪文で6ダメージを受けているため、まずはこちらを仕留め、戦力を減らしにかかります。
 〈暗闇の悪魔〉ゾルドギアスは、上位種である〈燃える悪魔〉ザーダキアス(ルナル完全版p165)の劣化バージョンです。

 上位種は騎士ランクの〈悪魔〉だけに、1ターンに種類の異なる4つの攻撃手段を毎ターン同時に浴びせてくるチートキャラですが、ゾルドギアスが1ターンに行える攻撃は「両腕の鉤爪で攻撃(合計2回攻撃)」か「火炎ブレス(1回攻撃)」のどちらかになるので、100cpの作りたてのキャラでもどうにかなるレベルです。
 あと、戦闘中に使うことはほとんどないでしょうが、火霊系呪文も16レベルで扱えます。

 特に凝った戦術行動の最中でないかぎり、ゾルドギアスは「鉤爪2回」→「火炎ブレス」を交互に使ってきます。鉤爪攻撃が飛んできた次のターン、今度は威力4D+4を誇る火炎ブレスが飛んできました。
 火炎ブレスは単発攻撃で、対象は1体です。「よけ」と「止め」が行える上、「後退防御」とも組み合わせてよけられるので、回避自体はそれほど苦労はしません(性能的にはノーコスト・準備ゼロ秒で運用する《火吹き》と全く同じです)。

 ただし「盾破壊のルール」を適応している場合、能動防御時の成功度がシールドの受動防御以下だと盾に命中しますので、4D+4(平均値18)もの威力の攻撃を受ければ、ラージシールドであってもほぼ一撃で粉砕されてしまうでしょう。
 つまりこの攻撃の真の狙いは「シールド・ブレイク」です。防御をシールドに頼っているキャラクターが、シールド喪失後に鉤爪の二回攻撃を受ければ、回避はかなり困難でしょう。

 今回のテストプレイでは、変則タイプの盾破壊ルールを採用しているので、とりあえず「後退よけ」をすればシールドには命中せずに済みます。鉤爪攻撃に続いて狙われたタイロンは、ブレス攻撃を巧みにかわしました。
タイロン
『くっ………こいつ、手強いぞ!
 油断するな!』


〈暗闇の悪魔〉ゾルドギアス
『ぶるぁぁぁぁ―――っ!!』


 邪術師だった時とは異なり、ゾルドギアスは格闘戦主体のユニットです。

 本来ならば、100cpの(マンチキンではない)戦士3~4人にひたすら殴られ、そのうち1~2人がラッキーヒットを発生させて少しずつHPを削る、といった長期戦を想定して調整されています。
 しかし、このテストプレイでは前衛が2人しかいないため、どうにもこうにもゾルドギアスの防御を突破できません。ゾルドギアスは格闘技能のレベルも高く、両腕の鉤爪で「受け」(目標値12)が行え、後退防御と組み合わせれば目標値15にも達するため、武器攻撃は簡単にかわされてしまいます。
 また、翼による飛行能力もやっかいで、飛行しているだけでも「よけ」に+2のボーナスを得られるため、射撃攻撃も結構な確率で回避されてしまいます。
 フェイントで防御率を下げる手もありますが、現在のアリサやタイロンの腕前はゾルドギアスと同程度なので、効果はあまり期待できません。

 要するに、ゾルドギアスとやりあうには戦力不足です。
 ただし、100cpの冒険隊数名で勝てるようには調整しているため、別の方向で弱点を作っています。
ルツ
『―――終わりです。
 〈悪魔〉よ。この世界から立ち去りなさい!』

アリサ

『……えっ?やったの??』

タイロン
『おおっ!』



 実は第11ターン目以降からずっと、ルツの《凍傷》25レベルが抵抗を突破し、ダメージを与え続けていました。
 パワーレベル3の《凍傷》(致傷力3D)の平均ダメージは10点なので、ゾルドギアスのHP50を削るにはおおよそ5ターンあれば事足ります。実際は第14ターン目に蓄積ダメージが50点に達し、ゾルドギアスを撃破しました!
 アリサたちの攻撃はさっぱり通じませんでしたが、ルツが直接攻撃されないように「盾」となっていたと考えれば、十分に役割は果たせたと言えるでしょう。


 邪術師にはさっぱり利かなかった《凍傷》ですが、実は〈悪魔〉に変身する事でステータスがごっそり入れ替わり、ダルク=ファクトの頃には持っていた「意志の強さ5レベル」を、ゾルドギアスは持っていなかったのです。
 そのため、魔法抵抗の基準値が17(=生命力12+意志の強さL5)から14(=生命力14)にダウンしたのが原因で、《凍傷》が簡単に入るようになっていました。

 無論、これは意図的な調整です。「邪術師の時は白兵戦に弱く、〈悪魔〉変身後は魔法に弱い」事にして、弱点を変更する事で様々なタイプのPCに出番を作るための処置です。前半は白兵戦が得意な戦士が対処し、後半は抵抗型呪文や射撃系のキャラクターがメイン・アタッカーになれるように調整した結果です。
 戦闘終了後―――




 間を置かずして、正面王座付近に人影が現れました。
 白い光に包まれたその人物は、闇色のスーツで身を固めています―――

???
『ようこそ――――勇者たちよ…

 ―――招いた記憶はないが、
 私に代わって邪術師を浄化してくれた恩人たちだ。

 歓迎しよう―――』

アリサ
『………誰?』



 よく見ると彼は宙に浮いており、しかも実体が透けているようです。
 そして、ただならぬ気配を放っています…
???
『―――「禁断の知恵ある炎」の番人とだけ言っておこう。
 名前などはないが―――

 …そうだな、セロンとでも呼んでくれ。
 私に死の概念があった頃の名だ。』

アリサ
『死の概念………?』

ルツ
『……「炎」の事を知っている?番人……?
 まさか………??』

セロン
『巨人族の先祖返りは察しが良いな―――
 君が想像しているとおりの者だ。

 私の正体に気づく者など、
 もう何百年も出会う事はなかった―――』

ルツ
『吸血鬼の……始祖、ですか………』



 かつて「禁断の知恵ある炎」を求め、〈源初の創造神〉の怒りを買った〈源人〉がいました。彼は罰として、不死の呪いを受けたと言います。
 彼は自身の呪いを解くためにあらゆる知識を集めましたが、その方法は見つからなかったようです。しかし、代わりに自身の呪いを他人に賦与する方法を見つけました。ただし、その方法で呪いを付与した者には「他人の生き血を飲まないと存続できない」などといった、さまざまな呪いが新たに付随していたのです。

 そう、すなわちヴァンパイアの始まりです。
 不死の呪いを受けた〈源人〉自身は、「死ねない」事と「太陽光に接近するとダメージを負う」呪いしか持たず(太陽光の弱点は、彼が〈源初の神〉の後を追って太陽をくぐり〈至高なる輝きの地〉に来れないようにするための処置だと思われます)、「吸血行為が必須」やら「地元の土を敷き詰めた棺で寝ないといけない」などといった呪いは、彼より後の世代の特性です。そのため、罰を受けた〈源人〉は厳密にはヴァンパイアではなく、生存のための吸血行為などは必要ありません。
 しかし、彼が研究の過程でヴァンパイアという種族を作り出した事実は変わらないため、彼をあらゆる吸血鬼の始祖するのが一般的です。


ルツ
『偉大なる始祖―――
不死の王(ノーライフ・キング)よ。
 ぜひともご教授願いたい。

 「禁断の知恵ある炎」とは、
 すなわち〈悪魔〉の事を指すのですか?』
吸血鬼の始祖(セロン)
『そうではない―――

 「炎」の特性は〈悪魔〉に近いが、〈悪魔〉そのものではない。
 そうだな―――
 貴公の知識で理解可能な範囲で説明すれば、
 「炎」とは無制限に《大祈願》の呪文を使える存在…
 と言えば、理解できるだろう。

 そして彼らは、
 〈悪魔〉を生み出した存在でもある―――』

ルツ
『な、なんと………っ!』

アリサ
『う、生み出した……!?』



 〈大祈願〉の呪文は、「ガープス・マジック」に掲載されている呪文の中で、もっとも強力なものです。効果は「GMが許す範囲であらゆる願いをかなえる」―――ほぼシナリオ専用の呪文と言えます。
 また、この呪文は習得条件が異様に厳しく、魔法の素質3レベルに加え、「敏捷力と知力の合計が30以上」という、おおよそ人間を想定したとは思えない設定になっています。この習得条件を達成する事は100cpの段階でもできなくはありませんが、〈大祈願〉を唱える事に特化した、あまりに現実味のない不自然なキャラクターしかならないでしょう。


吸血鬼の始祖(セロン)
『―――かつて、巨人族から派生した森の民が、
 自分たちが崇める月を複製しようと、
 大規模な儀式を執り行った事は知っているだろう?
 彼ら自身は、万全の準備をしていたと思っていたようだが、
 少なくとも私から見ると、穴だらけの危険な儀式だった。

 案の定、彼らは彼ら以外の雑念も
 世界各地から拾ってしまった。

 「世界に繁栄をもたらしたい」という正の願い…
 「儀式を失敗させたい」という負の願い…

 ―――その双方がかなえられた。
 そう 森の民の儀式は失敗したのではない―――
 余計な雑音、その願いすらもかなえ、
 それら成就した願いが融合したもの―――
 それが「黒の月」

 当時、召喚された「炎」たちは負の願いを聞き届けた結果、
 ひたすら他人の不幸を願うだけの〈悪魔〉へと変化した。

 彼らが住んでいた次元も〈絶対の闇なる邪悪の地〉と化し、
 そこに繋がる門として「黒の月」が生み出されたのだ―――』

ルツ
『………つまり、
 〈大祈願〉の呪文で呼び出される「願いをかなえる精霊」こそが、
 いわゆる「禁断の知恵ある炎」であると?』

吸血鬼の始祖(セロン)
『―――いかにも。』



 …念のために宣言しておきますが、ここでセロンが解説した話の内容は公式設定ではありません。当サイトの管理人が、勝手に話をつなぎ合わせて推測で組み上げただけの設定です。ですが、当たらずとも遠からずかな?とは思ってます。

 なお、これらに関する公式設定がグループSNEからアナウンスされる日は、おそらく永遠に来ないでしょう。「ガープス」や「ルナル」のサポートは既に終わっていますし、これらは各卓のGMが自由に設定すれば良い部分だからです。
吸血鬼の始祖(セロン)
『「禁断の知恵ある炎」を求め、
 この迷宮に訪れたものは例外なく抹消する―――
 それが、私の背負った業だ。

 だが―――貴公らは、
 邪術師の野望を阻止しにやってきた英雄に過ぎぬ。
 ならば日常に戻るがいい―――

 ―――ここの記憶は消させてもらうがな。』

アリサ
えぇぇぇ~っ!?
 全部、忘れちゃうの……?』


ルツ
『あ、アリサ……(汗)』


吸血鬼の始祖(セロン)
『―――不服か?』
アリサ
『だって……
 ここでの冒険、すっごく楽しかったし…

 …それに、
 セロンさんの事も忘れちゃうなんて、
 なんか悲しい……せっかく会えたのに……』
吸血鬼の始祖(セロン)
『―――ふっ。
 その心配なら無用だ。


 君の未来が見える―――

 これからも数奇な運命に見舞われ続けるようだが、
 同じだけの数の冒険譚と遭遇する事になるだろう…
 ここでの冒険の記憶など忘れてしまうほどのな……

 そしていつの日か、
 望みがかなう日が来る…

 必ず―――』

アリサ
『……ほんと?

 でも、そんな未来が見えちゃうなんて……
 何だかすごい力を持ってるんだね?』

吸血鬼の始祖(セロン)
『―――そう。

 人は鍛錬すれば、
 炎の力などなくとも全てを克服できる。
 だが、かつての私は、
 「人」が持つ無限の可能性を信じきれなかったのだ…

 君たちは、
 そうならないでほしい―――』
ミャウ
『アリサぁぁぁ~!!
 怖かったよぉぉぉ…(涙)』

アリサ
『待たせてごめんね~!
 ずいぶん時間がかかっちゃった…』

ミャウ
『…ところで「そーさらー」はもう倒したの?』

アリサ
『……ソーサラー?
 なにそれ??』

ミャウ
『………へ??(汗)』



 洞窟を脱出したアリサたちは、中での出来事はすっかり忘れていました。アリサたちの脳内では、ダンジョンに入った目的が「お宝が眠っているので探索しに行った」事に変更されていました。
 洞窟前で見張りをしていたミャウは、当初聞いていた目的とは違っていたので首を傾げましたが、人間社会の事情にあんまり首を突っ込む気のない彼は「あれ?そういうことだったのかな…?」と思う事にしました。


 そしてアリサの手には、何やら不思議な銀細工のブレスレットが装着されていました。それは、様々な精神攻撃から身を護る強力な魔化アイテムのようですが……

 ―――それに関する話は、またいずれ。
- End -
[編集手記]
 管理人は「ファンタシースター」の初代をプレイした経験はありません。

 何度かリメイクされてるのは知ってますし、最近だと任天堂スイッチに移植されましたが、個人的にコンシューマに戻る気がないので(ゲーム専用機なんてものは、昔はともかく今ではただの抱き合わせ商法でしかないので…)、そっちでリメイクが出てもプレイできません。
 せめてsteamでプレステ版のファンタシースター・コレクション1とかが出てくれたら…とか妄想してますが、メーカーの利益視点から見ると厳しいのかもしれません。
 そんなわけで、数少ないプレイ動画を見て「アリサ・ランディール」というキャラクターをかろうじて知っているに過ぎません。

 なんで、そんな必死にアリサを持ち上げてるのかと言われると…

 私がTRPGを始めた初期(中学生くらい)、オリジナルのTRPGキャラを作ってた時に脳内妄想で作り上げたヒロインが、アリサと非常によく似てたんですよ。髪型とかバンダナつけてるとか、本当は王家の血筋だけど今は一般人に身をやつしてる設定とか…そして、女の子でありながら戦士系にも関わらずかわいい系とか(当時の女戦士といえば、男みたいな性格の水泳部女子(笑)しかいなかった)。
 そんなわけで、SEGAが黎明期に作り上げたヒロインと私の初の脳内ヒロインは、かなり一致してたわけです。そんな昔の思い出をくすぐられて、当サイトの正式ヒロインになりました。

 そして………
 おそらくもうアリサ・ランディールが主人公のゲームなんてSEGAが作るとは思えないので、メーカーが作品として残せないのであれば、せめて私が個人作品としてアリサという存在を後世に残したくて、定期的にレポートに登場させています。

 ―――というわけで本題。


【ルナルの典型的な中ボス】
 ルナルの冒険では、ソーサラーをシナリオボスに持ってくるのがスタンダードとされています。なので、早い段階でボスのデータサンプルを作った方が良いと判断し、今回のネタとしました。
 ただ、スタンダードとされているだけあって設定の量が非常に多く、8師団全ての邪術師と〈悪魔〉を作るのは、流石に1ページでは無理と判断し、「一般ファンタジーで有り勝ちな汎用型の悪の魔術師」だけを紹介する事に。

 それと、一番重要な変身後の〈悪魔〉なんですが…
 あまりに独創性が強くヘンなものを紹介しても、使いたい場所が限定されてしまって汎用性に欠くので、「どこのファンタジーでも出てきそうなありふれた悪魔」をコンセプトに独自作成しました。とりあえず、「ウィザードリィのアークデーモン」「死神」「サキュバス」という、咄嗟に中ボスが必要な時に出しやすいものを用意しました。
 というかですね?ルナル完全版の悪魔たちはあまりに独創性が強すぎて、そのまま出すには使いにくいものばかりなんですよ。この世界の作者の悪いクセでして、ルール設定者のクセに「型破りな存在」をやたらと作りたがるんです(苦笑) でも、基礎となるルールの部分はスタンダードな例示を上げてもらわないと、プレイするユーザの方が困るんですわ。設定者がスタンダードを示さずして、ユーザは何を基準に作ればいいのか。…そこんところ、もう少し考えてほしいです。ほんとマジで。
 なので本来なら、黒の月のスタンダードである第1師団シファール配下の〈深淵の悪魔〉クラスの悪魔を用意しておいて、そこから色々とカスタマイズして派生させていくべきなんですが、ルールブックにはなんと第1師団の悪魔は〈悪魔〉騎士のデータしか載ってねぇ(笑) …それじゃアカンやろ、ということで、ザーダキアスの劣化バージョン(100cpの冒険者で戦えそうなレベル)を最初に作りました。名前は適当です。

 あと注意してほしいのですが、ルナル世界の邪術師は精神的にかなりイってしまっていて、正常なインテリ層の人間ではないため、他作品の悪の魔術師とは少々異なります。どっちかというと刹那的であり、陰謀を企むよりも魔術による「力押し」が主流となります。
 というか、狡猾に隠蔽して立ち回らないとうまく悪事をやっていけないのであれば、そもそも危険を冒してまで〈悪魔〉の力を借りた意味がありませんから…


【ファンタシースターⅠの面々】
 上で書いたように、私は初代ファンタシースターのプレイ経験がありません。なのでキャラクターの性質なども、ある程度推測で埋めています。
 以下、個々を見て行きましょうか。

(アリサ・ランディール)
 PSO2のストーリーモードで再登場したアリサは、おそらく初代ファンタシースターでクリア直前に女王として即位した後の彼女がモデルになってるんじゃないかと思っています(実際は「その後」は描かれていないため真相は不明)。PSO2の〈剣の巫女〉アリサは、清らかで生真面目ですが、ゆえにやや面白みに欠く「朴念仁」の女性という印象でした。充てられた声優さんが同じということもあり、風の谷のナウシカのような「クソ真面目な聖女」ですな(笑)
 一方、ニコ動で見た初代のアリサ(15歳)は、年相応の天真爛漫さをある程度は備えている普通の少女に見えました(主にセリフから)。まあ、当時はハードウェアの限界があって、収録できる文字列が少なく、メーカーがあまり深く考えずにセリフを登録したという線もありそうですが。ただ、当サイトでは初代の性格を重視しており、そちらの性格を不利な特徴として登録しています。
 そして9年後のアリサ(350cp 24歳)は、年相応の大人の女性という事でPSO2の〈剣の巫女〉アリサを模しています―――ただし、昔からの付き合いである仲間たちの前では、初代アリサを発揮しており、実は彼女の本性は昔と変わってません。〈剣の巫女〉にしてパルマ市の領主という立場上、威厳を見せるために真面目モードを演じているだけです。

 体格の話ですが、現在のアリサの身長は168cmと、日本人女性としては高身長ですが、中世ファンタジー世界の戦士としてはかなり小柄です(なお、原作では162cm)。
 ただし、彼女はまだ15歳の成長期ですので、9年後には183cm(!)まで伸び、体重もそれに見合ったものに増量します―――ただ、単独で老年期のドラゴンと白兵戦をやるには、それでもまだ不足という気がしますが。本気で古竜と近接戦闘でやりあうなら、男女関係なく身長2メートル・体重130キロ以上とか余裕で必要じゃないですかね?(笑)
 ただ、アリサは魔法戦士でもあるので、体格の不足分は魔法による速度上昇(倍速やすばやさの呪文)でフォローしていると考えています。

 当レポートのアリサは、何やら意味不明な必殺技(演出)をいくつか繰り出していますが、これは別作品の格闘ゲーム「ギルティギア」の主人公ソル=バッドガイの必殺技を借りています。ソルは「ドラゴンインストール」という技で能力値を強化した後、「タイラント・レイヴ」(公式サイトでは発音重視で「タイラン・レイブ」と表記されていますが、英名に直せば「Tyrant Rave」なので、日本語表記するなら「タイラント」とちゃんと表記した方がいいような…)という名の3連続斬りを行います。
 アリサも何かとドラゴンとは縁のある娘なので、「ドラゴンと同じ力を得て対抗する」という展開が似合うと思い、演出的に利用させて貰いました。

 なお今回は、身体強化は他人(ルツ)任せで、必殺技の方はただの演出(ダイス目)でしたが、9年後の〈剣の巫女〉アリサ(350cp)は、実際に「ドラゴン・インストール」(《すばやさ》で敏捷力+5&《倍速》)で身体強化した後、「タイラント・レイヴ」(《倍速》のセカンドアクションを利用して3回攻撃)を実行できたりします。
 …ま、単独でドラゴンとやりあうならこのくらいは。

(イズマ・ルツ)
 外見と名前は、ファンタシースターユニバース(PSU)に登場した「グラール教団の星霊主長イズマ・ルツ」の設定を借りており、ルナルではカルシファード出身のウィザードという扱いになっていますが、性格や能力は初代ファンタシースターのルツに準じているつもりです。
 データ的には「これから成長する将来有望なアリサ」と全く逆で、100cpの段階で既に完成形であり、能力的な成長の「伸び白」はあまりないです。アリサが設定に忠実すぎて弱すぎる(笑)ので、教育係の彼がそれをフォローする役回りです。

 なお、彼を《凍傷》25レベルの使い手にしたのは、テストプレイ中の最後の最後に決断した苦肉の策でした。最初の頃はマンチキンを回避したかったので、《氷剣》で射撃を行うユニットでした。ところが、3人パーティーでは元素邪術師にすらなかなか勝てなくて、射撃呪文ではアタッカーとしては性能不足という結論に至ります。
 そこで、4人目の弓使いキャラ(一応、SEGAの別ゲーのキャラ)を加え、一緒に射撃させてたんですが、今度は変身後のゾルドギアスが飛行状態でして、素の状態でも「よけ」が11もあったため、2人の射撃が当たるかどうかのほとんど運ゲーでした。無論、前衛2人はレポートにもあるように膠着状態で、アタッカーにはなり得ない状況です。

 そして最終的には、「いまさらファンタシースターと何の関係もない4人目を加えて無理な調整をするよりは、禁断の《凍傷25》に手を出して綺麗にまとめた方がいい」と考え、ルツに全ての負担を背負ってもらう事に。毎ターン安定したダメージソースを得た事で、3人でもどうにか撃破できるようになりました。

(タイロン)
 初代ファンタシースターに登場したきりの「オッサン手前」(28歳)のキャラで、容貌も典型的なマッチョ系男戦士。初代メンバーの中では一番目立たなかったキャラで、後の作品でも全く登場していません(彼の子孫であるタイラーが、宇宙船ランディール号に乗って登場するくらい)。
 しかもゲームバランス上、アリサが体格に似合わず「一番固い」「一番HPが高い」「万能アタッカー」というスーパーヒロイン設定だったため、専業戦士のためにパーティー内で唯一テクニック(ガープスの呪文に相当)を全く使えない彼は、ただただ不遇の人でした。

 当サイトのタイロンは、そんな不遇の立場を改善すべく、初期のヘボ・アリサに代わって「まともなタンカー」を務める元兵士長という設定で作られています。100cpの段階で魔法抵抗を目標値17で行え、しかも戦士としても標準能力(主武器技能14レベル、致傷力2D以上)を有しているのは、ガープスではかなり有能な域に入ります。
 実際、レポートの中でも彼がずっと最前線を張って被弾役に徹していたため、アリサたちはさしたる犠牲もなく勝利しました…そしてアリサはパンチラ色気役の担当に(笑)
 ところが、そんな管理人の配役にアリサというキャラが勝手にキレたようで、ダイス目が爆発してタイロンを上回る火力(!?)を見せつけ、「私も活躍できるもん!」と主張してきましたとさ。ちゃんちゃん。

 なお9年後の彼は、領主アリサが治めるパルマ市の騎士団長をやっているという設定です。騎士団といっても通常の「馬に乗ってランスチャージする騎士」の集まりではなく、対竜を想定した凄腕勇者たちを集めた戦士隊です。飛空艇に乗って出撃すれば、宇宙海賊ならぬ空賊みたいな感じでしょうか。
 お上品な騎士なんて彼の柄じゃなさそうですし、こっちの方が似合ってるでしょう。

(ミャウ)
 だいたいの作品では、ヒロインには必ずマスコットが1匹ついているものですが、ファンタシースター世界におけるアリサ・ランディールには、猫型知的生命体のミャウがついていました。彼は序盤にアリサに購入(?)され、以後、エンディングまでニャン言葉でついて回ります。

 ミャウが通常のマスコットとやや異なるのは、ただヒロインの肩に乗っかり、たまに幸運をもたらすだけのペットではなく、キャラクターの1人としてちゃんと戦闘能力や呪文が設定されており、1キャラクター分の戦力として活躍していた事です。
 ところがルナルでは、そのような猫種族が見当たらないので、「しゃべる猫」のコンセプトで考えた結果、「アイテムとして製作されたのに、独立した意志を持って活動している猫の置物」という設定の存在がアイテム紹介のページにいたのを思い出して、これをミャウにしました。
 「原作のようにPCの1人として存在すべきでは?」とも考えましたが、思いついたのは「シグルリード氏族のエルファの男が常時《動物変身》で猫になっている」のと、「ウィザード種族の男が同じく魔法で変身している」パターンしか思いつかず、どちらもアリサの寝室まで入ってくるのは問題がありすぎた(笑)ので、もう青銅の猫でいいやってことになりました。

 一応、「猫」である事に多少はこだわった結果、ミャウが習得している呪文系統は幻覚/作成物系ということに。この系統ならば、《幻覚かぶせ》を《幻覚変身》でミャウの体に付着させる事で、あたかも「本物の猫のような外見」をキープできます。
 あと、作成物系呪文は割と応用が利く系統でもあり、アリサやタイロンがファンブルなどで武器を喪失した場合、《作成物》で即席の武器を作ったり、《動物作成》の呪文で囮役を作って突っ込ませたりできて、色々と汎用性があります。安易に治癒系を覚えさせるよりは、御利益が多いんですな。

 なお、当サイトで最初にミャウが登場した「天災魔術師」のレポートで、彼がゴーレムのくせにホットケーキを食べたりしているのは、「そういう話にしたかったから」こじつけただけの適当設定です。
 「本当はアリサの使い魔になりたかったんだけど、アリサはウィザードじゃないので無理。でもミャウはまだ若く、使い魔になった経験もないので、その辺があまりよく分かっていない。そして魔力回路をあれこれいじくってるうちに、使い魔の特徴の1つである「痛覚共有」(主人と使い魔が密にリンクしすぎて、使い魔が負傷すると主人も負傷する特性)のシステムがON状態になった挙句に逆流を起こし、逆にアリサの「くいしんぼ」属性がミャウの側に賦与されてしまった。さらにその設定を有効化させるためには「食べる」生理機能が必要なので、なし崩し的にそれも追加されてしまった」
 …なんとも無茶なこじつけ設定ですが、戦闘バランスには何も関係しないんで、まぁいいんじゃないですかね(笑)


【ソーサラーたち】
(元素魔術師)
 テストプレイでさんざん調整されたのが、この邪術師。「強すぎず弱すぎず、ダラダラと戦闘時間を延長させる戦いをする悪役」という事で、調整が難航しました。
 単に強くしたいならば、現状21レベルしかなく、準備1秒が必要になってる《脱水》を25レベルまで上げてしまえば、今より強くなります。いっそ、《脱水》じゃなくて《凍傷》に切り替えて25レベルまで上げてしまう事もできます―――CPは、《電光》およびその周辺技能からかっぱらえば問題なし。
 …ただ、それだと面白くもなんともないんですよね。セリフにあるように「炎、冷気、雷」の3属性を扱い、あれこれできる邪術師というコンセプトは捨てたくなかったんです。なので、「強さ」的にはかなり手加減した状態になってます。というか本命は「変身後」であって、変身前が強すぎたら全体的なレベルデザインが難航するので、ちょい弱いくらいでいいかと。
 レポートでは3人で襲い掛かっていますが、実際のセッションでは「マンチキン作成ではないPC」4~6人で戦うことになるはずなので、そちらに合わせたつもりです―――通常の作成だと、魔術師を異様に警戒するプレイヤーでもない限り、「意志の強さ」も〈強靭精神〉も取らないと思うので、《脱水》21レベルでも何人かは戦線離脱するはずです。

 なお、邪術師の正体がダルク=ファクトになったのは、レポートを描き始めて土壇場になってからです。管理人が学生時代に最も影響を受けたゲームが、PCエンジン版の「イースⅠ・Ⅱ」なんです。で、今書いてるレポートの敵役、ダルク=ファクトの役にぴったりじゃん?と思い当たり、急遽彼になりました。ダルクのPMDモデルもあわてて作り、何とか形にしました。

(死霊魔術師)
 悪の魔術師の代名詞の1つである「ネクロマンサー(死霊術師)」は、やはり外せないと思って入れました。コンセプトは、高位の魔術師や司祭が自らアンデッド化した成れの果てとして有名な「リッチ」です。
 そのリッチなんですが調べてみたところ、今は版権にかからないそうです。一般名詞扱いだそうで。元はTRPGの原典と言われたD&Dが著作権を持ってたそうですが、リッチという言葉は昔からあり、ゾンビと同じような意味合いで使われていたらしく、これは「著作権は既に期限切れ」なんだそうで。
 昔、「バスタード!」というマンガでリッチを出したところ、アメリカのD&Dの販売元からクレームが来て、「この個体はエデ・イーという種族の「リッチ」という個人名のモンスターです!」という苦しい言いわけをしたそうですが。今はしなくていいんですかね?(笑)
 …で、そんなかわいそうなエデ・イーのリッチさんの設定を拾って、〈悪魔〉の名前は「エディーイー」となりました(笑)

 ガープスの話をしますと、まず死霊魔術師がゾンビやスケルトンを率いている事は、ガープス的には明らかに「有利な特徴」です。なんせ単独の術者と違って護衛がついてるわけですから。なので、アンデッドもちゃんとCPを払って取得せねばなりません。この場合、ゴーレムと同じ扱いなので、単純に「財産」として取得しています。

 具体的な価格ですが、「能力値ALL10・武器技能10レベルの一般市民の死体」は$50、「ST・DX12、IQ・HT10で武器技能4種(〈盾〉技能含む)を12レベルで所有している兵士の死体」は、民間人の死体より貴重なはずなので$200、そしてルナルでは一般的ではないマミーは$1000(これは「ガープス・マジック」に明記されています)として、さらに武装させている場合はその武装の価格も全て払わねばなりません(術者の自由にできるのですから当然の処理です)。
 つまり、たくさんの武装したアンデッドを率いていると、死体そのものよりも武装の価格で相当な「財産」を支払わねばなりません…ぶっちゃけ、大量のアンデッドを率いている死霊魔術師は、実は「金持ち」なんですよ。たくさんのオートマトンを利用して、あれこれ作業させられる魔術師を現代に置き換えると「精巧なロボット労働者を大量に動員できる技術者あるいは資産家」ですから。違いと言えば、倫理観や合法性が欠如している事でしょうか。

 各死体の価格の根拠ですが、地位レベルマイナス2の奴隷の生活費が$50なので、それをそのまま資産価値としました。兵士の場合は「上質の剣」と同じく4倍ということで$200、死体の保存のために手の込んだマミーは「最高品質の剣」で20倍すると$1000…あ、ルールブックのマミーの価格とぴったり一致した!ということで、この価格を正式採用しました。

★アリサたちとの交戦記録
 序盤のアンデッド軍団はほとんど苦戦しませんでしたが、一般ゾンビが「どうせ回避できないから」ということで全力二回攻撃10連打させたんですが、これによってタイロンが結構なダメージを負いました。こんな雑魚でも、棍棒を持って乱打させればそれなりの戦力にはなるんですな。

 後半、〈悪魔〉変身してからはさっぱりでした。まず、ルツの《凍傷》が効かない相手なので、この時点で戦力1名が除外に。
 そしてエディーイーの「死神の鎌」は、受動防御無視で能動防御を要求するだけあり、これはほとんど回避できませんでした。防護点無視3Dダメージで次々とHPを吸い取られて全滅。
 ただし、接触呪文相手でも「武器受け」はルール的に可能なので、武器レベルを十分に上げておいて「受け」が可能な武器を用意しておけば、「後退防御」と組み合わせてそれなりに回避は可能ですし、負傷による移動力とよけの半減も無視できるので、それなりに持つはずです。今回はタイロンが攻撃に使うと「受け」が出来ない斧を使っていたのが仇となりました。

 実際のシナリオでこの悪魔を出すなら、一緒に討伐に参加してくれるガヤン神殿騎士1~3名をNPCとして同伴させ、彼らが優先的に狙われて倒れていくでマスタリングすれば、所詮は単独攻撃しかできないので、おそらくどうにかなると思われます。また炎に対しては脆弱なので、《火球》が打てる魔術師などがいれば、「よけ」自体は低いので結構あっさりやれるでしょう。

(魔女)
 最初に言ってしまうと、このキャラクターは「イースⅠ」のヒロイン「フィーナ」です……ダルク=ファクトを出したんだからついでに出しとけ、みたいな(笑)

 フィーナのPMDモデルは、適当に魔女っぽいモデルを合体させた上で、色を変えてみただけです。MMD界隈では、イース関連のモデルというとアドルだけはあるんで、それと組み合わせて「アドル」「フィーナ」「レア」の3人組を作り、ダルクファクトに襲い掛かるレポートとかも考えましたが(…え?ドギ?MMDモデルがないんですよ(笑))。
 ただ、そもそもフィーナとレアがどう見ても魔術師扱いになってしまい、ダルクファクトも含めると魔術師だらけになってあんまり良いサンプル戦闘とは言えなくなるので、この案は断念しました。前衛のアドル1人が倒れたら、それで終わりですし。
 それよりも、フィーナが闇堕ちしてアドルとドロドロの性関係になってる方が個人的には燃えるものがあったので(ひでぇ(笑))、そっちで再現してみました。

★アリサたちとの交戦記録
 最初の段階でイニチアチブを取られると、魔女がテレポートで後衛の後ろに飛ぶ→音の剣で攻撃が成功すると、早々にルツが麻痺して戦線崩壊します。逆にアリサ側が先手を打てて、ルツが初手《凍傷》で魔女をやれれば、ほぼ無傷で〈悪魔〉変身に持ち込めます。アリサたちはマンチキン気味の作成パーティーですが人数が少ないため、ほとんど運ゲーに近い状態でした。
 変身後は、ゼルディアータの《心神喪失》→3連コンボが決まらなければ、おそらく白兵戦だけでもどうにかなります(ゼルディアータは攻撃回数こそ多いですが、単発のダメージはそれほど高くなってません)。元素邪術師戦とは異なり、前半は(魔女の生命力が低いので)《凍傷》が入りやすいのですが、後半は〈悪魔〉の生命力が17もあるのでほとんど通らないという逆パターンの戦闘になっています。

 元素魔術師より若干強く設定されているので、敵役を殺さずに離脱させたい時(シナリオ上、ボスを1シナリオであっさり殺したくない事もあるでしょう)や、マンチキンパーティー相手にぶつけるとよいかもしれません。




 …ちょっと話が逸れますが、当時のPCエンジン版「イースⅠ・Ⅱ」ユーザーの間では、イースシリーズの真のヒロイン合戦みたいなのがあって、「フィーナとリリア、どっちがアドルの正式な相手か?」でかなり論争になりました。どうやらリリア派の方が若干多いようです。かく言う管理人もリリア派だったりします。

 というのも、「イースⅠ・Ⅱ」はファルコムから許諾を得たハドソンが作ったリメイク作なんですが、思い切りフィーナを無視してリリアをヒロイン役に推しています。オマケに最後はキスシーンがビジュアル画像で入っちゃってるので、これはもう「アドルの相手=リリア」以外にはありえない…と、多くのユーザが思っちゃったわけです。

 ところが原作イースを作ったファルコム側は、人間のアドルと女神のフィーナの報われない恋を描きたかったらしく、公式ではアドルの相手はフィーナになってます。原作のPC88版でもリリアとのキスシーン画像などは入っておらず、代わりに女神フィーナがアドルと別れる直前に、一筋の涙を流すシーンが入ってたりします。
 じゃあ「勝手に変更したハドソンが悪いのか?」と言われると、そうともいえない事情が。

 イースⅠが出た当時、戦闘アクションと恋愛ドラマシーンを同時に表現するのはハードウェアの容量的に難しかったようで、ゲーム部分を重視した結果、イベントの方は数行のセリフで補うしかなかったようです。そのためフィーナとの絡みイベントがほぼなく、続編のイースⅡのエンディングまでいかないと、そもそも2人が恋愛してた事すら理解しにくい構造のゲームでした。ぶっちゃけフィーナは、そこまでインパクトのあるヒロインでもなかったのです。
 また、当時のハドソン社内はリリア・ファンが多かったらしく、いまいち目立たない地味なフィーナよりも、明らかに個性あふれる美少女リリアにヒロインを交代したかったようです。そして上のキスシーンが当時の担当者チーフによって描かれ、そのまま採用される事に。描いた人いわく「キスとは限らないから」………は??(笑)

 ファルコム本社が、この流れを止めに入ればよかったのかもしれませんが、実はその頃のファルコムは、過去作のリメイクで辛うじて食いつないでいる状態でした。そのため、外注した過去作品に口出しする余力もなかったのだと思われます。実際、PCエンジン版「イースⅠ・Ⅱ」は超名作としてヒットし、「PCエンジンと言えばイースⅠ・Ⅱ」というくらいの看板作となったのですから、あんまり強く主張できる立場でもない。
 かく言う管理人も、これをプレイしたくて、本体を持ってないのにソフトだけ購入し、「いつかプレイできる日が来る」事を信じてディスクを持ち続けていたくらいですよ(笑) 数年後、中古のPCエンジン本体を奇跡的に入手。至福の時をたっぷり堪能しました。

 結局、イースにおけるリリア推しの流れは変更できず、イースⅣの自社開発すらできない状況だった当時のファルコムは、そのまま引き続きハドソンに外注する事に。これによりリリア推しの流れがさらに加速して、エンディングではアドルとリリアの子供らしき少年まで登場します。

 イースのメイン・ヒロインは、完全にリリア固定となりました。
 …言うまでもありませんが、ヒロイン変更に対する原作イース・ファン(フィーナ派)の怒りは凄まじく、当時はインターネットなど無く、ハドソンに直で苦情を入れる方法もなかったため、ハドソンへの怒りは(何の罪もない)リリアへと向けられました。そのため、昔ながらのフィーナ派はリリアなど眼中になく、彼女に暴言を叩きつける人すらいます。


 これらに関して、管理人個人の現在の意見を言わせてもらうと…

 そもそも原作に忠実だと、アドルは「フィーナとは結ばれない」「現地妻(笑)のリリアとも結ばれない」状態になってしまい、エステリアを救った英雄はロクな報酬も貰えずに退場という流れになります…これはちょっと酷いのではないかと。
 どうせ相手は女神で、生きる世界が違うんですから、一緒になれるはずもないんでしょう?ならばせめて、現実世界の女の子と結ばれる展開に変更してハッピーエンドを目指すというのは、別に間違ってるとは思いません。
 また、ハドソンがリリアを推しまくったのも、単純にリリアというキャラに圧倒的な魅力があったからです。対するフィーナはちょっと地味で、「女神である」事以外は特に目立った特徴もないヒロインでした。残酷な物言いをしますが、フィーナがヒロインのままではここまで広い範囲のユーザーにウケなかったと思います。

 さらに言わせてもらいますが…
 最近のファルコムはリメイクなどを通じて、初代イースのヒロインをフィーナに戻そうとしているのですが、今さらヒロインを元に戻すのは、二重の意味でユーザーの心を踏みにじってる気がします。
 最初のヒロイン交代でフィーナ派が傷ついたのは、リリア派の管理人も理解できます。しかし、その後でファンになったリリア派も同数いるわけで、ここでまたフィーナに戻せば、今度はリリア派のユーザーが傷つくと思います―――「両方」を敵に回す事になりませんか?


 他作品の例を出すならば、アニメ版ポケモンのサトシとカスミでしょうか。
 この作品、さんざん二人の色気シーンを描いておきながら、いざ続編に切り替わる段階になって、二人の仲を「なかったこと」にしてしまいました。理由は簡単で、「サトシとピカチュウがいなければ視聴者が激減してしまう。だから「儲け」のため、カスミやタケシは切捨て、主役だけは続投させよう」ということだと思われます。
 当然ですが、初代アニメ版ポケモンのファンであり、二人の初恋をほほえましく見ていた管理人の心は傷つきました。ユーザーが愛していたのは、確かにサトシとピカチュウですが、そこには「サトシの記憶と感情」すなわち「カスミとの淡い恋愛」も含まれるはずです。つまり、少なくともヒロインのカスミなしで続投などありえません。たとえ、いつか終わる幼稚な初期恋愛だったとしても、「なかったことにする」なんて拙劣なやり方は絶対にありえないです。

 そのありえない事をしてしまった監督と背後のメーカーは、完全に視聴者の心を踏みにじったのでした。この一件で、管理人はポケモンとは完全に決別しました。かと言って、いまさら戻されても何の感銘も受けません(手遅れです)。ならばもう見限られたファンはそっとしておいて、現状のまま(カスミとの恋愛なんて全くなかった!)の方が良いかと思います(実際そうなってます)。
 …実はポケモンのアニメでも、最終回手前でカスミとタケシが何話か再登場(!)するんですが(過去のファンへのサービスのつもりか?それ(笑))、結局、カスミとの恋愛的な絡みはなかったようです…まあ、その方が賢明だと思いますよ。どうせ私は戻る気ないので、「今」のファンを裏切ってまで寄りを戻すなんて、考えない方がいい。


 大事な事を言います。
 「一度捨てたものは、二度と戻らない」です。

 それはポケモンのカスミも、PCE版イースⅠ・Ⅱのフィーナも、
 そしてリアル日本社会の就職氷河期世代も同様です。

 イースが、それと同じになってほしくなかったんですけどね…




 …以上が「イースⅠ・Ⅱ」における熾烈なヒロイン合戦の真相みたいなものですが、これらの事情を知った現在の管理人の「イースのヒロインに関する脳内ストーリー」は、以下のようになっています。



 アドル初恋の相手は、女神フィーナだった。
 フィーナにとっても、それは「人間の女の子」としては初恋だったようだ。
 けれどこれは、かなわぬ恋として終わった。相手は女神だし、生きる世界が違うのだから、仕方がないと言えば仕方ない。

 そして次に、現実的な恋の相手としてリリアがおり、こちらは彼女の命を救うといった絡みもある事から、アドルはリリアと結婚こそしなかったものの、互いに唯一の愛人としての関係が続いた。やがて2人の間に子供を授かり、事実上の「家族」となった時点で正式に結ばれた。

 1つの冒険を終えた後、アドルが毎回のように無一文になっているのは、冒険後に一度エステリアに戻り、そこでリリアや子供たちの「生活費」として、冒険で入手した金銀財宝を降ろしているためである。そうでもしないと、体が脆弱なリリアが子供を抱えてシングル・マザー状態で家計を支える続けるなんて事は、社会保障の概念すらないエステリアの文明社会では到底無理である―――そんな状況の彼女を、アドルが見捨てられるはずがなかった。
 奇妙な関係と言えなくもないが、別の見方をすれば「船乗りの夫アドルの帰りを港町で待つ妻リリア」みたいな関係であり、稼ぎ役のアドルが少々死亡率が高い事を除けば、言うほど世間離れした夫婦というわけでもなかった。


 そして、運良く晩年まで生き延びたアドルは、リリアの家で余生を過ごしながら、冒険の記録の編纂を続けていたが、最後の一冊を書き終えると、おもむろに旅の支度を始めた。

 長年付き添い、肌を重ねてきたリリアには分かっていた。
 アドルは、ベッドの上で死ねるような存在ではないことを。

 彼女はいつものように、彼を暖かく見送った。年齢的に見て、冒険をする事自体に無理があるため、もう二度と会えない事も分かっていた。それでも止めなかった。いずれこういう最後が来ることは、もう何十年も前に分かっていたこと。
 そのため彼女は、アドルの事だけを全力で愛し続けたし、彼との間に子供も残せた。そもそも病弱で幼少期に死ぬはずだった自分が、彼と同じ歳月を生きて来れただけでも奇跡に近い。思い残す事など何もなかった。
 だから、笑顔で送り出した。「いってらっしゃい、あなた。土産話を楽しみにしてるわ」と言いつつ、アドルの姿が見えなくなるまで、リリアは手を振り続けた。そして完全に見えなくなった時、こっそりと一滴の涙を流した―――

 アドルが最後に目指したのは、この世界の最北部―――地球でいうところの「北極点」である。そして、そこへ向かったアドルは―――しばらくして、彼が消息を絶ったという報が冒険者たちの間で流れ、そして―――リリアの元に帰って来ることは二度となかった。
 おそらく目的地に至る道中か、あるいは北極点に到達した時点で力尽きたと思われるが、リリアには分かっていた―――彼は初恋の相手であり、最初に彼が救った女性の元へ旅立ったのだと。
 リリアは、かつて双子の女神の片割れから受け取ったペンダントを、そっと握りしめた。

「ありがとう……アドルさん。
 私、あなたの妻になれて、とても幸せだった……

 そして次は、
 「あの人」を幸せにしてあげて―――」



 こうして、アドル・クリスティンの冒険は終わる。

 だが、勇者アドルと女神フィーナの永遠の恋物語は、
 アドルが「人」としての生を終えてから、ようやく始まったのである―――
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